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彼女は実は・・・

作者:オレンジ
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トラブル

 とある中学校。今年も年に一度の授業参観の日がやって来た。教師達にとって、一年で一番嫌な日、出来ることなら病気になって休みたいとまで思う日である。その理由は……

 「先生、さっきの教え方は一体何です!うちの子が勉強についていけなくなったら、どう責任をとるおつもりですか?」

 そう、毎年、ひどく「教育熱心」な親が現れるのである。担当教師の一挙手一投足を隈無く監視し、必ず最後に「有益な助言」を与えて止まないほどに。その「助言」は枚挙に暇なく、字が読みにくい、漢字の書き順を間違えたといったものから、バスケットボールの練習中生徒が怪我をする可能性について配慮不足だったといったものまで、感心するほどのレパートリーがあった。
……

 「全く、あのオバサンにも困ったものだ!」
職員室で校長がぼやいた。
「普通じゃありませんよ彼女は、異常です。いや、病気だ。そう病気…『教師に対して、必ず1つ粗を探し出さなければ死んでしまう』病…みたいな。」
先ほど、黒板を消すタイミングについて、非常に有り難い助言を頂いていた数学教師が、つい日頃の不満を爆発させた。

「お困りのようですな?」
愚痴を言い合っている教師達の背後から、胡散臭い芝居がかった声がした。そこには、白髪頭に曇った丸眼鏡、高い鼻に作り物めいたちょび髭といった、いかにも「インチキ科学者」といった風貌の人物が立っていた。
「誰かね君は?」
怪訝な顔で校長が尋ねる「これは失礼、申し遅れました。私、今日を持って本校に転属となりました、理科教師の、
辺我 銀行と申します。」相変わらずの芝居がかった口調で答える。
「おお、あなたが辺我先生か。こちらこそ出迎えに行くのを忘れていて申し訳無い、ちょっとトラブルを抱えていましてな。」
「噂には聞いております。」
「他校にも知れ渡っておるのか、いや、全く持ってお恥ずかしい。」
気まずそうに話す校長を後目に、辺我は嫌みたらしく中指で眼鏡をくいっと上げ、唐突に切り出した。
「あなた方のトラブル、この私が解決して差し上げましょう。」
「ほう、あなたが、これは頼もしい…と言いたい所だが、…あれは数年来我が校の悩みの種なんだ。他校から着たばかりのあなたに何が出来ると言うのだ。」
全く意に介さない校長を無視して、話続ける。
「次の時間は、どなたが授業を担当されるので?」
「…私です。体育で水泳をやることになっています。」
気弱そうな体育教師が、恐る恐る口を開いた。
「!!水泳…ふふふ、これは何と好都合…」
辺我はまるで、毒薬を調合し終えたマッドサイエンティストのような不気味な笑い方をした。
「ちょっと、何が可笑しいんですか?次は僕の番なんですよ!!」
気弱そうな体育教師が抗議の声をあげる。
「失礼、あまりにもうまく行き過ぎだと思ったもんで…ご安心下さい。もうトラブルは解決したも同然です。私の言うとおりにすれば。」
辺我は体育教師に何やら耳打ちを始めた。
……

 運命の時間がやって来た。体育教師が泳ぎの見本を見せ始めると、案の定「助言」が飛んできた。「ちょっと先生、何ですかその汚いフォームは?最初に間違った泳ぎ方を覚えたせいで一生泳ぎが下手になりでもしたら、どう責任をとってくれるんですか!」
(そら来た)とやや気が滅入りながらも、体育教師は辺我の指示を実行した。
「大変申し訳ありません。水泳は苦手なもので。僕なんかが教えていては子供達のためにならないことは重々承知しております。そこでなんですが…お母様が代わりに見本を見せて頂けないでしょうか?」
「は?何言ってんのよ!」
「失礼は重々承知しております。ですが私なんかが教えて子供達の将来を台無しにするわけには…どうかここは1つ子供達のために…」
気弱そうな体育教師が今にも泣き出さんばかりに懇願する様子をみて満足したらしい。
「いいわ、教えてあげる、泳ぎってのはこうやってやんのよ!!」
そう叫んだ女は、着替えもせずにそのままプールに飛び込んだ。そして…両手両足を端つかせて溺れ始めた。体育教師はタイミングを見計らって救助をし、救助車を呼んだが、助からず、この件は事故として処理された。……

 「乾杯!!」
その日の夜、近所の料亭では、教師達がドンチャン騒ぎをしていた。
「あのクソババアがプールで溺死とは傑作だぜ。しかも自分で勝手に飛び込んどいてだから、俺たちには何の責任も無い、こりゃあたまげたなあぶははは!!」
校長はすっかり出来上がっている。
「でもなんで、あのババアがカナズチだって分かったんですか?それにカナズチにも関わらす自ら見本を見せたがるって。」体育教師の質問に、辺我はわざとらしく眼鏡を中指でくいっと上げ、こう答えた。
「一目見ただけで分かりましたよ。確かに彼女は普通ではなかった……
彼女は、『ヒトヒトの実モデルモンスターペアレント』の能力者だったんですよ。」
(終)



  
 

 
後書き
 ※ちなみに、辺我銀行は、Dr.ベガバンクから来ています。 
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