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占術師速水丈太郎  ローマの少女

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第十六章


第十六章

「面白いお話みたいだけれど」
「ルチアーナさん」
 速水はルチアーナに応えて述べた。穏やかな声である。だがそこでもうルチアーナ、この少女のことがわかってしまったのである。
「貴女はここにいてはならない方です」
「あら」
「ここは摂理の世界。貴女は摂理から出てしまった」
「摂理から?」
「そうです。ですからお帰り下さい、魔界の闇の中に」
「何を言っているのかしら」
 彼女は速水が何を言っているのか理解していなかった。しようとも考えてはいなかった。それは闇の世界の住人としては当然のことであった。
「私が帰る場所が闇だなんて」
「少なくともここにおられるべきではありません。私達の仕事は」
 懐からカードを数枚取り出す。そして身体の前でそれをかざして身構える。
「貴女をお返しすること。魔界にね」
「何かわからないけれど私の邪魔をするのね」
「お帰り願えないのなら」
「わかったわ。それじゃあ」
 彼女はぞっとする恐ろしい笑みを浮かべた。するとその後ろから何か真っ黒い闇が襲い掛かって来た。速水とアンジェレッタに対して向けられたものであった。
「これは!?」
「瘴気ですね」
 速水はアンジェレッタに答えた。
「この闇の中に包み込んで命を奪うようです」
「では今までの犠牲者は」
「はい、おそらくは」
 速水はそう読んでいた。
「この瘴気に影を奪われたのでしょう」
「何てこと」
「相手が闇ならば」
 速水は構えているカードのうち一枚を手裏剣の様に横薙ぎに投げた。するとそこから白い光が散った。
「星!?」
「はい、星のカードです」
 彼は今星のカードの光で闇の瘴気を打ち消しにかかったのであった。実際にその白い光によって少女の闇は急激に散っていく。
「相手が闇ならば光を使えばよいこと」
「成程」
「仕掛けますよ」
 アンジェレッタに右目を向けて言う。
「ここで倒せれば」
「ええ。それじゃあ私も」
 彼女が周りに漂わせているその水晶球が数個に増えた。それがアンジェレッタの身体の周りを舞う。
「私は実は光の使い手なのですよ」
「そうだったのですか」
「闇が来るならばまさに光がそれを消す時」
 水晶達に光が宿る。それが一斉に動く。まるで生き物であるかのように。
「いけっ」
 水晶の光が放たれ不規則でいて効率的な複雑な動きで闇を撃っていく。それで闇は急激に消えていった。光の中に消え去っていった。
「私の闇が消えていく!?」
「闇は光の前に消えていくものです」
 速水は驚いたような声をあげるルチアーナに答えた。
「違いますか?」
「そう、光を使うのね貴方達は」
「それが何か」
「なら。私にとっては敵なのね」
「貴女がお戻りになられればよいだけなのですが。何なら今から返して差し上げますが」
 さっとまたカードを出してきた。今度は悪魔のカードであった。タロットの十二番目のカードである。不気味なカードなのは確かだが解釈次第で様々に意味が変わるカードである。
「如何ですか?」
「わからないわね。私がどうして帰らなくちゃいけないのかしら」
「やはり。無駄ですか」
 ルチアーナの言葉と目を見て述べた。だがそれもまた既に予想していたと言わんばかりの態度であった。それが声からもわかった。
「残念なことですが」
「けれど今はいいわ」
「むっ」
 彼女の言葉が変わったのを見逃さなかった。構えを変えてまたカードを携える。
「また今度御会いしましょう」
「どちらへ」
「とりあえずはここから去ってあげるわ」
「停戦というわけですか」
「そうなるのかしら。貴方達の世界の言い方じゃ」
 魔界では違うということなのだろうか。少なくともこちらの世界の摂理とは違う言葉であった。
「それじゃあ」
「くっ、逃がすわけには」
「いえ、もう間に合いません」
 速水が言っている側からルチアーナは闇に覆われていった。そしてその中に消えていく。後には普通の夜の世界があるだけであった。
 
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