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蘇生してチート手に入れたのに執事になりました

作者:風林火山
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蘇生はゲームの中だけにして下さい。チート?ゲームでもやらないように。

 
前書き
さてさて、既にこの話十三部できているのですが・・・・。
少しずつ更新していくことにします。
 

 
二年前のその日、俺は交通事故で死亡した。
いや、この言い方には語弊があった。正確には、死亡したはずだった、か。
ともかく、俺は死んだ。八月十日の午後二時頃、ある交差点で、大型トラックに跳ねられて。
通報を受けてきた救急隊員達の顔に焦りの代わりに恐れがあったのは、俺がほぼ即死だったからだ。一目見るだけで即死だと判定されるほど俺の死体は無残だったらしい。
そして俺は二日後、霊安室の棺の中に入っていた。死体自体は麻酔なしの手術で外傷は綺麗に消えていたが、あくまで普通の人に見えるのは見た目だけで、実際、それはただの死体で、二度と動くはずは無かった。動かないと世界の摂理で決まっていた。
しかし、その死んだらもう蘇りはしない、という固定概念は、一瞬にして崩壊する。他の誰でもない、俺の手によって。
目が開く、口が動く、手が震える、心臓が鼓動を取り戻す。生命の帰還はあまりにも唐突だった。
だから、蘇ってしまった俺には、蘇ったと認識できる術はなかった。
ここはどこだ?いや、それよりもなにか身体が疼く。身体の中で何かが蠢いている感触。少し痛い。何かが折れている気がする違和感。なんだこれは、なんだこれは。
その幾つかの問いに答えるものはなく、自分は棺の中で考えを巡らせていた。ここが、棺の中だと認識も出来ないまま。どうしておれは、いや確か俺はどこかの道路で、トラックがやってきて、それで、ああ思い出せない。
とにかくここから出ようと自分の視界に広がる黒い屋根のようなものを、掌で押してみる。すると・・・
その黒い屋根は一瞬で弾けとんで、そのままどこかへぶつかった。ドカン!という衝撃音と、その数秒遅れて何今の音、という声や、霊安室の方からよ、という声、そしてドタバタという足音がこの部屋の外から聞こえてくる。
何故か、その音が異常に近く、その声が異常に鮮明に聞こえてくる。俺が弾き飛ばしたと思われる黒い屋根のようなものは、壁を半ば貫通して、突き刺さっている。
俺は身体を起こし、ようやく知った。
ひとつはここが棺の中だということ。
もうひとつは、自分の身体の中の蠢きが止まり、同時に身体内部の何かが折れているような違和感と痛みが消えていたということだ。

 すぐに俺に死亡判定を下した医師と病院の謝罪会見がはじまった。医療技術が発展した現代では全く考えられないことだった。死亡判定の誤り。
俺はそう判定された。
ただ、世間には隠蔽されたが、家族と、医師、その病院、そして俺だけが知ってる、事実があった。
まず、俺の大型トラックに跳ねられたときに折れた骨や受けた外傷、内臓の破損。それらが全て治癒していたこと。
それと、俺が人外の力を得てしまっていた、ということだ。
医師は即刻辞職となり、病院は、それらの事実をさらなる世間の非難を恐れ、隠蔽。家族も自分たちにもおそらくマスコミの追求があるだろう、とそれらの不可解な現象に蓋をせざるを得なかった。
が、俺が家に戻ったときには、すでに父と母と妹と、そして俺による家族構成は完全に表面上だけのものとなり・・・、
俺は不気味に思われ、避けられ、陰口を言われ、そして、家族の一員から外された。
それも当然のことだったと俺は半ばどこか自虐的に思う。
陰口を家のどこで言おうと、俺の異常な聴覚がそれを聞きつけ、俺がフォークを料理に突き刺せば、食卓を貫通し、俺が窓を閉めようと、窓枠に手を掛ければ窓ガラスは一瞬でただのガラス片と化す。
今はある程度この力をある程度意図的にコントロールできるが、そのときはただただ自分という存在を恐れ、そして、いつしか石像のように、何も発さず、何も言わず、何も動じず、何もせず、ただただ、自分の部屋の中で、自分の運命を呪いながら、嘆いていた。
当然、学校でも避けられ、浮いた存在となり、数日で登校拒否の引き篭もりとなった。
そのときに、三人の男子生徒が俺のことを散々ゾンビだのなんだの言ってからかってきた。俺はずっと、我慢を続けたが、普段家で受けている扱いでストレスは既に臨界点まで達していた。
そして、一人の男子生徒の「お前なんか死んでればよかった」という一言を聞いた瞬間、
気がついたら、男子生徒三人は全員別々の方向に数メートル吹き飛んでおり、自分の手から赤い液体が滴り落ちており、周りのクラスメイト達は口々に絶叫していた。

 その三人が送られた病院が例の病院だったため、その事件が外部に漏れることはなかったが、俺は当然学校には行けなくなったし、両親はその三人の男子生徒の母親らの苦情を受けて、更に俺に対する溝を深めていった。
そして、一年半ほどが経った。年齢的には高校生となったが、当然、学校は退学したし、新しい学校に行く気にもなれなかった。この一年半、ひたすら力のコントロールを覚え、一人で生活するための知識を学び、そして家族と出来る限り触れ合わずに暮らすようにした。いつしか俺は自分の飯も、洗濯物も自分で全て何とかしていた。
 俺はこの日のために準備しておいた一抱えの荷物と、既に借りたマンションの住所と行き方が書かれた紙を持って、静かに家を出た。
見送りはないと思っていたが、妹が何故か玄関に出てきた。そして何か言いたそうに視線を巡らしていたが、俺はドアを手早く開けて、また手早く閉めた。今更、何を家族に言われても惨めになるだけだ。

 そして、俺は家族の家とは遠く離れた都心部の郊外にある一角のマンションに住んだ。時々自分の口座に振り込まれている家族の仕送り金と、自分で行く、買い物以外は、なんの変化もない毎日。起きて食べて寝て、また起きて食べて寝る。その繰り返し。自分は歯車だった。ただし、もう動かない、ただそこにはまっているだけの、何の変化もない部品。
俺の周りの時間は確かに動いていて、ただし止まってもいた。停滞していた、静寂だった、平穏だった。そして自分は何故生きているのだろうと、自分に何度も問いかけ、やがてその問いかけが無駄だと気づいて、やめる。
俺の短く、そしてとても永い一人暮らし生活が半年を過ぎたある冬の日。
俺は買い物帰りに家への帰路を辿る。ぱら、ぱらぱらと細かく小さな雪が降っていた。きっと寒いのだろうな、と想像し、この程度の寒さを感じない自分の体にまた嫌悪する。
そんないつも通りの一日なはずなのに、
十六歳についこの前なった俺、伊島宏助の時間は、
この日、また唐突に、動き出す。 
 

 
後書き
どうでしょうか?
これからよろしくお願いします。 
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