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REVOLUTION 2007

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第三章


第三章

「牛肉だって昔はこんなに食べられなかったのよ」
「そうだったんだ」
「そうよ。輸入肉なんてなくてよ」
「ああ、アメリカとかオーストラリアとかから輸入しているあれだね」
「そう、あれよ。ああいうものがなかったのよ」
 こう僕に話してくる。話には聞いていたけれど実感があるかっていうとない。僕が生まれた時にはもう輸入肉がスーパーに一杯あったからだ。
「オリーブだってね」
「オリーブも?」
「あれもなかったのよ。オリーブオイルだってね」
「なかったんだ」
「あっても高かったのよ。とてもね」
「何か全然信じられないんだけれど」
 僕は話を聞いていてとても信じられなかった。思わず首を傾げさせてしまった。何かデジャヴューなんてものを感じる。感じずにはいられなかった。
「オリーブオイルもないって」
「パスタには絶対に入れるわよね」
「というか大蒜と一緒で付きものなんじゃ」
「昔はパスタにはオリーブも大蒜も殆ど入れなかったのよ」
「それも信じられないし」
 僕はまた腕を組んで考える顔になった。パスタは大好きだけれどそれは本当にオリーブと大蒜がないと考えられないものだ。その二つがあってだった。
「ううん、それを考えたら」
「変わったでしょ」
「変わったんだね」
「それによ。あんたもお父さんも下着ボクサーパンツよね」
「うん」
 実はそれが好きだったりする。何かはいていると格好いい感じがする。この下着ははくともう他の下着ははけない位いいものだ。
「お父さん昔はずっとトランクスだったのよ」
「それも変わったんだ」
「ブリーフは嫌でしょ」
「何か変態みたいでね」
 一回ネットでホモ漫画を観た。そこで男二人が白ブリーフでそういうことをしてもう生理的に受け付けなくなった。もっともそれよりずっと前にブリーフなんてはかなくなった。中学生になったら何故か皆ブリーフはださいと言ってトランクスになった。それで今はボクサーパンツだ。
「絶対に嫌だよ」
「そういうことよ。けれど昔はあれが格好いいって思われてたのよ」
「本当に!?」
「ゴルゴ13だってそうじゃない」
 あの世界を股にかけるスナイパーの漫画の主人公だ。僕が生まれるずっと前から連載している。果たして何時終わるのかが気になっていたりする。
「あの人ブリーフよ」
「あの身体でブリーフだと変態じゃないの?」
「そうかもね。変態かもね」
「それは否定しないんだ」
「滅茶苦茶変な人だから」
 そのままでも確かに変態に見える。あのキャラクターは完全に変態だ。
「それはね」
「それにしても。昔はそうだったんだ」
「街だって変わったのよ。二十年前と比べてね」
「二十年前と?」
「そうよ。携帯電話もインターネットもなかったしテレビだって昔のはもっと厚いものだったのよ」
「それも違うんだ」
 話を聞いていてかなり不思議だった。全然違うのがわかる。
 そしてだ。お袋はさらに言ってきた。
「皆気付いていなくても変わっていくものなのよ」
「気付いていなくてもなんだ」
「そういうものよ。あんたが生きている間にもどんどん変わるわよ」
「実感ないけれど」
 僕は腕を組んで考える顔になっていた。
「それって」
「けれど変わるものよ。注意して見ていればわかったりするわよ」
「本当かな」
 僕はそのことがかなり信じられなかった。けれどだった。
 次の日に学校に行くとだ。ツレの一人が自分の携帯を見せていた。そのうえで明るい顔で皆に対して言っているのが見えた。
「この携帯凄いだろ」
「ああ、新型かよ」
「新型買ったんだな」
「これ凄いぜ。もうこれまでのとは全然性能が違うんだよ」
 こう皆に話していた。自分の席に座りながら。
「無料ですぐにネットにつなぎ放題でフルカラーでしかも使用料金かなり安いしな。しかも他の機能だってな」
「へえ、そんなにか」
「そんなにいいのかよ」
「ああ、携帯のこれからはこれが主流だろうな」100
 こう皆に話していた。
「絶対にな」
「そうなるのか」
「これからは」
「ああ、とにかく凄いんだからな」
 こんな話をしているのを聞いた。それを聞いて昨日のお袋の言葉を思い出していた。
「変わっていってるのかな、世の中も」
 そう思っているとだった。女の子達の話も聞こえてきた。何か新しいアイドルの話をしている。
「これからのファッションってこの子みたいな感じよね」
「そうそう、可愛いわよね」
「奇麗にしてね」
「もうこんな感じでね」
 何か昔はルーズソックスをはいていた娘もいた。今は黒いハイソックスだ。
 その他の娘を見てもだ。何か格好がちょっと前とは違っていたりする。よく見てみるとそうしたところが結構変わっていってるのに気付いた。
「こういうことなんだな」
 ここでやっと僕もわかった。
「世の中って。静かに革命っていうのが続いているんだな」
 フランス革命とかロシア革命とかじゃなくてだ。世の中は徐々にだけれど常に変わっていっていることに今やっと気付いたのだった。
「そういうことなんだ」
 昨日のお袋の話を思い出しながらだった。僕も机に座って新しいボールペンを出した。それはこれまでのよりもずっと使いやすくてインクの色もよかった。二〇〇七年、今じゃもう昔の話だ。あの時の携帯もボールペンも今じゃ旧型であのアイドルのファッションも変わった。お袋のメニューはまた新しい食材が入った。


REVOLUTION 2007   完


                  2010・5・10
 
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