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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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反董卓の章
  第15話 「えー!? やだやだ! 呂布と戦いたい!」

 
前書き
やっと虎牢関に移動……しました! 

 




  ―― 馬岱 side 虎牢関周辺 ――




「ほんとーにこっちでいいんだよね!? こんなところで迷子になるの、たんぽぽいやだからね!?」
「黙っていろ! えーと……あそこが確か」
「あの……どうぞ、これ地図です」
「お、すまぬ……おお、やはりそうだ。あそこの谷間の崖に沿って行けば、虎牢関の裏手奥に出る。まちがいない」
「あの崖を、か……我らはともかく、な」
「だ、大丈夫……です。たぶん……あう」
「なに、私の部下には小娘一人背負って崖を渡るなど造作も無い。出来るな、お前ら!」
「「「 おう! 」」」
「こ、怖いです……あうあう」
「……いや、私が背負いますから。たんぽぽは、馬を頼むぞ」
「えー!? たんぽぽ達、馬置いていけないよ!?」
「なれば引きずってでも崖の細道を通らせろ! ただし馬を落下させるなよ。虎牢関にバレるぞ」
「もー! あんたが仕切るなぁ!」




  ―― 孔明 side 汜水関周辺 ――




 雛里ちゃん……大丈夫かな。

「……というわけ。だから愛紗も鈴々もいいね」
「はぁ……しかし」
「うにゃ~……どうしてもか? どうしてもダメなのかぁ?」
「どうしても、絶対にダメ! これは本当に守ってくれ。じゃないと……破門にするぞ」
「にゃ!? そこまでなのか……うう、我慢するのだぁ」

 陣の再編成を行い、中曲へと移動した私達。
 日が天頂に掛かるかという刻限に、ようやく連合軍は虎牢関に向けて出立した。

 私の眼前で移動しながら話しているのは、愛紗ちゃんと鈴々ちゃん。
 その二人に対して、私の隣にいる盾二様は馬に乗りながら併走し、さっきからずっと説明している。

「しかし、主よ……それほどまでなのですかな? いくら天下の飛将軍とはいえ、雲長殿や翼徳殿、それに主までが三人がかりで懸からねば勝てぬほどに……」
「ああ……正直言って、それでも勝てるかどうか」
「……なんと」

 盾二様の反対側にいる馬正さんが、絶句したように呟いています。
 私も同感です。

 汜水関での最終的な死傷者・負傷者は約七千人。

 ですが、馬正さんの補給部隊三千のうち、二千人を組み込めました。
 警邏隊とはいえ、梁州の兵です。
 第三軍に編入させ、兵力は二万まで回復しました。

 残り一千は動けない負傷者の手当や梁州への護送につけています。

 それでも、盾二様は懸念があるご様子で……
 盾二様のあの無敵の服があれば、如何に飛将軍とはいえ、そうやすやすと負けるとは思えないのですが……

「何度も言うようだが、くれぐれも呂布とは一人で戦うなよ。遠巻きにして矢を浴びせかけたり、敵の兵を巻き込んで動きを封じるんだ。まさか味方をも巻き込んで攻撃はしない……と思う。将に限らず、隊長格は絶対に応対させるな」
「……あの。そこまででしたら盾二様のあの『力』を使えば……」
「朱里。俺はサイコバーストを使うつもりはないよ。諸侯に手の内を晒すようなもんだ。できうるなら……曹操か袁術軍に放り込んで置く間に虎牢関を攻め取りたいくらいだ」
「そ、そこまで……一個人をそこまで警戒するんですか?」

 呂布という人物の噂は確かにすごいものがあります。
 雛里ちゃんの細作からの報告によれば、まさしく一騎当千の豪傑。

 ですが、決して盾二様の相手ではないと思っていたのに。
 その盾二様自身が……

「……正直、会ったこともない相手だけどね。その武名だけは歴史上最高の武人とまで言われたほどだ。俺の力なんてたかが知れているからな。朧並か、それ以上かと思えば……うん、勝てる気が全くしない」
「お、お師匠様にそんなこと言われたら、鈴々たちはどうなるのだ!?」
「あ、いや……鈴々はすでに俺を超えているからね。ただ、それでも……正直、わからない。そしてこんなところで鈴々も、愛紗も失いたくはない。だから……絶対に一人で立ち向かわないでくれ」

