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IS<インフィニット・ストラトス> ―偽りの空―

作者:★和泉★
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Introduction
  第四話 欠陥機

「……『月読(ツクヨミ)』です」

 僕は、自身の専用機の名前を薫子さんに伝えた。

 紫音(・・)専用IS、月読。

 僕自身でも未だ謎の多いISだ。というのも、開発段階から僕もSTCに招聘されてたまに手伝わされていたことはあるのだけど、実質的に開発を行っていたのは紫音ともう一人、主任を任されていた開発スタッフだ。
 しかし紫音は病気になり、主任も同じタイミングでデータを一切を残さずに行方知れずとなる。
 月読はまるでISコアのように、至るところがブラックボックス化しており、開発の中心だったこの二人以外にはまるで手が出せない代物になっていた。

 束さんの許可を得て、なおかつ彼女との関係は秘匿しながら僕の知識でアドバイスをしたことはある。
 僕としてはそんなつもりは無かったけど父に頼まれると弱かった。最も父も僕と束さんの関係を知らないのでそこまでの助力は期待してなかったはずだけど。
 ともかく、それを紫音が独自の理論でくみ上げて開発を行った結果、IS開発者の束さんですら首を傾げる代物が出来上がってしまった。それが月読だ。

『う~ん? なんでこれで動くんだろう。仮に一般レベルの人間が起動に成功したとしても現行の量産機に劣る性能しか発揮できないよ。しーちゃんは……だめみたいだからもともとの操縦者解剖してみたいなぁ』

 などと、僕が送ったデータを見た束さんは言っていた。当然だけど後半部分は聞かなかったことにした。
 何が言いたいかというと、本来これは動くはずのない欠陥機らしい。しかも動いたとしても既存の量産機以下の性能しか発揮できない出来損ない、というより操縦者への負担が大きすぎて本来の性能が出せない、といったところか。

 現在、世界各国は『第三世代』と呼ばれる新型のISの開発に躍起になっている。
 既にイギリスや中国などは開発に成功しているらしい。楯無さんの『ミステリアス・レイディ』もそうだ。……まぁ、束さんは既に『第四世代』の開発すらできるらしいけど。

 このIS学園に配備されている二種の訓練機、『打鉄(うちがね)』は日本の、『ラファール・リヴァイヴ』はフランスの、いずれも第二世代型量産機だ。
 つまり、月読は通常運用した場合この第二世代にも遅れを取るということになる。

 いや、この表現は正確ではないか。既存のISのコンセプトとは全く異なる理論でくみ上げられた、別世代(アナザージェネレーション)型のISだ。
 だから、世代の違いという物差しでは測れないのかもしれない。

「ふ~ん、なんか凄そうだけど実際はそうでもない……のかな? いや、でも試験の結果としては更識さんと合わせてトップなわけだし……んん?」

 もちろん、すべてを説明したわけではない。調整が非常に難しいピーキーな機体で、現行の世代とは違ったコンセプトで作られたプロトタイプ機で、いろいろと欠陥がある。こんなニュアンスの説明だ。自社開発の機体を自分達で解析できないなんて身内の恥をわざわざ暴露するのも気が引けるし。まぁ、STCや西園寺の名に別に思い入れがある訳ではないから気にしないといえばしないんだけどね。

 どちらにしろ、薫子さんは僕の説明ではしっくりきてないみたいだ。……まぁ、仕方ないか。

「簡単に言えば乗り手を選ぶということでしょうか。他の方が操縦しても量産機並みの動きも難しいですけど、私にはそれらよりも動かしやすく感じるのです」

 本当のところ、僕は月読以外は動かせないんだけどそれは秘密なのでこう言っておく。

「なるほどね~、つまり西園寺さんが動かせば専用機を持つ他のお二人ともいい勝負ができると期待してもいいってことね!」
「そうですね、勝つにせよ負けるにせよ専用機を持つ以上は恥ずかしい戦いにならないよう最善を尽くします」

 インタビューといえるものはここで終了し、そのあとは僕ら三人に薫子さんは交えての雑談になった。
 ……むしろここから彼女の本領発揮といったところだったが。
 気づけばこの短時間でお互い名前で呼び合うようになり、楯無さんに至ってはよっぽど気が合ったのか『たっちゃん』と呼ばれていた。この相手の懐に入り込む才能は素直に凄いと思う。

