| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  七十二話:お風呂で一人反省会

 ヘンリーに抱き締められたままその場に立ち尽くすこと、しばし。

 黙ったまま、動くことも喋ることもしない私にどう思ったのか、ヘンリーが声をかけてきます。

「……ドーラ?大丈夫、か?」

 どうだろう。
 だいぶ、落ち着いたような気はするけど。

「うん。大丈夫」

 でも、いつまでもこのままというわけにはいかないし。
 いい加減、戻らないと。

 ヘンリーが少し体を離し、私の顔を覗き込みます。

「……マシにはなったが。まだだな」

 また、抱き締められて。

 ……そんなに、顔に出るのか。

 でも、本当に。
 いつまでも、甘えてるわけにはいかない。

 気合いを入れて笑顔を作り、ヘンリーの胸を押します。

「もう、大丈夫。ありがとう」

 ヘンリーが探るように、また私の顔を覗き込み。

「……そうか。……戻るか?」
「うん。戻ろう」
「部屋に、戻るか?」
「ううん。酒場に、戻ろう」

 何があったかみんな大体わかってるだろうから、一度も顔を見せずに引っ込んだら心配させてしまうし。

「そうか。……無理、するなよ」
「うん」

 体を離されて、包み込まれてた安心感のようなものが失われて、心許(こころもと)ないながらも一人で歩き出そうとしたら、手を引かれて。

「……ヘンリー。大丈夫だよ。一人で、歩けるよ」

 誰も、見てないんだから。
 絡まれたり、しないんだから。

「いいから。行くぞ」

 あんまり、甘やかさないで欲しいんだけど。
 私は、一人で歩かないといけないんだから。

「大丈夫だって」
「俺が、したいから。いいんだよ」

 そうか。
 役得ってヤツか。

 昨日のことを思えば、振り払うのも今さらだし。
 どうせ、あと少しのことだし。
 それなら、あと少しくらい。
 甘えても、いいか。





 酒場に戻ると。

「おら、アラン!飲め飲め!」
「はい!今日は、飲みます!」
「そうだそうだ!飲んで、忘れちまえ!」
「そうよ!女はドーラちゃんだけじゃないのよ!」
「そうそう!あそこまでのは、なかなかいないとしてもね!」
「うう……」
「ちょっと!」
「ご、ごめん!大丈夫よ、もしかしたらどこかに、いないこともない、かもしれない、可能性が微粒子レベルで存在」
「うわーん!!飲んでやるー!!」

 散々励まされ、浴びるように酒を飲まされてるアランさん。

「キャー!スラリンちゃーん!かーわーいーいー!!」
「ピキー!」

 いつの間にか飲まされてしまったのか、ノリノリで跳ね回ってるスラリンに、囃し立てるおばさま達。

 すっかり、出来上がってました。


「……どうしよう、これ」
「……いいんじゃないか?もう、戻っても」
「……そうだね」

 私、飲めないし。
 素面(しらふ)でこれに混ざるのは、正直キツい。

「ヘンリーは」
「戻るよ、俺も」
「スラリンは」
「後で回収しとく」
「……お願いします」
「おう」

 私が、やるべきなのかもしれないが。
 酔いつぶれた集団に女の身で踏み込むと、また余計な面倒が起こりそうな気が。


 そんなわけで、奮い立たせてた気持ちが一気に萎えて、そのまま惰性でヘンリーに引っ張られて部屋に戻り。

「風呂、沸いてるってよ。入るだろ?先、入れよ」

 オラクルベリーの大きな宿と違って、お風呂はひとつしか無くて、性別関係無く順番に入る形なんですけれども。
 だからなぜ、私でなくヘンリーに言う。

 ……仕方ないか、さっきまでの状況では。

「うん。じゃあ、上がったら声かけるね」
「いや。待ってる。外で」
「……大丈夫だよ。この村に限って」
「いや。落ち着かないから。俺が」

 過保護だなあ。
 こういうとこ、パパンを思い出すわー。
 パパンと違って、本当にやりたいことは普通にやらせてくれるから、いいけど。


 ということで、小さな宿の、部屋からお風呂までの短い距離すらヘンリーに付き添われ、お風呂に入ります。

 体を洗い、それなりの広さの湯舟に浸かり、まずは手足を伸ばして。

「……はあーー……」

 溜め息と共に、膝を抱えます。

 辛い。重い。へこむ。

 もしかしたら勘違いでも、本気で好意を伝えてくれた相手を振るのって、辛い!へこむ!!

