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IS<インフィニット・ストラトス> ―偽りの空―

作者:★和泉★
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Development
  第三十五話 居場所

『な、なんだ……ぐっ!』

 突然背後から聞こえてきたラウラの異常な叫びに一夏は思わず振り返る。が、すぐさま襲いかかった電撃と衝撃波で吹き飛ばされた。
 そして、それと同時にラウラの声も聞こえなくなった。

(この感じ、どこかで……)

 徐々に晴れてくる砂煙の向こうに映るラウラの影を見ながら、紫苑は自分の感覚に戸惑っていた。先ほどまでとは明らかに違うラウラの様子、そしてそこから発せられる異様なプレッシャー。
 彼はその身に受ける圧力にどこか覚えがあった。

「簪さん、少々相手の様子がおかしいです。警戒を続けてサポートに回ってください」
「わかりました」

 紫苑は簪に指示を出し、意識をラウラに向ける。吹き飛ばされた一夏のことも心配だったが、横目で確認したところ無事だったのでラウラに集中することにした。そうせざるを得ないほどに、彼女から発せられる圧力は異常だった。
 やがて現れたその姿はしかし、先ほどまでの彼女のものとは明らかに違う異形だった。

『なっ……』

 紫苑も簪も吹き飛ばされた先でかろうじて見つめる一夏も、そして観客席から見る誰もがその目を疑った。
 そこにあるのは、もはや原形をとどめていないISだったと思われるもの。それはドロドロに溶けて、わずかに見えていたラウラの身体をすべて包み込んでいく。意識がないのか、彼女は抵抗することもない。

『なんなんだ、あれは!』

 一夏がその様子を見て叫ぶ。その場の誰もが同じように思ったことだろう。
 やがて一度溶けたそれは泥人形のような、かろうじて人型とわかる形を保ちながら脈動を繰り返し、ゆっくりと地面へと垂れ落ちる。そして地面に到達した瞬間、先ほどまでのゆったりとした動きが嘘のように高速で動き出し、その姿が洗練されていく。
 フルスキンタイプのISに近い、漆黒の装甲。頭部もフルフェイスで覆われており、目の部分にはアイライン・センサーが赤い光を帯びている。それがラウラであることを確認できるのは、唯一変わっていない彼女の体型そのままであることだけだ。

(あれは……!)

 だが、それ以上に一夏を、紫苑を驚愕させたのはラウラが手にしていた武装、そしてその構えだった。

『……雪片!』

 そう、かつてブリュンヒルデが振るった力。そして今はその弟を支えている武装、雪片。それを、ラウラはブリュンヒルデ……織斑千冬と同じ構えで持っていた。
 それは似ているというレベルではなくそのまま模倣した形、コピーとすらいえる。

(そうか、ヴァルキリー・トレース(VT)システム!)

 VTシステムとは過去のモンド・グロッソの戦闘記録をデータ化し、それをそのまま再現・実行するシステム。かつて某国が開発途中に、システムの暴走が原因で研究所が消滅するという事態になり、以降は国際条約で一切の開発が禁止されていた。
 一般にはほとんど知られていない技術ではあるが、ISに関する案件は束との付き合いもあり幅広く網羅している紫苑は、下手な国の機関より知識がある。このVTシステムも技術の根幹までは把握していなくても既知のものだった。

『西園寺、どうやらイレギュラーが発生したようだ。このままではトーナメントを中止せざるをえない』

 そんな折、千冬から紫苑へ通信が入る。目の前で起きている現象が明らかに異常であることは、その根源にたどり着いた紫苑には理解できている。
 しかし紫苑としては、このまま前回のクラス対抗戦のように中止にすることは避けたかった。学園行事の度重なる中止は、亡国機業のようなよからぬ災禍を招く隙にも繋がる。それは千冬も同じように考えているのだろう、だからこそ彼女はこうして紫苑にのみ通信をしてきたのだ。

