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もう一度空へ

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第一章

                   もう一度空へ
 リュキアの近くにあるとある村にある男が潜んでいた。
 まだ若いが足が悪くいつも右の方を引き摺って歩いている、巻き毛の金髪に青いめと引き締まった長身に長い手足を持っている。
 顔立ちは整い気品がある、勇ましさもあるいい顔だ。
 だが彼はいつも沈んだ顔をして村の端に潜んでいた、ただ一人その悪い足でも何とか鍛冶をしてそれで暮らしていた。
 その彼にだ、村人達は時々聞いた。
「あんた何者だい?」
「私か」
「そうだよ、もうこの村に来て何年か経つけれどな」
 名前も過去も語らない、それで聞いたのだ。
「誰なんだい、一体」
「私は誰でもない」
 男はいつも俯いてこう答えた。
「ただの鍛冶屋だ」
「それがあんたの名前かい?」
「そう思ってくれ」
 こう言うだけだった。
「私のことはな」
「そうか、じゃあ鍛冶屋さんでいいんだな」
「そう呼んでくれ」
 男はいつも村人達にこう答えた。
「私はそれでしかないからな」
「そうなのかい、じゃあな」
「何か打つものがあったら言ってくれ」
 やはりこう言うだけだった。
「それでな」
「わかったよ、それじゃあな」
 村人達も彼の頑なな態度にこう返すだけだった、男は何も語らず何も言おうとしなかった。彼のことは誰も知らなかった。
 だが彼等も愚かではない、それで男のいないところでこう話すのだった。
「あの人は只の鍛冶屋じゃないな」
「ああ、それは間違いないな」
 こう仲間内で飲みながら話すのだった。
「あの身体はかなり鍛えられてきたな」
「手も足も長いし背も高い」
「とにかく身体つきがいい」
「しかも気品もある」
 ただ精悍なだけではなかった、このことも見られていたのだ。
「尋常じゃない気品だな」
「まるで王様みたいだな」
「本当に普通の人か」
「並の鍛冶屋じゃないことは間違いないだろうな」
 こう話すのだった、誰もが彼を普通の鍛冶屋とは思わなかった。
 しかし男は何も語らない、ただの鍛冶屋として村の外れにいるだけだった。何も語らず何も見せようとしない、そうするだけだった。
 だがある日のことだった、リュキアからとんでもない話が来た。その話はというと。
「えっ、キマイラ!?」
「キマイラが出て来たのか?」
「まさか、あれは退治されたんじゃないのか」
「死んだ筈だろ」
「あれとは別のキマイラらしい」
 キマイラは一匹ではなかったというのだ、かつて倒したキマイラの他にもいたというのだ。
「リュキアやその辺りを荒らし回っているらしい」
「それで人や家畜を襲い食っているのか」
「口から吐く炎で全てを燃やすのか」
「しかも尾が蛇でその毒もかなりのものだというぞ」
「そんなのがこの村に来たらまずいな」
「かなりな」
 こう話すのだった、彼等も。
 それで村はキマイラが来る時に備えて武器を用意することになった、それで鍛冶屋の男に口々に言うのだった。
「剣を作ってくれるか」
「槍が欲しい」
「楯だ、楯」
「俺は斧だ」
「弓矢を頼む」
「キマイラが出たらしいな」
 男は彼等のその言葉に顔を向けて問うた。 
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