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IS<インフィニット・ストラトス> ―偽りの空―

作者:★和泉★
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Development
  第二十七話 危機

「でさぁ、紫音って結局どういう子なの?」

 鈴はこの場にいない、しかし強力なライバルとなり得る存在について尋ねる。未だ、彼女のことは名前と容姿しか知らないのだ。まず敵を知らねば戦えない。

「とても素晴らしい方ですわ!」
「お節介で気に入らない」

 鈴としては、一夏に対して聞いたつもりだったが何故か率先して答えるのはセシリアと箒だった。片や目を輝かせ、片やムスッとした表情で、真逆の反応だ。二人はお互いの言葉に思わず見合わせるが、すぐに視線を逸らしてしまう。

「いや、アンタらに聞いてないから……っていうかアンタ誰よ」

 ここでようやく、鈴はポニーテールの少女……箒のことを名前すら聞いてないことに思い至った。
 あまりな言いぐさに、さすがに箒もムッとしたようだが自分が名乗っていないことを思い出し渋々答える。

「……篠ノ之箒だ」
「あぁ、アンタが……確か剣術道場の娘だっけ? どうでもいいけど」

 しかし、やはり鈴の態度は雑なものだった。もっとも箒の態度が好ましいかというとそんなことないのだが。

「貴様! だいたい、幼なじみとはどういうことだ、聞いてないぞ!」
「アンタ転校したんでしょ? そのすぐ後にきたのがあたしって訳」

 鈴の言葉に、箒は再び一夏を睨む。
 目の前の少女たちがなぜこんなに険悪なのかを全く理解していない一夏は気圧されつつも答える。

「あ、あぁ。そうだよ」
「なるほど、つまりセカンド幼馴染という訳ですわね」

 そして、空気を読まないセシリアの発言が火に油を注ぐ。
 彼女はこのとき、決して悪気があった訳ではないのだが人の神経を逆なですることは無意識レベルなのだろうか。

「だれがセカンドよ!」
「……ふっ」

 その言葉に多少溜飲が下がったのか、箒が鼻で笑う。
 もはや、誰か一人が発言するたびにそれが火種となり収拾がつかない状態となっている。

「アンタ……笑ったわね、専用機もないくせに!」
「な、なんだと!」
「確かに、この中では箒さんだけ仲間外れですわね」

 加えて言うが、セシリアには悪気はない……はずである。

「あの女にボロ負けしたお前に言われる筋合いはない!」
「なっ!? お姉さまを侮辱するのですか!」

 一夏は既に言葉を挟む余裕もなく、茫然としている。だがさすがにここで、箒も剣で負けてたとは言わないくらいには場の空気は読めているらしい。しかし、頭の中では一刻も早くこの場から逃げたい思いでいっぱいだ。

「あぁ、代表候補生でもない紫音に負けたんでしょ? やっぱりあたしに勝てる訳ないじゃん」
「あなたとお姉さまを一緒にしないでください! いいですわ、そこまで仰るならクラス対抗戦で決着をつけてさしあげます!」

 セシリアも丸くなったとはいえ、スイッチが変わっただけで生来の気質は変わっていないようだ。既に顔は真っ赤になっており、再三にわたる鈴の挑発についにのってしまう。

「ふふん、構わないわよ。あたしと専用機『甲龍(シェンロン)』の力、見せてあげるわ」
「こちらこそ、わたくしと『ブルー・ティアーズ』がお姉さまの強さを証明してみせます!」

 セシリアの熱意がどこかずれている気がするが、それでも代表候補生、それも専用機持ち同士である。それは言い換えれば国の威信すらもかけたものである。その意識がお互いにあるかどうかはわからないが……いや、今のセシリアを見ればあまり無いのかもしれない。とはいえ、この組み合わせはクラス対抗戦の目玉になるだろう……本来なら。

「いや、クラス対抗戦は専用機禁止になったじゃん」
「は?」
「え?」

 しかし、それは一夏の一言で覆る。

「鈴はともかく……この前SHRで千冬姉が言ってただろ? なんでセシリアも箒も今聞いたみたいな顔してるんだよ……」

 実は、それが告げられたのはクラス代表を決める模擬戦の翌日である。二人ともその模擬戦で思うところがあり、考え事や妄想に花を咲かせてしまい聞いていなかったのだ。当然ながらその日は何度か出席簿の洗礼を受けることになったのだが。

