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勇者番長ダイバンチョウ

作者:sibugaki
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第6話 男は死ぬまで男を貫く! 古き極道の古き喧嘩道

 轟番はとても不機嫌であった。自室の布団の上に寝転び、ただただ天井の模様を見上げているだけ。そんな時間を過ごしていた。
 番の胴回りには分厚く包帯が巻かれており、その光景がとても痛々しく見られた。
 先日戦ったクレナイバンチョウとの戦いで負った傷は幸い骨にまでは到達しておらず、かなり痛むが2~3日の間安静にしていれば治る程度の傷で済んだのは幸いな事でもあった。
 だとしても、番の不機嫌さが晴れる要因にはならずにいる。例え女だとしても喧嘩に負けてしまった事は事実。その事実が番にはとても不快に思えていたのだ。
「アイツ……もう来なけりゃ良いんだが」
 番にとって女は天敵と言えた。扱い方も下手だし、第一番は女に手を上げる事が出来ないのだ。そんな番にとって先日戦った木戸茜は正に天敵と呼べる存在に他ならなかった。
「………」
 しばしの間、番は黙り込み考え事をし始めた。しかし、元々考える事とか頭を使う事の類が苦手な番が、そんな事など出来る筈もなく、次第に番の顔中に冷や汗が流れだしていく。
「駄目だ! 考えてたって埒が開く訳じゃねぇんだ!」
 このまま部屋に閉じこもっていては返って気が滅入ってしまいそうになる。それに、どの道暇を持て余す結果となる。別に動けない程の傷じゃないのに部屋に閉じこもるのは番らしくない。
 自分自身にそう言い聞かせつつも番は部屋を出る。不思議と家の中は静かだった。どうやら母と弟は出かけており、現在家の中には番だけのようだ。
 それならば今バンチョウと話してても何ら問題はなさそうだろう。
 そう内心思いながらバンチョウが居る筈の車庫へと繰り出す。其処では軽トラックのバンチョウが佇んでいた。
 そして、そのバンチョウを弟の真と母の恵が楽しそうに洗っている光景が見て取れている。
「どう? 綺麗になった気分は」
【最高の気分だ。感謝するぜ】
「バンチョウ、こっちも終わったよぉ」
 其処には楽しそうに語り合う真、恵、そしてバンチョウの姿があった。
 その光景を目の当たりにした番は思い切り空中でひっくりかえり地面に激突すると言うかなり器用なこけ方を見せつつ、足をひくつかせていた。
 その振動と音を察知した一同が番の方を向く。
「あれ、兄ちゃん何時起きたの?」
「もうお昼よ番。お腹空いたの?」
 何事もなかったかの様な顔で番を見る真と恵の二人。そんな二人に大して青ざめた顔の番が震える指を必死に伸ばしつつ二人を見て口元を振るわせた。
「ななな、何やってるんだバンチョウ!!!」
【すまん番。どうやら初めから二人にはばれてたみたいなんだ】
 慌てふためく番に対し、バンチョウは半ば諦めたような口調で説明した。どうやら既に番とバンチョウの事は恵にばれてしまってたらしく、弟の真も母の口からそれを聞き、そして今日、バンチョウの正体を明らかにしてしまった次第だったようだ。
 全く、幾つになっても息子が母に勝てる事はありえそうにないだろう。
「それよりも番!」
「な、何だよお袋……」
