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混ぜもの

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第三章

「本当に」
「じゃあこのままなの?」
「人間肉や牛乳を食べなくても生きていられるよ」
 自分のスタミナ不足の指摘はあえて無視しての言葉だった。
「それに菜食主義者の偉人も多いじゃないか」
「わかったわ、もう言わないから」
「うん、そういうことでさ」
 頼むとだ、瑛久は美樹に言ってだった。
 とにかく肉も牛乳も食べようとはしなかった。しかしこれでは彼のスタミナ不足はどうにかなる見通しがつかなかった、美樹も困ってしまった。
 しかしここでだ、彼女は思いついたのだった。
 きっかけは夫の好物であるカレー、野菜カレーを作っている時だ。カレーが辛いのでそれを抑えようとした時にだ。
 カレーの辛さは牛乳で抑えられるということを思い出したのだ、それでだ。
「これを使えば」
 牛乳、瑛久の嫌いなそれでもだ。
 カレーに入れれば若しかして、こう思い。
 その野菜カレーに牛乳をかなり入れてみた、カレールーの味はかなり強いので辛さが抑えられてもそれでもだった。
 牛乳の味は感じない、それは瑛久もだ。
 その野菜カレーを食べてだ、こう言うだけだった。
「このカレー辛くないな」
「甘いわよね」
「甘口のカレーか」
「ええ、そうしたの」
 美樹はこう言って一緒に食べている彼に答えた。
「そうしたけれどどうかしら」
「いいな」
 いいとだ、こう答えた瑛久だった。
「甘口のカレーもまた」
「そうなのね、それじゃあ」
「これからも甘口で作ってくれるかな」
 こう妻に言うのだった。
「そうしてくれるかな」
「ええ、いいわ」
 内心にんまりとしてだ、美樹は瑛久ににこりとして答えた。
 そしてだ、これからだった。
 美樹は料理に工夫をして牛乳を入れた、パスタの時もこっそりとパスタに粉チーズをかけてからソースをかける、これも成功だった。
 ビーフシチューにもそうした、時にはヨーグルトも入れたがこれも成功だった。しかし問題は肉であったが。
 野菜だけのスープやシチューだった、一見。
 しかし肉を細かく刻んで入れてだ、そのうえで。
 何時間も何時間もくたくたに、それこそ肉の原型がなくなって何が何かわからなくなるまで煮て彼に出したのだ。すると彼もわからずに食べて言うのだった。
「普段と味が違うな」
「そうかしら」
「うん、いいよ」
 美味しいというのだ。
「このシチューも」
「そうでしょ、何時間も煮てね」
「それで作ったんだな」
「そうよ、これからこうして作るからね」
 肉のことは隠しての言葉だった、牛乳を入れているのも内緒だ。
 豆腐バーグにも少しだけ肉を入れたりして彼に食べさせた、その結果か。
 何時の間にか、瑛久は美樹にこう言う様になっていた。その言うことはというと。
「たまにはだけれど」
「たまにはって?」
「うん、チーズ食べようかな」
 こう言ったのである。
「そんな気持ちになったけれど」
「いいんじゃない?あなたお酒はワインよね」
「あれが身体にいいから」
 仮にもスポーツ選手だ、身体には彼なりに気を使っているのだ。それで飲む酒も身体にいいというこれに限っているのだ。 
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