「な、なんでよ!?」

 だが納得いかないのは鈴である。いきなりルールが変わるなどと言われて納得できるはずもない。

「あ~……これは後で千冬姉に聞いた話なんだけどさ。ほら、丁度話に出た西園寺さんいるだろ? あの人が去年にクラス対抗戦でやりすぎたみたいで……」

 言うまでもなく、サラをはじめとした当時のクラス代表を全て同時に相手取り瞬殺した事件である。当時ルール変更を余儀なくさせたこともだが、わずか一年で再び変更せざるを得ない状況に追い込むあたり紫苑も大概である。

「は? なんで紫音が去年の対抗戦にいるのよ」
「ん? あの人事情があって留年してるらしいよ」
「あぁ……そうなの」

 このとき、鈴は『しまったなぁ』と内心で感じていた。鈴が会ったときはリボンの色で判断したため、同い年だと勝手に思って馴れ馴れしくしてしまったのだ。まぁ、留年などというレアケースを意識しろというほうが無理な話ではあるのだが。
 もっとも鈴はあまりそういったことは気にしないのだが、さすがに初対面の年上にタメ口で呼び捨ては気が引けた。同じ悩みで一夏がしばらく悶々としているのは鈴は知る由もない。
 ともあれ、もう一度話してみようと決めて鈴はこのことについては考えることはやめた。

「で、やりすぎたって何したのよ?」
「なんか、他のクラス代表全員と同時に戦ってあっという間に倒したらしい」
「……は? え、な、なんでそもそもそういう状況に?」
「去年も俺らと同じようにクラス代表を決めるために西園寺さんと今の会長が戦ったらしいんだ。その戦いが凄すぎて他のクラスからクレームがあったらしいよ。実際は西園寺さんは会長には負けたらしいけど互角の戦いだったって」
「そ、そう……」

 次から次へと出てくる情報に、鈴の中での紫音という少女のイメージがよくわからないものになっていた。現会長がロシア代表だというのは、他国に興味がない鈴でもさすがに知っていた。それと互角に戦うというのだから相当なものだ。
 自分は勝てるのか……という不安と先ほどセシリアを挑発するダシに使ってしまったことに若干の罪悪感を覚える。別に鈴は紫音に対して悪いイメージは持っていないのだ。

「ようやく理解したようですわね」
「……だからってアンタが強いかとは別問題でしょ?」
「ぐっ」

 もはや誰と誰が争っているのかよくわからない状況ではあるが、この場ではセシリアと鈴が代表戦で決闘紛いのことをするということが決まるにとどまった。
 しかし箒は度々囚われる無力感をこの場にでも感じるに至り、自身の力量に対する劣等感や専用機への羨望を強めてしまう。  
 一方の一夏は、ようやくこの状況が解放されることに安堵して彼女らの心の機微までは察することができず、そのことが後々さらに混沌とした状況に彼を追いやることになる。



 昼休みの出来事が頭から離れず、モヤモヤとした時間を過ごし授業に身が入らなかった鈴だが、さすがに出席簿による制裁をするような教師がそうそういる訳ではなく無事一日を終了した。
 本当ならば、彼女も一夏ともっと話したいのだがクラスが違うこととセシリアと決闘するということがすぐに話題になってしまい彼のクラスに近寄りにくくなってしまっていた。
 また、一夏の幼馴染ということも一部の女子生徒からみれば面白くないようで視線が厳しい。しかし、少数ではあるが一夏と彼らの周りにいる女生徒との修羅場を期待するような目で見るものもいたりするから手に負えない。紫苑とは違う意味で彼女も浮いた存在となってしまった。

 放課後、この日は初日ということもあり学園内をブラブラして過ごし夕飯に行こうというところで見知った後姿を見つける。その目立つ髪色は背後からでも間違えようがない。

「あ、紫音……さん」

 もう一度話をしようと思っていた矢先の偶然、逃す理由はないと思わず声をかけるも昼間聞いたことを思い出し敬称を言い加える。

「はい?」

 朝と同様に、こちらに振り返る。いちいちこういった仕草が魅力的に見えるのが鈴からすれば不思議だ。

「あぁ、鈴さん。こんにちは」

 鈴の姿を確認して表情が柔らかくなったものの、しかしすぐに曇ってしまった。

「その様子だと……私のことはもう誰かに聞いたみたいですね」
「あ……その」

 鈴もその様子を見て、自分の態度が失敗だったと悟る。恐らく留年したことが原因で周囲から浮いてしまっているだろうことは想像に難くない。朝何も言わなかったのは、鈴が忌憚なく話しかけてくれたことが紫音は嬉しかったのだ、と。