 凄んで見せたが声が震えている為に今一迫力がない。寧ろ何時も以上に弱弱しく見えてしまった。まるで獅子に睨まれた兎だ。
 無論、この場合では獅子は母恵で、兎は息子の番である事は当然の如くであり。
「お友達が出来たんなら紹介してくれても良かったじゃない。まして、それがお父さんの使っていた軽トラックだったら尚更じゃない!」
「い、嫌ぁ……普通は其処は驚くところじゃないのか? 普通
軽トラが喋る訳ないだろ? お前等驚かないのか?」
「驚かないと駄目なの?」
 番は返す言葉をなくしてしまった。母恵は芯が強い面があるが、反面どうしようもない程のマイペースなのだ。なので、時たまに全く話が噛み合わないと言った場面に遭遇する機会も実際少なくはなかったりする。
 まぁ、幸いこの町の主婦達は母のマイペースっぷりには既に慣れてしまっているらしく余り問題視していないようなのだが。
「とにかく、これからはバンチョウ君も家族なんだから、ちゃんと家族らしく接しなさいね」
【お、おう……】
「ん~~、そうなると、バンチョウ君は番や真の弟になるのかしらねぇ?」
【!!!、そ、それだけは絶対に嫌だぞ! 確かに俺は番と一緒に何回か喧嘩をした事はあるが、だからってまだ俺は番の舎弟になるつもりはねぇ!】
 恵の言葉にバンチョウが物凄く嫌そうな顔をして否定し始める。気のせいか白い軽トラが真っ青に染まっていくようにも見える。
 一応言わせて貰うと現状で番とバンチョウはゴクアク星人と戦う為に仕方なく手を組んでいる状態なだけであり、実質二人は味方でもなければ親友でもない。単に利害の一致しただけでこうして共に戦っているだけであり、共通の敵さえば今度は番とバンチョウとの戦いが待っている。
 元々はバンチョウも地球侵略にやってきた侵略者である事に他ならないのだから。
 そんなバンチョウにとって番の弟になると言う事は事実上バンチョウの敗北宣言となってしまう。それはバンチョウのプライド面的に絶対に認める訳にはいかないのだろう。
「そうなの? 残念ねぇ。折角バンチョウ君と一緒に生活出来ると思ったのに……」
【そ、それじゃこんなのはどうだ? 俺はとある事情であんた等の家の所有物に憑依しちまったんだ。って事は俺はあんた等の家に居候しているって事ならどうだ?】
「う~~ん、まぁ、それも良いかなぁ? 二人はどう?」
「別に良いんじゃない? 俺もバンチョウと話していると楽しいしさ」
「おいおい……良いのかよそう言う展開ってさぁ」
 ノリノリな恵と真に番は一人反応に困っていた。本心から言えば番は反対だった。現状でこそ番とバンチョウは互いに協力してゴクアク星人達と戦ってはいるが、実質的には二人は敵同士なのだ。
 そんな敵である筈のバンチョウ星人と一つ屋根の下で共に生活するなど御免被る。
 だが、幾ら番が否定したとしても恵や真が賛成している以上反論のしようがない。第一、この家のパワーバランスは一番が母なのだ。
 女を殴れない番にとって、女+母である恵には全く太刀打ちが出来なかったりする。
 強い男ほど案外弱点が多かったりする。
「はい、それじゃバンチョウ君は今日から我が轟家に居候に来た客人って事で決定ね。番もこれからはバンチョウ君にあんまり酷い事しちゃ駄目だからねぇ」
「うぐっ、わ……分かったよ―――」
 腑に落ちないが仕方ない。母が決めた事なのだから息子である番にそれを反論する資格など無いに等しいのだから。




