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鳥になった少年の唄

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第一章


第一章

                   鳥になった少年の唄
 窓の外を眺めていた。ぼんやりと。
 ガラスの向こうには鳥がいた。白い小さな鳥がそこに止まっていた。
 さっきまでの雨に濡れてその白い羽根を濡らしてそこにいる。小さな声でさえずっている。
 僕はその小鳥を見ながら時間を過ごしている。白いレースのカーテンのあるその部屋で。
 部屋の中で一人座ってその窓を見たまま。僕は部屋の中にいる。暖かい筈の部屋なのに。ストーブのおかげで暖かい筈の部屋なのに。
 何故か気持ちを寒いものにさせて。今この部屋の中にいる。
 小鳥は僕には気付かずにまだそこに止まっている。紫になってきている空に飛び立つこともなく窓の側にある小枝を時々眺めたりしているだけだ。
 そんな小鳥の視線を見て僕もその小枝を見る。けれど視線は何時の間にか空に移っていた。
 僕は心を小鳥に移した。僕が小鳥だったら。
 空を飛べるのに。そう思っていた。すると。
 僕は何時の間にか窓の外にいて。隣にはあの白い小鳥がいた。そして小鳥に声をかけていた。ごく自然に。
「君はどうして飛ばないの?」
「どうしてって?」
 小鳥は首を傾げながら僕の言葉に応えてきた。
「どうしてって。寂しいから」
「寂しいって?」
「空は寂しいんだよ」
 彼は言う。
「僕だけが飛んでいて。だからね」
「今は飛ばないの」
「うん」
 こう僕に答えるのだった。小鳥になった僕に。
「欲しいものは皆僕のものになったし」
「欲しいものって?」
「小さな写真のかけら」
 まずはそれだった。
「それに赤い木の実。誰かがなくした金のボタン」
「それで全部なの」
「もう。ここにあるから」
 今いる窓の下に目をやるとそこにそういったものが全部あった。彼は全部ここに持って来ていてそのうえでここにいるのだった。
「だからね。飛ばないんだ」
「飛ばないの」
「僕は。ここにいたいんだ」
 顔を下に向けて僕に答えてくれた。
「これでね。もうね」
「そうなの」
「君はどうするの?」
 小鳥は今度は僕に尋ねてきた。
「君は。どうするの?」
「僕は」
 小鳥の言葉に応えてふと見たのは上だった。今は青い空に。
「行こうかな。あの子もいるから」
「あの子って?」
「友達がいたんだ」
 こう小鳥に答えた。
「友達がね。とてもいい友達が」
「友達が」
「今は。もういないけれど」
 この前いなくなった。車にはねられて。それで永遠に僕の前からいなくなって。今はお空にいるんだってお母さんが僕に教えてくれた。
「いたんだ」
「それで今はお空にいるんだ」
「行こうかな」
 僕はさらに思った。
「そのお空に」
「行くんだ」
「ずっとね。一緒だったんだ」
 僕は俯いて。あの子を思い出しながら小鳥に話した。
「大切な友達だったんだ」
「そこまで大切だったんだ」
「君も。友達はいるよね」
 今度は僕が尋ねた。
「やっぱり。いるよね」
「いたよ」
 小鳥は僕の問いにこう返してきた。
「いたよ。一人ね」
「そう。一人ね」
「ずっと離れ離れだったけれどやっと見つけたんだ」
「やっとって?」
「さっき大切なものは全部手に入れたって話したよね」
 小鳥は話を戻してきた。僕の目をじっと見ながら。
 
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