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ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
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SAO編-白百合の刃-
  SAO11-涙を繋ぐ絆

「待たせたね」

 腰にあるカタナを抜き、片手に取って倒すべき敵に対して向き変える。

「お別れの挨拶は済んだようね」

 ロザリア達は余裕な笑みを浮かべ小馬鹿にするように口にした。

「この人数で、たった一人を相手に出来ると思っているのかしらね。やっぱりバカね」
「バカって言うな。それに私は負けないし、死ぬ気なんてさらさらないから」

 あんまり挑発したことないけど……やってみようかな。挑発を真似するつもりで唇を吊り上げた。

「つか、私のことバカって言うけど、ロザリアさんの方がバカじゃないの?」
「なんですって?」
「だってね……どう見ても、そちら側に死亡フラグ立ちまくっているじゃない。例えるなら時代劇の最後あたりでバッタバッタっとやられる悪党? そんな奴らに、私が負けるわけないでしょ? しかも大人数って攻めるとか、もう時代劇のベタって感じよねー」

 ついでにアハハっと馬鹿にするように笑ってみた。……流石にやり過ぎだな。自我認める程の若干笑いが棒読みだったし。
 

「バカを通り越して狂ったのね。じゃあ……二度とその減らず口が聞けないようにしてあげるわ!」

 それが戦争開始の合図、ロザリアともう一人のグリーンを除く九人の男たちは武器を構え、狂ったように笑みを浮かべ我先にと走り出した。

「ちょ、ちょっと。一人ずつやってきて欲しいんだけど!?」
「オラァァァ!」
「死ねやぁぁぁ!」

 剣の斬撃に槍の突きを避ける。
 あ、駄目だ。人の話聞く耳持ってないな。

「バァァァカ! こっちもいるんだよ!!」

 避けた着地点に賊が斬り上げようとしてくるので、こちらは後ろに下がって回避する。

「後ろががら空きだよ!!」

 また別の賊が攻撃してくるので、斜め前に回避する。その先に別の賊達が剣や槍の攻撃の雨が迫ってくる。後ろに下がったり、前に足を踏み出したり、回転するように回避したり、しゃがんだり、ちょっと右側に寄ったり、敢えて敵に近づいたりして回避に専念した。
 だけど、回避したところで相手の勢いが止むことない。

「ヒャハハハハ!!」
「ほらほら踊れ踊れ!!」
「おっと、前ががら空きだぜ!!」
「なんだなんだ? 俺達を遊んでくれるのか?」

 回避するのに精一杯だと思っているのか、賊達は余裕が出てきてm殺すよりも遊び感覚で彼らは攻撃してくる。ある者は罵り声を上げながら剣を振り、ある者は哄笑(こうしょう)しながら武器を叩き、ある者は暴力に酔ったように突き出したり、ある者は余興のようにスキルを発動したりと、雑になってきたけど手を休めることなく攻撃の雨が降り注いでくる。
 それでも数が多いから私は回避に専念した。

「どうしたどうした! いつまでも回避出来ると思っているのか!」

 回避にだって限度はある。大人数相手に一人が攻撃してくれば回避した私を、簡単に攻撃を当てられることが出来るのだから。普通なら、一体の私よりも遥かに八倍の人数のオレンジプレイヤーが有力に決まっている。これが暴力の数。集団戦法に単独で打ち破るのは普通なら困難である。

“普通ならばね”。

「な、なんだ、こいつ……」

 一人のオレンジプレイヤーが“ようやくことの事態”に気づいたようで、戸惑いの表情を浮かべ手を止めてしまった。一人、また一人と……斬撃の雨が止むように次々と攻撃を停止してしまう。