     ***




 バンチョウの存在が轟一家に明るみとなってしまってから翌日の事。別にこれと言った変化などはなく、何時も通りな生活を送っていたりする。
 只一つ違う事と言えば、番とバンチョウが隠れて話し合いをする事がなくなった事位だったりする。
 そんな訳で、番とバンチョウは揃って町を練り歩いていたりしている。
「はぁ……お袋にゃぁ敵わねぇなぁ」
【天下無敵の番長にも弱みってのがあったんだな】
「るせぇ!」
 口を尖らせる番。こうも最近不機嫌になる要因が続いている為に日増しに番が不機嫌な顔をする機会が増えている傾向にあるのは事実だったりする。
 そんな不足な事態を払拭する為なのか、はたまた単に暇潰しの為なのかは分からないが、とにかく番は町に繰り出して気ままに歩いていたのであった。
 町では何時も通り平和な日常が続いており、道行く人々はそれぞれの日常を送っている。学生は友達と語らいながら歩いており、背広姿の人たちは携帯を肌身離さず耳元に近づけて額から汗を流しながら歩いていたりする。
 そんな感じの毎度変わらぬ番町の風景だったりする。
「は~~、退屈だぜぇ……どっかで誰かが喧嘩売ってくれねぇかなぁ」
【同感だな。最近ゴクアク星人の襲撃もねぇし、このままじゃ体が鈍っちまってしょうがねぇぜ】
 此処最近ゴクアク星人の襲撃はとんと止んでいる。平和な事に変わりないのだろうが、番達からして見れば退屈極まりない。血の気の多い二人にとっては正に地獄の日々と言えるのだろうか?
 そんな事をしている二人の横を、物凄いスピードで一台の消防車が駆け抜けていく光景が見えた。
 真紅のボディに白金のはしごと放水用のホースを取り付けた勇ましい姿の消防車に数人の消防員を乗せてひたすらに道を走っていく。
 その光景が番とバンチョウの目に留まった。
【番、さっきの赤い車は何だ?】
「あぁ、ありゃぁ消防車だな。火災が起こった場所に一目散に向って飛を消したり逃げ遅れた人たちを救助したりする男らしい車だぜ。ま、少年達の憧れの車って奴だろうな」
 あくまで簡潔に、かつ分かりやすく説明した番。その番の説明を聞き、バンチョウの目がこれまでよりも一層輝きを強めた。
【すげぇっ! 地球にはそんな男気溢れる車があったのか! 早速その消防車を追いかけようぜ】
「おいおいそう来るかよ? まぁ、退屈してたしそれも良いか」
 番は納得し、バンチョウの荷台に跳び乗る。それを確認すると、バンチョウはアクセル全開にして先ほど通り過ぎた消防車を追いかけていった。
 着いた先はとある中層ビルであった。かなり火の勢いが強いせいかビル全体が燃え上がっているようにも見える。
 まるで火柱だ。
「隊長! ビル内にはまだ被災者達が大勢取り残されているようです!」
「よし、まずはある程度消火してから内部に突入するぞ!」
 火災現場の付近にて数名の消防隊員達と先ほどの消防車が既に到着し、消火作業に当たり始めていた。丁度それとドンピシャのタイミングで番達も到着したのであり。
「お、良いタイミングだ。これから消火をするみたいだな」
【へへっ、どんな男気なのか拝見させて貰うぜ】
 野次馬気取りで消防隊の活躍を眺め始める番とバンチョウ。本来ならわれ先にと突っ込んで行きそうな二人だが、彼等にも一応弁えと言う言葉はある。
 今回のこれは火事と消防隊達のガチンコ喧嘩勝負だ。いわばタイマン勝負と言っても良い。その喧嘩に横槍を入れるのは男として余りにも無粋な行為になる。
 真の喧嘩番長を謡う二人はそんな真似は断じてしないのだ。
「隊長! 消火用ホースの取り付け完了しました。何時でも消火作業が行えます!」
「よし、聞いての通りだ! 頼むぞ、レッド」
【おう、ワシに任せておけぃ! 火事なんざぁワシが全部消火しちゃるわぁ!】
 気のせいだろうか? 隊長の指示に対し応対したのは、何と例の消防車であった。
 すると、消防車が突如勝手に消火用のクレーンを動かし火に向かい勢い良く放水し始めたのだ。
 この一連の動きを隊員達は誰一人やってはおらず、全て消防車単体で行っていたのである。
【オラオラオラァァァ! 消火じゃ消火じゃ消火じゃぁぁぁ!】
 気合の篭った怒号を張り上げながら消防車がひたすらに消火作業を行っていく。消火を始めてから数分と経たない内にビルの火災は徐々に弱り始めだし、やがて人の入れる位にまで鎮火をしだしていた。
「よし、突入するぞ! 要救助者の発見を第一に行動、常に二人一組で行動を忘れるな!」
「了解!」
 消火作業を消防車に一任し、隊員達は一斉に火災しているビルへと突入した。轟々と燃え上がる火に恐れる事なく挑むその姿には憧れすらも感じられる。
 その光景に野次馬達の誰もが憧れの目線を向けている中、番とバンチョウだけはギョッとした目でそれを見ていた。
「お、おいバンチョウ! 今、あの消防車……喋ったよなぁ?」
【間違いない! あの消防車も俺達と同じで外宇宙からやってきた奴等に違いねぇ!】
 どうやらあの消防車もバンチョウやドリル番長と同じ存在だったようだ。だが、となれば疑問が芽生えてくる。何故喋る消防車の存在に消防隊員達は何ら疑問を抱かないのだろうか?
 バンチョウが初めて喋った際には流石の番でも度肝を抜かせた程だと言うのに。
(ちと、探りを入れた方が良いかも知れないな)
 疑問を振り払う為、番は例の喋る消防車について調べた方が得策だと思い出す。
 もし、あれが番達にとって敵だと言うのならそのまま放っておく訳にはいかないからなのだから。




