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深き者

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第二十章


第二十章

「その辺りどうでしょうかね」
「そうだな。わからないな」
 言いながら海を見ていく役だった。
「他にもこれといってないな。どうやらな」
「ですか。どうします?」
「まだ見てみる」
 偵察は続けるのだった。まだ見えていないものはあると思ったからだ。 
 そうして暫く見ているとだった。やがて海底にあるものが見えたのだった。
「んっ!?」
「あれは」
 二人同時に気付いた。見ればそこには骨が転がっていた。頭まで完全に骨になった魚の骨だった。その証拠に尾びれや背びれまである。その大きさを見て二人はすぐにそれぞれの口で言った。
「鮫だな」
「鮫ですね」
 二人の意見は一致した。それはまさに鮫であったのだ。
「鮫ですか」
「しかも海中で完全に骨になっている」
 全て食べられていた。見ればその骨にしろ場所によってはかじられている。実に徹底的に食われたのがわかる無惨な有様であった。
「やっぱりこれは」
「奴等の仕業だな」
「そうですね。間違いないですね」
 二人にはわかった。それが誰の仕業であるのかを。紛れもなく今眠ろうとしているこの村の異形の住人達の仕業に他ならかなかった。
「これは」
「大きな魚は海の中で群がって食べるか」
「思った以上に凶暴な奴等みたいですね」
「凶暴なのはある程度察してはいたがな」
 それはもう読んでいるということだった。あの外見だけでなく彼等の中に既にある知識がそれを何よりも確かに教えていたのである。
「ここまでとはな」
「俺達も下手をすればってことですね」
 その魚の無惨な姿を見ながら口の左端を歪めて笑ってみせる。その魚はどう見ても鮫である。しかも歯はかなり鋭くそのうえ十メートルはある。かなりの大きさであった。
「こんなデカブツだってこうなるんですから」
「そうだな。食人もだ」
「あると考えていいでしょうね」
「むしろ当然と考えるべきだな」
 役はそう判断した。本郷も同じである。
「間違いなくな」
「ですね。食われない為にですか」
「考えて動くとしよう」
 二人で話していく。
「牧師様に悟られないようにな」
「そうしますか」
「若し」
 ここで、であった。その牧師が礼拝堂に入って来た。そうしてそのうえで二人に対して声をかけてきたのであった。二人は彼の気配を察して全ての映像を一旦消した。
「宜しいでしょうか」
「あっ、はい」
「どうしたのですか?」
「明日の朝までの食べ物もワインもあります」
 まずは食べ物の話をしてきたのであった。
「それに薪もです。水は井戸にありますので」
「明日の朝までですか」
「はい。私は明日の朝まで他の教会に行っています」
 こう二人に話すのであった。
「その間ゆっくりとしておいて下さい」
「他の教会っていいますと」
「村の外にですか」
「はい。そうですね」
 ここで彼は笑いながら二人に話してきた。
「その村にしろここから車で三時間程度の場所でして」
「そんなにある場所なんですか」
「そこに行って来ます」
 言葉は穏やかなままであった。そのままの言葉で二人に話してきているのだった。
「ですから明日の朝まで戻りませんので」
「そうですか」
「ごゆっくり」
 また穏やかな言葉であった。
「林檎もありますので楽しみにしておいて下さい」
「わかりました。じゃあ」
「ゆっくりとさせてもらいます」
「お客様をお迎えしているのに申し訳ありません」
 牧師の今の言葉は心からそう述べているものであった。
「まことに申し訳ないのですが」
「いえいえ、いいですよ」
「牧師様にも牧師様の事情がありますで」
「そう言って頂けますか」
 牧師は二人の言葉を受けてその目を細めさせた。彼等の言葉は本心からのものである。しかしそう言う事情はわからなかった。わかっていたらきっと動転していたであろう。
 
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