 汜水関を問題ないと豪語し、その言動通りにたった一日で陥とした方。
 その神仙のような策略を生み出す盾二様を、ここまで恐れさせる呂奉先……

 私には呂布という人が、まるで泰山府君ではないかとまで思えてしまいます。

「ご主人様がそこまでおっしゃるのであれば、納得はできませぬが了承しました。我らはなるべく呂布本人と相対しないようにしましょう」
「頼む。まあ、前線は袁術軍と孫策軍がでるから……ああ、まずいな。雪蓮に言っとかないと、一騎討ちしかねないぞ」
「あのお姉ちゃんなら、絶対にやると思うのだ」
「……やるでしょうね」
「やりますな」

 盾二様の言葉に、鈴々ちゃんも愛紗さんも、そして馬正さんも同意する。
 私もそう思います……孫策さんならきっと、嬉々として立ち向かうんじゃないでしょうか?

「いくら雪蓮でもな……多分無理だろ。殺されるがオチ……うーむ。でも、それを直接言うと、逆に意地になりかねないな……」
「「「 なるかと 」」」
「絶対なるのだ」
「だよなぁ」

 盾二様が溜息を吐かれる。

「しょうがない。周喩さんにそれとなく伝えておくか。虎牢関に到着前には情報を渡しておきたいし……」
「そうですね……」

 汜水関から虎牢関までは、およそ二日という処。
 予定通りならば、馬岱――たんぽぽさんたちが先行しているはず……

「盾二様。雛里ちゃん達は大丈夫でしょうか……?」
「ん? まあ、大丈夫だろ。その為に星もいるんだからな」
「でも……」
「あのたんぽぽって子も、思った以上に出来ると思うぞ。まあ、不安要素があるとすれば……まああるが」
「盾二さまぁ……」

 雛里ちゃん……お願いだから、生きて帰ってきてね?

「馬正、例の場所は修復できているな?」
「はい、最優先に処理するように指示して出てきました。おそらく、今頃は滞り無く開通しているはずです」
「そうか。なら、きっとやってくれるさ……そう信じよう」
「は」

 まさか、あの場所がこんなことで必要になるなんて思いもしませんでした。
 そのせいで陽平関の着工が遅れているはずですが……

「それにしても早かった。後一年あればな……もっと色々仕込むことも出来たのに。戻ったら、すぐにも対処しないとな」

 盾二様はブツブツと呟いています。
 端々が聞こえたのですが……どうやら、そのお心ではすでに虎牢関を突破している算段のご様子。
 あれほど呂布を恐れておられるのに……

 私が盾二様を見つめていると、その視線に気づかれたのか、私を見て微笑んできました。

「心配するな……戦術面では、それほど問題にしていない。いざとなればサイコバーストでも何でも使うからな。だが……戦略面は一手も二手も先んじて打つ必要がある。そのことを考えていたんだ」
「盾二様……」
「……思った以上に世の中は早く動くぞ、朱里。帰ったらまた地獄が待っているだろう……無理をさせると思うが、付いてきてくれるか?」

 盾二様……そんなの、そんなの決まっています!

「はい!」

 私はこの人に()いてゆく。
 そう、決めたのだから。




  ―― 周喩 side ――




「たっのしみよね~! 呂布っていったけ? どんな相手なんだろ~?」

 ……ほんとにこの馬鹿王は。

「雪蓮……? まさか貴女、呂布と真正面から呼び出して一騎討ちするつもりじゃないでしょうね?」
「え? そりゃもちろんするわよ?」
「貴女ね……そんなのは匹夫の勇よ。呂布は袁術軍にでも押し付けるわ」
「えー!? やだやだ! 呂布と戦いたい!」

