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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第五九幕 「トツカノケン」

 
前書き
計画性って大事ですよね。 

 
前回のあらすじ:※作者はシャルロットに恨みがあるわけではありません


「鈴、“コレ”貸してあげる。もうここまで来たらそいつもデッドウェイトだしね」
「女の子にあげるプレゼントとしては随分無骨だけど・・・まぁいいわ。要は使えればいいんだし」

秘匿回線で行われた極短い会話。内容は美しい友情ではなく唯の利害関係の一致な訳だが、それでも助け合いは大事だ。こんな状況ならなおさらに。

「じゃ、僕は先に簪の目を覚ましてくるよ」
「私はあそこのミサイルハッピーに引導渡してくるわ」

本来ならタッグマッチらしくコンビネーションで攻めるべきなのだろうが、万全の機動が出来ないISが2機纏まっても唯の的にしか成り得ない。前の試合で見せた合体攻撃もこんな状況では当てる隙自体を作り出せない。故に二人は同時に―――切り札(ジョーカー)を切った。

ある意味それは絶妙な一手と言えた。
シャルも簪もどちらかと言えば中・遠距離戦を得意とする操縦者であり武装もそちらに重点を置いている。だからこそ相手と上手く間合いを取り、パートナー同士近付き過ぎず離れすぎずの距離を保ちながら一機ずつ集中攻撃するのが得策だ。だからこそ両機が同時に突撃を開始するのはもっとも連携を組ませ難い行動だった。
最もそれは・・・二人が呆れるほど大量に積載しているミサイルの弾幕を掻い潜ることが出来ればの話なのだが。

「突撃突撃って馬鹿の一つ覚えみたいにさ!!二人纏めて吹き飛びなよぉ!!」
「山嵐、ジョークポット・・・CⅡと同期、マルチロック・・・!」

シャルは両手に抱えた二連装空対空ミサイルポット「グレムリンチェイサー」と背部コンテナから顔を出した「グレール・タンペット」を。簪は「ジョークポット」と内蔵武器の山嵐を。最早数えるのも馬鹿らしくなる数のミサイルと徹甲弾が鉄の雨となって二人に降り注いだ。
絶望と破壊のカーテンを破り裂く為、2人の最後の飛翔が始まる。



 = =



鈴は、ずっと一つの感情を押さえ続けていた。
それは年頃の少女が抱いても無理はないとてもシンプルな感情。

――友達と、別れたくない。

嘗て、日本から母国である中国へ戻って鈴が感じたのは孤独だった。そこには中学時代の友達も、頼れる先輩も、思い人の姿もない。こちらが嫌になるほど騒がしく、そんな空気に中てられて自分も馬鹿みたいに騒いだあの頃は欠片も残っていなかった。突然の帰国。訳も分からないし港別れの言葉を告げることもなく。

寂しい。心が雪風に晒されているような痛さだった。その痛みを和らげるのは決まって日本の友達の記憶。
帰りたい。もっとお喋りして、バカ騒ぎして、皆で一緒に笑いたい。
自分の居場所はここじゃない、あいつらの隣だ。鈴はそう強く思った。

そもそも日本育ちの鈴にとって母国は異国のような印象しか感じなかった。見慣れぬ町並みに突然放り出されたも同然の鈴はすぐさま心の故郷に帰る方法を考え始める。両親に帰国理由を問いただしてもはぐらかされた鈴は直ぐに日本に帰るための行動を開始した。親を納得させ、尚且つ可能な限り早く日本へ戻る方法・・・それが中国代表候補生の座を手に入れればいい。

そして、長い年月を経て鈴は帰って来た。居場所はまだ日本にあった。友達は変わらない笑顔で鈴を迎え、彼女は自分の居場所が此処だと確信を得た。
そんな彼女の居場所は学園に入ってから少しずつ広がった。ジョウの友達のシャル、あの戦いで轡を並べた簪、時には一夏へのアプローチを後押ししてくれるクラスメイト達。どれも暖かくて、鈴はその居場所を二度と手放すまいと心に誓った。

その結果がこれだ。
シャルは妄執に取り付かれたように信じがたい行動を繰り返し、簪はその言いなり。説得も救出も敵わず、彼女たちは居場所から離れて行った。
鈴は思った。私は皆に居場所を求めていたけど、皆はそうではないのか。酷く独りよがりだったから二人は離れて行ったのではないか。だとしたら私の居場所は、いつ崩れてもおかしくない砂上の楼閣ではないか。

だが、直ぐに鈴は気付いた。重要なのはそこではないだろう、と。
簪は明らかにシャルに無理やり連れて行かれていた。
シャルは明らかにいつもと様子が違った。
だったら鈴がやるべきは自分の居場所ではなく、2人と向き合い間違いを指摘してやることだろう。
居場所は人との繋がりだ。その繋がりを強引に断ち切るような真似をしたシャルを放っておくのか?本人の意思を曲げられた簪を黙って見送るのか?
それは違うだろう。いいや、絶対に違う。私が求めているのは居場所じゃない。いつも近くで笑ったり怒ったり困ったり喜んだりしている、友達だろう。友達が間違っているなら、気付いた自分がそれを正さずしてなんとする。


だから私はミサイル如きに屈しない。操縦者としての腕前の差にも絶対に折れてやらない。何よりも、自分の友達が諦めずに頑張っているのに先にリタイアなど絶対にしてやらない。

(だからお願い甲龍・・・アタシの我儘に最後まで付き合って!!)