「くそ! な、なんで……」

 疲れ果てたみたいで、ヨロヨロに剣を叩きつけてくるから、余裕をもって右に華麗に回って避ける。

「なんで、なんで……っ」

 そして一人の男がオレンジプレイヤーの戸惑いを決定づけるように叫び上げた。

「なんで……攻撃が、当たらねぇんだよ!!」

 その叫びが呼び水となって、賊の八人は数歩下がる。そして攻撃の雨は完全に止んだ。

「どうしたの? 私を殺す気じゃなかったの?」

 ふとロザリアに一瞥してみると、異常なものを見るように顔を歪めていていた。

「ねぇ、ロザリアさん。これだけのオレンジプレイヤーがいてもさ、殺せるほどの力が届かないなら、大人数なんか意味ないよね」
「なっ……」

 ロザリアさんは絶句する。
 私が避けられるのが上手なのは、システム外スキル、『ステップ』のおかげ。足踏みが華麗になるだけじゃなく、回避が上手になる。要は足踏みが良いから回避も良くなるって効果。そのスキルを私は身につけているだけじゃなくて、絶対に回避出来ない攻撃にはユニークスキルの『絶対回避』を所々使用しているから、相手から見れば“回避が化物なみに上手”なプレイヤーだと思いこまれているだろう。
 流石に全部は避けられないけど、連続で受けなければ、戦闘時回復《バトルヒーリング》スキルによる自動回復でやられることはない。いや、私が回避しなくても彼らのレベルでは殺すまでの力は届かないだろう。
 どっちにしろ、ロザリアさん達では私を殺すことはできない。

「どうする? いくらやっても倒せないみたいだし、まだやる? あ、ちなみに私のレベルは80だから……せめて同レベルぐらいならないと私に勝てないかな~? なんてね。」

 ここで私のレベルを公表したのは、彼らが策略を練り、攻撃し続けても無意味だから降参しなさいと言う意味を込めて発言した。
 男達は愕然としたように口を開け、立ち尽くし、驚愕が恐怖へと変わっていった。

「そ、そんなの……そんなのありかよ……!」

 残念ながら、ありなんだ。ありになってしまうのだ。
 やがて、賊の一人である、両手剣士がかすれた声で言う。

「無茶苦茶じゃねぇかよ……」
「そりゃそうよ」

 そう、無茶苦茶なんだ。言いかえれば弱肉強食。弱い者は強い者に勝てない。けど、それは生き物の摂理と言うわけじゃない。

「無茶苦茶なのも当然なんだ。数字ある世界では、レベル差がとっても大事になってしまう。当然、1よりも100のほうが有利になるって決まっている。数字が増えるだけで、今さっきみたいな理不尽になることになってしまうわ。結論を言ってしまえば、貴方達では私には勝てないし、殺せることなんでできない。理由は簡単だ、レベルの差が大きいからよ」

 わかったでしょ? 私にどうあっても勝てないし、殺せないのよ。

「チッ」

 不意にロザリアが舌打ちして、腰から転移結晶を掴み出した。そしてすぐさま宙に上げて、口を開く。

「転移」
「待った」
 
 言葉が終わらないうちにロザリアに近づいて転移結晶を奪った。
 リーダーだけが逃げるなんて、させるものですか。

「駄目だよ。一人だけ逃げるなんて」
「このっ……アタシをどうするつもりなのよ!」
「言ったでしょ、私が代わりにロザリアさん達率いる、『タイタンズハンド』を牢にぶちこむって」

 とりあえず片手でロザリアさんを片手で掴み捕えるとして、もう片方の手で、腰のポーチを探り、濃い青色のクリスタル『回廊結晶(コリドークリスタル)』を取りだした。転移結晶とは違い、任意の地点を記録し、そこに向かって瞬間転移ゲートを開くことが出来ると言う転移結晶の強化版。

「これはね、私に依頼した『シルバーフラグス』のリーダーから全財産をはたいて買った回廊結晶。黒鉄宮の監獄エリアが出口に設定してあるから……後のことは言わなくてもわかるよね? それとも、直接言わないとわからないかしら?」

 あとは『軍』が面倒見てくれるでしょう。なんせ、『軍』はオレンジプレイヤーにめちゃめちゃ厳しいから。法はなくても、警察みたいな組織はこの世界でもいるようだしね。実際にはいたというよりも作ったんだけど、それはそれとしよう。
 ロザリアは唇を噛み、数秒押し黙ったあと、紅い唇に強気な笑いを浮かべて言った。

「もし嫌だと言ったら?」
「そんなの」

 ここで登場するのが、薄緑の粘液を塗った小さな短剣を取り出した。

「この短剣で貴方達を麻痺にして、放り込めばいいだけ。ちなみに、レベル5の毒だから十分は動けないわよ」

 それでも、ロザリアが笑みを消えることはない。回りを見れば少しずつだけど、私から遠ざけてシリカに近づこうとしている。
 ……こんなことしたくないけど仕方ないか。
 私は一旦、ロザリアさんを解放させ、後ろに下がった。

