| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ギザギザハートの子守唄

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第七章


第七章

「聞いてやる。これでいいだろ」
「ああ」
「で、何なんだよ」
「俺達に用ってよ」
「カルコークだがな」
 あの店だ。当然あの娘とも全然会ってねえ。それどころか店の近くにすら寄らなかった。あの親父さんに会ったらそれこそ洒落にならなかったからだ。
「行ってみたか」
「おい、あんた遂にぼけたのかよ」
「俺達があそこに行けるわけねえだろうが」
 俺達はすぐに反論した。反論しながらこいつ何馬鹿なこと言ってやがるんだって思った。思うとそれこそ言葉が止まらない、そんな感じだった。
「何を言うかって思えばよ」
「そんな馬鹿なことかよ」
「俺が馬鹿なこと言うか」
 けれど鬼熊は俺達にこう言葉を返してきた。その大きな身体をさらに反らせて。
「いいか、今からカルコークに行け」
「俺達全員でかよ」
「そうだな、全員がいいな」
「全員っておい」
「本気かよ」
「本気っていうか正気か、おい」
 俺達は思わず好き勝手に鬼熊に対して問い返した。
「何で俺達がカルコークなんだよ」
「特に俺だよ」
 俺は自分から名乗り出た。やっぱり思わずだった。
「何かあったか知ってるよな」
「っていうかあんたが知らない筈ないだろ」
「そうだそうだ」
 俺達はまた口々に言った。言葉が止まらない感じになっていた。
「こいつの退学止めたんだからな」
「そのあんたがどうしてそんなこと言うんだよ」
「話はいい」
 しかし鬼熊は。あくまでこう言ってきた。随分頑固な感じだった。
「とにかく行ってみろ。いいな」
「行って何があっても知らねえぞ」
「あの親父さん、いるんだぜ」
 そう、あの親父さんがいる。あの時俺を気絶するまでとことん殴ってくれたあの親父さんが。きっちりと店にいて頑張ってくれている。このことははっきりとわかっていた。
「どうなるやら」
「まあ向こうは一人だな」
 こうも言い出す奴が出て来た。
「こっちは六人だ」
「やるか」
 また別の奴が言った。
「いざって時はな」
「ああ、その時はやってやろうぜ」
「御前の仇だな」
 俺にも声をかけてきた。弟を含めて五人の目が俺に集中した。
「やってやろうぜ」
「容赦はいらないな」
「そんなことは後で言え」
 また鬼熊が俺達に声をかけてきた。何か絶妙のタイミングだった。
「後でな。好きなだけな」
「まずは行けってことかよ」
「そうだ」
 はっきりと答えてきた。
「カルコークに行ってから言え。いいな」
「・・・・・・言っとくけどマジでどうなっても知らねえぞ」
 リーダー格が真剣に鬼熊に言った。俺達のまとめ役だ。
「あそこに俺達が行ったら」
「あの親父さんだからな」
「散弾銃でも出るんじゃないのか?」
 この言葉は半分本気の響きだった。とにかく娘のことになったら人が変わる親父さんだ。だから銃を持ち出す位のことは考えられた。
「そうなったら本当にやばいな」
「死人出るかもな」
「死人が出る筈がない」
 また鬼熊の断言だった。どうしてこうまで自信たっぷりなのか。俺達はこの時は全くわからなかった。頭がおかしいんじゃねえのかと短い時間の間に数え切れない位思った。
「絶対にな」
「刃傷沙汰か?」
「そりゃ同じじゃねえのか?」
「そうか。まあ殴り合いには普通になるだろうな」
「そうだろうな」
 俺達はこの位は覚悟していた。けれどまた鬼熊は。相変わらずの感じで俺達に言ってきた。今思うとこいつは本当に何もかもわかっていた。
「とにかく行け」
「何度言ってもそれかよ」
「そうだ、これだ」
 向こうも開き直った感じになってきた。
「何度でも言うからな」
「へえへえ、わかりましたよ」
「行けばいいんだろ、行けば」
 俺達ももう観念して。悪びれた感じで応えてやった。
「カルコークによ」
「じゃあ行くか」
「鉄パイプ用意しとくか」
「あと鎖とかだな」
「俺警棒持ってるぜ」
 だが自然に。喧嘩への備えになっていた。派手な喧嘩になるとやっぱり武器だった。俺はよく鉄パイプで喧嘩をした。これが一番俺に合ってた。
「じゃあそれと鉄パイプ何本かか」
「ストックも用意しとくか」
「ああ、念の為にな」
「御前等最後の最後まで物騒だな」
 俺達の話を聞きながら。鬼熊の言葉が呆れたものに変わっていた。
「平和には行けないのか」
「相手が相手だよ」
「だからだよ」
 話が少し元に戻った感じになっていた。
「とにかく行くからよ」
「あんたもどうだい?」
「俺もか」
 声をかけられた鬼熊は。こいつには珍しいキョトンとした顔になっていた。
「俺も行くのか」
「俺達が喧嘩したらあれだろ?だったらよ」
「教師引率の方がいいだろ」
「御前等今卒業したのにか」
 鬼熊はここで俺達に卒業のことを告げた。
「それで俺にも行けって言うのか」
「ああ、そうか。卒業だよ」
「俺達卒業したんだよ」
「そうだ、そうだ」
「今さっきのこと位覚えておけ」
 また鬼熊の呆れた声が俺達にかけられた。
「全く。馬鹿だな、御前等は」
「馬鹿で結構。とにかくだよ」
 俺が鬼熊に声をかけた。
「あんた、行くのか?行かないのか?」
「俺か」
「そうだよ。どっちなんだよ」
 卒業なんか関係なかった。とにかくそれを聞いた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