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ハーブ

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第七章


第七章

「この仕事はできないわ」
「その通りだな」
「だからよ」
 そしてまた言うのだった。
「行かせてもらうわ」
「楽しいゲームのはじまりだな」
 本郷はあえて軽くかつ強気に彼女に言ってみせた。
「それじゃあな」
「ええ、じゃあ」
「行くとしよう」
 役が扉に手を当ててそこを開いた。三人はすぐに部屋の中に踊り込んだ。
 するとであった。部屋の窓のところにそれが座っていた。それは白く透き通る様な衣を着て薄い色のブロンドの髪を長く伸ばした美女だった。その美女がアイリッシュハープを手にそこに座っていた。
 彼女を見てだ。三人はすぐにわかった。それも全てが。
「御前か」
「わかったのね」
「すぐにわかることだ」
 その美女にこう返した本郷だった。
「それだけの妖気を放っていればな」
「そういうことね」
「そういうことだ。そしてだ」
 本郷の問う声が鋭いものとなる。その手には既に刀が抜かれ構えられている。
 その中で彼は美女に対してさらに問うた。
「聞きたいことがある」
「何かしら」 
 声はソプラノであった。涼しげであり清らかでもある。まさに歌う様な感じだ。顔立ちといいまるで妖精である。だが恐ろしいまでの妖気が彼女のそれを禍々しいものに変えてもいた。
「それは」
「何故殺す?」
 問うのはこのことだった。
「人を殺すのは何故だ?」
「それに理由が必要かしら」
 これが返答だった。
「人を殺すのに」
「何っ!?」
「殺したいから殺す」
 その涼しげな笑みと共の言葉である。
「それだけよ」
「それだけか」
「そうよ、それだけよ」
 そして次の言葉は。
「妖精は行動に理由なぞ必要としないものよ」
「必要ではないか。そうだな」
 美女のその言葉に頷いたのは役だった。
「死の妖精にとってはな」
「私が誰かもわかるのね」
「それだけの妖気を放つ妖精といえばだ」
 役はそこから分析したのだ。その妖気からである。
「それ以外にはない」
「だからなのね」
「理由もなくただ殺したいから殺す」
「それが私よ」
「それこそが死の妖精だからな」
「では私がここにいる理由は」
 妖精はそれについては理由があると述べてきた。そうしてそのうえで話すのだった。
「わかるわね」
「充分過ぎる程ね」
 今言ったのはアンジェレッタだった。
「よくわかるわ」
「そうなの。それはなの」
「人を殺すには人がいる場所にいなければならない」
 これは当然のことだった。人を殺すのに人がいない場所にいてはどうしようもない。貝殻を拾うのに砂浜に行かなければならないのと同じ理由である。
「だからよ」
「その通りよ。ここにいる住人を待っていたけれど」
「生憎だったな」
 本郷が一歩前に出て言ってみせた。
「来たのは俺達だ」
「いいことよ。殺すのが一人ではなくなったから」
 顔を微笑まさせての言葉だった。
 
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