「ふん、そんなの聞くと思って?」
「じゃあ……聞くようにさせるよ」

 不信な動きをするオレンジプレイヤー二名をカタナでなぎ払った。

「ぐほっ」
「ぼへっ」

 私は黄色いラインまで減らした。ちなみに、相手がオレンジプレイヤーに攻撃してもカーソルがオレンジに変わらない。

「ちなみに、シリカを人質しようと足掻くなら、この場で殺すから」
「ひ、ヒッ!」

 場が凍りつき、ロザリアを含めた数人は恐怖を感じて尻餅をついていた。ある賊はガクガクと怯えていた。
 そうだ。たったカタナを振るっただけで、命の危機が迫ってきているんだ。そしてロザリアさん達は私がいつでも殺せる力を持っていることを感じてしまった。

「こ、こいつ……まさか……!」

 一人の賊が怯えながらも指を指して、恐怖をさらけ出すように口にした。

「冷酷無情で人との関わりを拒絶し、ボス戦をたった一人で打ち倒すこともできた攻略組。ただゲーム攻略のためだけに真っ直ぐ進む“狂戦士”と同じくらいの評され、オレンジプレイヤーが恐れていた白ずくめの……『白の死神』なのか!?」

「……よく知っているよね。オレンジでは私有名なの?」
「ど、どうなんだよ! 『白の剣士』なのか、『白の死神』か!」
「そうだよ」

 隠す必要もない真実を私は冷たい声音で告げた。
『白の死神』か、オレンジプレイヤーでも有名なのね、私って。別にオレンジプレイヤーを殺したわけじゃないのにね。やっぱり、ボスを一人で倒したことが原因か。
 それはもういいや。弁解したところで過去のことは綺麗さっぱりなかったことなんてできないし、『白の死神』としての私を否定する気もないわ。
 全部、本物で一生抱え込む過去の私なんだから、私は死ぬまで否定することはしない。

「選択は三つ。自分から牢屋に入るか、牢屋に放り込まれるか、貴方達が今までやって来た死の体験を自ら味わうか」
『…………』

 もう、誰も強がりを言う者はいなかった。そう、彼らは終わったんだ。そして私に負けたんだ。
 だから私は回廊結晶を上げて、名を叫んだ。

「コリドー・オープン!」

 瞬時に結晶が砕け散り、その前の空間に青い光の渦が出現する。

「畜生……」
「こんなことって……」
「…………ちっ」

 次々とオレンジプレイヤーが中に足を踏み入れる。盗聴役であるグリーンプレイヤーも中に入り、残っているのは……。

「ロザリアさんが最後だよ」

 仲間……いや、ギルドの一員が消えても彼女だけは強気に動こうとしなかった。

「……やりたきゃ、やってみなよ。グリーンのアタシに傷つけたり殺したりしたら、今度は貴女がオレンジになるわよ」

 挑戦的な視線で私を見つめる。もう、ロザリアさん一人ならシリカを人質することも出来ないから、殺す必要もない。

「ロザリアさんは『白の死神』が私なら知っているでしょ? その時の私は好きじゃないから、もうあんなことはしないし、あの頃と比べたら一日二日ぐらい、オレンジになっても構わない、嫌われることなら……慣れているからどうってことない。それに、私がロザリアさんを殺したところで、現実に戻った時、罪になるわけじゃないしね」
「あんた……っ」
「そ、ロザリアさんが言った台詞。私も通用するわ。でもね、私はそんなことしない」

 そう言うわけで、ロザリアさんの手首を掴んで回廊の近くまで引きずりだす。もちろん、ロザリアさんはあらがい抵抗する。

「ちょっと、やめて、やめてよ! そ、そうだ! 貴女とアタシで組まない? あんたの腕があれば、どんなギルドだって思う存分金や宝など取り放題よ!」
「無理」
「どうしてさ!」
「だって……私は、悲しい辛さ、痛みとか、知っているから」

 この依頼を頼んだ時、依頼主はとても悲しんでいた。大切な仲間を失われ、恨んで敵を討ちたいのに……力がないから必死に救いを求め、敵討ちを頼んだ。
 その原因を作ったのはロザリアさん率いる、オレンジギルド『タイタンズハンド』
 彼女達は、人を殺すことを楽しんで笑っていた。そして何にも思わなかった。

「さっき言っていたよね。ここで人を殺しても、本当にその人が死ぬ証拠はない。この世に妙な理屈を持つのが嫌いって……」
「それがどうしたのよ!」
「大切な人を失わせ、傷つけて人を悲しませたりして、悲しむ人を嘲笑うこと、そして人の命と、それに関する人達を巻き込んでなお、なにも思わないロザリアさんみたいな人が行うことは…………例えどの世界に行っても、法がなかったとしても、現実世界と共通でやってはいけないことなんだよ!」