 思った通り。
 この戦闘狂の一族はどうしてこう……

「……私が許すと思って?」
「うっ。そ、そりゃ思ってないけど……でも、たまには暴れたいよぉ」
「だーめ。相手はあの飛将軍……万が一のことがあったらどうするのよ」
「でもでもぉ……ちょっとだけ。ダメ?」
「ダメに決まっている……ですな、祭殿」

 私は雪蓮の横で、腕を組んで馬に乗る宿将へと声をかける。
 呉の宿将、黄蓋公覆。
 その人は、ゆっくり目を開けて口を開いた。

「それについては、儂も公瑾の意見には賛成じゃな」
「むう……祭まで」
(ぎょく)は玉らしく、じゃよ。安心せい、呂布は儂が討ってみせようぞ」
「あー! 一人だけ呂布と戦う気!? やっぱりダメ! わたしも出たーい!」
「雪蓮! そして祭殿! どちらも戦わせはしません! 呂布は袁術に押し付ける! これは決定事項です!」

 まったく、この戦闘狂どもは……

「むう……わかったわよぅ。あーつまんない……」
「ちっ……致し方がないのう」

 はあ……まったく。

「いい? ここでなるべく袁術軍に打撃を与えておかねば、後の独立に支障がでるのよ?」
「わかってる、わかってるってば!」
「……祭殿?」
「……わかっておるわ。まったく……」
「(ぼそ)ねえ、祭。なんとか敵を引き出せないかな?」
「(ぼそ)ふむ、乱戦なればあるいは……」
「聞こえていますぞ、二人共!」

 はあ……疲れる。
 これは早急に次代の軍師や武将を育てねば。

 ちょうど蓮華様より報告と増援ということで、陸遜と甘寧の二人が来ている。
 早速にも副将として……

「報告致します!」

 私が思いふけっていると、一人の伝令兵が来る。

「なにか?」
「は。劉備軍の北郷殿がおいでになられております……お会いいたしますか?」
「え! 盾二が!? 呼んで呼んで!」
「しぇれんっ!」

 この戦馬鹿の色呆け王はぁ!

「あ……えと?」
「~~~~っ! 構わん、お連れしろ」

 どうせ後一日二日は移動なのだしな……

 伝令兵はすぐにも後方へと移動し、馬に乗った北郷を連れてきた。

「じゅ~んじ! えへへ~あ、そっちの馬に乗っていい? ていうか乗るわね?」
「ちょ!? 雪蓮!? 移動中の馬に乗るなんて危ないことは……はあ」
「……雪蓮。本当に貴女は……」

 自分の馬を放り出し、北郷の馬へと跳び乗る。
 そのあまりの早業に、北郷を含めて周辺の兵も唖然としていた。

「えへへ~どうしたの、盾二。わたしに会いに来てくれたの? やん、もう……言ってくれれば閨でもどこでも、すぐに飛んでいくのにぃ」
「しぇ~れ~ん~! 今が行軍中だと、何度言えばぁ……」
「落ち着け、公瑾よ……策殿の『コレ』は、もはや病気じゃ。一人で悶えるよりはよっぽどええわい」
「病気って……会わない間に何があったんですか?」
「……聞きたいか?」
「……いえ、やめておきます」

 ……はあ。

「と、とりあえず……雪蓮もそうだけど、実は公瑾さんに話があってきたんだ」
「……私に?」
「えー? もしかして浮気? 冥琳みたいな頭でっかちがいいの?」
「しぇ~れ~ん~~~~~~~~~~~~っ」
「……話が進まないから、少し静かにしてくれ。頼むから……」

 ……いかんいかん。
 どうにも最近、私も苛ついているようだ。
 月のものも不定期だし、体調が悪いせいなのか……?

「……ふう。で、話とは何だ?」
「あ、え~と……虎牢関なんだけどさ。城将の相手が相手だろ? そのへんどうかな~って……」
「……周りくどいな。なんだというのだ」
「えっと……雪蓮の手綱、とれそう?」
「ふぇ?」

 北郷の言葉に雪蓮がきょとんとする。
 手綱……ああ。

 あ~……………この男が何を心配しているのか、私には分かった。
 だがな、北郷……

 お前は一体どうしたいのだ?

