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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  八十一話:武士の一分

 ラインハットの城下町で、またしてもナンパっぽく声をかけられてしまった私ですが。
 今回はヘンリーもスラリンを抱いてないので、素早く対応されてしまい。
 ナンパ男と私の間に、すかさず警戒を高めたピエールと、ヘンリーが立ちはだかる形になります。

 それでもヘンリーの肩越しに、一応ナンパ男の顔を確認してみますが。

 ……うん、頭悪そう。というか、軽そう。
 兵士の格好をしてるので、たぶんラインハットの兵士なんだろう。
 兵士としての教育を受けてる分なのかなんなのか、アルカパの変態ストーカーよりは、第一印象は若干マシな気がするが。
 でもヘンリーに加えてピエールまでいるこの状況で、無謀にも声をかけてくるあたり。
 やっぱり、気のせいかもしれない。

 そんなことを思う私を他所に、男同士の戦いが幕を開けます。

「案内は必要無い。間に合ってる」
「我が主に用件があるならば、一の臣下たる拙者を通して頂こう」
「な、なんだ君たちは。私はただ、この国の兵士として。町に不慣れなお嬢さんを、助けて差し上げようとだな」
「必要無い。間に合ってる」
「我が主を守る手は、拙者一人でも十分。お仲間たるお二方も居られる以上、他に助け手など必要ござらぬ」
「君たちの意見は聞いていない!お嬢さん、どうかな?いまやこの国の特権階級とも言える兵士である私が同行すれば、色々と便宜を図ってもらえることもある。後悔は、させないよ?」

 二人の肩越しに、私に意味ありげな目線を送ってくるナンパ兵士。
 ちょっと気持ち悪いです。

 でも特権階級とか気になる言葉だな、この国の情勢を聞くにはいい機会かも。
 ただ、話を聞くだけでは絶対に済まないだろうしなあ。
 下手に気を持たせてから断ると、相手が兵士なだけに、面倒なことになりそうな。
 よし、断ろう。

「折角ですけど。長くはいないつもりですし、仲間たちもいますから」
「おお!なんと愛らしい声!まるで、私の初恋の君のようだ!やはりこれは、運命の出逢いか!」

 ……ええー。
 この話を聞かない感じとか、昔の知り合いとか、運命がどうとか。
 本当に嫌な既視感を、ビシバシと感じるんですけど。

 すっかり嫌な気分になったのを隠しもせず顔を(しか)める私に、ハッとしたように言うナンパ兵士。

「……どこかで、逢った気がしていたんだ。君は、もしや。ドーラちゃんでは?」

 ヒイ!
 やはりアルカパのアレよりも、無駄に賢い!
 完全に、言い当てられた!!

 ビクッと震えたのを肯定と取ったのか、嬉々として言い募るナンパ兵士。

「やっぱりそうか!僕だよ!十年前にアルカパの町で逢った、君の運命の男!ビリーだよ!」

 誰だよ。
 十年前とかアルカパは心当たりが無くは無いが、運命とか名前とか全く知らないよ。

 どうしよう。
 当てられた以上、名前を誤魔化すのはもう無理?

 と動揺する私の肩に腕を回し、ヘンリーがガッチリと守るように抱きすくめます。

「ドーラ。向こうはお前を知ってるみたいだが。知り合いか?」

 もはや相談も無く、演技に入ってくれるとは!
 なんて、頼れる男!

「ううん。覚えてない。勘違いじゃないかな?運命とか言ってるけど、私にはヘンリーがいるしね!」

 私もヘンリーの体に両腕を回して抱き付き、甘えるように見上げます。

 ナンパ兵士と、なぜかピエールまでもが驚愕の面持ちで立ち尽くします。
 ピエールの顔はフルフェイスの兜で見えないが。雰囲気で。

 ……って、ああ。
 ピエールの前で、演技入るのは初めてか。
 ごめん、びっくりさせて。

 ナンパ兵士が、震え声で話し出します。

「そ、そんな!僕のドーラちゃんが他の男とだなんて、そんなふしだらな……!!…………ふ、ふふふ。大丈夫、僕は、心の広い男だからね!僕がいない寂しさのあまりの一時の気の迷いくらい、広い心で受け止めるよ!さあ、僕の腕の中へ!戻っておいで!!」

 ホントやだもうコイツら。
 一度もいたことの無い場所に戻れとか、突っ込みたくも無いが流したくも無い。

 しかし私が目を付けられることで、ビアンカちゃんに被害が及ばなかったと考えれば、そう悪くも……やっぱり嫌だ。無理だ。

 とにかく、さっさと片付けよう。

「やだ、怖い!ヘンリー、ピエール!助けて!」

 ここでピエールに助けを求めるとか、やり過ぎてしまいそうで怖くはあるんだけれども。
 声かけないと拗ねられそうなんで、やり過ぎそうなら止める方向で、とりあえず声はかけておきます。

 あくまで私を離さないヘンリーとは対照的に、ピエールがスッと前に進み出ます。

「……強く気高き我が主を、斯様(かよう)に怯えさせるとは。その罪、万死に値する。覚悟は、良いでござろうな?」

 マジ切れ寸前です。
 え、演技ですよ?
 演技なんですよ、ピエールさん?

