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私立アインクラッド学園

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第二部 文化祭
  第43話 きっと変わらない日々

 
前書き
そろそろ気づいてるかな~とは思うけど、僕の小説で«キャラ達がものすっごく幸せそうにしてるシーン»が出てきたら、それは大不幸or事件が起こる前兆です。

アリスの時とかそんな感じだよね──え、今? それはネタバレです~♪

そ・れ・か・ら、僕って言ってるけどれっきとした女の子です、僕っ娘です、桐ヶ谷和人きゅん超絶love!((最後なに 

 
「たああああっ!!」

 気合いと共に、細剣ソードスキル«ペネレイト»を発動させる。目の前の巨大なカエル型モンスターに命中。
 栗色の長い髪を少し邪魔くさく感じ、右手で払いのける。
 続いて和人が、下位ソードスキル«ホリゾンタル»をモンスターに打ち込む。
 ガラスの割れるような衝撃音。モンスターが力尽き、その身を四散させた。

「パパ、ママ、つよーい!」

 ユイが笑顔でパチパチと手を叩く。明日奈はにっこり笑い、ユイと同じ目線になるようにしゃがむ。

「ありがとう。ユイちゃんが応援してくれてたからだよー」
「だな。さすがに、愛娘にカッコ悪いところは見せられないからな」
「もー、キリト君ったら」

 そう言って、和人の肩を軽くパチンと叩く。すると、あまりにも大袈裟に痛がるので、今度は思いっきり足を踏んづけてやった。

「……今のはほんとに痛かった」
「誰かさんが余計なことをするからです」
「ふーん……」

 和人がまだ何か言いたそうに口をひん曲げているが、ここはスルーしておくことにする。
 ──と、明日奈は例の屋敷を発見し、そちらを指差す。

「あ、あれじゃない? ……ってキリト君、何してるのよ」

 和人の後ろ姿は、いつになく楽しそうだ。振り向いた顔に、にやりと笑みを浮かべる。

「アスナ、これ見てくれよ」
「ん? 何を?」
「これこれ」

 明日奈は、和人の手にある«これ»を一瞥し──

「こ……これ、なに?」
「さっき倒したカエルの肉! ゲテモノなほど旨いって言うからな。あとで料理してくれよ」
「絶、対、嫌!!」

 明日奈は叫ぶと、和人の手から«それ»をもぎ取り、勢いよく投げる。遠くでカシャーンという破砕音が聞こえた。

「……ッま、まだあるぞ!」

 諦めの悪い和人が、今度は両手いっぱいに«それ»を抱え込んで言う。
 ──一体どこから出してきたのよ!

「こ、これだけあれば……って、アスナ!?」
「いやぁぁぁぁぁぁ────────っっ!!」
「ああああああ!! 何するんだアスナ! 少しくらい置いといてくれても──」
「い、やあああああああああ!!!」

 悲鳴を上げながら、容赦なく次々と放り投げる。ついに、最後の1つをも消し去った。

「あっ! あああぁぁぁ……」

 世にも情けない顔で悲痛な声を上げる和人の襟首を掴み、明日奈はずんずんと歩き出した。

 **

「着いたねー、お屋敷」
「そうですね」

 和人がぶっきらぼうに言う。

「……キリト君、まだ拗ねてるの?」
「別にー」

 どう見ても未練がましそうだ。

「あんまり拗ねてると、明日からのお弁当は毎日日の丸弁当になるわよ?」
「う……だ、だから別に拗ねてないし」
「嘘吐いたら梅干しも抜きだからねー」
「なんか理不尽じゃないか……? ……ていうかな、ユイの手前、こんな話は止そうぜ」

 ちなみにユイは団栗収集に夢中で、何1つ聞いていなかったようだった。

「じゃ、行くか」

 和人が屋敷に足を踏み入れる。中は真っ暗だ。
 髪も服も真っ黒な和人が、簡単に闇にとけてしまいそうに見えた。
 明日奈はそれが怖くて、和人の手を掴んで、外へ引っ張り戻した。

