| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

美しい毒

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五章


第五章

「そう思います」
「真実は別にある」
「問題はその真実が何処にあって」
 本郷は話しながらだ、考えていくのだった。
「どういったものですかね」
「今度は状況を調べよう」
 役はカルテを見てそこに疑わしいものを感じ取りだ。そこからだ。
 本郷を誘いだった。そのうえでだ。
 屋敷の中を今度は二人で見回す。その中でも特にだ。
 庭に出て薔薇を見る。その紅の薔薇達を見ながらだ。
 本郷がだ。こう言ったのである。
「この前役さんDVDでオペラ観ていましたよね」
「あれか」
「はい、確かアドリアーナ=ルクブルールっていう」
「チレアのオペラだ」
 フランスに実在していた女優をタイトルロールにした作品だ。ソプラノ歌手を前面に出した作品でありチレアの代表作でもある。
 その作品を話に出してだ。本郷はこんなことを言った。
「あのオペラじゃ花に毒を仕込んでましたね」
「菫の花だったな」
「その花を嗅いだらそこに毒があって死にましたよね」
「奇麗な殺し方ではある」
 役はその殺人方法についてこう評した。
「それと共に残酷な殺し方である」
「花に毒、ですか」
「花を嫌いな人間はそうはいない」
 奇麗なものを好きになる、これは当然のことだ。
「その愛するものに毒を潜ませて殺すのはだ」
「残忍ですね。確かに」
「その通りだ。そしてだ」
「そしてですね」
「嫉妬は恐ろしいものだ」
 役が今度言うのはこのことだった。
「人間の持つ感情の中でもな」
「そしてそこに憎悪が加われば」
「人は恐ろしく残忍になる」 
 残忍がだ。ここで結びついたのだった。
「誰でもそうなってしまう」
「じゃあやっぱり」
「可能性は高い」
 榊がだ。夫人を殺したことはだというのだ。
「まして動機がある」
「あの人が御主人の愛人ならですね」
「そのことも調べよう」
 この屋敷の主、つまり早苗の父と榊の関係についてだ。
「こちらはすぐにわかるだろうな」
「そうですね。早苗さんにお聞きしてもいいですし」
「密かにこの屋敷の人たちに聞いてもいいしな」
 こうしたことを話してだった。二人はだ。
 早苗からだ。彼女の父と榊のことについて尋ねた。
 二人は早苗を白浜の喫茶店に案内してだ。その白い日差しの中で話を聞いたのだった。彼女はその店の中で黒いコーヒーを飲みながら話した。
「実はです」
「やはりそうですか」
「お父上と榊さんは」
「深い関係にあったと思います」
 こうだ。早苗は暗い顔を俯けさせて話した。
「そうでないとわざわざ主治医として雇いませんし」
「そうですよね。やっぱり」
「それで屋敷に一緒にいるのは」
「ありません」
 まさにそうだとだ。早苗は話した。
「私も前から怪しいと思っていました」
「それをお母さんに咎められた」
「それで、でしょうか」
「いえ」
 早苗はここではだ。二人の問いを否定した。
 そしてだ。こう二人に話したのである。
「実は父は女性関係が昔から派手でした」
「それで、ですか」
「お母上は」
「母もそうしたことは許していました」
 そうしたことではだ。早苗の母は寛容だったというのだ。
「家庭さえ大事にしてくれるのならと」
「割り切ってたんですかね」
 本郷は早苗の話にいささか釈然としない顔になって述べた。彼も役もコーヒーを注文しているが二人共まだ手もつけてはいない。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