     ***




 消火作業を無事に終えた後、例の喋る消防車は消防隊隊舎にあるガレージにて納まっていた。その周囲には先ほどの消火活動に参加した消防隊員達が集まっており先の消火活動の成功を皆で祝っていた。
「お前等のお陰で無事に消火活動を終える事が出来た。各自休息を取り次の災害に備えてくれ」
「了解です!」
 隊長の労いの言葉を受け、隊員達が揃って敬礼の姿勢をとった後、隊舎内へと戻っていく。隊長はと言うと、一人残り消防車の前に腰を降ろした。
「お前も今回大活躍で助かったよレッド」
【水臭い事言うんじゃねぇよ大将! ワシとおまん等が揃やぁ消せん火災なんざありゃぁせんのじゃぁ!】
「頼もしい限りだ。だがお前も無理すんじゃねぇぞ。お前も奴等と同じ俺等『紅組』の一員なんだからな」
【分かっとるけぇ安心せぃ。わしゃぁそんじょそこらのヒヨッコより遥かに頑丈じゃ。ちょっとやそっとじゃビクともせんわぃ】
「そうかそうか。俺も今日は休むとするわ。お前も休んでおけよ」
 そう言い、隊長もまた隊舎内へと入っていった。誰も居なくなったガレージ内にたった一台残された消防車もまた、次なる災害に備えて束の間の休息を取ろうとしだす。
「よぉ、眠ろうとしている所で悪ぃな」
【んぁ?】
 思わず声を挙げてしまいハッとなる消防車。その目の前には轟番が立っていた。
 必死に言い訳を探ろうとしたがすぐに諦めた。どうやら彼は知っているようだからだ。喋る車について。
【おまんはワシが言葉を発しても何も驚きゃぁせんのかぁ?】
「まぁな。何せ家にも同業者が居るもんでな」
【???】
 言葉の意味が今一理解出来ていない消防車。そんな彼の前に一台の軽トラが姿を現した。
 無論、バンチョウである。
【その喋り方。お前、あのゴクドウ星人か?】
【そう言うおまんはバンチョウ星人か? しかし何でまたおまんみたいな輩がこの星に居るんじゃ?】
【た、只の観光だよ観光!】
 必死に言い訳してみたが嘘である。焦りながらも話を逸らすかの様にバンチョウは話を続けた。
【それよりも、天下無敵の極道と謡われたゴクドウ星人が何でまた消防車なんかになってんだよ?】
【ま、ワシにも色々とあったんじゃよ】
 何所か遠くを見つめるような感じに消防車ことゴクドウ星人は呟いた。
 どうやら訳ありのようだ。
【話してみてくれよ。この星には俺みたいな同業者が少ないんでな。少しでも同じ仲間が居た方が俺としても気が楽になるぜ】
【そかぁ。そなら話すとするわぁ】
 軽く一呼吸を起き、ゴクドウ星人は語り始めた。