既にどぎつい一発を叩き込むための準備はさっき済ませた。あとは甲龍自身が「切り札」の反動に耐えられるかが問題だ。なにせ“こんな使い方”は開発元も完全に想定していない、それほどの無茶だ。だからこそミサイルでフレームが歪み始めた甲龍が耐えられる保証はどこにもない。それでも、信じるのだ。

ユウからのプレゼントは既に使用準備に入っている。徹甲弾を潜り抜けるために双天牙月をシールド代わりに構えながら、鈴は瞬時加速を発動させた。その目が捉えるのは勝利への道筋のみ。それが例え糸を通す針孔ほどの小さなものでも、彼女が躊躇うことは決して無い。



 = =



鈴がその切り札を切るよりもほんのわずかに前、ユウは既に噴射加速で突撃を開始していた。

残りシールドエネルギー170 。簪を確実に倒すには100のエネルギーを残しておかなければならない。投桃報李による格闘戦では打鉄弐式のエネルギーを削りきれない以上、ユウに残された道はその100のエネルギーを必要とする必殺の切り札のみ。ゆえにエネルギーが100を割り込んだ時点でユウの敗北が確定する。

「上等じゃないか・・・!何度だって博打を打ってやるよ!!」
「噴射加速の速度が落ちた、風花なんて、怖くない」

――噴射加速で消費するエネルギーを多めに見積もって20とし、ミサイル突破に使える残りエネルギーは50。

噴射加速を開始した風花。その姿に簪は一瞬違和感を覚えたが、その違和感の正体が分からないままジョークポットを投げ捨て、春雷のチャージを開始。ミサイルを突破した際に狙い撃ちにする腹積もりだろう。
バリアを装甲の無い部分のみに展開し、足や腕は主要なパーツ付近だけ展開。弾速の速いシャルのクラスターAP弾が装甲やパーツを削るが問題なく直進する。直後、ミサイルが一発直撃コースに入る。

――バリア展開で防御に回すエネルギーがミサイル命中時の消費も含めておよそ40で、残りエネルギーは10。

ミサイルの本領は相手を追いかける事ではなくその爆発と衝撃。当たらなくとも相手を爆発に巻き込めればいいのだ。そのために近接信管が存在する。
だがユウはそのミサイルを右手で受け流すようにそっと逸らした。ミサイルと風花の相対速度が余りにも速すぎて信管が正常に作動しなかったのだ。触り方を間違えれば衝撃で爆発していた所だったが、風花の繊細過ぎるほど繊細なマニュピレータはそれが可能だったらしい。また、掌に特殊衝撃吸収素材が使われていたこともその一因となったようだ。・・・どちらにしても言えることは、0,01秒の誤差も許されない動作を即興でやってみせたユウはやはり人としておかしいのだろうということだ。

――想定よりもシールドエネルギーを10程節約できた。残り余剰エネルギー20。

春雷の発射シーケンスが終了したらしい。だが全身に展開したバリアを解除してセシリア戦でみせたような虚空踏出機動を行う訳にはいかない。彼女は僕の「切り札」の事、そして虚空踏出機動を行えない事を知っているだろう。何せ基礎データをくみ上げた張本人なのだから。

直進しか出来ないに等しい風花に素早く狙いを定め、ためらいなく発射。バリアを避けて態と装甲版に当ててきた。そう、今の風花はとにかく絶対防御を発動させないために装甲の無い部分へ優先的にバリアを回している。ならば既にAP弾で強度の下がった装甲部分を狙えばいい。衝撃で装甲版が何枚か脱落し、機体の最低限の機能を保護するためにシールドエネルギーが10消費される。

後一発当てるだけで簪は僕に勝てる。後一発で僕は負ける。

そのスリルが、ユウにとってはどうしようもなく堪らない瞬間だった。

この危機を乗り越えられるか、乗り越えられないか、その試練が自分を試す。簪とシャルの目を覚ませるかどうかが次の一瞬で決まる。乗り越えられなければそれで終わるが、乗り越えられれば僕はまだ先に進める。まだ先に、もっと上へ。


運命の一撃が放たれた瞬間・・・風花の背部、破損した1番スラスターが――文字通り爆発した。


会場の観客は一瞬凍りついた。故障。その2文字が全員の頭をよぎり・・・それが間違いであったことに気付かされる。



「残り10のエネルギーの使い方は・・・こうだぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁあッ!!!」



――バーナー内部にエネルギーを許容限界以上に圧縮させ、強度を無視した威力の爆発で噴射加速以上の速度を得る。名付けて、「暴走加速(バニシングブースト)」!!

