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第二章


第二章

「それは」
「言えないのかよ」
「何かね。そこまでは」
「そうか。言いたくないのならいいさ」
「それでいいの」
「言いたくない奴に無理に言わせたりはしないさ」
 そういうことはしないというのである。
「別にな」
「有り難う」
「御礼なんていいさ。それよりもな」
「それよりも?」
「踊るか」
 この店じゃダンスもできる。それで誘った。
「今からな」
「それは」
「それもいいのかよ」
「ええ」
 何かつれない感じだった。
「それもね」
「そうなのかよ。それもかよ」
「御免なさい」
「だからそれもいいさ」
 謝るのもいいって返してやった。
「それじゃあな」
「飲むのね」
「それしかないだろ。今日は何がいいんだ?」
「テキーラよ」
 それだという。前と同じだった。
「それじゃあね」
「テキーラサンライズだな」
「それを飲んでるから」
「好きだな、それ」
「前の人が好きだったのよ」
 そしてだ。こんなことを言ってきた。
「それでね」
「前のかよ」
「夫がね。そうだったのよ」
 こうだ。自分から言ってきた。
「それでなのよ」
「旦那さんがか」
「前のね」
 別れたってことを。自分から言ってきた。
「それでなの」
「そうか。じゃあな」
「未練がましいって思うかしら」
「思うさ」
 素直に言ってやった。俺はそんな性格だ。
「それはな」
「そうなのね」
「いいさ」
 また言った俺だった。
「別にな」
「じゃあ今も」
「飲むか」
「それはね」
 無愛想な調子で答えてきた。
「いいわ」
「ああ、飲むか」
「そうしましょう。本当に飲みたい気持ちだから」
「それはいいけれどな。それでもな」
「それでも?」
「飲んでばかりだな」
 俺は実際にこう思いながら言った。思ったことをそのまま言った。
「あんたな」
「貴方もそうじゃないの?」
「このバーじゃそうだな」
 実際にそうだと答える俺だった。
「どうかって思うがいいか」
「そうでしょ。じゃあ」
「飲むさ」
 こうしてこの日も飲んだ俺達だった。そして次に会った時もだ。俺はまた誘った。
 
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