 彼の名称である通り、ゴクドウ星人とは全宇宙を股に駆けて仁義を通す根っからの極道のことなのだ。
 中でも彼は一、二を争うほどの実力者でもあり、向う所敵無しと謡われる程の逸材でもあった。
 そんな彼はかつてとある宇宙にその名を轟かしていた【星雲組】と呼ばれる組に奉公しており、其処の舎弟頭を勤めていたのであった。ゆくゆくは次期組長に期待されていた程の存在であったのだが、其処である不幸が起こった。
 星雲組の会長が突如としてこの世を去ってしまったのだ。ゴクドウ星人にとって本当の親父同然の存在だった会長の死は、ゴクドウ星人にとってとても辛い現実であった。
 しかも、彼への不幸はそれだけでは納まらなかった。
 会長が居なくなってしまった為に次期会長として選ばれたのはその息子であった。だが、彼に前会長ほどの力がある訳ではなく、彼自身も任侠や仁義などよりも金儲けにしか目がない男であった。
 そんな男が、事もあろうに自分達の組を極悪組に売り渡してしまったのだ。
 当時二大勢力として長い間争い続けてきた星雲組と極悪組。仁義と任侠を重んじ、弱きを助け強きを挫くをモットーとしていた星雲組に対し、弱者だろうと何だろうとお構いなしに略奪と謀略を繰り返す正真正銘の極悪集団である極悪組。この二大勢力は互いに認め合う事などなく激しい抗争を繰り広げていたのだ。
 だが、前会長が急死し、新会長として就任した息子の下に、極悪組は多額の金を振り込んできたのだ。無論、この金は組の買取金である事に他ならない。こんな汚れた金など、本来なら受け取る筈がない。
 だが、新会長はそれを受け取ってしまった。金に目が眩み、迷う事なく星雲組を売り払ってしまったのだ。
 結果として、星雲組の土地や権限、更には人員に至るまで全てが極悪組の傘下となってしまったのである。
 新会長もまた、極悪組の下部幹部に降格させられる始末となってしまい、最早宇宙の殆どは極悪組が掌握したも同然の状態となってしまった。
 そんな中、只一人その現実を認められなかったゴクドウ星人は、たった一人で極悪組に戦いを挑んだのだ。
 だが、多勢に無勢。如何に最強の極道と謡われた彼であっても、宇宙規模の勢力に太刀打ち出来る筈もなく、袋叩きにあってしまったのだ。
 半死半生の状態のまま、ゴクドウ星人はおぼつかない足取りのまま訪れたのがこの地球だったのだ。
 そして、目が覚めるとゴクドウ星人の体は赤く燃える消防車と合体してしまっていたのであった。
 しかも、驚きの余り声を挙げてしまったのを、偶然整備をしていた消防隊隊長に聞かれてしまったのである。
 それこそ、ゴクドウ星人と彼等消防隊との出会いでもある。当初は勝手に入り込んでしまった手前上、すぐにでも此処を立ち去ろうと考えていたゴクドウ星人であったが、隊員達や隊長にその男気を気に入って貰えたらしく、共に消火活動を手伝って欲しいと誘いを持ちかけられたのだ。それ以来、かつての極道の姿は成りを潜め、今はただ、燃える炎に喧嘩を売る真っ赤な消防車としての第二の人生を歩んでいるのであった。