『状況は理解できました。このまま彼女を止めた場合、情報の拡散は防げますか?』
『こちらで異変を察知した時点で映像機器は止めた。観客席からはまだ砂煙で状況はうまく把握できていないだろう。あとの状況は機体に搭載された実験的な機能が暴走したとでも説明できる。だが、そのためには迅速な対処が必要だ、できるか?』
『やります』

 もう一つ、紫苑にはどうしてもトーナメントを続けたい理由があった。
 それはこのトーナメントこそが、この場にいる者達の絡みついた関係を解きほぐす絶好の機会だと認識していたからだ。ラウラに関してはこうなった以上、どうなるかはわからないがこの場を収拾して勝ち上がればその先には楯無がいる。
 簪は、例えその結果がどうなろうとも一度彼女と対峙しなければ前へ進むことはできない。そしてこれを逃せばこんな機会はいつになるか分からない。 

 故に彼は決意する。必ずラウラを止めてみせる、と。

 直後、紫苑の思考を遮るようにラウラが襲い来る。居合いに近い中腰からの一閃、初見で躱すのは困難な必殺の一撃は紛れもなく千冬のものだ。

『……軽いですね』

 だが、だからこそ紫苑にはそれが防げた。所詮はコピー、劣化版である。どんなに姿形を似せようとも、彼女の強さの根幹はそんなものではない。それは今まで幾度となく千冬の太刀筋をその身で受けてきた紫苑は理解していた。ただ型だけをなぞったそれはただの空虚な物真似、一笑に付す程度のものだ。

(でも……この感覚はあのときの……まさか、ゼロスシフト!?)

 遠目からでも感じていた感覚は、直接斬り結ぶことでより明確になった。それは、かつて自身が陥ったコアの暴走とも言える状態。しかし、各国に配分されたコアは事前に束によってプロテクトがかけられていたはずだ。

(もしかしてVTシステムは……故意にコアを暴走させて、それをシステムで無理矢理制御することでデータを再現させているのか……なんてことを!)

 自身が経験したことだから分かる。紫苑のときは彼の病魔という別の条件も組み合わさったとはいえ、半年もの間目を覚まさなかったのだ。それほどまでにコアの暴走は操縦者に負担をかける。
 だからこそ、彼は一刻も早くラウラを救い出す、そう再び決意して簪に追加のサポート指示を出すが……。

『ふざ……けるなぁ! ラウラを放せ!』

 予想外の叫び声が聞こえてくる。
 その声に一瞬気を取られた隙に、急に出力を上げたラウラのパワーに押しやられて距離を離される。
 直後に近くまで迫りラウラを取り押さえようとした一夏も、彼女に触れることすらできずに紫苑と同じ方角へとはじき飛ばされる。
 
『ぐっ、それがどうした!』
『待ってください!』

 明らかに我を忘れている一夏を紫苑が止める。

「簪さん、申し訳ありませんが30秒もたせてください! あとできるだけ砂煙などをあげて、観客席からの目を遮断してください」
「了解です」

 一夏をこのままにしては足手まといになると判断して、簪に状況維持を頼みその間に一夏を落ち着かせるべく彼に対峙する。

『邪魔をしないでください! アレは、千冬姉を穢したんだ! それにラウラが!』
『あなたはあんな紛い物が織斑先生の剣だとでも言う気ですか? 形は似ていてもそれだけです、あなたのその態度こそが彼女に対する侮辱です』
『っ!』

 一夏の知っている紫音という少女の普段の物腰からは想像ができないほどの厳しい言葉と、自身に向けられる強烈なプレッシャーに彼は言葉を失う。そして少し遅れて言葉の意味を理解し始める。

『あなたはただ自分の怒りのままに戦うのですか? それとも、彼女を救うために戦うのですか? 今のあなたは正直、足手まといです。彼女は私と簪さんが助けますので、どうぞこの場から立ち去ってください』 