「えっと、うん。一夏達から。さすがに呼び捨てにするのは気が引けるから直させてもらうけど口調はこのままにするわ。だからさ、その……紫音さんもその丁寧すぎる口調はどうにかしたほうがいいわよ。今の二年生以上に対してならともかく、一年には。厳しいこと言うようだけど、いくら紫音さんが気にしないようにって言っても年上な事実は変わらない訳だし、だったらそれらしい付き合い方ってあるでしょ? それと、私にさん付けは禁止!」

 一気に捲し立てる鈴に紫苑は茫然としてしまった。まさか、会って間もない彼女にそこまで言われるとは思っていなかったのだ。しかし、彼女のように先入観がなかったからこそ気付けたことだろう。
 紫苑は今まで、年上であることを気にしないで同級生として一年生達に接してもらいたいと思っていた。しかしそれは一部の例外を除いて土台無理な話なのだ。鈴の言うように年上という事実は変わらない、ならばそれに合わせた付き合い方をしなければならない。
 言わば、今まで紫苑は年上でも気にしないでください、と器の大きいようなことを言いつつその実はコミュニケーションの取っ掛かりを相手に丸投げしていたに過ぎない。本来であれば、紫苑が彼女らに合わせて歩み寄るべきなのだろう。

「えっと、鈴ちゃん……でいいかしら?」

 遅る遅る、といった様子で話しかける紫苑。口調もある程度砕けた形になっている。とはいえ、紫苑の場合は紫音というある種架空の人物を演じているわけで、そこからさらに口調を使い分けるというのは難しい。今まで素の状態以外ではほとんど話し方も変わらなかったのにはそういった理由もあった。
 それを無理に変えようとすればボロがでるかもしれない、それでもやってみようと思えるくらいの心境の変化を鈴は齎したようだ。

「う~ん、ちょっとこそばゆいけど、まぁいっか。改めて、よろしく紫音さん」
「えぇ、よろしく、鈴ちゃん」

 それは本来であれば当たり前の光景、しかし紫苑……いや、紫音にとっては新たな一歩といえた。






 
 はぁ、つくづく自分自身が嫌になるな……。まさか鈴さんにあそこまで言われるまで気付かないなんて。確かに、僕はいろいろ言い訳して受け身になっていたのかもしれない。
 それはもしかしたら、箒さんや簪さんに対しても……すぐには難しいかもしれないけど頑張ってみよう。

「あ、せっかくだから食堂で少し話さない? 聞きたいことがあるんだけど」
「えぇ、いいわよ」

 まだ全然慣れない、砕けた感じの嬢様口調で僕は答える。
 最初はただ元気な子だな、という印象しかなかったけれど良く見ているものだと思う。それにこの本音さんと似ているようでタイプの違う人懐っこさみたいなものも彼女の魅力なのだろう。

 僕らはそのまま食堂に向かい、まだ夕食には早い時間ということもあってそれぞれ飲み物だけを買ってテーブルにつく。時間が時間だけに周りに人は少ない。

「そういえば、よく部屋が空いてたわね? 寮の空き部屋が無いって聞いていたのだけれど」

 僕は疑問に思っていたことを聞いてみる。そもそも、織斑君と箒さんが同部屋になったのはいろいろな思惑があるにしろ空き部屋がないというのが大義名分だったはず。なのに、あとから転入してきた鈴さんが普通に入寮できるとはどういうことだろうか。

「あぁ、あたしの場合は本来入学予定だった人の枠を無理やり奪ったから。そもそも、最初はあたしに入学要請が来てたんだけど断ってたの。で、他の子に決まったんだけど気が変わったから強引に、ね。遅れたのは手続きやらに時間がかかったから」

 なんとも無茶をする子だ……。国家を個人の我儘で振り回すあたり、彼女はよほどキーパーソンなんだろう。彼女に会った段階では気付かなかったけど、彼女は中国の代表候補生で専用機持ちらしいし。

「なるほど、でも何故急に入学する気に?」
「……えっと、言わなきゃだめ?」

 先ほどまで話していた暴虐ぶりとは裏腹に急にしおらしくなった。
 何故かちょっとからかいたくなってしまう。

「なるほど、織斑君に会いにきたのね」
「なんで知ってるのよ!?」
「……冗談のつもりだったのだけれど」
「あ~……うぅ」

 いや、さすがにそこまでは本当に知らなかったし恨めし気な目で見られても……。
 でも、織斑君が目当て? 確かに各国各企業が織斑君のデータ目当てに生徒を送り込んでる節もあるけど、まさか彼女も?
 そこまで考えて僕はその考えを打ち消す。確かに、中国としてはそういう意図はあったかもしれないけど、彼女がそんなことで来ているとは思えなかったし思いたくなかった。
 だって、目の前で明らかにバツが悪そうに真っ赤になってるし。