 

 放課後になり、束さんから貰った専用端末を手に僕は整備室へと向かった。当然、自身のISの調整のためだ。
 薫子さんには話さなかったが、月読には大きな欠点がある。それはこのISが紫音専用機として最適化(フィッティング)されていることだ。その月読を本来であれば完全に初期化(フォーマット)せずに僕がまともに動かすことなどできるはずが無い。
 
 でも、どういう訳か起動してしまった。
 これは僕の仮説だけど、僕と紫音は本来ありえない一卵性でありながら性別が異なる双子だ。でも一卵性だからおおよその遺伝子情報などは一致しているため、月読が僕を紫音として誤認識(・・・)してしまったのではないだろうか。ここに、僕が男でありながら月読を起動してしまった理由もある気がする。でも、その男女の差異という致命的な遺伝子の差異が矛盾を生み出している。
 なんでこんなことを考えたかと言うと、初めて月読(IS)を起動してしまったとき束さんに連絡したら

『なんでしーちゃんがIS動かせるのかな? ちょっとお姉さんに解剖されてみない? え、嫌なの? じゃぁじゃぁ、丁度いいから体の隅々まで調べさせて~』

 なんて言われたから必死に仮説を立てて説明して、事なきを得た。あの時は電話越しだったのに本気で身の危険を感じた。そもそも何が丁度いいのかわからない。彼女が納得したかは微妙だけど、咄嗟に考えたにしては当たらずとも遠からずだと思う。

 まぁ、結果として月読は再び初期化と最適化を試みて失敗した。
 つまり、今の月読は完全な一次移行(ファーストシフト)にまで至っていない。
 ISは自己進化が設定されていて、全ての経験を蓄積し『形態移行(フォームシフト)』を行っていき、通常は初期化と最適化が終わればそのまま第一形態(ファーストフォーム)に移行する。
 でも途中でそれが失敗、中断したことでそれ以上の作業を月読は止めてしまった。

 初期化すらも中途半端に行われたせいで、ただでさえブラックボックス化していた月読の内部データはより混沌としたものになっている。考えても見てほしい。知恵の輪を強引に曲げてしまい、正しい解き方がわからなくなってしまった状況を。

 そんな訳で月読はちょっと厄介な状態になってしまっている。
 武装も本来は三つあるようだけど、データが中途半端に更新されてしまい名前もわからずそのうち二つは展開もできない。唯一展開できたのが『■ ■ ■ 剣』のみ。これも正式名称はデータ欠損で読み取れない。名目上、『無銘剣(ネームレス)』と呼んでいるこの武装は文字通りの近接武器。どちらかというと日本刀に近いものだ。でも本来の性能に至っていないのか現状では何の変哲もないただの刀、といったところだ。

 つまり今のままだと僕はこのネームレスだけで戦うことになる。
 それを回避するための調整作業だ。一週間では厳しいかもしれないけどこの剣の性能を取り戻すか、残り二つのうちどちらかを解析し、展開可能にする。ベストは最適化完了だけどそれは難しいかな。
 最も、仮にそうなったとしても月読の機能で唯一無事だった特殊な加速技術があればそれなりには戦えるのだけど、できれば使いたくない……体の負担が大きいから。



 翌日、さらに騒ぎは加速していた……原因は言わずもがな。薫子さんへ話したことが早くも学園中に広がっていたのだ。一部ではトトカルチョまで行われているとか。ちなみに本命は当然楯無さんらしい。

「白銀の姫君の人気も凄いことになってるわよ」
「その呼び方はやめてください……」

 楯無さんには昨日薫子さんに聞いた呼び名で度々からかわれるようになってしまった。
 そりゃ楯無さんはいいよね、学園最強なんてそのままなんだから。僕は姫君どころかそもそも女ですらないから! いや、白銀の王子だったらいいのかって言われてもそれもいやだけどね。