 紫苑とて、本来であればこのようなことを言うつもりはなかった。
 一夏にとっての千冬という存在が重要なものであることは理解していたつもりだが、ここまで取り乱すとは思っていなかった。できれば少しずつ落ち着かせるのがベストではあるが、一刻を争う現状ではそうもいかずにキツい言い方になってしまっている。

『……すいません、落ち着きました。でも、俺もやります。俺に散々文句言ってきた癖にあんなものに振り回されているラウラもぶん殴らないといけませんから』
『あら、女の子に手を上げるのは感心しませんね』
『えっ、ちょっ、それは言葉の綾で……!?』

 落ち着いたと言いつつも鼻息の荒い一夏に対して、紫苑は心の中でため息を吐きつつ茶化す。
 それに対する一夏の反応はほとんど素であり、それを見た紫苑はようやく安心する。

『さて、緊張が解れたところでいきましょうか』
『えっと……あ、はい。でも、どうするんです?』

 そこで漸くからかわれたことに気づいたのか、少し気まずそうな顔をしつつこの後どうするのかを訪ねる。それを確認してきたということは、本当の意味で落ち着いたのだろう。

『私と簪さんで彼女を引きつけますので、隙を見て零落白夜でシールドを切り裂いてください。シールドが無効化されたタイミングで……直結してハッキングを仕掛けます』
『え? ハッキングって……』
『時間がありません、いきますよ』
『あっ、もう……なるようになれ!』

 紫苑の言葉を理解する間もなく二人はラウラへと向かう。
 そこでは簪が砲撃を繰り返して一定の距離を保とうと試みていたが、徐々にその距離を詰められていた。

「簪さん、お待たせしました。戦闘データを織斑君へも送ってあげてください」
「ん……了解です」

 さすがに一人で相手をするには荷が重かったのか簪は息が荒くなっているが、紫苑の言葉になんとか応える。

『一夏さん、弾道予測データが送られてきますので当たらないようにしてくださいね』
『えっ、もしかしてミサイル……俺のこと狙わないよね?』
『……善処する』
『ちょっ!?』

 紫苑の言葉に、一夏はこの後に起こることを理解する。
 だが先ほどまで自分を狙って襲ってきたミサイルの群れの中に飛び込んでいくのはさすがに躊躇われるようで、恐る恐る彼は簪に確認をするのだが返ってきた答えは不安なものだった。
 無情にも、そのままミサイルは放たれて悲鳴のようなものが響き渡った。

 しかし幸いにも……というのが適切かはわからないが、一夏をロックオンしたミサイルはなかったようで全てがラウラへと向かう。
 最初のうちはビクビクしながら簪のほうを気にかけていたようだが、やがて信用したのか目の前の相手に集中する。
 
 紛い物、といってもデータ自体は歴代最強と名高いブリュンヒルデのものだ。
 三対一という状況にあってもなかなか隙を見せることがない。とはいえ、限界はある。一夏がラウラへと集中したのを契機として、紫苑がミサイルの弾道に沿って強襲する。ミサイルの対処にラウラが動いた瞬間にそのまま斬りかかる……が、ギリギリのところで回避される。

『織斑君、今です!』
『はあああぁぁぁっ!』

 直後、一夏が自身のエネルギーを注いだ一撃でラウラの変形した装甲を削り取る。

『ぎ……が……』

 うめき声のようなものが聞こえ、その動きが止まる。
 一夏の零落白夜によりシールドエネルギーが削り取られてシステムが一時的にダウンしたようだ。
 その隙を逃さずに紫苑がラウラに接触、メンテナンス用のコネクタを接続して暴走したシュヴァルツェア・レーゲンへとハッキングを仕掛ける。

(これは……ひどい。幸いバックアップが残っているようだからこれをもとに復元して……え、なに!?)