【これが、わしがこうしておるこれまでの経緯っちゅう話じゃ】
 一通り話し終えたので一息つくゴクドウ星人。その話を聞いていた番とバンチョウは揃って涙を流して感涙していた。
「お前、相当苦労していたんだなぁ……久しぶりに男に出会った気分だぜ」
【にしても極悪組の奴等、許せねぇぜ。今にも俺の熱血ボルテージが沸騰しそうになってきたぜ】
 改めて極悪組に対する怒りが込み上げてくる番とバンチョウであった。
 そんな矢先、喧しい音量で警報が鳴り響く。危険を知らせる音色であった。それを聞いた途端、番達の顔色が変わりだす。
『火災指令! 火災指令! 番町全体にて大規模火災が発生! 全消防隊は直ちに出動し、消火活動並びに救助活動を開始せよ!』
「大規模火災だと! まさか……」
 番の脳裏に不安が過ぎった。こんな短時間に大規模な火災を人間が起こせる筈がない。出来るとしたら恐らく奴等しか居ないだろう。
 そう、ゴクアク星人達の事だ。
「火災発生だ! 行くぞお前等!」
 間を置かずに先ほどの消防隊と隊長達が姿を現す。そして、皆がゴクドウ星人が憑依している消防車へと飛び乗る。
「頼むぞレッド! 俺達が遅れたらその分多くの市民が苦しむ事んなっちまうからな」
【おぅ、わしに任せるんじゃぁ! 炎と喧嘩じゃぁ!】
 気合充分のまま、レッドと消防隊達が燃え上がる番町へと走る。それを後ろで見ていた番とバンチョウもまた燃え盛る番町へと向った。
 ただし、二人は消火活動を行うのではなく、火災の元を断つ為にである。
 番とバンチョウの読みは当たっていた。大規模火災を引き起こしていたのは極悪組の組員が行っていた放火であった。
【ゲッゲッゲッ! 燃えろ燃えろ! 全て灰になっちまえぇい!】
 極悪組の組員であるホウカ星人が下卑た笑みを浮かべながら両腕から2万度の火炎を放射し町を焼き払っていく。
 其処へタイミング良く番を乗せたバンチョウが到着する。辺りは既にかなり火が燃え広がっている惨状であった。
「ひでぇ、久々に出てきて早々こんな真似しやがって! 絶対に叩き潰してやる!」
【おう! 男チェンジ!!】
 ホウカ星人の目の前で軽トラック姿からロボット形態のバンチョウへと変形を果たす。久しぶりの出番であった。前回のクレナイバンチョウの頃とは違い今度の敵には一切の容赦をする必要はない。
 なので番とバンチョウの血が沸騰してくる感覚を覚えているのだ。
【行くぞ、放火野郎! 久々に血が騒ぐ喧嘩だぜ!】
【ふん、これだから貴様等バンチョウ星人は低脳なのだ。これは喧嘩ではない。ビジネスなのだよ】
【ビジネスだと? どういう事だそりゃ?】
【簡単な事だ。この美しい星は大層高値で売れる。しかしお前等地球人が大勢居ては値打ちが下がってしまう。だからこうして表面の掃除をしているのだよ】
【チッ、結局は金目的かよ。やる事がせこい上に男としても最低な奴等ばっかなんだな。極悪組って奴等は】
 心底吐き捨てる思いでの言葉だった。奴等は最早番達にとって敵として認識する事すら出来ない。ただの外道の群れだ。それも、己の野望、欲望を満たす為だけに多くの人々を苦しめ、土地を奪い尽くすハイエナの様な奴等。
 そんな奴等に男気も任侠も仁義もある筈がない。こんな奴等にこれ以上この地を踏ませる訳にはいかない。
【見せてやるぜ! てめぇらが低脳と馬鹿にした喧嘩の強さって奴をよぉ!】
 両の拳を握り締め、バンチョウは大地を走った。そんなバンチョウに向かい、ホウカ星人は両の手から2万度にも相当する猛烈な火炎を放った。
 放たれた炎はバンチョウに直撃し、その体を赤く染め上げていく。
【ぐおぉっ! な、何て熱さだ!】
【俺様の炎は2万度の熱量を持ってるんだ! 例えバンチョウ星人であったとしても長い時間浴び続けていたら忽ち黒こげだぜえぃ!】
 ホウカ星人の言う通りだった。バンチョウの耐熱温度はおよそ6千度が限度だ。そのバンチョウの装甲に2万度の高熱火炎は耐えられる温度ではない。まともに浴び続けていたら本当に黒こげになりかねない。
【このままじゃやべぇっ! こうなったら一気に距離を詰めて……】
【そうは行くかぁ! 火力アァップ!】
 突撃しようとしたバンチョウに対し、更に火力をアップさせた炎を放ってきた。火力だけでなく炎の勢いも増した為に、それを諸に浴びたバンチョウは後方へと吹き飛ばされてしまった。ビルにもたれかかるように倒れこんだバンチョウに向かい、更にホウカ星人が炎を浴びせつけてきた。
