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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  九十九話:あなたの人生を私に

 タラップが外されて、とうとう船が動き出して。

 やっとか。
 もう、泣いていいか。

 と思いつつ陸を眺める私の視界に入り込む、やけに素早く移動する何か。

 人にしてはでかいってか速い、魔物にしても同様。
 じゃあ、なにさ?

 と目を凝らすと、どうやら馬に乗った人である模様。
 魔物が出る外の世界を単独で馬に乗って移動する人というのも、あまり見ないのですが。

 珍しいものを見たなー、と更に目を凝らすと。

「……ヘンリー?」

 白馬に跨がり、立ちはだかる魔物を魔法で吹き飛ばし、焼け残った屍を馬で蹴り飛ばし、踏み潰し。
 全速力で馬を駆けさせて、こちらに向かって来ます。


 ……王子様だ!
 (まさ)しく、白馬に乗った、王子様!

 え?
 てか、馬、乗れたの?
 王子様だから?
 八歳時点で乗れたとしても、十年ぶりのはずなんですけど?
 なんでそんな、全速力で駆けさせながら、魔法攻撃とかこなしちゃってるの?
 魔法戦士タイプの能力だけど、魔法騎士だったんですか??


 ……でも、いくら速くても。
 もうタラップも撤去されて、船は動き出してるんだから。

 もう、間に合わない。


 と、思う間にヘンリーが港にたどり着き、馬から飛び降ります。

 ……今なら、声は届くけど。
 何を、言ったらいいのか。

「……さよなら」

 たぶん、聞こえないくらいの声で。
 もう泣くつもりだったから潤んでしまってる瞳で、ヘンリーを見詰めながら呟きます。

 そんな私に、一瞬目をやって。
 すぐに船に真っ直ぐに向き直って走り出し、その勢いのまま岸から海に向かって飛び出します。

 鎧も着けて盾や荷物を背負った、フル装備の状態で。


 ……って、オイ!!
 そんなんで、海に落ちたら!
 溺れて死ぬから、普通に!!

「ヘンリー!!」

 慌てて船縁(ふなべり)に駆け寄り海を覗き込むと、海には落ちずに辛うじて船に掴まり、ぶら下がってました。

 良かった、生きてた!
 まだ、生きてた!!

 でも放っておいて、このまま落ちたらやっぱり死んじゃう!!

 夢中で走ってヘンリーのぶら下がってる場所まで行って、荷物と装備の重さでなかなか上がれずにいるヘンリーの荷物をまずは引き上げて、すぐにヘンリー自身も引っ張り上げて。

 勢いでヘンリー諸共、甲板に倒れ込みます。

 良かった、生きてた。

 脱力してヘンリーの上にのしかかった状態で、そのまま起き上がれずにいると。

 仰向けに倒れたまま息を整えていたヘンリーが、口を開きます。

「……間に、合った……」

 ……危うく、死にかけて。
 助かって最初に言うことが、それか。

「……なんで……」

 そんな、無茶するの。
 ひとつ間違ったら、死んでたのに。

「……置いてく、からだろ。お前が」
「……私は。置いてくって、言った」

 十年前も、その後の十年間も。
 言っても聞いてくれないから一年前くらいから説得は諦めてたけど、それまではずっと言ってた。
 その後だって、連れてくなんて言ってない。

「俺は、着いてくって言った」
「……国に、いないとダメでしょ」

 あの国は、ヘンリーを必要としてるんだから。

「必要無い。あの国にはデールと、義母上がいる」
「そんなの……」

 そうかもしれないけど。
 でも私に着いてくるより、絶対にヘンリーの力が生かされるのに。

「俺は、お前の側がいい」
「……私は……」

 私だって。
 寂しいとか、思ってしまったけど。
 でも最後の最後で受け入れられないってわかってるのに、一緒になんていられない。

「……要らない。私に、ヘンリーは要らないから。あの国ならヘンリーは必要とされるんだから、帰って。今からでも、戻って」
「要るだろ」
「要らない。私は、一人で大丈夫。仲間もいるんだから、ヘンリーは、要らない」
「嘘吐くな」
「嘘じゃない。要らないから。帰って」
「なら、なんで泣いてるんだよ」
「これは……!」

 ヘンリーが来る前に、泣く体勢に入ってたから。
 そんな状態で、びっくりさせられたから。

「……ヘンリーが、無茶するから!死んじゃうでしょ、あんなことしたら!」
「死んでない。生きてる」
「死んでたかもしれないのに!」
「死なないよ、俺は。お前がいれば」
「そんなの……!」