 浸食されたシュヴァルツェア・レーゲンの内部データの状況に驚きつつも修復の糸口を見つけた紫苑だが、その直後に彼は自分の意識に何かが滑り込んでくるような感覚に襲われた。

「dafkjadao aeiofjad woidfjmv」

 言語どころか、声としても認識できないような機械的な音。だが、それが自分に向けられているのは何故か理解できた。そしてそこから感じる殺意のようなものはひどく生々しい。
 それと同時に、紫苑の中に言いようのない感覚が湧き上がってくる。

(ぐ……これ……は)

 それは破壊衝動。
 いま、助けようとしている目の前の少女ごとシュヴァルツェア・レーゲンを破壊してしまいたいとすら考えてしまう。その衝動を紫苑はなんとか抑え、混乱する頭を落ち着かせながら今の状況を整理する。

(もしかして……シュヴァルツェア・レーゲンの暴走に天照のコアが共鳴した……? このまま時間をかけすぎると僕まで浸食されるかもしれない。でも、今の殺気のようなものはいったい……まさかコアの意志?)

 まるでコアが自我を持っているかのごとく、紫苑に対して向けられた殺意。それに共鳴するかのように天照から湧き上がった衝動。わからないことばかりだが、今は考えるべき時ではないと紫苑は思考を切り替えてこの状況を打破する方法を考える。

 が、次の瞬間先ほどとはまた違った感覚が紫苑を襲う。

「……お前はなぜそんなに強い?」

 直接頭の中に響いてくるような声、紫苑はすぐにそれが誰のものか察する。

(これは……ボーデヴィッヒさん? まさか相互意識干渉(クロッシング・アクセス)!?)

 クロッシング・アクセスとはIS同士のコア・ネットワークにより、操縦者同士の波長が合うことで無意識的に起こる現象だ。意識的に行われるプライベート・チャネルとは異なり、両者間の潜在意識下で会話や意思の疎通を図ることができる。
 とはいえ、波長が合うということ自体が稀でありIS同士を直結したこの状況だからこそ起こりえた奇跡かもしれない。
 紫苑はこの状況を利用し、いまだ現実には意識が飲み込まれているラウラを覚醒させることでシュヴァルツェア・レーゲンの制御を取り戻させる手段をとることにした。

「ボーデヴィッヒさん、私より強い人なんてたくさんいますよ。でも……あなたが私のことを強いと思うのなら、それは私を支えてくれる人たちの強さです」
「くだらない……強さとは自分自身の力のはずだ」
「そうではないことは、先ほどの試合であなたも感じていたのでは?」
「……」

 紫苑の言葉をそのまま受け取ることが出来なかったラウラだが、続けて放たれた言葉にそのまま沈黙する。それはまさしく彼の言葉を肯定している。

「ふん……魔女はお前ではなかったのだな。いや、お前であってお前でない……か。不安ではないのか?」
「自分が自分でない感覚……ですか? 確かに不安になるときもあります。正直、あなたが言う魔女というのが本当に私ではないのかも分かりません」

 紫苑はまだドイツ軍部隊の襲撃事件について不安が拭いきれずにいた。紫音が生きていて彼女がやったのか、それとも自分が無意識に行ってしまったのか。
 ラウラが言うように自分の存在が希薄に感じてしまうことすらあった。

「でも、先ほども言ったように私には支えてくれる人たちがいます。彼女達がいるから……私は自分の居場所が、存在が確認できるのです」

 子供の頃から自分の存在する意味を問い、学園に入学する頃にはそれすらも紫音という偽りの存在に塗りつぶされた。自分が何処にいるのか、何処に向かうのか、一人では潰れてしまいそうなときでも束や楯無がいたから今の自分がいることを彼は痛感している。

「なら……居場所のない私はやはり存在できないのだな」
「なにを言っているのですか? いるじゃないですか、あなたにどんなにキツく当たられても最後まで守ろうとしたお人好しが。彼はきっと、あなたに居場所を作ってくれますよ」