 叫び上げながら、力任せにコリドーに放り込んだ。ロザリアさんの姿が消えた直後、回廊そのものが一瞬まばゆく光って消滅した。
 じゃあね、ロザリアさん。牢屋に放り込んだとはいえ、まだ生きているなら自分が犯した行動を見つめ直して改心することを私は願っているわ。
 終わったか……。

「終わったぁ~――!」

 小鳥のさえずりと小川のせせらぎだけが流れる春の草原で、おもいっきり背筋を伸ばし、大声を吐き出した。
 ロザリア達を牢屋にぶち込んだから依頼と脅威はこれでおしまい。これで後は、ピナを蘇生して一見落着。
 私は振り返って立ち尽くすシリカに寄った。

「シリカ……大丈夫だったでしょ?」
「あ、はい……」
「もうおっかない犯罪者はいないから、街に帰ったらピナに会えるわ。ごめんね、ちょっと意地悪しちゃって」
「…………」
「シリカ?」
「あ……足が、動けないんです」
「……よし、ここはいっちょ、触手系のモンスターでも誘い込んで」
「ふざけてないで助けてくださいよ!」
「ごめんごめん」

 右手を差し伸べて、ギュッと握られシリカを立たせた後、お互いに笑い合った。



「キリカさん……行っちゃうんですか……?」

 無事に三十五層の風見鶏亭に到着し、後はピナを蘇生するだけなんだけど……シリカは嬉しそうではなかった。
 その原因が、私との別れなんだろう。
 もう、私が下層に居続ける理由がなくなったから、今戦うべきところに戻るのが私としての役目でもある。

「そうね。私、これでも攻略組のソロプレイヤーだから、そろそろ前線に戻って攻略しないといけないからね」

 一人攻略に対してうるさい人がいるんだよね。肩を抜けって言っているけど、相手は真面目だからな……なにか機会があればいいんだけど。戻る理由のも彼女にとやかく言われたくないのもあるから、結局は下層に留まるわけにはいかない。

「……そう、ですよね……」

 …………。
 ……なんだろう。私も連れてってくださいみたいな眼差しをしてくるのは……。正直、中層プレイヤーがいきなり前線に出て、層を攻略するのは無謀な話、シリカなど一瞬で、最前線にいるモンスターに殺されてしまう。そんな危ないところに、シリカを連れていくわけにはいかない。例え相手が自分の意思を貫いても、シリカではレベルが足りないから連れていけない。
 戦うべき場所が違うからと言って、もう二度と交わることはないだろうと思っているのかな?

「シリカ、まさかこれで一生お別れだと思っているの?」
「えっ?」

 こう言うことを盲点と言うのか? ポカンと口を開いている。

「暇な日であれば遊びに行くよ。その時はメールでも送れば会いに行く。無理に私に追いつこうと頑張らなくても、さようならはないんだよ」
「ほ、本当ですか?」
「うん。それに、レベルなんて数字に過ぎない。この世界での数字の強さは大事なのは確かだけど、もっと大事な物がある。それさえ捨てなければ、会えるから。私達、友達でしょ? 私だって、たまにはシリカと会って、話したり食事したりしたいわ」

 そう言うとシリカの表情は笑顔に変わった。心からの笑みに私も微笑んだ。

「と言うか、こんな私でも友達でいいかな?」
「は、はい! あたしとキリカさんは友達です」

 シリカは私を『白の死神』のことは知っているのか知らないかはわからないけど。今はシリカと友達になれて嬉しい。今は、それだけでいいや。
 それに自惚れることにした。例え過去の私を知ったとしても、シリカは変わらず友達でいれくれるんだと。
 例え失望されたら、その時はその時。私は同然されるような行動を犯したんだから。
 とかなんか、思ってみるんだけど、本当はまだ口に出すのが恐いだけだから言えないことでも、あるんだけどね。