 バンチョウの装甲が徐々に溶け出して来た。しかし、逃げようとしても猛烈な勢いで噴出す火炎の為に全く身動きが取れずにいた。
 丁度その頃、付近で消火活動を行っている紅組の消防隊であたが、火の回りが恐ろしい程に早く、とても消火が追いつかない状況に追い込まれていた。
「駄目です隊長! 全然消えるどころか勢いが増すばかりですよ!」
【ばっきゃろぉい! わしらが此処で諦めてどうするんじゃ! わしらは天下の紅組じゃぞぉ! その紅組がこんな程度の放火で諦めてどうするんじゃぁ!】
「レッドの言う通りだ! 気張れよお前等!」
 隊長とレッドが激を飛ばす。だが、火の勢いは増すばかりだった。それどころか、放火犯でもある極悪組の組員を倒そうとやってきたバンチョウでさえ危機的状況の立たされている。
 その光景をレッドはまじまじと見せられていた。
(悔しいのぉ……こげな状況じゃと言うんに、わしゃ何もする事が出来んとは……)
 歯痒い気持ちがレッドの中に残る。かつては宇宙を駆け回った札付きの極道だった自分が、目の前で悪事の限りを尽くしている輩に対して手拱いている。そんな現状がレッドには溜まらなく悔しかったのだ。
「ボケっとするなレッド!」
【うっ! す、すまんのぉ!】
 どうやら手が遅れていたのを隊長が察したのだろう。隊長の怒号が飛び込む。再度消火活動を再開し始めた。
 正にその時、丁度隊員達の真上にビルの瓦礫が落下してきたのだ。
 瓦礫は地響きを立てて紅組達の元へと落下してしまった。幸いにもレッドはそのすぐ横に居た為に被害はなかったのだが、紅組の殆どがその瓦礫の下敷きになってしまっていた。
【た、大将! おまんら!】
 レッドが見た時、其処には殆どの隊員が身動きの取れない状態に立たされていた。更にその瓦礫はかなりの熱量を持っている。このままでは隊員全員が焼け死んでしまう。しかし大きさが大きさだ。人間の力ではもてない。
 だが、頼みのバンチョウはとても手伝える状態じゃないし、自分は只の消防車だ。何も出来ない。
【待っとれぃ! すぐにこげな瓦礫退かしちゃるけぇのぉ!】
 諦めて溜まるか。その思いと共にレッドは瓦礫に向かい車体を突撃させた。しかし、瓦礫はビクともしない。更に火の勢いが増して行く。隊員達の顔に苦悶の表情が浮かび出して来た。
「馬鹿野郎! 何やってんだレッド! お前だけでも消火をしやがれ! この町を火の海にしてぇのか!」
【大将! わしは、前に奉公していた組を捨てた情けない男じゃ! じゃけんどなぁ。もうあんな思いはしたくないんじゃ! やらなくて後悔するなんざ男でも極道でもない! ワシは宇宙にその名を轟かした天下無敵の極道じゃ! その極道が、この程度の炎でビクついていられる訳ないじゃろうがぁ!】
 レッドの魂の叫びが木霊した。その時だった。消防車であるレッドの体内で何かが熱く燃え上がってくる感覚が感じられたのだ。
 回りの炎とは違う別の熱量。まるで魂が燃え上がってくる感覚をレッドは感じ取っていた。
 そして、レッドの体中に未知なる力が溢れ出てくる感覚も同じ様に感じる。まるで、かつての極道であった頃の様に溢れんばかりのパワーが漲ってきたのだ。
【なんじゃぁこの懐かしい感覚は。長い間忘れてたような血が沸騰してくるような感覚じゃぁ! ぬおぉぉ!】
 続いてレッドが驚いたのは自身の体であった。先ほどまで消防車の体だった筈のレッドのボディは瞬く間のその姿を変え、巨大な人型の巨人へと変貌していたのだ。
 真紅の燃えるボディに燃える瞳。正しく人型の巨人へと変貌していたのだ。
【なんじゃか分からんがこれなら……ぬおぉぉぉ!】
 レッドは自分の両手を使い紅組達の上に被さっていた瓦礫を持ち上げた。自分のより遥かに巨大な瓦礫も難なく持ち上げてしまう。凄まじいまでのパワーであった。
「た、助かった……」
「レッド、お前……」
【大将、どうやらワシァ根っからの極道もんらしいんじゃ。あげな悪どい事してんのを見てると腹わたが煮えくり返りそうになるんじゃ。ちぃとばかしあの放火野郎をぶちのめしてくるけぇ、消火はその後じゃ!】
「おう、行って来いレッド! それまで俺達で出来る限り消火をしておいてやる! お前は気兼ねなく喧嘩をして来い!」
【恩に着るわぃ、大将!】
 隊長から許可を貰い、レッドはホウカ星人とバンチョウの元へと向った。自分も戦いに参加する為に、滾る血に従いレッドは走る。かつて宇宙を震撼させた無敵の極道が、今此処に復活したのである。




