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《SWORD ART ONLINE》ファントムバレット〜《殺し屋ピエロ》

作者:P笑郎
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そして日常

 
前書き
ちょいと私立受験で遅れました。

 

 
〈6〉





「ふゎぁぁ......」

校門をそそくさと後にした俺/化生(けしょう) 道嵩(みちたか)は、一日中ため込んでいた欠伸を最大出力で解き放った。途端に晩秋の寒気が這い上がってきて、思わず手袋に包まれた両手で頬を擦る。

久しぶりの晴天。ちらりと見える街路樹はすっかり秋の色に染まり、赤と黄色の乱舞を見せつけてきたが、俺の気分は優れなかった。折角の放課後を顧問からの説教でつぶされてしまったからだ。ようするに彼は「勉強しろよ」と言いたいらしかった。

しかし、俺は勉強嫌いを進学校で公言している馬鹿だ。成績も惨憺たるもので、240人いる生徒の中で100番台に入った事が一度もない。留年しない程度に頑張ってきただけあって、向上心は1ミリも所持した試しがなかった。

只なんの目的もなく、友人との戯れと帰宅後のゲームを楽しみに高校に通う。それにちょっとだけ嫌気がさして”メイソン”というキャラクターを操り、過去の間違いを払拭する夢を見るわけだが、今の”俺”にはどうでもいい。心のなかにあるのは「ゲーセンよって帰ろう」の一念だけだ。

ふらふらと無気力な顔でいつもの道を歩く。まだ午後4時近いだけあって、向かった商店街は人が少なかった。アーチ状の入り口をくぐり、アーケードの中央を目指しつつ、俺はぼんやりと賑やかな建物を眺めた。本屋、文房具屋、菓子屋、CDショップ、スーパー、コンビニ。同級生が遊んでいるのを見かけたが、声をかける気分でもないしタイミングもつかめない。格闘ゲームの台へ向かって俺はひたすらに歩く。まったく《ガンゲイル・オンライン》の殺し屋ピエロはどこへ言ったんだか。

「ばぁん!」

そんな間の抜けた声が聞こえたのは、紳士かつ凄腕のおじさんから如何にして台を譲ってもらうか考えている時だった。騒がしい場所ゆえ刮目するには値しない事柄であったが、それが知っている声となれば話は別だ。

「......遠藤?」

同じクラスの女子の名がぽろっと零れる。個人的に好きでない性格の持ち主だが、学校で上手く立ち回るために、ある程度仲良くしなければならない手合いだ。視線を向けると、建物の間からスカートの端がちらりと見えた。この寒い日にあんなスカート丈で出歩く奴はそういない。十中八九彼女で間違いないだろう。

不審者よろしくのぞき見をする俺。ここまで来たからには声をかけるのがベストだが、如何せん遠藤グループらしき女子3人の雰囲気は穏やかでない。遠目にはよく分からないが、へたり込んでいる人影を囲んで楽しんでいる様に見える。いわゆるイジメと呼ばれる悪夢の現場を俺は見ているらしい。

「マジかよ。アイツらおっかねぇな」

遠藤の危険度を一段階シフトしながら呟いた。止めに入ろうかと一瞬思ったが、変に悪感情をもたれるとこっちまで不利益を被りそうだ。さわらぬ神に祟りなし。ここは見ないふりを決め込むのが利口ーー

「おいおい、ゲロるなよ朝田ァ」

Uターンしかけた体が凍る。振り返り、うずくまる人影を凝視して俺はハッと息を飲んだ。細い、折れてしまいそうな細い体に制服とマフラーを巻き付け、地味なメガネで顔を隠す少女。普段つまらなそうに伏せられている顔は、文字通りの真っ青で、遠藤の言うとおり本気で吐きそうだった。

朝田詩乃。

ある意味、学校で彼女ほどの有名人はおるまい。それほど彼女が5年前に関わった事件は凄惨で、インパクトのあるものだったのだ。

銀行強盗を当時10歳の少女が撃ち殺す。

その少女こそが朝田詩乃だ。冗談ではなく、正真正銘これが事件の真相だった。俺はこの出来事を必要以上に調べていた。いや、ずっと前から”知っていた”。思い出すだけでも忌々しい事件である。

故に彼女は学校で孤立し、影では人殺しと罵られながら生活していた。その苦痛は俺の想像を絶するものに違いない。しかも、放課後にこんな恐喝まがいのイジメを受けているとは知らなかった。

考えるより先に、体がつんのめるようにして路地の間に入っていった。

「なぁ、お前らなにやってんの?」

途端に3つの視線が突き刺さる。

しまった、と心の中で絶叫するも、時すでに遅し。真っ白の頭に具体的な説得方法などこれっぽちも浮かばず、ただ地雷を踏んでしまったという感覚だけがゆっくりと点滅していた。

「なんだ、道嵩かよ。脅かすなバァカ」

遠藤はそんな俺を見て、心なしかほっとした様子で言った。確かに一般人に見られでもしたら好印象はもってもらえないだろう。逆に自分は彼女にとって、どうとでも丸め込める男子としか認識されていないらしい。その事が少しだけ癪に触った。

「......悪かったな。んで、朝田囲んでなにやってんだ? 見た感じ大分具合悪そうだけど」

ちらりと詩乃を一瞥する。苦痛で潤んでいる瞳と一瞬目があった。

「はん、例の発作ってやつだろ。指をピストルの形にするだけでガタガタ震え出すんだからな。超うけんだけど」

なるほど、と納得する一方、遠藤達の根性の曲がり具合に呆れた。詩乃はあの日以来、銃を極度に嫌う風になった。その形を見るだけで発作のように体が震えだし、ひどい場合で嘔吐、気絶することがあるらしい。世界史の授業で一度発作を起こしたのを見たことがある。

失礼な話だが、俺は詩乃という人間が可愛そうでならなかった。彼女は悪くない。強盗から皆の命を守ろうとした結果、殺人という手段に至ってしまっただけだ。今も昔も知らんふりをして隠れる俺よりよっぽど勇敢である。

ーーその仕打ちがこれなのか!

