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ムーンライト=レヴュー50s

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第一章


第一章

                 ムーンライト=レヴュー50s
「じゃあいいよね」
「ええ」
 彼女は僕の言葉にこくりと頷いてくれた。これで充分だった。
 部屋の灯りを消したらターンテーブルの上のキャンドルの光だけが照らされる。夜の世界の窓からは黄金色の月明かりが見えるだけ。もうそれだけで一つの世界だった。
 その世界の中に僕達だけがいる。僕はキャンドルの淡い光に照らされる君の顔を見て囁く。
「はじまったよ」
「これからなのね」
「そう、これからなんだ」
 僕は彼女に優しい声で囁いた。
「寂しい夜が終わるのは」
「何でこんなに寂しいのかしら」
 彼女はそれが不思議だという感じで僕に言ってきた。
「今はとても」
「寂しいのは当たり前さ」
 僕はそんな彼女にこう答えた。
「だって。皆いないしね」
「さっきまで私一人だったわ」
「一人で寂しくない人なんかいないんだよ」
 キャンドルを見る。今もゆらゆらと柔らかい光を放っている。
「けれど二人なら」
「寂しくなるなるのね」
「何かあったら何時でもここに来ていいから」
 僕はまた彼女に言葉をかけた。その肩を抱きながら。
「電話してくれたら何時でも君のところに来て。それで」
「こうしてここで一緒にいれくれるのね」
「うん。今までのことを一緒に話しながらね」
「今までね」
「色々とあったよね」
 学生の頃からの想い出が心の中に浮かんでくる。彼女とはじめて会った時のことも告白した時のこともデートした時のことも。何もかもが自然に僕の心に浮かんで来るのだった。
「これまで」
「それでこれからもね」
「そうだよ。僕がずっと一緒にいてあげるから」
「ほら、覚えてるかな」
 僕はその中の記憶の一つを彼女に告げた。
「泣いていた時もあったじゃない」
「冬だったかしら」
「そうだったね。クリスマス前に」
 大学に入った時だった。喧嘩してそれで彼女が泣いて。その時のことも想い出になっていた。あの時は辛かったけれど今はもう昔の懐かしい想い出になっている。そんなものだった。
「あの時は御免ね」
「もう過ぎたことよ」
 彼女は暖かい声で僕に言ってくれた。
「だからもういいわ」
「有り難う」
「何かあのキャンドルを見ているとそんなことをどんどん思い出してくるわ」
 彼女はじっとキャンドルの灯りを見ていた。そうして暖かい目になって言うのだった。
「昔のことを色々と」
「そうだね。二人で歌ったこともね」
「あの時の歌。覚えてるわよね」
「うん」
 彼女の言葉にこくりと頷いた。その時のこともゆっくりと思い出した。それもいい想い出になっていた。あの時も嬉しかったけれど今ではそれは楽しい想い出に変わっていた。
「何時でも歌えるよ」
「今もなのね」
「何だったら歌うけれど」
「いえ、今はいいわ」
 それは断ってきた。
「今はね」
「じゃあどんな時がいいのかな」
「また悲しくなった時に御願い」
 それが彼女の願いだった。
「その時にね。頼めるかしら」
「わかったよ」
 僕もその言葉に頷いた。彼女がそう願うのならそれでよかった。
 
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