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占術師速水丈太郎 五つの港で

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第二十八章


第二十八章

「いい場所があります」
「いい場所とは?」
「大湊は寒い場所ですので」
「はい、確かにそれは」
 言うまでもないことであった。本州の北端である。青森の寒さは筆舌に尽くし難い。何しろ冬になれば雪の降らない時はないとまで言われる程である。
「今もですね」
「お風呂がありますが」
「お風呂がですか」
「スーパー銭湯ですが如何でしょうか」
 これを速水に勧めてきたのである。
「それは」
「スーパー銭湯ですか」
「お好きでしょうか」
「はい」
 微笑んで答える。それは実際にその通りである。彼は風呂好きである。6
「それは」
「ではいいでしょうか」
「そうですね。時間があるといいましても」
「そこに行く程度では、というのですね」
「実は」
 そこまでは、と述べる。これは実際にその通りである。彼は今はそこまで時間はなかった。まだ行くべき場所があるのである。それでだった。
 内心残念なのは事実だった。しかしこう伊藤に返したのであった。
「ですから落ち着きましたら」
「事件が解決してからでしょうか」
「そうですね。そうさせてもらいたいです」
 微笑んで述べた言葉だった。
「ここは」
「左様ですか。それでは」
「はい、では」
「これで」
 伊藤は敬礼して送ってくれた。速水はその敬礼を受けてからそのうえで大湊の基地を後にした。基地を出て人気のない場所に来るとそこでまた運命の輪のカードを使うのだった。
 今度来たのは舞鶴だった。まずはその海を右手に見ながら赤煉瓦の道を進んだ。この街もやはり海軍の街であり赤煉瓦で飾られていた。
 舞鶴の港は流石に横須賀よりは狭い。しかし停泊している船舶はそれなりに多く港もこれで中々広く充実したものであう。そこを見ながらまずは左手にある総監部に入った。緑の芝生や木々で飾られたその総監部は丘の様になっており少し登った。そのうえで赤絨毯のいささか以上に年代を感じさせるその中に入ってまた総監と話をしてである。ここでも一等海尉の人物の案内を受けたのである。
 今度は強い目の光を放った精悍で背の高い若い幹部であった。彼はすぐに名乗ってきた。
「後藤です」
「後藤さんですね」
「はい、宜しくお願いします」
 敬礼してからこう名乗ってきたのである。きびきびとしたいい声である。
「あの殺人事件の案内及び説明させて頂きます」
「御願いできますか」
「是非」
 後藤という若い幹部はこうまで彼に言ってきた。
「させて下さい」
「こちらこそ」
 速水は声はきびきびとして大きいが謙虚な物腰の後藤に対して微笑んで返した。そうしてそのうえであらためて彼に対して言うのだった。
「それでは宜しくお願いします」
「はい、それでは」
 こうして舞鶴の港に入る。ここも白いコンクリートで固められている港だった。その港を後藤の先導で進みながら。彼の話を聞くのであった。
「この舞鶴の港ですが」
「東郷平八郎ですね」
「はい、そうです」
 彼の名前を出した。帝国海軍の英雄をである。
「やはり彼です」
「そうですね。それだけに海上自衛隊としても思い入れのある場所なのですね」
「重要な場所なのは確かです」
 こう表現する後藤だった。
 
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