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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  百三十四話:男女別室の夜

「旅人の宿へようこそ!お泊まりですね?モンスター使いのご一行で、六名様ですか。生憎と、全員でお泊まりになれる大部屋はございませんで。二部屋に分かれてしまいますが、よろしいですか?」
「はい。勿論です」

 ルラフェンの町に着いて。

 すっかり暗くなっていたこともあるし、宿に直行して宿泊を申し込みます。

 ものすごい田舎というわけではないが、大都会という程でもないし。
 こんな事態も想定内で、何ら問題無い。

「二人と四人に分かれたいんですけど。ベッドの数は、一つと三つでも構いません」

 私とモモは、どうせ一緒に寝るからね!
 スラリンとコドランもじゃれ合いながら一緒に寝ちゃうことも多いし、体格的にも一緒で問題無いし。

 宿代は変わらないからわざわざ減らしてもらう程では無いが、設備の問題で少ないなら、それでも何も問題無い。

「二人部屋と四人部屋の用意はございますが。それでしたら、二人部屋はツインかダブルでご用意できますが」
「ダブルでお願いします!」

 宿のご主人のありがたいご提案に、即答します。

 広いベッドでゆったりとモモと添い寝できるなんて、なんてありがたい!
 絶対にそちらを選ぶ以外、あり得ません!!

「かしこまりました。それでは」
「おい、待て」

 手際よく手続きを進めてくれようとしたご主人の言葉を、ヘンリーが遮ります。

「なに?遅くなっちゃうし、早く部屋に入りたいんだけど」
「二人と四人って、どう分かれるつもりだ?」
「昨日も言ったでしょ?分かれるなら、男女別でしょ。当然、私とモモが二人部屋だよ」
「昨日も言ったが、やっぱり危ないだろ。俺もピエールもいなくて、二人だけとか」
「え、じゃあ三人ずつにする?ツインの二人部屋を二つでも、できないことは無いけど。どっちがこっちに来るかで、また揉めるんじゃないの?」
「……」

 私とモモが一つのベッドで、スラリンとコドランが一つのベッドを使えば。
 それぞれの部屋のもう一つのベッドをヘンリーかピエールが使う形で、三人ずつに分かれることもできなくは無いが。

 ラインハットでの経験上、どっちが私と同室になるかで、また揉めるのでは。

「揉めずに決まるなら、私は別にどっちでもいいけど」
「……」
「……」

 私の言葉に、ヘンリーとピエールがお互いを牽制し合うように、目で会話し始めます。

 よくわからない緊迫した空気が流れる中、沈黙を破ってモモが口を開きます。

『待って!あたしは、ドーラちゃんと二人がいい!ドーラちゃんのあのネグリジェ、また見たいもん!』
「……モモ殿!」
「モモは、私と二人がいいって。ネグリジェ着てるのが見たいって」
「……!」

 モモの言葉にピエールが衝撃を受けたように振り返り、訳した私の言葉にヘンリーも遅れて衝撃を受けたようにこちらを見ます。

「あ。でも、それなら。困るのはヘンリーだけだから、ピエールなら」
「おい!!待て!!」
「……御言葉ですが、ドーラ様。如何に他種族と云えども、(おのこ)の前であのようなあられもない姿となられるのは、やはり問題が」
「そう?ならやっぱり、二人部屋だね。私と、モモで」
「……おい、でも」
「……ドーラ様、しかし」

 渋る二人の言葉を遮るように、モモが盛大に喉を鳴らしながらじゃれついてきます。

『わーい!ドーラちゃんと二人でお泊まりだー!また可愛いドーラちゃんが見られるんだね!あたし、嬉しい!』

 受け止めて撫でながら、私も応じます。

「うん、今夜は二人っきりだよ!広いベッドで、ゆっくり休もうね!」
『うん!楽しみだね!』
「……」
「……」

 すっかり沈黙した二人を横目で確認しつつ、動じることもなく待っててくれたプロな宿のご主人に申し出ます。

「それじゃ、ご主人。最初の予定通り、ダブルの二人部屋と四人部屋で。六名の宿泊、お願いします!」
「かしこまりました」



 鍵を受け取り、それぞれの部屋に入って。
 荷物を下ろして身軽になって、ひとまず食堂に向かいます。

 廊下で待ってた仲間たちと合流すると、すかさずヘンリーに腰を抱かれます。

「……あのさ。この服装なら、そこまでしなくても大丈夫じゃない?」

 リボンを着けてるから男には見られないだろうとはいえ、男女どっち付かずな格好をしてるわけで。
 女物を着てる時ほどには、警戒する必要は無いんじゃないかと思うわけですが。