「はぁ……幼馴染なのよ」

 ようやく観念したのか、ポツリポツリと事情を話しだす鈴さん。
 中学時代の織斑君の話をしている時などは本当に嬉しそうにしており、その感情がただの幼馴染で収まらないことが伝わってくる。

「……この際だから聞いちゃうけど紫音さんは一夏のことどう思ってるの?」

 恐る恐るといった様子で聞いてくる鈴さん。何をそんなに警戒しているのかいまいちわからず、僕はそのまま思っていたことを答えてしまった。

「いろいろ気になってるわね。できれば一度ゆっくりお話しして仲良くなりたいんだけれど」
「そ、そう」

 あれ? なんか気落ちしてるけどどうしたんだろう……あ!

「あ、あの鈴ちゃん」
「いいわ! 例え紫音さんが一夏に惚れたとして関係ないわよ。どんな結果になってもあたし達は友達だからね!」

 あぁ……やっぱり勘違いしてるよ!? っていうか僕も迂闊だった、そうだよね、僕は紫音なんだから男子と仲良くなりたいなんて言ったらそうとられてもおかしくないよね……。

「あの、違う……」
「おやおやおや~? なにやら面白そうな話をしてるじゃないの」

 せめて誤解は解こうとしたところで、この場に絶対居合わせてほしくない人がそこにはいた。

「か、薫子さん!?」

 そう、薫子さんだ。楯無さんもそうだけど、彼女らのような人種は確実に場をかき乱すんだよ……。
 というより、何故彼女がここにいるんだろう。

「そう不思議そうな顔しなさんなって。転校生、それも代表候補生の専用機持ちなんて子がいたらそりゃ取材するでしょ。それに、なにやら1組のオルコットさんと決闘騒ぎになってるみたいだしね」

 それもそうか、確か僕達も同じような感じで突撃取材されたなぁ。ちょっと前の学内新聞では織斑君やオルコットさんが取材されていた。その時にクラスのみんなと一緒に撮ったらしい写真を見て彼女がクラスである程度うまくやっているようなのがわかった。
 ……なのに何で決闘なんてことになってるのさ。

「決闘……ですか?」
「あぁ、そういえば紫音さんはお姉さまなんて呼ばれてるのよね。悪いけど、クラス対抗戦ではあの子には勝たせてもらうわよ」
「えぇ、別にそれは構わないけど……鈴ちゃんまでお姉さまなんて呼ばないでね?」
「あたしが勝つのは構わないんだ……って別にあたしはそんな風に呼ばないわよ」

 って、なんだか話が逸れた気がする……何か大事なことを忘れてるような。

「で、記事の見出しは『転校生とお姉さま、熾烈な三角関係!?』でいこうと思ってるんだけど」

 そうだった!? なんだかんだで弁解すらさせてもらえていない状況だった……。

「だから薫子さん? 私はそんなつもりじゃなかったんですよ?」
「え~、だって織斑先生公認なんじゃないの? 随分買われてたみたいだし」
「え!? あの千冬さんに?」

 あぁ……やっぱりこの人は。なんでいらないことを言って誤解を強めるようなことをするんだ……。
 鈴さんがちょっと驚いたあとなんだかジト目になって僕を見ている。

「やっぱり紫音さんとは一度腹を割って話さないとダメそうね。そうだ、この後お風呂一緒にいきましょう、大浴場の場所がわからないからまた案内してほしいのよ」

 ……え?

「お、それはいいわね。私も付き合おうかな。あ、遅くなったけど私は2年の黛薫子、新聞部よ。あとでちょっとインタビュー付き合ってね」
「あ、はい。凰鈴音……です」

 なにやら二人は自己紹介をしているけどそれどころじゃない。さっきのが聞き間違いでなければちょっとピンチなんじゃ……。

「さて、積もる話はお風呂でしよっか」
「そうですね。んじゃ紫音さん、行こうか……ってどこ行くのよ!」
「あっ」

 こっそり二人が話している最中に抜け出そうとしたら見つかってしまった。
 いや、だってね! 一緒にお風呂なんて入れるわけないじゃないか! そんなことになった暁にはもう完全に弁解のしようもなく100%変質者だよ! いや、今さらとか言わない、そこ! って誰に言ってるんだ僕は……。