 一緒にいないと死ぬみたいな。
 置いていったら、死ぬみたいな。

「……死んで欲しくない」
「わかった。なら、死なない」
「……私が、いなくても」
「それは無理だ」
「なんで……!」

 私といるほうが、普通に考えたら死ぬ可能性が高いのに。
 一緒にいないと死ぬって、なんで。
 それじゃ、まるで。
 私のことが、好きみたいな。

「なんで……?」

 私のことが好きだから。
 だから、着いてくるって言うなら。
 それなら、はっきり断れるのに。

「俺は、お前と一緒にいたい」

 なのに、そうは言わないから。
 いつも、そうは言わないから。
 私ははっきり、断れない。

「……私は……」

 私は、怖い。
 甘えるのが、怖い。
 甘えきって、一人で歩けなくなるのが怖い。
 このままずるずると甘えて、最後にヘンリーを傷付けてしまうかもしれないのが、怖い。
 自分のせいで、自分の目の前で、ヘンリーが死んでしまうのが怖い。

 だから、一緒にいたいけど。
 一緒には、いたくない。

「……要る間だけでいいんだ。本当に俺が要らなくなったら、その時は離れる。要る間だけでいいから。側に、置いてくれ」
「……なんで」

 なんで、そんなに甘やかすの。
 用済みになったら、棄てられてもいいなんて。
 そんな扱いは、したくないのに。
 自分をどうでもいい物みたいに、扱っても欲しくないのに。

「お前が、言ったんだろ」
「……何を」
「俺の人生を、お前に預けろって」



 ……?

 なんだそれ。

 なにその、プロポーズみたいの。
 しかもどっちかというと、男前な。

「……言ってない……と、思うけど」

 美女相手なら、流れと勢いで言ってた可能性もあるが。
 ヘンリー相手に言う状況が、想定できないんですが。

「言った」
「……いつ?」

 具体的に言ってもらえれば、思い出すかもしれない。
 そんな事実が、本当にあるならば。

「最初に。会ってすぐに」
「……ええ?」

 会ってすぐのショタを口説くとか。
 しかも宿敵認定のヘンリーを出逢い頭にとか、ますます有り得ん。

 なんかの間違いじゃないだろうか。
 別の娘と間違ってました的な。

「間違って無い。お前が言った」
「……ええと」

 ここで思考を読みますか。
 なら、もう少し具体的に説明をお願いします。

「……お前に協力しろって話の時。俺が、お前を疑うようなこと言っただろ。その後」

 えーと。
 散々説明して、説明だけじゃ無理ってなって、お願いに入って。

『私に、あなたの人生を、預けて』
(三十九話参照)



 ……ああー!!
 言った!
 確かに、言ったわ!!

 ……いや、でもさ?

「あれは……そういう意味では」

 もっと、短期的な。
 その場限りの話だったんですけど。

 本気で信じてもらえなかった場合、確かに一生引っ張る問題だったかもしれないが。
 でもその場合でも、もう奴隷期間も終わったし、自由だし。
 もう、時効……

「お前がそのつもりでも。俺は、あの時に決めた。俺の人生は、お前に預ける」



 …………なんてことだ。

 ルート回避だフラグ折りだなんだと言って、そんな早い段階で強固なフラグを建築していたとは!

 いやいや、でもさ?仕方なくね?あの場合。
 なんたって、人の命がかかってたわけだし。村まるごとの。
 それをそんな、言い立てられてもさー?
 なにこれ、私が悪いの??

「とにかく。俺は着いてくが、それをお前が気にする必要は無いから。完全に要らなくなるまでは、俺は居る。絶対に」

 ええー。
 ヘンリーの主張はわかったけど、こっちにも都合というものが。

 でも置いてったらまた無茶やらかして今度こそ死にそうだし、一体どうしろと。やっぱり死んで欲しくはないし。


 すっかり涙も引っ込んで考え込む私に、またヘンリーが声をかけてきます。

「……ところで。いつまでこの体勢なんだ。俺は、別にいいが」

 この体勢って……はっ!

 甲板に二人で倒れ込んで私がヘンリーの上に乗ってて、完全に私がヘンリーを押し倒したような状態で。
 しかもまたいつの間にかヘンリーに抱き締められてるし、誤解を招くどころか堂々と何やってんだ的な。
 しかも、私は男装だし。

 そろそろと顔を上げて見回すと、遠巻きにしてチラ見ながらも、確実にこちらの様子を窺っている船員さんたちの姿が。
 完全に、顔を真っ赤にして。

「……とりあえず。船室に、入ろうか」
「そうするか」

 言いながら、体を起こすヘンリー。
 私を、抱き締めたままで。

「……とりあえず。放して」
「……」
「……放さないと、攻撃する」

 声を低くして警告したところで、ヘンリーが渋々手を離し。
 連れ立って、船室に向かいます。


 ……今回は、ひとまず!
 私の負けみたいだけど!

 でも、これで勝負が決まったわけじゃ無いから!

 負けないから!! 
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