 ラウラの沈んだ声に、紫苑は真っ先に一夏のことを思い浮かべる。
 あの愚直なまでの性格なら、ラウラがクラスに溶け込むきっかけになるかもしれないと思えた。

「……ふん、だが教官の弟としてはまだまだだ。だから……私が扱いてやらねばならんか」

 少なからず先ほどの試合で彼のことは認めたのか、不承不承といった様子でそれを受け入れる。それだけで、以前の彼女からは考えられなかったほどの進歩だ。

「お前のことは……まだ完全に信用したわけではない。やはりあの魔女はお前と同じ存在だったのは今回のことで確信できた。お前の意志がそこに無かったのは理解したが……お前を監視していればいずれ真実に辿り着ける気がする……せいぜい寝首を掻かれんように気をつけるんだな」

 最初は胡乱な様子だったラウラも、紫苑と話をしている間に徐々に言葉がハッキリとしたものに変わる。
 そしてラウラが最後に紫苑へと言葉を投げかけたあと、彼の意識が覚醒する。何分もの時間に感じられたラウラとのクロッシング・アクセスでの会話は実際には数秒だったらしく、状況は先ほどのままだった。
 だが、直後にそれは一変する。ラウラの意識はまだ戻っていないものの、シュヴァルツェア・レーゲンの浸食が止まり本来の機能が戻り始めた。それを後押しする形で紫苑もデータの復元を行う。

 やがて全ての作業が終わると、シュヴァルツェア・レーゲンは待機状態であるレッグバンドへと戻りそのままラウラは力なく倒れる……が、それをすぐ近くにいた簪が支える。

『ラウラ!』
『……大丈夫、気を失っているだけです、先ほどの状態になった根源は絶ちまし……た』

 短時間で起こった多くの出来事に、精神的な負荷が大きかったのか紫苑もその場でフラつく。
 それを同じく近くで立っていた一夏が支える。

『危ないっ』
『あ、ありがとうございます』
『あ~、試合って続いてるんですよね……ラウラがこんな状態なんで俺たちが棄権します』

 簪が絶えず会場内を砂煙で覆っていた甲斐があって、観客席にいる人間で何が起こったかを正確に把握している者は少ない。もともとVTシステム自体が知るものが少ない技術であるのが幸いした。

『わかりました……これから彼女のこと、しっかり支えてあげてくださいね』
『はい! ……って、ん、支える?』

 流れで思わず返事をしたものの、紫苑の言葉の意味がよく理解できずに考え込む一夏。それと同時にその言葉によって何かを忘れている感覚に囚われる。
 だが、それもやがて強制的に中断させられることになる。

「い、一夏……貴様というやつは!」
「一夏~!? 煙にかくれて何してんのかと思ったら……よりによって紫音と!?」
「一夏さん!? お姉様に何をしているんですの!」

 やがて煙が晴れ、その姿が確認できるようになった観客席から姦しい声が響き渡る。まさしく女三人寄れば……という状態であるがその声を一身に浴びる本人はたまったものではない。

『は? いや、これは違うって!?』

 今の状況が観客席からどう見えるのかを正しく理解した一夏はおおいに慌てるが、反射的に紫苑から離れたりしなかったのはいろんな意味でさすがである。さすがに未だに足取りの覚束ない状態で急に離れられては、紫苑といえども倒れていたかもしれない。
 だが、だからこそ彼女らの心象をさらに悪化させてしまうのもやはり彼らしいと言える。

『ふふ、ごめんなさいね。もう……大丈夫ですので』
『あ、いや、こちらこそ……ごめんなさい?』

 彼の疑問符のついた謝罪は先ほど紫苑に叱咤されたことに対してか、はたまた無意識とはいえ密着してしまったことに対してか……少なくとも今の彼の顔が真っ赤だったことだけは確かである。

『勝者、西園寺・更識ペア!』

 一夏が棄権の意を示したことで、試合の終了が告げられる。

 フランスによる性別詐称、ドイツによる条約違反。世界の捻れは徐々に広がりを見せていた。
 

 
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