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占術師速水丈太郎 五つの港で

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第九章


第九章

「あの海軍兵学校のですね」
「そうです。今は幹部候補生学校になっていますが」
「それがある場所ですね」
「そこにいたことがありました」
「江田島ですか」
 それを聞いてあらためて考える顔になる速水だった。
「そこですか」
「それが何か」
「いえ、何もありません」
 原田は犠牲者のことはあくまで横須賀のことだけしか知らなかった。少なくとも他の港での事件と関係があるとは思っていなかった。その辺りは階級により手に入れられる情報に違いがあるらしい。階級社会ではこうしたことはよくあることなのである。
 速水は防衛省や総監部での話は原田には話さなかった。そのうえで彼は一旦原田と別れるのだった。そしてそのうえで彼は一旦横須賀の港を出るのだった。
 彼はすぐに懐から運命の輪のカードを出した。そこから青い渦を出しその中に入った。そして出て来たのは横須賀とは全く違う場所であった。
 彼は白い砂の上に立っていた。目の前には赤煉瓦の二階建ての建物がある。屋根は黒で全体的に重厚というよりも洒落た雰囲気がある。
 右手には白く円柱が前に並ぶギリシア風の建物がある。速水はそこに立ってすぐに何処なのかわかった。
「幹部候補生学校ですね」
 その海上自衛隊の学校である。そこだとすぐにわかったのだ。
 左手にはボートが並んでいる。それは独特のクレーンを思わせる場所からロープで吊られている。そして青い海とその先の緑の山、麓にある家々が見える。そこは紛れもなく江田島であった。
「それでは」
 そこに辿り着いてである。まずはある場所に向かった。
 行く場所は幹部候補生学校の校長室である。そこに入ると今度は白髪頭の重厚な面持ちの紳士がいた。彼は速水の姿を見てすぐに驚きの声をあげてきた。
「まさかと思いますが」
「はい、速水です」
 彼は微笑んでその紳士に言葉を返した。見れば彼も黒と金の制服に身を包んでいる。会場自衛官であることは一目瞭然である。
「速水丈太郎です」
「防衛省の方から話は聞いていました」
 こう返す彼であった。
「幹部候補生学校校長の実松です」
「実松さんですか」
「実松潤一郎、階級は将補です」
 微笑んで述べてきたのであった。
「どうぞ宜しくお願いします」
「はい。それでなのですが」
「事件のことでしょうか」
「御存知でしたか」
「それも聞いていましたので」
 実松はこう彼に返してきた。
「既に」
「そうだったのですか」
「では早速捜査にあたられるのですね」
「いえ、今日はです」
「今日は?」
「横須賀の犠牲者のことで聞きたいことがありまして」
 それで来たというのである。
「あとはこの呉での犠牲者のことも」
「そういったこともですか」
「それでなのですが」
 あらためて実松に対して述べるのだった。
「ここから呉に行きたいのですが」
「そうですか。それでは小船の用意を」
「いえ、それはいいです」
 それはいいというのであった。
「ただあちらに案内してくれる人を用意してくれれば」
「それだけでいいのですか」
「はい、そちらの手配をお願いできるでしょうか」
「わかりました、それでは」
 こうして彼は一旦実松との話を終えた。そうして校長室を出るとまずは外を見た。そこからは五階建てのやはり赤煉瓦の建物が白い階段の上に見える。そこが幹部候補生学校の学生達の隊舎である。
 そして彼が今いる廊下は白く左右に長い。その渡り廊下の趣きも日本ではなくイギリスのそれを思わせる。白くそれと共に開けている。彼はそうしたものを見てまずは感慨に耽った。
「歴史ですかね」
 ここには確かに歴史がある。海軍の、そして近代日本の歴史がだ。その息吹を感じながら今は己のやるべきことを果たすのであった。
 また運命の輪のカードを出して青い渦の中に入る。そうして今度現れたのは丁度停泊している潜水艦の正面であった。黒いその姿が目に入った。
 
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