「駄目だ。危ない。俺とは別の部屋に入るのは見られてるだろうし、しっかり見せ付けておかないと、絶対に危ない」
「……」

 そうだろうか。
 そうだとしても、猛獣が寝てる部屋に夜這いをかけてくるような度胸の持ち主は、なかなかいないと思うけど。
 ナンパで町で声かけてくるくらいなら犯罪では無いからこっちも滅多なことはできないが、同意も無く宿の部屋に忍び込んで来るなら完全に犯罪で、正当防衛として攻撃されても文句は言えないわけだから。

 でもサンタローズの村以外では初めて、別々の部屋に分かれて泊まることになって、安全なあの村と違って警戒したくなるのはわからないでもないし。
 こんなに警戒させてるのも私のためというか私のせいなわけだし、逆らう程でもないか。

 納得したところで、私もヘンリーに寄り添うようにくっついて囁きます。

「わかった。でも、もう変な触り方はしないでね?」
「……嫌だったか?」
「……」

 それ自体が嫌だったとか、気持ち悪かったとかでは無いけど。

「…………人前でされるのは、嫌」

 人前じゃなければいいかどうかも、微妙なところではあるが。
 人前では嫌なことだけは、間違い無い。

「……わかった。人前では、もうしない」
「……なら、いい」

 微妙に耳が赤くなったような気がして顔を背けつつ、気が付かないフリで何事も無かったかのように食堂に向かい、夕食を取ります。
 ヘンリーも反省してくれたのか、周りに見せ付けるような態度を取りながらも妙な接触の仕方で動揺させるようなことは無く、無難に夕食を済ませて。


 他の宿泊客の女性たちが入浴を済ませていることを確認して、また仲間たちに付き添われてお風呂に向かいます。

 ポートセルミでは女性客が私たちだけだったので問題無かったけど、ここでは他にも女性客がいたのでね。
 モモも入るなら、最後にしてくれって言われてたんだよね。

 スラリン、コドランくらいなら、体格的にも体の構造的にも人間の客と同じ扱いで特に問題は無いらしいが、モモは体が大きいし毛皮もあるのでね。
 溢れてお湯が減るとか、湯船に毛が浮くとかで迷惑になる可能性は否めない。
 お湯はともかく、毛のほうはそんなヘマはしないけれども!
 普段からしっかり手入れしてるし、さらにしっかり洗ってから浸かるし!
 だけどこっちがそうしてても、周りがどう思うかは別の問題だからね!


 なんてことも思いつつ、入浴も済ませて。
 自分とモモの体の手入れを済ませて、部屋に戻ります。

 戻る道すがら、またしっかりと腰を抱きながらチラチラとこちらを気にするヘンリーが、呟きます。

「……やっぱり、それ。着てるのか」
「うん。だって、モモの希望だし。折角の機会だから」
「……絶対に、部屋の外ではガウンは脱ぐなよ。脱いだ状態で、扉は開けるな。着てても、俺たち以外には開けるな」
「わかってるよ。大丈夫だって、そんなに心配しなくても」

 どんだけうっかりだと思われてるんだ。

「いや。お前なら、やりかねない。そうは言ってても実際に他の誰かが来て、もっともらしいことを言われたら開けかねない。最悪襲われても、返り討ちに出来るとか言って」
「……」

 確かに、それはやりかねない。

 え、だって返り討ちだし。
 最悪の事態には、どう考えてもならないし。

「最悪、返り討ちに出来るとしても。見られたり触られたり、それくらいはあるかもしれないだろ。絶対に、開けるなよ。寝たふりでも居留守でも、何でも使え。しつこく大声で呼ぶようなことになれば、隣の部屋の俺たちがわかるから」
「……」

 大声で呼ばれるまで、放置するのも面倒だなあ。
 話すだけで追い返せる可能性だってあるだろうに。
 話した時点で部屋にいると確認できてしまうのは、まあそうだけれども。