「でもなんかいいッスね、二つ名みたいなの。ウチもなんか二つ名かあだ名みたいなの欲しいッス」

 フォルテさんは完全に他人事だ。というより昨日スルーされたのを根に持っているんじゃないだろうか。

「あら、なら私がつけてあげましょうか。う~ん、アフォルテ?」
「なんなんスかそのアホのフォルテみたいな呼び方は!? 虐めッスか、虐めッスよね!?」

 うん、いくらなんでも酷いと思う。いやでもなんかしっくり来る……笑っちゃだめだ……く。

「ほら、紫音も友人に対するあんまりな仕打ちに怒りで震えて……って何笑ってるんスか! ウチらの友情はそんな程度だったんスね!」
「ご、ごめんなさい……二人のやりとりを見てたら面白くて……」

 フォルテさんが小さい体で両腕を思いっきりあげて主張する姿は見ていて微笑ましい。
 ……それにしてもフォルテさん小さいな、150cmあるんだろうか。

「ああ、もう可愛いわね! もうISの名前と合わせて『冷酷幼女』でいいじゃない!」

 矛先を僕に向けていたフォルテさんを後ろから楯無さんが捕獲する。
 そのまま自分の方を向かせて思いっきり抱きしめてしまった。 

「あぶっ!な、なにを……って、幼……て、く……る……」

 フォルテさんの顔が楯無さんの胸に埋まっている。あれ大丈夫なのだろうか。

「…………」

 あれ?ぐったりしてる、ってフォルテさん!?

「ちょ、ちょっと楯無さん。フォルテさんが!」
「あら」

 今気づいたという素振りで楯無さんはフォルテさんを解放する。

「し、死ぬかと思ったッス……」
「ふふ、大げさね」
「いやいや、三途の川が見えたッスよ! それに冷酷幼女ってなんスか! 冷酷はまだしも幼女って人の身体的特徴を……」

 イタリア人も死ぬ時は三途の川を渡るのだろうか、それとも死ぬ場所が問題なのかな。

「何言ってるのフォルテちゃん、幼児体型はステータスよ!」

 二人を見ながらどうでもいいことを考えていると急に薫子さんが乱入してきた。

「か、薫子さん? どうして一組に……」
「ふふふ、何やらフォルテちゃんの二つ名を募集中というところで来たのだけど……いいじゃない、冷酷幼女
! いただきだわ」

 薫子さんの目が獲物を見つけたスナイパーのようになっている。いや、スナイパーを見たことは無いんだけど。

「フォルテちゃん。あなたにはその可愛らしい容姿(幼児体型)がいかに得難いステータスなのか、じっくり教えてあげる必要がありそうね!」
「ちょ、ちょっと薫子、どこ触ってるッスか! って、あれ、ウチどこに連れて行かれるんスか! 紫音も楯無も見てないでたす……」

 無情にも教室の扉は閉められ、フォルテさんは薫子さんに抱えられどこかへ連行されてしまった。

「……ちょっとからかい過ぎたかしら。それに何かよくないものを引き寄せてしまったみたいね」
「……そうですね、楯無さんはちょっと自重したほうがいいと思います。
「ぜ、善処するわ」

 しばらくしてフォルテさんは頬を少し赤く染めながら涙目になって戻ってきた。
 その姿を見て僕は思わずキュンとしてしまう……って違うよ! 別にそういう趣味じゃなくて、きっと母性的な何かが! いや、男が母性に目覚めたらまずいでしょ、ならこの胸のときめきはなんだったんだ……って別に仮にフォルテさんにときめいても同い年なら問題ないのか……ううむ。

 悶々と謎の葛藤に眠ることができず、翌日危うく遅刻するところだった。
 ちなみにそれ以降同じようなときめきは起こっていない。……ホントだよ!?  
 
  

 そしてあっという間に時間は過ぎ、代表決定戦の日がやってきた。
 最初の数日があまりにも慌ただしく、このままやっていけるのか不安にもなった。でもそれが逆に良かったのか、ちょっとやそっとじゃ動じなくなった。楯無さんの行動にも慣れてきたし、フォルテさんを見てると不思議と癒されるし、薫子さんのあしらい方も分かってきた。……未だに周りからの視線には慣れないけど。
 それでも幸い、僕が男であることがバレるようなこともなく過ごせている。