「ちょ、ちょっと鈴ちゃん? 何でいきなりISの部分展開までして私を捕まえるのかしら?」
「いや、なんか逃げようとしてるの見るとつい。っていうかなんで逃げるのよ、しかも部分展開して捕まえたはずなのに何で生身で抜け出してるのよ」

 あれなのか、猫が鼠を追いかけるような習性に近いのか。それなら僕は鼠か……はは、確かに追い詰められた鼠の気分だ。鈴さんがなにやら目を輝かせてにじり寄ってくるよ……。

「あ、あの。私はお風呂は……」
「あれ? そういえば紫音が大浴場使ってるの見たことないわね」

 ちょっと! 何でまた余計なことを……。

「ふ~ん……なになに、何か隠してるの? あたしのことは洗いざらい聞いといて」
「いえ、別に隠し事なんて……」

 言えるわけないじゃないか……本当は男でしたなんて。

「おや、もしや特ダネの予感? なになに? そういえば更衣室で着替えてるとこを見たことがないって以前あなたのクラスだった子に聞いたことがあったわね。それに水着も季節が来る前に休学しちゃったし……そうなると紫音さんの肌を見た人っていないのよね……せいぜいISスーツぐらいか」

 あぁ、もう逃がすつもりはないみたいだ。ここで下手なことを言えば怪しいし変な疑いをかけられそうだし……どうすれば。

『1年4組の西園寺さん、1年4組の西園寺さん、至急生徒会室まで来てください。繰り返します……』

 この声は楯無さん? 助かった! さっきは場をかき乱す人種なんて酷いこと言ってごめんなさい!

「あ、呼び出しがかかったようなので行かないと……鈴ちゃん、ごめんなさい。また今度、ね。薫子さんも申し訳ありませんが今日のところは失礼しますね。それから織斑君のことは誤解ですからね!」
「あ、ちょっと紫音さん!」

 僕はそのままその場を抜け出す。さすがに呼び出しの効果があってか無理に止めるようなことはしなかったが、鈴さんの呼ぶ声は聞こえてきた。ごめん、鈴さん。また今度ゆっくり話そう、誤解も解かないといけないし。

 命拾いした僕は未だ収まらない心臓の鼓動を落ちかせつつ生徒会室へと向かう……途中で楯無さんに捕獲されて部屋に連れ込まれた。生徒会室にいるんじゃなかったの!?

「た、楯無さん。生徒会室で何かあるんじゃ?」
「いや、別に何もないわよ? なんだか食堂でヤバそうな雰囲気だったから呼び出しかけただけよ」
「……はぁ~、助かった。本当にありがとう……」

 タイミングが良すぎると思ったけどそういうことだったのか……。あれ? でもなんでわかったんだろ? あの場にはいなかったと思うんだけど……さすがにいたら目立つ人だから見逃すはずはないし。

「なんでって顔してるわね。生徒会長権限で学校のあらゆる監視カメラは生徒会室から音声付で見れるのよ。どこにスパイや亡国機業が紛れ込んでるかわからないしね。まぁ、いつも見てるわけじゃなくて今日は転校生なんてのがいたからたまたま、ね。ちなみに呼び出しも生徒会室からできるわよ」
「そうだったんだ……」

 楯無さんのやってることにいちいち突っ込んでたらキリがないけど、今回ばかりは本当に助かった。あのままだったら逃げ出せたとしてもかなり不自然な形になっていた。
 だからといって解決したかというとそんなことはなく、ただの先送りに過ぎないのだけれど。

「それにしても、まずいわね」
「やっぱりそう思う?」

 そう、これが鈴さんだけとのやり取りだったら別に問題はなかった。なんとでもやりようはあったのだけれど、よりにもよって……。

「薫子ちゃんに変な興味を持たれたのはまずかったわね、さすがに無茶なことはしないだろうけどどんな記事書かれるかわからないわよ」
「そう……だよねぇ」

 今までがうまくいき過ぎていた。遅かれ早かれ、こういう事態にはなっていたのかもしれない。
 逆に、ここを上手く乗り切ればやりやすくなる。一度疑われたものを払拭できれば二度目はそうは疑われないはずだから……でも納得させるにはどうすればいいだろうか。

 楯無さんとも対策を練りながら、僕は一晩中頭を悩ませることになった。
 薫子さんのことだ、早ければ明日にでも動き始めるだろうから。



 そして翌日、その悪い予感は的中することになった。


 
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