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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  九十一話:神の試練

 鎖の鞭(チェーンクロス)を装備したヘンリーと、刃のブーメランに持ち換えたスラリン(私がマリアさんの守りに専念するので交換しました)の集団攻撃に、ピエールとコドランの高火力の一撃。
 流れ弾的な被害を心配するまでも無く、マリアさんを守る私の目の前で、敵がバッタバッタと薙ぎ倒されていきます。

 ゲームで言ったら主人公を馬車に入れて、仲間のAIに戦闘を任せきってる感じ?
 私、いらない子?みたいな。
 ヘンリーの朝練に付き合ってる(らしい)せいか、スラリンも思ってた以上に強くなってるし。
 昨日ちょっと考えた、ヘンリー主役、私脇役っていうのが、色々と洒落にならない感じに。

 ……うん、まあ。
 こんなに頼りになる仲間に恵まれたというのは、ありがたいことだよね。
 開き直って、マリアさんと仲良くしてよう。

「皆さん、お強いんですね」

 マリアさんがほうっと息を吐き、感心したように呟きます。
 そこはヘンリーの勇姿に「ぽっ……」となってフラグのひとつも築いて頂きたいところですがもう無理なんでしょうね、わかってますとも。

 などと思いつつ、当然そんなことは言わないで普通に返答します。

「そうですね。ヘンリー以外は、仲間になって日が浅いので。私も少し、驚きました」

 なんか、塔に入る前より張り切ってるような気すらする。

「そうなのですね。私がドーラさんを煩わせてしまって、申し訳ないと思っていましたけれど。これなら、安心ですね」
「煩わせるなど、とんでもない。ご面倒をおかけしているのは、こちらですから。ここからでも必要なら攻撃も補助もできますし、マリアさんは何もご心配なさらないでください」
「はい。ありがとうございます」

 また嬉しそうに顔を赤らめるマリアさんと、微笑みあいます。
 着々と好感度が上がっているようで、大変嬉しいのですが。

 何故これが、ヘンリーとの間に起こらなかったのだろう。
 イケメンだよね?ヤツも。
 私のイケメン度が、高すぎるのだろうか。
 幼女も本物であるはずのヤツを差し置いて、私を王子様とか言ってたし。
 ヤツですら、私の隣に並べば霞んでしまうというのか。
 実際は女である以上、少女が夢見る優美な理想の王子様というものには、確かに男装した私のほうが近いかもしれないが。
 逞しさという点なら性別の差で向こうの圧勝だが、その辺は好みの問題もあるし。

 ……まあ、私と別れて、城に残れば。
 王族効果もあって普通にモテて、いい嫁も見付かるだろう!
 私のせいじゃない!
 ヘンリーの積極性だって足りなかったし、マリアさんが落ちなかったのは、決して私のせいなんかじゃない!!

 と、また内心で言い訳をしつつ、適度に道に迷いながら宝箱も回収して、最上階を目指します。
 鱗の盾があったので、いまだに皮の盾だった私が持ち換えて。
 ピエールがデフォルトで持ってた盾も、鱗の盾程度の守備力はあるという話だったので。

 この塔で出現するホイミスライムは、ここを逃すとしばらく会えないので、ゲームなら馬車待機の回復要員として粘ってゲットするところですが。
 現実問題として、回復だけの仲間の必要性を、現時点で感じないというか。
 レベルとの関係はよくわからないが、十年の修業の成果で私の魔力がかなり上がって、ちょっとやそっとじゃ切れないし。
 私になにかあって当座を凌ぐ必要が出たとしても、ピエールがいるし。
 特に今はマリアさんがいるから、レベル1のホイミンを守りながら攻略するのも厳しいので。ゲームみたいに一人で馬車に向かわせて、大丈夫とも思えないし。
 ホイミンも可愛いので少々残念ではあるが、また機会があればということにしよう。

 とか考えてる間に、ヘンリーが怪我をしたようです。
 討ち漏らしてこちらに向かって来そうになった魔物を体を張って止めて、その隙にピエールが倒して戦闘は終了しましたが。

