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戦場のメリー=クリスマス

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第一章

              戦場のメリー=クリスマス
 戦争は終わらない、それは欧州に上陸してもだった。
 終わる気配はなかった、それでイタリアで戦う彼等は苦々しげに言うのだった。
「もうすぐクリスマスだな」
「ああ、そうだよ」
「もう少ししたらだよ」
 ヘンリー=オズバーン上等兵にだ、マイケル=ジョーンズ上等兵とリチャード=リック上等兵が答える。彼等は今は基地の警備にあたりながら話すのだった。 
 前線ではないが戦争の中にいるのは確かだ、それで彼等は話すのだった。
「戦争の中でクリスマスか」
「まあ俺達は前線勤務じゃないけれどな」
「補給基地の警護だからな」
「このイタリアでな」
 シチリアからナポリに上陸したのだ、その彼等の前にドイツ軍はイタリア半島の地形を利用した防衛ラインを敷き迎撃にあたっていた、イタリアでの戦いも激しくなりそうだった。
 それでだ、オズバーンはジョーンズとリックに言うのだった。
「まあな、本当に俺達はな」
「前線じゃなくてラッキーか」
「そう言うんだな」
「まだな、けれどな」
「けれど?」
「けれどって何だよ」
「戦争は何が起こるかわらないからな」
 だからだというのだ。
「早く終わって欲しいな」
「ドイツが降伏してか」
「それでか」
「グスタフラインだか何だか知らないけれどな」
 ドイツ軍のその防衛ラインの名前も出る。
「さっさと突破してな」
「アルプスも越えてか」
「それでか」
「そうだよ、一気にドイツ本土までいってな」
 そうしてだというのだ。
「戦争なんて終わっちまえばいいのにな」
「そうしたら合衆国が勝ってか」
「後は祝勝会だな」
「ヤンキースの制覇の時より派手な、な」
「祝賀パレードだな」
「そうだよ、戦争はさっさと勝たないとな」
 それで犠牲も出来るだけ少なくというのだ。
「そうしないとな」
「まあそうだな」
「それはその通りだな」
 ジョーンズとリックもオズバーンの言葉に頷いて言う。
「戦争なんてものはな」
「さっさと終わらせないとな」
「それで後はパレードだよ」
「パーティーもしてな」
「俺達は英雄になるんだよ」
 合衆国の正義の為にファシストと戦ったそれになるというのだ、アメリカを絶対の正義としたうえでの考えである。
「それで俺はテキサスでカウボーイに戻るんだよ」
「俺はフィラデルフィアで自動車屋だな」
「俺はシアトルで喫茶店にだよ」
 それぞれの本来の仕事に戻るというのだ。
「そうなりたいな、戦争が終わって」
「そうだよな」
「ああ、それで結婚してガキや孫に自慢するんだよ」
 そこから先のこともだ、オズバーンは明るく話す。
「俺達は正義の為に戦ったってな」
「祖父さん達がインディアンとの戦いについて話したみたいにか」
「今度は俺達がだな」
「ああ、そうなる為にな」
 是非にというのだ。
「さっさと終わって欲しいぜ」
「だよな、本当に」
「戦争はな」
 彼等にとっては戦争は勝つことが前提だった、そのうえで正義の戦士として凱旋することが夢だった。そうしてだった。 
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