「貴様も貴様で一体どういう……はあ。言うべきことではないかもしれんが、お前は甘すぎる」
「うっ…………」

 北郷が雪蓮に抱きつかれながら呻く。

 まあ、好かれているからこそ情が湧いたのだろうが……
 一応、敵対していないとはいえ、他の勢力だぞ?

 お前のそれは……それ、は……

「…………………………」
「? なぁに、冥琳。わたしの顔に何かついてる?」
「……主に、だらしない目と鼻と口がな」
「あ! ひっどーい! 冥琳、わたしが盾二にくっついているから妬いているんでしょうぉ? ふーんだ」
「………………はあ」

 この馬鹿王にして、家族を大事にする誇らしい王。
 北郷よ……気付いているのか?

 雪蓮がお前を好いている理由はおそらく……

「まるで『家族』じゃな」
「……!」
「お主もそう思ったのじゃろ、公瑾よ」
「祭殿……」

 ……………………

 そうか……私が北郷を恐れた理由。
 それは………………そういう理由か。

 くっ……くくく。

「? なによ、冥琳。何暗く笑っているのよ。気持ち悪い」
「っ! お前が言うな、色ボケ雪蓮!」
「あん、じゅんじぃ……め~りんがいじめる」
「いや、あの…………結構真面目に考えてきたんだけどな、俺」

 はあ……そうか。
 やっとわかった…………私がこの男を危険視しつつ、どこか憎めない理由が。

 今まではそれがわからず、それが逆に危険だと思わせていたのだが……なんてことはないのだ。

 なにせ……『同じ』なのだから。

「……すまんな、北郷。質問の答えだが……まかせろ。前にはださん。もし勝手をしたら、私は自分の命で贖おう」
「え? あ、いや……そういう意味じゃないんだけど。えっと……」
「……冥琳? どういうこと?」

 さすがに命まで差し出すともなれば、雪蓮の顔色が変わる。
 ふふ……ま、脅かすのも必要なのでな。

「北郷は、お前が呂布と一騎討ちするのを止めに来たのだよ……きっとお前ならやるだろうってな」
「え? なにそれ。わたし、そんなに信用ないの!?」
「いや、あの…………まあ、やりかねないかな、と」
「ちょっとぉ!」
「仕方ないじゃろな。ついさっきまで『呂布と戦いたーい』といっておったしの」
「ぐっ……祭」

 雪蓮は、バツが悪そうに我々を見回す。

「わ、わたしだってわかっているわよぉ……というか、冥琳にそんなこと言われたらさすがに……ね」
「北郷までにそう見抜かれていたとしたら、お前ならやっぱり前に出るといいかねん。だから私の首を賭けた」
「もう! 絶対そんなことしないってば! はいはい、もう諦めました!」
「……やっぱり、どこかで出ようとか思っておったんじゃな」

 祭殿の言葉に、雪蓮がすねたようにぷいっとそっぽを向く。
 まあ、さすがにここまで言えば諦めてくれるだろう。

「なによ、祭だって……」
「儂は冗談じゃて。それに北郷がわざわざ忠告に来るぐらいじゃ……本当に危ないのかの?」
「……ええ。おそらく掛け値なしに。もし呂布と当たるなら……出来る限り他に押し付けたほうが無難です」

 ……北郷、そういうことか。
 くくく……なるほど、お前も悪人だな。

「……随分と弱気じゃの。じゃが……」
「いえ、祭殿。北郷の言うとおりです……北郷。助言、感謝する」
「いえ……あ、できれば左翼側から攻めたほうがいいですよ?」
「ふむ……左だな」
「ええ、左です」

 私と北郷が互いに笑う。
 そんな私達を、雪蓮と祭殿は奇妙な眼で見ていた。




  ―― 曹操 side ――




 汜水関を出発して二日。

 ややゆっくりとした進行速度で進んできたこの行軍にも終りが見えた。
 まもなく虎牢関が見えてくるはずである。

「虎牢関に細作は放ってあるか?」
「はい。数日前からすでに……まもなくこちらに戻ってくるかと」

 荀彧――桂花の言葉に、私は満足して頷いた。

「おそらくは敵も総力戦……そうなれば必ず我らも前に立たねばならない。情報は多いほどいいわ。必ず全て報告させなさい」
「御意」
「しかし華琳様……まさか我らと劉備軍が肩を並べるとは思いませんでした」