「じゃあ、『プネウマの花』の花の中に溜まっている雫を、『ピナの心』にかければ蘇生出来るよ」
「は、はい!」
「まったく……泣き虫なんだから」

 いや、嬉しい涙ぐらいは普通の涙とは違うか、私も泣いちゃったしね……。
 シリカは両眼に涙を浮かべながら、シリカは右手の花をそっと羽根に向かって傾けた。



 私はドウセツと別れた後、シリカからメールにて誘われた。なので、シリカがいる三十五層へやってきた。ちなみにメールの内容はと言うと、

「うわぁ、これ……風見鶏亭のチーズケーキと一緒の味じゃない!」
「はい、頑張ってマスターしました」

 シリカがチーズケーキ作ったから試食してくれと頼まれたから訪れてきたのである。
 正直驚いた。味、触感、質など、全てがコピーしたようなケーキ。本家よりも越えているんじゃないかと思う。極上な美味に等しく、なによりもチーズだから濃厚で重いかと思いきや、軽くて優しい感じがする。

「うぅ……シリカが作ったケーキのおかげで、今日まで生きて良かったと思えるよ……」
「大げさですよ、キリカさん」

 あまりにも美味しいから思わず涙目に感想を言う私を、シリカは微笑んでいた。
 もう一口、フォークで救おうとしたら、ペールブルーの綿毛で包んだフワフワした体、尻尾の変わりに二本の大きな尾羽を伸ばした小さなドラゴンが私に向かって飛び込んできた。

「きゅるっ」
「ちょっ、ピナ! 急に膝に乗ってきてって、コラー! 食べるなー!」

 それはシリカの友達であるピナであり、チーズケーキを一口くわえては急に膝から離れると、今度は頭部に重みが加わった。
 ……ピナ、わざわざ人の頭に移動しておいて、たかが一口のチーズケーキ食べるって……いい度胸しているじゃないかな?
 焼き鳥ならぬ、焼き竜にするぞ!

「こーら、ピナこっちに来て」

「きゅる」っと鳴いて、ピナはシリカの胸へと降り立つ。
 使い魔って大抵言うこと聞かないし、行動パターンなんてランダムに構成されているはずなのに……シリカの言うことはちゃんと応える。例えるなら、本来、感情がない機械に感情を与えて、甘えるようになった感じだろうか。最初に見かけた時も、ピナはシリカを庇った行動は普通ならあり得ないって、MMOに詳しい兄が言っていたとすると、本当に珍しいんだと実感する。
 改めてピナのアルゴリズムに肝心し、紅茶を口に入れる。ふと見れば、シリカが覗き込むように見ているじゃないか。なんかついている?

「キリカさん」
「な、なにかな?」

 人の顔をジッと見つめてくる。そしてシリカは、意を決して発言をしてきた。

「髪、下ろしてくれませんか?」
「えっ? ま、まぁいいけど……」

 普段からサイドテールにしている銀髪を下ろしてロングヘアにする。普段は寝ることしか下ろさないが……急にどうしたのかな?

「やっぱり」
「やっぱり?」

 シリカの瞳が星空のようにキラキラと輝きながら早口目に発言した。

「キリカさんは下ろした方がいいです! いつもより色っぽくて綺麗で可愛いですよ!」
「あ、ありがとう……」

 元からの性格が男っぽいから、あんまり綺麗だとか可愛いとか誉められることないから、妙に恥ずかしいのよね……この店、冷房ないのかな?

「あとキリカさん……今日いいことありましたか?」
「えっ?」

 いいことって言えば誉められたこと? どちらかと言えば恥ずかしいから違うか。

「なんと言いますか……いつもよりも明るくて、いつもよりも嬉しそうな感じですね」
「なによー、まるでいつもよりも暗い奴って、言いたいのー?」
「そ、そう言うわけじゃないです」

 シリカの頬っぺたを軽めにぐりぐりっと、からかいつつも頭を撫でてあげた。
 言われてみれば、シリカの言う通りで、何故だが嬉しさで満たされている私がいる。当然、容姿を褒められたこととは別にね。
 うーん…………私が嬉しいって思っているとしたらあれなんだろうね。

「まぁ、七十四層が攻略出来たからね。そりゃ嬉しい……かな?」
「おめでとうございます。これで後、二十五層ですね」
「そうだね。三分の一まで行ったんだからこのままのペースで百層に到達できればいいんだけどな……」