 馬鹿じゃないの?
 逆ハーとか、馬鹿じゃないの!?
 無理。完全に、無理!
 本命でも無い男をコロコロと掌で転がすとか、私には、無理!!

 やっぱりアレだわ、イケメンもいい人も、普通に好きだけど!
 本気で入れ込まれてしまう可能性が非常に高い以上、私のハーレムメンバーは、女性限定で!
 男は、いいよ!
 一人で、いいよ!!

 でも、その一人を探す段階で、やっぱりこんなことはあるわけで。

 ていうか、完全に選ぶ立場みたいなこと考えてるけどさ。
 普通に考えて私、条件悪くない?
 結婚相手として。
 いくら、美女でも。

 当面、旅を続けるつもりなんだからさ?
 例えば私に惚れて結婚したいと思ってくれる相手でも、大体においてそれは、私が旅をやめる前提なわけで。
 今日の、アランさんのように。

 お互いの利害が一致しないから無理なだけなのに、それでもあくまで私が断る形になるわけで。
 相手にすれば私に惚れてるわけだから、旅をやめてくれ!ってなるけど、私からすれば別に惚れてないわけだから、私を好きなら一緒に来て!とはならないから。
 着いてこられそうも無い相手を、例え惚れてたとしても、無理に連れて行きたくはないが。だって、死ぬから。

 ……え?何?
 惚れられた側が、自分を曲げて合わせることを求められて、断ったらこっちが悪い感じになるの?お高くとまってる的な?
 ……酷くね?それ。おかしくね?それ。
 普通に家庭を築きたいなら最初から、普通に家庭に入ってくれそうな相手を選べば良くね?
 私がいくら美女だからって、家庭に入れたいなら、最初から惚れるべきでは無くね?
 はっきりした目的を持って旅してる女とか、男の側で、検討段階で弾くべきじゃね?
 それも、私が悪いの?
 結婚相手に最低限求めるべき条件すら忘れさせてしまうほどに、美女過ぎるのが、悪いの??

 ……よし、気を付けよう。
 旅に着いてこられないような男を、本気で引っかけてしまわないように、今後は気を付けよう。
 アランさんは、仕方ないよね!
 不可抗力だよね!
 幼馴染みというか昔馴染みフラグは、勝手に立つ上になかなか折れないからね!

 あとアランさんの場合は、保護者的視点というか。
 一方的な好意の押し付けじゃなくて、そうすることであわよくば私が旅をやめて、平穏に過ごすことができれば、みたいな意図を感じたからね!
 村のみんなが協力してたのも、きっとそういうことだよね!

 しかしそこで弾くと、候補はかなり限られそうだなあ。
 私、結婚できないかも。
 フロルスくん(仮)も、いなそうな感じだし。

 まあ、いいか。
 パパンとママンを助けたあとでも、遅くは無いだろう!
 多少年増でも、美女だし、王族だし!
 なんとか、なるって!!


 と、気を取り直したところで、体もすっかり温まったのでお風呂を上がり、髪を乾かしたりなんだりを済ませて廊下に出ます。

 廊下で待ってたヘンリーが、別にいいのにまた部屋まで送ってくれて。

「髪。乾かすなら、声かけてね」
「ああ。後で行く」

 別に拭いとけばいい気もするが、頼んでないとは言っても散々面倒みてもらってるし、折角のイケメンの髪が変に跳ねてるのもあまり見たくないので、これくらいは。

 お風呂に戻るヘンリーを見送ろうとして、また過保護なことに部屋に押し込められ。

 荷物を整理し、地図を見ながら明日の予定を考え、そうこうしてるうちに戻ってきたヘンリーの髪を魔法で乾かして。

「スラリンだけど」
「もう回収した。風呂にも入れて、もう寝てる」

 うーむ。
 結局、お風呂も添い寝も取られてしまったか。
 まあ、いいか。
 この先、いくらでも機会はあるんだし。

「ありがとう。じゃあ、おやすみ。ヘンリー」
「ああ。おやすみ、ドーラ」

 明日からも、気持ちを切り替えて、頑張ろう。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