 夏侯淵――秋蘭の言葉に、私は肩をすくめる。

「ほんとね。てっきり私は麗羽が中曲に来るかと思ったのだけど。正直驚いたわ、この状況で後ろにいるままだなんて」
「あの目立ちたがり屋の袁紹……にも拘らず、自分の前に劉備を置くとは。例え、未だに劉備の軍が二万近くの戦力を有するとはいえ……」
「そうね……というか、先陣単独で汜水関を落として、なおかつ二万を維持する。しかも劉表の軍勢にはほとんど傷もついていないのだから、ね」

 汜水関での足止め中に、梁州からの補給部隊がついていたみたいだし……
 少なくない死者と負傷者を出していたと思ったのに、それらを後送しても二万の兵力を保持している。

 たしかに厄介ではあるわね……

「こちらの兵力は八千。袁術は一万五千、孫策が五千……本当なら私達が袁術と一緒に前に出るのかとも思ったのだけど」
「袁術側……というより、その配下の張勲が係わっているようですね。私達と共同で動くより、従属している孫策軍を選んだのでしょう」

 ふむ……桂花の分析が正しいのなら、張勲はこちらを警戒しているということでもある。
 でも、その見立てはどうかしらね。

 私としては……従属している孫策軍のほうが、この場合は獅子身中の虫と見ているのだけど。

「まあ、城攻めとなれば陣替えでの波状攻撃、という作戦自体は悪いものでもないわ。それを麗羽が言うのは違和感がありまくりだったけどね」
「おそらくは……誰かが入れ知恵しているのかと。お世辞にも袁紹がそれを立案したとは思えません」
「……そういえば桂花は袁紹の処にいたのだったわね。でもまあ……それをしている人物に見当があるわ」

 あの詐欺師の文官。
 麗羽の足りない頭を補うぐらいの知恵はありそうではあった。

「あの袁紹が文官の意見を取り入れているのも、私からしたら驚きなのですが……すいません、華琳様。細作が戻ってきたようなので報告を聞いてきます」
「ええ、任せるわ」

 そう言って馬の腹を蹴って、先行する桂花。

「しかし華琳様……劉備軍との共同戦線はどう動くおつもりですか?」
「別に? 向こうは向こう、こちらはこちらでいいわよ。関攻めなんですもの、やることなど変わりはしないわ」
「しかし……汜水関のように奇策を用いてくるやもしれません」
「あら、それならなおさら好きにやらせた方がいいじゃない。目立ってくれるならこちらは楽ができるわよ」
「はあ……」

 秋蘭は腑に落ちないといった様子で私を見ている。
 ふふ……秋蘭、あなたでもわからないのかしら?

「ええと……よろしいですか、華琳様」
「なあに、春蘭」
「私は馬鹿なのでわからないのですが……華琳様は確か、あわよくば世間に名を示すと言っていましたよね? 虎牢関で武名を挙げなくてよろしいのですか?」
「あら、春蘭。めずらしくまともな質問じゃない。春蘭じゃないみたいよ?」
「華琳さまぁ……」

 ふふふ……春蘭の泣きそうな顔って可愛くて好きよ。

「ふふ……あのね、春蘭。私は確かに『名を示す』と言ったけどね。なにも武威を誇る、とは言ってないわよ?」
「え?」
「確かに虎牢関を陥とせば武名は挙がるわ。でも、それは武人の名。私が欲しいのは為政者としての名よ。それなら……誰に向かって名を示すのが一番いいのかしら?」
「え? ええと……?」
「……なるほど」