 初めて校舎内のトイレを使ったときは心が折れそうになったけどね……ふ……ふふ……。最初の数日のうちは校舎内のトイレは使わず、朝早い時間に寮で済ませたり誰もいないタイミングで施設のトイレを使ってたけど……、限界があるよね……。
 こればっかりは慣れない、いや慣れたらいろいろ終わってしまう気がする……男として、人として。出来る限り今まで通り人のいないトイレを使おう、僕の男としてのアイデンティティを守るためにも。

「おはよ。ふふ、今日は手加減しないわよ」

 朝っぱらから自己嫌悪のループに陥っている僕をしり目に、楯無さんはご機嫌だった。
 薄々感じていたが、彼女は僕らとの模擬戦をかなり楽しみにしていたようだ。まぁ、もともと模擬戦で決めたらどうかというのは彼女からの提案だったのだから当然といえば当然だけど。 

「私も……全力でいきます」

 正直、彼女に勝つのはかなり難しいが手がない訳ではない……まぁ、肝心の調整はことごとく失敗したけど。でもただ負けるのは性に合わない。この学園に入って認識したけど僕はことISに関しては負けず嫌いなようだ。束さんの近くにいた影響かもしれない。今まで勝負事に執着したことなんてなかったのに。

 その日の教室はやや浮ついた空気に満ちていた。いや、教室だけではない。学園全体が何かに期待するような雰囲気に包まれていた。言うまでもなく今日行われる模擬戦のせいだろう。一学年の他のクラスが気にするのは分かる。対抗戦に出場する選手の力量が前もって見ることができるのだから。でも上級生までもが同様なのはちょっと異常だった。
 まぁ、勉強熱心な人や代表候補生、企業所属の人間などは専用機同士の模擬戦でデータを取りたいと思う人もいると思うけどこの空気はそればっかりではない。もともとこの学園はお祭り騒ぎが好きなのかもしれない。……認めたくないけど僕や楯無さんは特に目立ってるようだし。

 それはこのアリーナの異様さから窺える。
 単なる一年生同士の模擬戦なのに、観覧席は満員だった。しかも試合の模様は学園中に備え付けられたモニターに流されるらしい。本来はクラスメート以外は観戦禁止にする予定だったのだけど、あまりにも観戦希望者が多かったことから学園側より提案があり、渋々公開を了承した。……楯無さんはもともとそのつもりだったようだけど。

「うわ~超満員、みんなも暇ッスね~」

 そんなアリーナの熱気もどこ吹く風。フォルテさんはのんびりと言い放った。
 かくいう僕もどこか他人事で、別に緊張などはしていなかった。この模擬戦は結局僕らのものであり、周りがどれだけ盛り上がろうと関係ない。月読のデータを採られたとしても他の人間にどうこうできるものではない、というのもあるし。

「ま、みんなこういうイベントに飢えていたのよ。こういう娯楽を提供するのも未来の生徒会長の務めよね」

 楯無さんも僕らと違う理由だろうが落ち着いている。いつの間にか『満員御礼』と書かれた扇子を広げている。彼女の扇子については未だに謎だ。

「よし、更識、西園寺、サファイア、準備はいいか。まずは組み合わせと戦う順番を決める」

 千冬さんに呼ばれて3人は順に順番決めのための番号札を引き

 1. 更識楯無 VS フォルテ・サファイア
 2. フォルテ・サファイア VS 西園寺紫音
 3. 西園寺紫音 VS 更識楯無

 以上のように決定した。
 ちなみに公平を期すため対戦者でない一人は模擬戦は観戦できないので、一戦目は控室で二人の勝負が終わるのを待つことになる。
 
 椅子に座って目をつぶると一瞬、体が震えたことを自覚する。
 緊張……しているわけではない。これが武者震いというものなのだろう、と自分に納得させる。
 ISを動かせるということを知ってから入学までの2ヶ月強の間、濃密な訓練を行ってきた。総稼働時間がそのまま実力に比例する言われるくらい、実際に動かすことは重要だ。代表候補生や、ましてや楯無さんのような代表レベルだとその稼働時間は僕の比ではない。
 
 そして致命的なのは模擬戦を含め、IS同士の実戦経験が僕にはほとんどない。唯一あるといえば試験で山田先生相手のときだろうか。しかし彼女も元代表候補生だったとはいえ、試験用に制限された機体だったためあまり参考にはならない。
 