「な、なにするんだよアスナ」
「……あんまり、1人でどこかへ行こうとなんてしないで」

 明日奈は遠慮半分、恥ずかしさ半分で顔を伏せ、目線だけを和人に向けて言う。
 ぱちくりと瞬きをした和人の瞳には動揺の色が浮かんでいて、その頬は少し赤い。慌てたようにふいっと顔を背ける、いつもは大人びた彼だけれど、今はなんだか少し子供っぽく見えた。
 明日奈は微笑ましさに唇を綻ばせ、ふふ、と笑った。

「な……なんで笑う?」
「ふふ、さあね」
「なんか嬉しそうだな……」

 じとっとこちらを見つめる和人をスルーし、その場でくるりと一回転する。

「そんなことよりキリト君。ここへ来てみたのはいいけど……」
「一体なにすればいいんだろうな」
「ここに来てみれば、なにか判ると思ったんだけどなあ……ユイちゃん、なんでもいいの。なにか思い出さない?」

 訊くも、案の定ユイは首を傾げるばかりだ。

「うーん……とりあえず、中に入ってみないか?」

 和人が困ったように──いや、実際困っているのだろう──言う。

「うう、でも怖いよー。だってキリト君、前に言ってたじゃない。タンスがひとりでにどうとか…」
「はは、あれは単なる冗談だって。……それに、いざという時はその、アスナとユイは俺が……ま、守るからさ」

 不器用な和人の、精一杯の言葉。
 ──単なる冗談だって
 それはきっと、明日奈を安心させる為の嘘。正直ありえない話でも、明日奈には分かる。
 けど、もう怖くない。和人が隣にいてくれるから。それに明日奈だって、和人とユイを守らなければならないから。

「じゃあわたしも、君やユイちゃんが怖い目に遭ったら守ってあげるね」
「……俺は別に、お化けとか幽霊は苦手じゃないぞ」
「細かいことは気にしなくてよし!」

 明日奈は微笑しながら言い、屋敷の扉を勢いよく開けた。

 **

「入ったはいいものの……」
「なにもないね……」

 和人と明日奈が溜め息混じりに呟く。対してユイは、なんだか余裕の表情だ。

「……ユイちゃん、怖くないの?」
「怖くないよ、ママ」
「怖いのか、アスナ?」
「そっ、そんなわけないじゃない!」
「そんなに怒鳴るこたないだろ……」

 そう言って、ふとユイに目を留める。

「……小さい頃からここにいたから、本質的には怖いと感じないのかもな」
「だとしたら、少しずつ記憶が戻ってくるかもね」
「だったらいいな……」

 和人の言葉に深く同意する。しかし、明日奈はその思いとは裏腹に、ずっと今のままがいいという思いもあった。
 その理由は──

「ね、キリト君。ユイちゃんの記憶が戻ったら、もちろん嬉しいけど……同時に、なにかが終わってしまいそうで……ちょっと、寂しい」

 明日奈は少し俯き、言う。

「だって……出会って間もないけど、ユイちゃんはなんていうか、本当にわたしとキリト君の子供のような気がしてきて……。もしユイちゃんの記憶が戻ったら、もう『パパ、ママ』なんて呼んでくれないだろうなって」
「ま、そうだろうな」
「……」
「でも、俺達がユイと過ごした日々は変わらないし、消せないよ。家族みたいにとはいかずともさ、また一緒に遊んでやったりすることはできるだろ?」
「キリト君……」

 明日奈は目を見開いた。そして思わず吹き出す。
 和人が傷ついたような表情をした。それもまた可笑しくて、更なる笑いを呼ぶ。

「……我ながらハズカシーこと言ったなぁとは思ってるけどさ、そこまで笑わなくたって……ていうかここ、笑う場面じゃないだろ。むしろもっと、こう……」
「ふふ。だって、君がそういうこと言うのって珍しいから」
「それを笑われると傷つくな」

 じとっと明日奈を一瞥し、ユイの方を向く。

「俺にはお前だけだよ、ユイ……ママはひどいからさぁ」
「ご、ごめんってば! キリト君を傷つけるつもりは……あははっ」
「言いながら笑う!?」
「まあまあ、気にしない気にしなーい。早く奥へ進みましょ」
「勝手ですこと……」
「別に、勝手じゃないもーん」

 ぶつぶつ文句を言う和人と、なんだか楽しそうなユイの腕を掴み、長い廊下を歩き出した。 
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