 春蘭は首を傾げ、秋蘭は納得したように頷く。
 ふふ……いつもの光景ね。

「為政者が治めるのは『兵』でなく『民』よ。ならば民に対してその威光を示すのが一番。あとは……秋蘭ならわかるかしらね」
「はい。民の信頼を集めるならば……民の窮状を救うのがもっともよいかと」
「そうね。なら……戦で荒れる洛陽の民はどうかしら?」
「……董卓の悪政で荒廃している、となっていますね。本当かどうかはわかりませんが」
「本当ならばよし。それが嘘でも洛陽で戦になれば都は荒れるわ。そこで手を差し伸べれば……」
「……洛陽の民は華琳様を褒め称えるだけでなく、商人などに流布させて喧伝もできる。さすがです、華琳様」
「そう、それこそが私の狙いよ。わかったかしら、春蘭?」
「え、ええ~とぉ…………は、はぁ………………」

 ふふ……やっぱり難しかったかしらね?

「姉者……要は戦うだけでなく、民を直接華琳様が救われれば、華琳様の名が高まる、ということだ」
「おお! 華琳様が直接お救いするとは、なんと光栄な! 洛陽の民も喜びましょう!」
「そういうことね……そろそろ虎牢関が見えてくる頃だもの。皆に戦闘準備を――」
「華琳様ーっ!」

 私が指示しようとした矢先、桂花が馬を疾走らせてくる。

「大変です、華琳様!」
「なにかあって?」
「はい、虎牢関が…………ます」
「?」

 桂花の言葉に、皆が意表を突かれた。

「虎牢関が、すでに開門されています!」




  ―― 盾二 side ――




 それは、朱里の悲鳴のような報告から始まった。

「細作からの報告です! 敵は虎牢関を開け放ち、虎牢関の前面にて決戦の構え! 総数は……およそ十万以上!」
「じゅう……こちらより上だって?」

 虎牢関前で待ち受ける董卓軍十万。
 その数の多さに、俺は自分の見通しが甘かったことを痛感する。

 汜水関で三万の敵を撃破した上、更に後方に十万もの兵力を温存できる敵。
 北と南の関に三万……いや、五万ずつが防衛していることを考えると、董卓軍は実に二十万もの大軍を擁していたとなる。

 いや、この上で洛陽に未だ守備兵が残っているとするならば……

「連合との兵力差は、とんでもない数になっていると……?」

 こちらの兵力は実に八万弱。
 十万を越える兵力を相手取るには、数の上でも大きな不利がある。

 その上、こちらは混成軍……董卓軍は曲がりなりにも正規兵。
 そして向こうは背水の陣とくれば……士気としても向こうが上。

「……まずいな」

 地の利、人の和、共に敵が上。
 天の時は……正直微妙とくれば。

 あとは計略を以って覆すしか手はなくなる。

「ご、ご主人様……なんで敵は虎牢関から出ているの?」

 桃香が困惑した顔で俺に尋ねてくる。
 本来は防衛側として依って立つべき防衛施設。
 しかも、有名な虎牢関ともなれば、ほとんど要塞に近い。

 にも拘らず……敵はそれを開け放ち、連合が来るのを野戦の体で待ち受けていた。

 その理由は……

「……守りに徹するより、大規模な野戦で一気に勝敗をつける自信があるのか」
「え……?」
「本来、有利なはずの防衛設備を放棄しての決戦。その意図は……逃げるか、その方が有利に戦えるかのどちらかだ」
「にげ、る?」
「ああ……だが、兵力がこちらより上にも拘らず逃げるのは不合理……逃げるのでないなら残りは一つ。そちらが有利に戦えるから、だ」
「で、でも……」

 桃香は俺を見て困惑げに言いよどむ。
 まあ、言いたいことは判るがね。

「ご主人様!」
「お兄ちゃん!」
「主!」

 兵をまとめていた愛紗と鈴々、そして馬正が戻ってくる。
 それぞれの軍には臨戦態勢を指示した。

「ご主人様。軍はいつでも動けます。しかし……何故敵は虎牢関を背にして布陣をしているのでしょうか」
「理由は簡単だよ、愛紗……その方が有利だからだ」
「にゃ? それはおかしいのだ。虎牢関に篭もったほうがずっと有利なのだ」
「ふむ……確かにその通りであるよ、鈴々。でもね……籠城ってやつは、援軍があるから有効なんだ。だから………………」

 不意に俺は言いよどむ。
 まてよ……まさか、そういうことなのか?