加速の瞬間、肋骨にみしりという嫌な音が響いた。瞬間的に噴射加速以上の加速を、しかもパイロット保護レベルを落とした状態で使用したのだ。技術とは名ばかりの乱暴すぎる加速はユウの肉体に確実なダメージと疲労を与えていた。めきり、と異音と共に肋骨に激痛が走るが・・・それでもやはりこの男は止まらないのだ。

風花のバーナー類にはブロックシステムという機能がついている。もしバーナーやバーニアの一部分だけが外的、内部的要因で爆発した際に他のパーツに影響を及ぼさないようパージする、そういうシステムだ。試作機などには比較的よくみられるこのシステムならば機体保護機能をカットしても2番ブースターの推進システムは生き残る。あまりに危険すぎて簪にすら教えていない使用禁止級技術。そして、これから使うもう一発が簪に纏わりつく邪念を祓う。


今度こそ言葉を失った簪に迫る風花の身体に変化が訪れる。機体保護に回していたバリアのエネルギーが突如収束を始め、まばゆい光を放ち始めた。美しい桃色の閃光は機体前面へ収束してゆき、花弁のような光の飛沫を撒き散らす。あまりのエネルギー収束率にバリアの収束率が低い端からエネルギーが漏れ出しているのだ。

「・・・綺麗」

会場の誰かが呟いた。桃の花を撒き散らすような美しさは正に「風花」の名を冠するに相応しい。そしてその力はやがて、加速しながら振り絞られた右腕へと収束していく。
それが簪の運命を決めているように見えて、彼女の心と体の動きが止まる。その瞬間こそが本当に彼女の勝敗を分けた。

「・・・そんな、ことが」
「折れたね?“いつもの”君ならこんな所で折れたりしない・・・」
「わ、私は・・・シャルロット、の、ぉ・・・?」
「分かってる。洗脳された仲間を助け出すのはヒーローものの定番だろ?だから・・・・・・この一撃で正気に戻れ!簪っ!!」

きっと、簪自身も自分がどこかおかしい事に気付いていたのだろう。自分の意思が歪められているのにそれに気付けない現状を打破しようともがいた、その結果が戦闘中の判断能力の低下に繋がったのだ。
こじつけと言われればそれまでだが、それでもユウは彼女が最後まで抵抗したと信じている。その抵抗を無駄にしたいために、最後の一撃を解き放つ。

弾けんばかりに集った桃色の閃光が風花のズタズタになった黒い装甲を照らし上げる。白熱したバリアの塊は衝撃砲の技術を風花で再現しようとした結果生まれた膨大な斥力エネルギーの塊。バリアの展開と圧縮に100ものシールドエネルギーを注ぎ込んだその一種の爆弾は、射出から約150cm・・・丁度風花の拳10つ分ほどの距離で圧縮補助を失い、その濁流の様な斥力を衝突した対象に向けて鉄砲水の如く吐き出す。

それには未だ何の(いわく)(はく)も無い、だが何よりも強力な拳。故にその名を――



「――十握(とつかの)・・・(けん)ッッ!!!!」



風花の拳から放たれ行き場を失った拒絶のエネルギーは津波のように荒れ狂い、打鉄弐式ごとアリーナの地表を隕石の如く深く穿った。同時に響く轟音と衝撃が大気を強かに撃ち震わせ、すべての結末を雄弁に語る。

アリーナ内に舞い散る桜色と言うにはやや濃い光の飛沫、その中心には、機体のあちこちを破損させ満身創痍の風花が、その足で確りと佇んでいた。
衝撃の濁流に飲み込まれた簪はシールドエネルギーこそ全損を危ういところで免れたものの、その一撃で完全に意識を刈り取られ戦闘不能。ただ、気絶したその表情はまるで憑き物が落ちたように無垢であった。

既に風花は攻撃に全てのエネルギーを使い果たし戦闘不能となっていたが、それを「相討ち」と呼べる目撃者は一人もいなかったという。


そしてそれと時を同じくして、もう一組の戦いも決着の時を迎えようとしていた。
 
 

 
後書き
十束剣(とつかのつるぎ)・・・拳10つ分の長さの剣。これ自体が特別な剣ではなく、日本神話に登場する剣の多くが十束剣であることから神々の間では長剣の一般名詞と考えられている。(wiki参照)
十握拳(とつかのけん)・・・元ネタは草薙の拳?何を言っているか分からない。

グレムリンチェイサー
二連装空対空ミサイルポット。ミサイルそのもののサイズが他のマイクロミサイルより大型な分速度、威力は高い。追尾性は少々劣るが速度でカバーしている。こう、がぱっとハッチが開いてバヒュッと敵を追いかける感じ。大昔に持ってたゾイドの玩具から着想を得たんだけど、そもそもゾイド見てないのに何でおれは一つだけゾイドの玩具を持っていたんだろうか。
ジョークポット
サイボーグクロちゃんのコタローが出て来た辺りで一度だけ使った(うろ覚え)上部のコンテナが展開してミサイルをぶっ放す銃をイメージしてる。弾幕を張るのに最適なミサイル。


「噴射加速を開始した風花。その姿に簪は一瞬違和感を覚えたが、その違和感の正体が分からないまま・・・」
この部分、一応覚えておいてください。 
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