「ヘンリー!大丈夫?治すから、こっち来て」

 普段なら、自分から寄って行くところですが。
 マリアさんを連れて前に出ることも、一人で置いて行くこともしたくないので呼び寄せます。

「うわ、結構派手に切れてるね。痛かったでしょ?少しくらいなら、こっちに来ても大丈夫だから。無理しないで」

 平気そうな顔で歩いてきたヘンリーでしたが、怪我の状態を見れば痛くないわけが無いという有り様で。
 治しながら、気遣いますが。

「そっちにやったらお前が無理するだろ。俺なら、大丈夫だ」

 無理するのがヘンリーになるか私になるかの違いなら、別にヘンリーがしなくてもいいのに。
 そもそもこっちに来たからって、必ず私が怪我するとも限らないのに。

 でも、そこで私が失敗したらマリアさんが怪我するんだから、やっぱり頑張ってもらったほうがいいのか。

「ごめんね。ありがとう」

 状況的に仕方なくても、痛い思いをしてるのはヘンリーなので。
 これならマリアさんをヘンリーに任せて私が前で戦ったほうが良かったかなあ、と少々の後ろめたさを感じつつ、上目遣いで見上げると。

「だから大丈夫だって。お前じゃなくて、良かった」

 微笑んで言いながら一瞬私を抱き締め、すぐに前に戻って行くヘンリー。

 ……なぜ今、抱き締められたのか。
 最近、スキンシップ激しくないか?
 どうせラインハットまでのことだと思って、色々と油断しすぎただろうか。
 マリアさんもいるのに、その辺は気にしないのか。

 と思って横目で見ると。

「まあ……。ヘンリーさんたら、積極的……」

 と、今さら「ぽっ……」となってヘンリーを見送っているマリアさん。

 え?フラグ?では無いよね?
 まさかの、腐女子?
 いやいやまさかそんな、マリアさんに限って。

「……マリアさん?」
「あ、申し訳ありません。参りましょうか」

 声をかければすぐに戻ってきて、逆に私を促してくるマリアさん。

 良かった、普通だ。
 やはり、腐っては無いらしい。
 腐女子が悪いとは言わないが、マリアさんにはそうであって欲しく無い。


 などと妙な安堵を感じつつ更に先に進み、最上階に到達します。

 鏡が祀られている祭壇までの足場が無いように見えていて、でも実は見えない床があるという、仕掛けのある場所ですが。

「あれが、目的の品にござりますか。飛び越えるには、(いささ)か距離が有りすぎますな。どうしたものか」
「おいらなら、行くだけは行けるけど。おいらじゃ、滑って落としそうなんだよねー。落としたら割れるよね、アレ」
「ピキー」

 仲間たちが、頭を悩ませてくれてますが。

 知ってました的な感じで進み出るのもどうなのか。
 どっかで情報聞けた気もするが、特に聞いてこなかったし。
 ここはやはり、マリアさんのフラグ的な発言を待つべきか。
 と、ヘンリーと顔を見合わせ、なんとなく意見を一致させます。

 すると、マリアさんが期待通りに口を開いてくれます。

「……この塔の言い伝えによると、己れの見たことしか信じられぬ者は、神の祝福を受けられないそうです。……今こそ、目に見えるものを疑ってみるべき時なのでしょう」

 決然と前を向き、歩き出すマリアさん。
 途切れた通路の端で、一旦立ち止まります。

「……これが、神の試練なら。きっと、道はあるはずです。私は、神を信じます」

 深呼吸して、何も無いように見える空間に踏み出します。

「マリアちゃん、危ない!」
「マリア殿、お気は確かか!」
「ピキー!」

 焦って駆け寄り、手を伸ばす仲間たち。

 その手を逃れるようにマリアさんは歩き続け、立ち止まって振り返ります。

「大丈夫ですわ。ほら」

 空中に浮かんだように見える状態で、穏やかに微笑むマリアさん。
 マリアさん自身の清楚な美しさと相俟(あいま)って、なんとも神秘的な、美しい光景です。

 仲間たちが、驚きます。

「え?マリアちゃん、飛べたの?」
「なんと……!これは、驚きましたな……!」
「ピキー……!」

 更に、笑みを深めるマリアさん。

「さあ、鏡はすぐそこですわ。参りましょう」

 再び前を向き、マリアさんが足を踏み出します。

 って、そこは。

 細かいことを考える前に体が動いて、マリアさんに駆け寄ります。

「きゃ……」
「マリアさん!」

 この見えない床、嫌らしいことに真ん中に穴が空いてるんだった。
 忘れてるとは、迂闊だった。

 と頭の隅で考えながら、駆け寄った勢いでマリアさんに飛び付き、なんとか空中で捕まえます。

「ドーラ!!」
「ドーラ様!!」
「ドーラちゃん、マリアちゃん!!」
「ピキー!!」

 ああ、各方面に申し訳ない。

 とにかく、マリアさんだけは守らないと!! 
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