 ナンパ兵士が焦ったように口を開きます。

「ま、待て!この国の兵士である僕に、手を出してただで済むと」
「関係ござらぬ。ばれねば良いだけのこと」

 怖い!!
 怖いです、ピエールさん!!

 でもバレないように済ませる程度には人間的常識があって、良かった!!

 怒気とか殺気とか、色んなものを強烈に発しながら静かに歩み寄るピエールの姿に、ナンパ兵士が腰を抜かしてしゃがみこみます。

「待て!悪かった!僕が、悪かったから!許してくれ!!」
「今更許しを乞うたとて、主を怯えさせた罪が消える訳でも無し。気付くのが、遅かったでござるな」

 静かに武器に手をかける、ピエール。

 って、おいおい。

「ひいいい……!やめっ、たすっ」
「あの世で存分に、悔い改めるが良い」
「待って待って!ダメだよ、殺しちゃ!さすがに!」

 止めに入ろうにもヘンリーにガッチリ捕まえられて身動きが取れないので、声だけで制止をかけます。

 ピエールが動きを止めて、肩越しに私をチラリと見やり。

 ナンパ兵士が、歓喜に彩られた声を上げます。

「ドーラちゃん!やっぱり、君も僕のことが」
「ピエール。やっちゃって」
「はっ」
「すみませんウソです許してください!!」

 イラッときた。
 マジでイラッときた。
 本当に殺られてしまえと、一瞬思ってしまうほどに。

 怯える演技もそろそろ必要無さそうなので、素で話すことにします。

「悪いと思うなら、ちょっと話聞かせてくれる?」
「勿論です!ドーラちゃんになら何でも、いくらでも!何なら二人の将来についてでも」
「……ピエール」
「ウソですウソです!!聞かれたことにだけ、何でも答えます!!」

 コイツのこのへこたれなさは、何なんだ。
 ピエールのお蔭で一応話は通じるようになったから、ひとまずはいいけれども!

 ヘンリーがナンパ兵士を睨み付けながら、私に囁きます。

「おい、ドーラ。何もこんなヤツから聞くこと無いだろ」
「町の人は、警戒して話してくれないかもしれないでしょ。素直に話してくれるって言うんだから、いいじゃない。もう危険も無さそうだし」
「……わかった。おい、お前。ドーラは、俺のだからな。手、出すなよ」

 相変わらず私を捕まえたまま、ナンパ兵士を威圧しつつ牽制するヘンリー。

 俺のとか、素の状態で言われるとなんだかなあ。
 その設定を継続しておいたほうが安全ではあるんだろうから、いいけれども。

「くっ…………わかった…………」

 ヘンリーの威圧にしばし耐えながらも、結局は屈してがっくりと項垂れるナンパ兵士。
 間がやたら長かったが、これで本当に諦めたということで、大体いいんだろうか。

 ピエールが武器から手を離し、踵を返します。

「では。ここでは目立ちますゆえ、少々場所を変えましょう。少しでもおかしな真似をすれば……わかっておろうな?」
「はい!勿論です!」

 ビシッと敬礼して答え、ヨロヨロと立ち上がるナンパ兵士。

 目立たない場所に向かって歩き出すピエールをすれ違いざまに捕まえて、声を潜めて聞いてみます。

「ピエール。さっきのアレ。……本気だった?」
「……ドーラ様にこのような真似をさせた奴めと、己れの不甲斐なさに対する怒りは本物にござります。偽りの関係や態度を装われたことには気付いておりますゆえ、ご心配無く」

 あ、そこは気付いてたの。
 あまりにも怖かったので、全部真に受けたのかと思ってた。

 ピエールが、ヘンリーを横目でじろりと睨み付けます。

「とは言え、ヘンリー殿。……少々、やり過ぎなのでは?」

 そしてこの保護者目線である。

 でも、うん。私もそう思います。
 守ってもらってる立場上言いづらいが、全く身動きが取れません。

「……これくらい、やらねえと。ああいうヤツには、効かねえだろ」
「……そうにござりますか。ならば、そう言うことにしておきましょう」

 なんか意味深な言葉を発し、また歩き出すピエール。

 そんなピエールをどことなくバツが悪そうに見送っていたヘンリーでしたが、続いて歩いてくるナンパ兵士がすれ違いざまに未練がましい視線を向けてくるのから、すかさず体を張って私を隠します。

 ……助かると言えば、助かるんだけど。
 話を聞く間、ずっとこんな感じなんだろうか。

 ……まあ、いいか。
 私が直接聞けなかったとしても、ヘンリーとピエールが、適当に尋問してくれるだろう。

 とまた微妙に諦めながら、ナンパ兵士を追いかけて跳ねていくスラリンを追って、ヘンリーに引っ張られながら私もまた歩き出すのでした。 
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