 あれ? そうなると今までもそうなるよね……。なら、どうしてこんなにも心が温かいんだろう……。

『貴女……ギャルゲー好きで女の子好きの変態だったのね』

『お人好しばかりで呆れるわ。好きにして』

『……庇ってくれて……ありがとう……』

『またね、キリカ』

 ふと、今日、ドウセツと一緒に行動していた記憶を蘇って、じわじわと何故嬉しさに満たされている理由が解明できた。
 クールで愛想なくて毒舌で人のせいにしたり、変な物を食わしたりするくせに、不器用な優しさを持っているドウセツと一緒にいることが……いつもよりも嬉しいってことなんだろう。
 かつては『白の死神』がついた時は、こんなにも嬉しさが満たされる経験なんて想像できなかった。だって、その時が私は独りでバカみたいに前に進んでいた。でも、今日は違う。昨日よりも違って、私の隣には仲間がいた。私は独りじゃなかった。だから、仲間と共に前に進み、戦うってことが嬉しかった。
 そうだとしたら、兄にもわかって欲しい。きっと今でも人に対して壁を作っている。でも、私の出番はもうないかもね……。
 私じゃあ……兄を癒しきれない。

「キリカさん?」

 おっと。ちょっと黙ってしまったから、シリカが様子を伺ってきたわ。今なら、『白の死神』のことを話しても大丈夫かな?
 なんてね。やっぱりまだ人に話すのはまだ恐いわね。

「……実はさ、ドウセツって言う人と組むことになったの」
「そうなのですか?」
「きゅる」
「ちょっと成り行きでね、今日はそのドウセツの話から、七十四層攻略の話をするわ」

 私はこれまでにあったことを少し面白く加え、冗談を交えながらしながら、しばらく話していた。長く時間が経過して、とても楽しい時間が短く感じた。そして今日も生きて良かったと命に感謝をし、同時にコーバッツと死んでしまった『軍』の二名に生きてほしかったと心の中で後悔をした。でも、それで沈むわけにはいかないから、落とさず抱えて前を歩こう。



「こんばんわ~」
「さて、『軍』に追放でもしましょうか」
「なんでよ!?」

 シリカと別れた後に不意に思ったのか、気がついたらドウセツ家へ足を運んでいた。そしたら問答無用に切り捨ててきやがった。当然かもしれないけど、「帰れ」じゃなくて、軍に追放なのはいかがなものだろうか。私はムキになって引くことはしなかった。

「ちょっと酷くない? 追い出すのならまだしも、『軍』に追放なんておかしいと思うんですけどー?
「別におかしくないじゃない。女の子が大好きな変態さんが訪ねてきたのだから、事前に防ぐために『軍』に追放してもおかしくはないでしょ?」
「まだ何もしてないじゃないか!」
「まだって言うな、変態」

 シリカにドウセツのことを嬉々そうに話した私はいったい、なんでドウセツと一緒にいることが嬉しさに満たされるのか疑問に思っちゃうわね。私の勝手な思い違いかしらね。なんか嫌だ、それ。 

「で、今日も泊まっていい?」
「宿屋じゃないのよ。だいたい何しに来たのよ?」
「何しにって……」

 気がついたら、ドアの前に立っていたからなぁ……なんとなくじゃ呆れられるのは確実だ。
 だったら、これを言おう。

「……ドウセツに会いたいからじゃ…………駄目、かな?」
「そんな天然タラシの発言はお引き取りを」
「天然タラシじゃないし! 気がついたらここにいたんだよ!」
「それは記憶力悪いわね、病院行ったら? 特に頭のところを直しに行った方がいいわよ」
「平常ですよーだ」

 そう言うのはちょっと違うでしょ。短時間ですぐに忘れることなんてない。覚えていないのは……恥ずかしいけど言った方がいいよね?

「やっぱり、ドウセツに会いたいからさ……自然とここに導かれたんだと思うんだ!」
「うざい」
「そんな一蹴しないでよ。なんか悲しい」
「バカなこと言わなければいい」

 おっしゃる通りです。そんなドウセツは流石に怪訝そうに私を見ていた。

「で、入れてくれるかな?」
「仕方ないわね。いいけど、襲ったら追放よ」
「襲わないって」
「嘘ね」
「嘘じゃないわよ」

 今までソロになった私が、こんなにもパートナーに会いに行くなんて、まるで恋している乙女な気持ちだったりする。
 ……なんてね。我ながら恥ずかしい。

「泊まると言うことで、金と素材など高価な物払ってよ」
「なんでよ!?」
「あ、昨日の分も払ってもらうわよ」
「マジ?」
「それくらいしなければ泊まり禁止よ」
「えー……」
「文句あるかしら?」

 こんな扱いされるけど、どうしても私はドウセツを嫌いにはなれなかった。
 言っておくけど、マゾじゃないわよ。
 
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