 いや……にしては兵力が少ない。
 ということは、普通にバレた上で、逆に……?

「にゃ?」
「主よ……いかがされましたか?」
「まさか……いや、もしそうなら……随分と大胆、いや……見抜いたのなら? そういや向こうには賈駆がいた……」
「ご主人様……?」
「……朱里。見切られた可能性はあるか?」

 俺は愛紗たちには答えず、朱里へと顔を向ける。
 そこにいた朱里は、眉を寄せながら思案していた。

「……可能性はあります。北や南の部隊にやる気が無い……もしくは偽兵が下手だった場合、ただの兵力分散になっているのかも。それ以上にあの袁紹ですから……」
「くそっ……袁紹と引き離したのはまずかったか」

 俺は額に手をやり、自身の浅慮を呪う。
 俺はどこかで『人』を侮っていたのかもしれない。

「どういうこと、ご主人様! 説明してよ!」
「……袁紹の取り巻きの諸侯が、袁紹の眼の届かないことで下手を打ったと考えるべきだろう」
「え!?」
「最初は裏切りかとも思ったんだがな……その割には向こうの兵力が予想より膨れ上がっていない。となると、普通に偽兵がバレて、適正な数を東に振り分けたと考えれば説明がつく」
「えっと……え?」

 桃香が訳がわからない、といった顔で俺を見る。
 すると朱里が手を上げた。

「あのですね、桃香様……最初、盾二様は北と南の陽動した諸侯が裏切ったのではないか、と思ったようです」
「ええ!?」
「ですが、この場の敵の兵力は、その場合の予想される敵の兵力よりかなり少ないんです。諸侯が五万、北と南の関に三万から五万がそれぞれいたとしたら、この場にいる兵は二十万を超えます」
「……なるほど」

 朱里の説明に愛紗が頷く。

「となると董卓軍が抱える兵力が多いのかといえば、そうとも思えません。でなければ汜水関の華雄が三万しか率いていなかったことの説明がつきませんから。あの場にいたのは華雄の三万、霞さんの二万だと聞いています。なら……」
「残りは、北と南の偽兵がバレて、そこから余分な兵力を糾合したと考えるのが妥当ってわけさ」

 俺がそう締めくくる。
 俺の予想通りならばな……まあ、天下の諸葛孔明が同意してくれるならそれが正しいのだろう。

「細工するために数日の時間も空けたしな……敵に態勢を整える時間も与えてしまったってことだろ。予想外の状況ではあるけどな……」

 さすがに汜水関より堅固な虎牢関を、防衛に使わないとは思わなかった。
 まあ、俺が汜水関でやったことをここでもやられると思うなら、関を無意味と思い切る可能性も高い。

 かなり肝の座った奴の思考ならば、だが。

 ……霞じゃないな、これは。
 恐らくは呂布、あるいは賈駆ってことか?

「それだけにやっかいだ……敵は俺達が主力だとわかった上で、虎牢関という鎧を捨てて、背水の陣で兵の士気も上げての決戦を挑むつもりだ。兵が五分以上ならば、あとは兵の士気が大きな要因になる」
「向こうは天下の飛将軍が率いる上、背水の陣……ここでやらなければ後がないことを末端の兵にまで気づかせる。その効果は……」
「……死兵ってやつだな」

 死兵……人と合えば人を斬り、馬と合えば即ち馬を斬る。
 死に物狂いの兵というやつは、生半可な覚悟ではとても太刀打ち出来ない。
 何しろ相手は相討ち覚悟でやってくる。

