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ティーンネイジ=ドリーマー

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第四章


第四章

 とにかく何でもかんでも必死に働いた。それから何年か経った時俺は家の店を株式会社にした。何年しか経っていないがそれでもそこまでした。 
 人も集めたが金も入った。それで遂に車も買った。買ったのはリムジンだった。
「おいおい、リムジンか」
「ああ」
 驚く親父に笑って答えてやった。親父は今会長で俺が社長になっていた。まだ二十五にもなっていないがまずは社長の車まで買えた。
「やったぜ。そこまでな」
「とりあえずはやったな」
「やった?」
「ああ、やったぜ」
 満面の笑顔で親父に言ってやった。
「とりあえずここまではな」
「ここまで?」
「とりあえずはな。今株式会社にもなったしよ」
「今度は何だ?」
「上場だよ」
 次の目標はそれだった。
「それやってやるぜ。今度はな」
「株式会社になってリムジンだけじゃ満足しないのかよ」
「何言ってんだよ、これからだよ」
 親父の止めるような言葉にまた言ってやった。
「まだな。今店五十あるよな」
「ああ」
「親父が社長の時店は一つだったよな」
「俺が増やしたな」
「一つずつな」
 あいつと夢を話していたその頃に店をどんどん増やしてくれた。最初の店が相当大きくなってもうビルになっていた。それで店を一気に増やしていってそれもどんどん売り上げを伸ばしてだった。親父の商才はかなりだったし幸い俺もそれは備わっているみたいで今店はそこまで増えていた。どの店も順調で軌道に乗っていた。
「それでやっと五十か」
「次は百だよ」
 俺は胸を張って言った。
「で、自分のところでバイクも作ってな」
「夢じゃないのか?それは」
「夢じゃないさ。もう人も見つけたんだよ」
 大手をリストラになったベテランの人材やら有望な若手をスカウトしたり小さな工場と契約したりして。そうして人も技術も見つけてきた。
「そっちもな」
「そうか。これからはそっちもか」
「とにかく。この会社を世界の会社にしてやるんだ」
 日本を飛び出てだった。
「それからだよ。やってやるぜ」
「頑張るんだな。どんどんな」
「ああ、やってやるさ」
 ここであいつのことを思い出した。
「今世界の何処かで歌ってるあいつみたいにな」 
「あいつ?」
「あっ、何でもないさ」
 このことは笑って誤魔化した。
「何でもな」
「御前少しおかしいぞ」
 けれど親父は鋭かった。流石に一代で基礎を築いたわけじゃなかった。やっぱり勘が鋭くないとそこまでいくことはできないってことだった。
「何かあったのか?」
「まあ何でもないさ」
 こう言ってとにかく今は誤魔化した。
「気にしないでくれよ」
「まあそこまで言うんならいいけれどな」
 気付いてはいるがあえてそれは無視してくれた。その気遣いが少し嬉しかったがそれもあえて言葉には出さずにリムジンをずっと見続けていた。
「それでこのリムジンな」
「ああ」
「流石に運転手はいないぞ」
 親父は今度は苦笑いを浮かべてきた。
「御前が運転するんだ。いいな」
「それはわかってるさ」
 俺もそこまで考えてはいなかった。まだ運転手つきになるには会社も大きくなっちゃいない。それにはもう少し時間がかかるって感じだった。
「自分で運転するさ」
「そうしろ。もっともリムジンは自分で運転するものじゃないけれどな」
「それでもいいさ」
 それでもリムジンはリムジンだ。今はそれでよかった。
「今はな。いや」
「いや?」
「俺が運転手だな」
 自然に言葉が出た。
 
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