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占術師速水丈太郎  ローマの少女

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第三十七章


第三十七章

 右手にミカエルの像がある。二人はそこの左手にやって来た。この天使こそがサン=タンジェロ城の象徴であり守護天使であるのだ。
「さて」
 そこに着くと速水は足を止めた。アンジェレッタもそれにならう。
「そこにおられますね。どうぞ」
 誰かに言った。
「おいで下さい」
「わかっていたようね」
 すると少女の声がした。そしてその白い姿がすうっと出て来たのであった。
「ここに私がいることは」
「ええ」
 速水はその言葉にこくりと頷いた。
「ローマでも屈指の血の帳が支配する場所ですからね、ここは」
「わかっていたのね」
「ローマに関してはね」
 彼は述べた。
「ここには昔から注目していたのですね」
「そうなの。天使の前で」
「ええ。剣を持つ天使の前で」
 二人はその天使を挟んで言葉を交わす。天使はここでは何も発しない。ただ二人を見ているだけであった。
「最後の戦いといきますか」
「そうね。本当にこれで最後にしたいわ」
 少女も述べた。
「それでいいわね」
「はい」
 速水とアンジェレッタは構えを取った。それぞれカードを出し矢を放つ態勢になる。
「何時でも」
「これで最後にするわ」
「わかったわ。それじゃあ」
 少女はそれに頷いた。そしてその全身にまたもや光を発してきたのであった。
「行くわよ」
「それでは」
 速水とアンジェレッタもそれぞれ動いた。すぐに左右に跳び少女を取り囲んできた。
 前後に挟み込む形となった。それで少女を見据えている。
「今度はすぐに決めるわ」
 少女は言った。そして光を石畳の床に叩き付けてきた。
「むっ」
「一体何を」
 光は石畳を走っていく。放射状に二人に迫り来る。それはまるで蜘蛛の巣のようであった。
「蜘蛛の巣・・・・・・ならば」
 速水はそれを見て素早く動いた。手に持っているカードを一枚切ってきた。
 出してきたカードは星、そこから眩いばかりの無数の光が降り注ぐ。それで床にある光を全て消し去ってしまったのであった。
「星の光を使うとは」
「正式にはこれは光ではありません」
「えっ!?」
「これは聖なる力です」
 速水はそう述べた。
「これで貴女の悪しき光を消したのですね」
「そう、私の光を」
「そうです。そして」
 速水はまたカードを出してきた。今度は審判であった。
「天使の城ならば」
 彼はそのカードを出してきたのだ。そこにある天使はその手に剣を持っている。ミカエルと同じようにだ。むしろまるでここにある天使をカードに描いているかのようであった。
「これを使います」
「天使をですか」
「はい」
 アンジェレッタにも答えた。
「これならば」
 カードを切るとそこから天使が姿を現わした。天使は六枚の黄金色の羽根を持つ神々しい中性的な顔の持ち主であった。今それがサン=タンジェロ城に舞い降りたのであった。
「さあ、ローマを守護する天使よ」
 速水はその天使に呼び掛ける。
「私と共に。今ローマを覆う悪しき存在を切り払うのです」
「そう、ミカエルですか」
 アンジェレッタはそれを見てすぐにその天使が何者なのかを悟った。見間違えようがなかった。
「それで戦いを終わらせると」
「そうです。御聞き下さい」
「!?」
 何故彼がここで聞くように言ったのかわからなかった。
「聞こえませんか。歌声が」
「歌声が」
「そうです、歌声です」
「そんなものは・・・・・・いや」
 それは確かにアンジェレッタの耳にも入ってきていた。少年の歌う声が。
「そんな・・・・・・この曲は」
「これはローマの曲なのですよ」
 速水が答える。それは牧童の歌う曲なのであった。

 僕は風が動かす木の葉までに多くになっている溜息を貴女に送ろう
 だが貴女はそんな僕を意に介さず僕はそのことを悲しむ
 ああ、そんな僕を慰める金のランプよ、御前の優しい灯も僕の心を癒せない

 ローマに伝わる古い牧童の歌。それが今天使の城に聴こえてきていたのだ。
「どういうこと、これは」
「おわかりになられませんか」
 速水の様子は変わりはしない。
「この歌の意味が」
「じゃあここでも」
「ですが月のカードは出してはおりません」
 これは嘘ではなかった。実際に今速水が手にしているカードには月のカードはなかった。その手にあるからそれははっきりとわかったのだ。

 
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