 そもそも一企業のテストパイロットの立場では機体もパイロットもそうそう用意できない。IS学園入学が決まったあとこの問題に頭を悩ませていたら、束さんがISとリンクさせて使用するシミュレーション用の端末とソフトを作って送ってくれた。ヘッドギアタイプの端末を装着し、自身のISに接続することで事前に入力したデータをもとに戦闘シミュレーションを行うことができる。
 もちろん所詮はシミュレーションだけど結構よくできていて、視界はもちろんハイパーセンサーなどもデータに合わせて敵や攻撃がそこにあると"誤認"させることで実際に戦闘している状態を再現する。攻撃を受けた場合、その部位のシールドエネルギーに無理矢理干渉し、衝撃を引き起こす。もちろん威力に合わせてエネルギーも減少する。

 つまり、データさえあれば一人で世界中の最新鋭機に乗った国家代表とも戦える。
 ……これってよく考えなくてもけっこうキケンな代物なんだよね。
 いや、何がキケンって……プリインストールで現時点で開発済みの機体データが未公開情報も合わせて網羅されちゃってることだよ! 何サラッと全世界の敵に簡単になっちゃうような国家機密データを一学生のところに送り込んでるのさ! これを持ってることがバレたらきっとスパイ容疑やらなんやら掛けられるのは間違いないな……。

 ちなみにシミュレーションの結果は全戦全敗ですけどね! 打鉄にすら負けましたよ? だって、搭乗者データが千冬さんしかインストールされてないんだもん! 
 手動で他の搭乗者データを入れようとしたら

『まずはちーちゃんを倒さないと変更できないよ、頑張って!』

 というありがたくないシステムメッセージに遮られて出来なかった。永遠に無理な気がする。

 ともかく、それを踏まえれば下手な候補生より戦闘経験は多いとも言えるけど生身の人間と相対するのは全く違う、気を引き締めよう。

『西園寺、第一戦が決着した。勝者は更識だ』

 シミュレーションでの地獄を思い出してちょっと鬱になりかけてたところに千冬さんから連絡が入る。どうやら楯無さんが勝ったようだ。どんな試合だったかは後で映像を見せてもらおう。

「わかりました、すぐに向かいます」

 先ほど抽選を行った場所に向かうと既に対戦を終えた二人も戻ってきていた。

「う~ん、悔しいけど全く適わなかったッス……」
「あら、けっこう頑張ったほうだと思うわよ? 私じゃなければもっと善戦できたでしょうし」
「あんたは相変わらずッスね! それにウチはこのまま連戦ッスか……」

 話の内容からいくと楯無さんの圧勝だったようだ。さすが国家代表クラス。
 うん、連戦はきつよね。僕も次は楯無さんだしそこは我慢して。

「一戦目のサファイアの武装の損傷などはほとんどない。このまま15分後に二戦目を行うから準備しておけ」
「了解しました」
「了解ッス」

 千冬さんの声に促され僕とフォルテさんはそのままそれぞれのピットに向かう。

「二人とも頑張ってね」

 楯無さんもそう声をかけ、僕がさっきまでいた控室に向かった。
 


 さて、IS学園のデビュー戦だ。やっぱりまだ目立ちたくないって気持ちはあるけどもうそんなことを言ってられる状況ではないし、彼女たちと付き合う以上無理な話だろう。
 なら自分が好きなようにやるのもいいのかもしれない。

「……はは」

 思わず笑い声が漏れてしまった。たった一週間で随分変わったものだと自分でも思う。
 束さんといる時以外は、僕は生きているとはいえなかった。ただ周りの環境に流されて紫音の手伝いをしたり、父のお願いを聞いたり、母の命令に従ったり。IS学園に入学したのだってそこに自分の意志は全くない。訓練も勉強も必要だからやっただけだ。
 でも、この模擬戦は違う。きっかけは確かに流されたようなものだけど今は違う。全力で戦いたいと思っている。嘘で塗り固められた僕だけど、たぶんこの瞬間だけは本当の自分に近づける気がするから。

『両者、出ろ』

 千冬さんから指示が届く。時間だ、行こう。

「西園寺紫音、『月読』……でます」

 この学園で出来た友人のもとへ……。
 

 
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