     ***




【ひゃっはっはっ! それそれぇ、もうすぐ黒こげになるぞぉ!】
 ホウカ星人の下卑た笑みが浮かぶ。身動きが出来ないバンチョウはただただ燃え盛る炎の中で苦しみもがくしか出来ない。そんなバンチョウに向い無情にも2万度の炎を浴びせ続けるホウカ星人。
【待たんかいわれぃぃ!】
 その時であった。ホウカ星人の真横から突如として真っ赤な巨人が跳び蹴りを放ってきた。猛烈な勢いで飛んできたそれに対応などしてある筈もなく、そのままぶっ飛んでいくホウカ星人。
 ようやく炎から解放されたバンチョウが地面に方膝を付く。其処へ先の赤い巨人が歩み寄ってきた。
【生きとるかぁ? 若造】
【あ、あぁ……助かったぜ……って、あんたは?】
【おぅ、ワシん中にもまだ燃える魂が残っとったようじゃのぉ。ワシもこの喧嘩に参加させて貰うわぃ】
 真紅のボディが示す通り、この巨人の魂は真っ赤に燃え上がっているようだ。何とも心強い仲間の登場であった。
 そうこうしていると、先ほど蹴り飛ばされたホウカ星人が起き上がってきた。
【よくもこの私を蹴り飛ばしてくれたなぁ! お前も黒こげになっちまえぃ!】
 激怒の思いと共にホウカ星人が今度はレッドに対し先ほどと同じ勢いの炎を放ってきた。
 猛烈な勢いの炎がレッドを包んでいく。バンチョウですらその炎には耐えられないのだ。だが、その炎を浴びながらもレッドは意に返さず一歩ずつホウカ星人に向かい歩き出して来たのだ。
【な、何故だ! 何でお前は黒こげにならないんだ!】
【当たり前じゃ! このワシに、その程度の炎が効く訳ないじゃろうが!】
【そ、そんな馬鹿な! 2万度だぞ! 2万度の火炎を受けて全く動じない筈がない!】
【温度なんざ関係ないんじゃ! この体になったその日から、紅組の一員になったその日から、わしの炎との戦いは始まったんじゃ! おまんのちんけな炎で黒こげになる程、ワシの体と魂は柔じゃないんじゃぁぁ!】
 炎の中から現れたのは怒号の表情を浮かべているレッドの姿だった。その姿にホウカ星人は恐怖しだす。その直後であった。突如ホウカ星人の足元が崩れだし、下半身が地面にめり込んでしまったのだ。
【な、何だこれは! か、体が埋まっていく?】
【おぉっと! ついつい彫りすぎちまったみてぇだなぁ!】
 声と共に地面から現れたのはあのドリル番長であった。どうやら地面をひたすらに掘っていく内にその穴に引っ掛かってしまったのだろう。何はともあれ、これでもう奴は逃げる事が出来ない。
 そんなホウカ星人の前で、レッドは腕をバキバキと鳴らし始めた。
【覚悟は出来とるじゃろうなぁ……こんの放火魔がぁ!】
【ひぃぃ! い、命だけは……命だけはお助けをぉ~~】
 完全に戦意を喪失してしまったホウカ星人。そんなホウカ星人の頭を鷲づかみにした後、猛烈な勢いでレッドは遥か上空へと投げ飛ばした。
【これに懲りたら二度と来るんじゃねぃ!】
 この言葉を添えて。猛烈な勢いで投げ飛ばされたホウカ星人はそのまま宇宙へとぶっ飛んで行った。と言うそうだ。
【ふん、暫く振りの喧嘩じゃけぇワシも随分甘くなったのぉ。さてと、そんじゃ消火じゃ消火じゃぁ!】
 意気揚々とレッドは消火活動へと移った。そんなレッドを見た後、ドリル番長はバンチョウの元へと歩み寄ってきた。
【よぉ、大丈夫かぁ?】
【へっ、久々だったせいか良い所を全部持っていかれちまったみてぇだな】
 ドリル番長に肩で担がれるようにして立ち上がるバンチョウ。今回はレッドに活躍の場を持っていかれてしまったようだ。
 だが、そのお陰でまた一人心強い味方が増えてくれた事になる。
 かつて宇宙を震撼させた天下無敵の極道にして、今は炎に喧嘩を売る紅組の一員。
 その名はレッド。そう、彼こそ燃える炎の番長【レッド番長】なのだ。



     つづく 
 

 
後書き
次回予告



「またあのスケ番が喧嘩を売ってきやがった! しかも今度は美智を人質に取っただとぉ!?
 幾ら女でももう勘弁ならねぇ! そんなに白黒つけたいんだったら望み通り相手になってやらぁ!」


次回、勇者番長ダイバンチョウ

【再来のスケ番長!? 男は喧嘩に全力を尽くす者也】

次回も、宜しくぅ!
 
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