「……未遂でも襲われたら、今度こそ抑えられないかもしれない。相手の、息の根を止めるまで」
「わかった。開けない。絶対に、開けないから」

 だから、殺人はやめてください。


 などという物騒な会話を交わしつつ、部屋に戻って。

『ドーラちゃん、早く早く!早くガウン、脱いで見せて!……うん、やっぱり可愛い!!こんなに可愛いのにヘンリーさんは見ようとしないなんて、信じられない!!ヘンリーさんが大丈夫なら、毎日だって見られるのに!!』
「うーん。見たくないわけじゃないみたいだし。色々あるんでしょ、ヘンリーにも」

 モモと雑談しつつ、昨日は色々あって後回しになっていたパパンの剣を、手入れのために取り出します。

『あ、パパさんの剣。お手入れするの?』
「うん。モモのお蔭で、少し手入れするだけで使えそうなくらいにキレイだけど。さすがに、このままだと無理だからね。ちゃんと手入れしておかないと」

 手入れ用の道具も取り出して、丁寧に剣の汚れを落とし、念入りに研ぎ始めます。

 パパンが戦った跡と、モモが苦労して運んでくれた跡と。
 それを落としてしまうようなのは少し気が引けるけど、例え私が使わないんだとしても、このままパパンに返すわけにはいかないんだから。
 意味の無い感傷に囚われて、立ち止まってる場合じゃない。

 モモも興味深げに覗き込みながらも、当然咎めるわけも無く、何ということもなく聞いてきます。

『これを使うなら、もうチェーンクロスは使わないの?』
「ううん。あっちのほうが便利な時もあるし。剣には慣れてないから、その時によって持ち換えて、使い分けると思う」
『そっか。そうだね。そんなに強くない敵がたくさんいるときは、いっぺんに倒せたほうがいいもんね。あたしとピエールさんとコドランくんは、一匹ずつしか攻撃できないし。ドーラちゃんはいつもは、あっちのほうがいいかもね』
「そうだね。慣れたいからしばらくは、できるだけこっちを中心に使おうとは思ってるけどね」

 話しながら剣を研ぎ終えて、油を塗って手入れを終えて。


 汚れた手にキレイキレイしたところで、お風呂から戻ってきたヘンリーが部屋の扉を叩きます。

「ドーラ。起きてるか?」
「うん。今、開ける」
『待って、ドーラちゃん!ガウン、着ないと!』
「あ。そっか」

 うっかり、うっかり。

 いやいや、だってヘンリーだし。
 うっかり開けちゃってもそんな大事には至らないと思うと、つい。

 モモの指摘を受けてしっかりとガウンを着込み、扉を開けてヘンリーを招き入れます。

「お待たせ。髪だよね?すぐ、乾かすね!」
「……おい、ドーラ。今」
「ほら、座って座って!遅くなっちゃうよ?明日も、早く起きるんでしょ?」
「……相手が、俺でも。他のヤツに見られる可能性はあるんだからな?」
「……」

 誤魔化せなかった。

「……モモが、気付いてくれたから良かったけど。気を付けろよ、本当に」
「……はい。すみませんでした」
「謝らなくていいが。気を付けてくれよ、本当に。本当に、心配だから」
「……うん、わかった」


 などといううっかりを披露しつつ反省もして、ヘンリーの髪を乾かして。

「はい、もういいよ」
「ありがとう。明日の朝も、呼びに来るからな。お前が起きる前に、ピエールが部屋の前で見張りに付くと思うから。何かあったら、呼べよ。一人で出るなよ。モモと一緒でも」
「……わかりました」
「なら、いい。それじゃ、おやすみ。ドーラ、モモも」
「うん、おやすみ。ヘンリー」
『おやすみなさい、ヘンリーさん!大丈夫、ドーラちゃんはあたしがよく見てるから!』
「……」

 守るから、が、見てるから、に変更されてしまった。
 これは、訳さないといけないんだろうか。

「ああ。頼むな、モモ」
『うん!任せて!』
「……」

 訳すまでもなく通じ合っていた。

 ……微妙に信用を失ったような気もしないでも無いが、まあいいや。
 それによって、扱いが変わるわけでも無さそうだし。

『ドーラちゃん!早く早く!ベッド広くて、フカフカで気持ちいいよ!早く、一緒に寝よう!』
「……うん。そうだね。寝ようか」

 ヘンリーを送り出して鍵をかけ、軽やかにベッドに飛び乗って待つモモに続き、ガウンを脱いでベッドに入ります。


 今日も色々あったが、明日は重要人物との対面があるからね!
 折角の広いベッドなんだし、寝不足で気を抜いて失礼な態度を取ってしまわないように!
 しっかりと、休んでおかないとね! 
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