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夏の一夜

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夏の一夜

ある、暇な夏休みの一日。8月に入ったばかりの猛暑の季節。


「……暑。」

ジリジリと照らされる太陽の下、スーパーの袋を持ちながら帰路につく。当然ながら徒歩。

袋の中身は食料と飲み物。特売品が多いのは学生故。


金はない。時間はある。そんな珍しくもない学生の姿がそこにはあった。



アパートに戻り、食材を冷蔵庫に入れる。それから冷えた麦茶を飲む。いつもの日課だ。
そしていつものように携帯をいじり、飽きたらテレビをつける。いつも通りの日常。

だがここで日常と少し離れる。寝てしまったのだ。
夏の気温は予想外に体力を奪ったのか。それはわからないが布団にも入らず床で寝そべって寝てしまった。





「あれ……?」

数時間して起きると、外は真っ暗だった。夏とはいえ少し肌寒くも感じる。

自分が寝てしまったことを理解し、ここからの時間のつぶし方を模索したが、みつからない。
眠気も息をひそめ、本格的に暇になった。


「酒でも買おうかな。」

そう思い立ち財布と携帯を持ち、アパートを出た。行先は近くのコンビニ。日常と軽く離れたためか、少し気分が良かった。


コンビニとアパートの間くらいの場所の寂れた神社のにたどり着く、普段なら目にもつかないのに。

その時、どうせ暇つぶしだという気持ちで何故か神社に入る。適当に賽銭でも入れてやろうと、普段なら出さない気持ちが芽生えたためだ。

そうして賽銭箱を見ると、先客が居たようだ。後姿からは見えないが、手を合わせているのだろう。

暗い中でよく見えないが、セーラー服を着ているようで女子高生か女子中学生だということくらいはわかった。
お祈りが終わったようでこちらを向くと目線が合う……が動こうとしない。

少し混乱してるようにも見える。

「ねえ、どうしたの??」

「す、すみません!」

僕が声をかけると、何故か焦ったような様子で賽銭箱の前を譲った。

僕は適当に五円玉を放り込み、何も考えず手を合わせた。
数秒で止め、後ろを向くとまだその子はこちらを凝視していた。よく見ればとてもきれいな顔立ちをしていた。

意味も分からずその子に会釈して、横を通りすぎようとした。

「あ……あの!」

その子に声をかけられ、足をとめる。

「どうしたの?」

少し考えるような仕草のあと、こちらをしっかりと見てきた。
「一晩だけ、私と遊んでくれませんか?」



??

言った意味が理解できず、戸惑っていると「あ……変な意味じゃないです!」と付け足してきた。



「……家出か何か??」と尋ねると少し間をあけて「今夜の最後に話します……じゃダメですか??」と返事をしてきた。

正直僕も興味があった。変な意味であろうとなかろうとこれだけ可愛い子と一晩一緒に遊べるのは楽しそうだ……と感じた。

「いいよ。」

そういうととても嬉しそうな顔でお礼を言ってくれる。

「何か、したいこととか食べたいものとかある?」
と尋ねる。この子が何をしたいのか、全然わからなかったためだ。


少し間をあけてから

「……お寿司が食べたいです。ダメですか?」






その後、時間を確認すると時間は夜1時だった。寿司屋は当然空いてないためコンビニで良いかと聞くと嬉しそうに了承してくれた。

それとお金が全くないことを申し訳なさそうに話していたが、僕がおごることにした。
ここで会うのも何かの縁だし、いくら金がない学生といっても数百円をケチるほどギリギリでもない。


そのあと、さっき酒を買いに行こうとしたコンビニに着く。二人で店内に入ると、人は殆どおらず、立ち読みしているおっさんと気が抜けている店員だけだ。

二人で食べものを見回し、寿司と唐揚げ、それと缶チューハイを数本買った。彼女も飲めるらしいので彼女の分も含めてだ。

会計の時に箸を頼み、千円ちょいの値段を払って店を出る。

そのあとは適当な公園かどこかで食べようと思い、彼女にも聞いてみたところ

「さっきの神社なんてどうです?」

と色気も何もない場所が返ってきたが、そこ以外にいい場所がなさそうなのも事実なのでそこにした。



「じゃあ、食べようか……あれ??」

袋を開けて確認すると、箸が一膳しか入っていない。やる気のない店員を思い出し、すこしイラッときたが、今から戻るのも面倒だ。

彼女が遠慮しそうな雰囲気だったので、先にこちらが言う。

「はい、使っていいよ。」

「え?でも……」

「良いから良いから。」

そういって無理やり箸を押し付け、僕はチューハイのタブをあけて喉に流し込む。強めの炭酸とブドウの香りが心地よかった。

彼女も渋々だったが箸を持ち、お寿司を口に運ぶ。笑顔になりながら頬張っていく姿はとても微笑ましかった。
そのあと、唐揚げとお寿司を二人で食べ終わる。途中警察が来て、不審者と勘違いされかけたが、早く帰れと文句を言われただけで終わった。

そうして最後の2本のチューハイを手にもち、二人同時にあける。

彼女はピーチで俺はレモンだ。


飲みながら、ずっと気になってたことを聞く。

「ねえ?最初の質問の答え、聞いていいかな?」

そう聞くと彼女は少し寂しそうに答えた。

「……新林奈津美。」

少し考えた後、「君の名前かい?」と聞くと戸惑った後、頷いた。

「今日が終わった後、調べてくれたらきっとわかります。だから今だけは楽しみましょう。」

そう笑顔で答えて、この話は終わった。




そのあとはチューハイを飲み終わり、いろんなことを話した。彼女が聞き役で、僕が話役だ。

とても聞き役がうまく余計なことまで喋ってしまったが、文句ひとつなく聞いてくれた。




空が薄い青を帯びるとき、彼女のほうから切り出してきた。



「今日はありがとうございました。そろそろ、お開きにしましょう。」

「こちらこそ。とても楽しかったよ。」

残念な気持ちと満足感。二つが溶け合い、絶妙な感覚だった。











そのあと彼女と別れ、家に帰りそのままベットに入る。起きたのは昼頃だった。
シャワーを浴びてご飯を食べる。日常に舞い戻ったようだ。

ふと……彼女の名前を思い出した。

PCを立ち上げ、名前を打ち込む。検索にかけた一番上のニュース欄。




『殺人事件犯人、ついに逮捕。被害者、新林奈津美を殺した動機は?』




数分間頭がフリーズ。その後混乱した。


少し落ち着き、ゆっくりと震える指で調べると事件発生はこの夏の7月末。場所は神社だそうだ。






不思議と恐怖ではなく、悲しみが溢れた。彼女を見ることはもうないのだろう。直感的にわかった。

彼女の笑顔が頭に焼き付いていた。
 
 

 
後書き
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