 黄巾の三位一体も最初の一人は死兵だ。
 だが、本当の死兵は三人が三人共死ぬ覚悟で突っ込んでくる。
 そんなのを相手にすることの不合理さといったら……

「兵力も上、士気も上……そして相手は天下の飛将軍に神速張遼、か。なのにこちらは……」
「総大将があの袁紹ですから……」
「「 ああ…… 」」

 愛紗と鈴々が落胆するように溜息を吐く。

「士気という面では確実に負けてますな。我々の軍とて死兵相手では……」
「ああ……かなりキツイ戦になるな」

 馬正の言葉に厳しい顔で頷く。
 ただでさえ攻城戦――いわゆる攻め側と思っていたのだ。
 兵にとっては遭遇戦にも等しい。

 だが、相手は待ち伏せての戦闘……準備していた側としていない側、どちらがより覚悟があるといえば――

「……どうしますか、主。我々の目的からすれば、無理に勝利せずとも」
「む……」
「ご主人様……」

 馬正の言い分は判る。
 俺達は董卓を『助ける』事が目的だ。

 それは董卓が『追い詰められている』からこそのこと。
 自力で連合に勝てるのならば、無理に敵対することはない。

 だが――状況がそれを許してくれそうにない。

「……だが、俺達の後ろには袁紹、そして劉表がいる。ここで俺たちが下がればどうなると思う?」
「袁紹はともかく……劉表殿は」
「……そういうことだ。どちらをとるか、となれば、ここで勝つしかないんだよ」

 劉表には董卓の救出のことは明かしていない。
 仮にもあの爺さんは漢の忠臣だ。

 その爺さん相手に『大罪人となっている董卓を救うために参加しています』とは言えない。

 仮に事情を明かすとしても、事ここに至っては時間も機会もない。
 なにより……俺達の後ろには袁紹がいる。
 前門の董卓軍、後門の袁紹……
 この状況では引くも進むも、どちらかを突き破らねばならない。

「やるしかないな……ここで勝たなきゃ、先行した雛里たちにも問題が出る。雛里のことだから、たとえ俺達が負けても何とかするだろうが……」
「……ですね。どの道、今は我々のほうが窮地かと」
「だが、考えている余裕もない。そろそろ相手が動き出してもおかしくない。朱里、細作を全員前線の情報収集に回せ。先陣の状況によっては、すぐにも雪蓮の救援に行く」
「はい! しゅぐに……すぐに!」

 こんな時でもカミカミの朱里にふっと笑う。

「馬正! 第三軍を二つに分ける。槍隊は俺が、弓隊は馬正が率いてくれ」
「御意!」
「愛紗! 右翼を頼む。同じ中曲の曹操は、こと総力戦なれば機を見て敏に動くはずだ。できるだけ合わせて削っていけ」
「御意!」
「鈴々は左翼、崖側からの横槍をしつつ、突貫して派手に動き回れ! 敵の連携をかき回して戦力を分断させるんだ」
「わかったのだ!」
「桃香は第三軍の弓隊と直属護衛を率いて、朱里と共に本陣を頼む」
「うん……ご主人様、気をつけてね」
「ああ……俺は中央から雪蓮の救援だ。攻めの指揮は苦手だが……そんなことも言ってられないしな。皆、頼むぞ!」
「「「「 はっ! 」」」」

 こうして――

 後に『虎牢関の悲劇』と言われる戦いが始まった。
 
 

 
後書き
さて、ここから虎牢関の激闘が始まります。
原作では逃げるために虎牢関から出て戦う、なんて言ってましたけどね。
そりゃおかしいでしょうに。

逃げるならもろとも逃げて、長安なり涼州までいけばいいんですよ。
そもそも後ろ空いてるのに、なんで前進して一当する必要があるんだって話。
それぐらいなら普通に虎牢関で時間稼いで、董卓を逃すなり、別働隊を回りこませて後ろや崖から強襲・挟撃させろって思うんですよ、素人ですら。

北や南の関から逃げれば? 西から長安へは?
そもそも兵力で優っているのに、なんで逃げる?
逃げるのに外で陣取る?

理屈に合いません、はい。
なので……逃げるのではなく、決戦するために陣取らせたのがこのお話です。

さあ、反董卓の山場となるであろう、虎牢関の戦い。

ここで起こる悲劇を書ききれるかが正念場……ちょっと自信ありません。
まあ、黄巾の章の時ほどの残虐シーンはないと思いますが…… 
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