「おい、そういうのマジでダサイから止めろよ。楽しいかよ? こんなことしてさぁ」

衝動のままに刺々しい口調で言いはなった。今度は後悔していない。どうなろうとここを曲げてしまったらいけないと思った。

惚け面を見せた遠藤と腰巾着の顔がみるみる険しくなっていく。ああ、さらば平穏な学校生活。女子の間でどんな陰口を叩かれるのか、もはや俺ごときの脳みそでは想像も付かない。

「は? キモイんだけど。なにいい子ぶってんだよ、馬鹿のくせに」

「なになに?化生君って痛い人だったの?」

「くっふ、だせぇのそっちだろうがよ」

グサグサと心に突き刺さる罵倒。この時点で俺のライフはゼロだが、それを悟られないようにしつつ、肩をすくめてこう言った。

「......ガキかよお前ら。つーかあんまり騒ぐと人が来るかもだぜ? またタイーホされてぇのかよ、あ?」

こいつらが警察騒動を起こしたのは記憶に新しい。口げんかでは勝てる可能性が万一にもないので、脅どしを混ぜる苦肉の策だったが、ポリスメンの偉功はどうやら無事に機能したらしい。一様に顔をしかめた彼女らは、それぞれ飛び切りの捨て台詞を吐いて去っていった。「人殺しのガキでも育てる気かよ?」という言葉が一番頭にきたのは言うまでもない。

やっちまった、とぼやきたいのを押さえつつ、まだ青い顔でこちらを見上げる詩乃と向き合う。とっさには何を話したらいいか分からず、取りあえず立ち上がれるように手を差し伸べた。

「ほら、大丈夫か朝田?」

「......うん、ありがと。えっと、道嵩君だよね?」

やんわりと俺の手を拒絶しつつ、詩乃は苦労して思い出したらしい名前を呟く。俺は思わず苦笑した。そういえば今までろくに話した事がなかった。俺が一方的によく知っていただけの話だ。

「そそ。あんま話したことなかったもんな」

「うん。......ごめんなさい。なんか面倒に巻き込んじゃったみたい」

申し訳なさそうに瞬いた瞳がこちらを見る。困惑と感謝が半々といったその色を見て、俺はとっさに激しく同意したがっている本心を隠した。

「.....ああ、いいよ別に」

なんにせよ、彼女との接点ができたのは思わぬ収穫だった。何度か声をかけようと試みた事もあったのだが、彼女自身一人を好んでいるように見えたので、なかなか近寄りづらかったのだ。

「そう? あの人たち性格悪いから、もしもの事がないといいんだけど」

そんな俺の気持ちなど露知らず、詩乃は消え入りそうな声で事実を言った。ぞっとしない話である。顔をヒクヒクと痙攣させながら、俺は話の方向を変えようと必死に足掻いた。

「俺のことより、お前はいいのかよ? 実際に遠藤達に絡まれてんだろ? やな話だけどさぁ、こんな事続くならガッコーに相談した方がいいぜ? なんなら俺がーー」

「ううん、いいんだ。何回か相談したけど先生も当てになんないし、これ以上エスカレートするなら警察に行くだけよ。・・・それに、もう道嵩君に迷惑はかけたくない」

遠慮している様で、はっきりと線を引く言葉だと思った。当然だろう。周囲があんな人間ばかりでは、誰でも疑い深くなる。ほぼ初対面の人間となれば尚更だ。

「......」

俺は一つ溜息をついて黙り込んだ。別にこれでお終いにしてもいっこうに構わないのだが、それはあまりにも勿体ない気がした。折角のチャンスなのだ。どうにかしてもっと話せないだろうか。

ふと、スーパーの裏に喫茶店があるのを思い出した。以前に友人とゲーセン帰りによった事があったっけ。

「......なぁ、なんか飲まないか?」

は? という風にこちらを凝視する詩乃を見て、切り出し方を間違えたと悟りつつも、すでに後戻りはできない。バリバリと癖のある髪の毛をかきつつ、俺は半ば自棄で言いきった。

「そんな青い顔されてたら心配になんだろ。なんか飲んでちょっと休め」

もはやゲーセンの事は頭から吹き飛んでいた。呆気にとられた詩乃の柔らかい右手をつかむ。彼女の体がビクリと震え、抗議めいた声が口からぼそぼそと零れた。

「あの......ちょっと 、手、放して......」

「い、いいから、今回は俺の奢りだって」

次回があるのかよ? と冷やかすもう一人の声を黙殺しつつ、半ば引っ張るようにして詩乃を喫茶店へ連れて行く。まったく、ここまで優雅からほど遠いお茶の誘い方もあるまい。

後悔と羞恥を飲み下し、道中せかせかと足だけを動かしながら、どうしてこうなった、と俺はひたすら自問していた。


 
 

 
後書き
部屋の掃除をしていたらゲジゲジが出てきた。泣きながらPボタン連打したけど当たらねぇ。

ゲジ「当たらなければ、どうと言うことはない!(キリッ)」

私「ゲジゲジTUEEEEEEEEEEE!(ガタガタガタ)}

私は今日も恐怖で眠れぬ夜を過ごします。 
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