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万華鏡の連鎖

作者:fw187
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宇宙戦艦ヤマト異伝
  背水の陣

 
前書き
グイン・サーガを離れ、初代ヤマト関連の異世界へ(笑) 

 
「大ガミラスの勇敢なる戦士諸君、勇戦に感謝する。
 無限艦隊の襲来から約半月、365時間が経過した。
 誠に残念ではあるが、太陽系防衛戦の現状は諸君も御存知の通りだ。

 月の軌道に配置された最後の砦、戦闘衛星群の最終防衛線《デッド・ライン》も崩壊寸前。
 我々を第1次人類の末裔と認めてくれた盟友、地球人《テラナー》も絶滅の危機に瀕している。
 風前の灯となった第2次人類の代表者、太陽系連邦の首席から連絡が届いた。

『太陽系の第4惑星、火星《ガミラス》を祖先の地とする方々に申し上げる。
 我々を護る為に奮闘を重ね、多数の死傷者を出した貴軍の勇戦に感謝する。
 地球人類の恩人スターシア、サーシャ殿を貴軍に託し新天地へ御連れ願いたい。
 これ以上の戦闘継続は不要、太陽系を脱出し大宇宙の何処かへ転進されよ』と。

 宇宙機雷の障壁、宙域防御《ゾーン・ディフェンス》も数分後に在庫が尽きる。
 既に諸君も御承知の通り、火星防衛軍も音信不通。
 本来であれば最高司令部の戦術的失敗を認め、自由行動を認める状況ではあるが。
 私は第2次人類の犠牲を代償とする敵前逃亡、戦術的撤退の選択肢を放棄する。

 『我等の前に勇者無く、我等の後に勇者無し』。
 火星防衛の任を買って出た勇将、シュルツが私に教えてくれた言葉だ。
 我々、ガミラス星人は戦闘民族である。
 今この瞬間に至るまで、ガミラス宇宙軍が敵に背を向けた事は無い。

 水星《イスカンダル》の旧称を復活させた第3惑星、地球に崩壊の刻が迫っている。
 我が軍の転進は最終防衛線の崩壊、地球人類の全滅に直結する。
 我々は第1次人類の名誉に懸け、最期まで闘う事を以て、彼等の恩に報いなければならない。
 ガミラス総統としての最終判断に、戦友諸君も賛同して戴ける事と信じている。

 これまで、良く、私の拙い指揮に従いて来てくれた。
 私は、諸君と共に戦えた事を誇りに思う。
 栄光ある大ガミラスの総統として、諸君に、一言だけ申し上げたい。

 ありがとう。
 …以上だ」

 『火星を枕に』と発言したのは、言葉の綾だ。
 月《アルテミス》の裏に急造された砲台群、月影《デス・シャドウ》は既に潰えた。
 衝撃波砲《ショック・カノン》の塊、死の星《デス・スター》及び反射衛星砲360基も壊滅。

 内部衝撃波を発生し共鳴させ、照射物質を破壊する大口径断続式光線砲を装備の宇宙要塞。
 中小口径のパルス・レーザー及び多数の熱線砲、電磁砲を配備した防衛施設。
 対宇宙近接防衛陣地、通称《軍艦島》も沈黙に至っている。

 ガミラス宇宙艦隊は新たな故郷、太陽系の第4惑星に骨を埋めず地球《テラ》周辺に後退。
 私の名を冠し総統府を兼ねる円塔型戦艦、及び護衛の駆逐艦《デストロイヤー》数隻も同様。
 我が軍は約9割の戦力を喪失、絶対防衛宙域《ファイナル・ディフェンス・エリア》に後退。
 ドメル将軍の魔術《マジック》、瞬間物質移送装置も焼け石に水であった。

 多弾頭爆弾、超大型爆弾、ドリル・ミサイル、遊星爆弾の在庫は既に払底。
 人類の希望を担う宇宙戦艦ヤマト、地球防衛艦隊は時空を隔てた宙域に拘束されている。
 他にも我々の苦境を知り、太陽系防衛戦に参加を表明した勢力が存在する筈だが。
 滅亡の危機に瀕する地球人類は命旦夕に迫り、救援が間に合うとは到底思えぬ。


 冥王星《ハデス》前線基地、土星《クロノス》衛星タイタン基地。
 木星《ゼウス》のメタンの海に漂う浮遊大陸、等の外郭火力陣地は既に崩壊。
 太陽系第5惑星の痕跡、小惑星帯に展開した戦闘衛星《デス・スター》群も破壊された。
 超巨大爆弾や惑星攻撃用の遊星爆弾すら投入したが、無限艦隊の後続を断つ事は出来なかった。

 大口径の超電磁直撃砲《プラズマ・ガン》、高出力熱線砲《ハイパワー・ビームキャノン》。
 長射程《ロングレンジ》の衝撃波砲《ショック・カノン》、砲艦《ガン・ボート》も喪われた。
 数十日に渡る戦闘の末、太陽系絶対防衛線《ソラーシステム・ディフェンスライン》は崩壊。
 我がガミラス軍の各種艦艇も全て損傷しており、満足に戦闘可能な物は幾らも残っていない。

 宇宙戦闘機も残る機体は僅少であり、宇宙魚雷は1斉射分を残すのみ。
 数分後には侵攻軍の大群が襲い掛かり、我がガミラス宇宙艦隊は蹂躙されるだろう。
 スターシャ達の祖先が数万年前に離れた故郷、水星《イスカンダル》は命旦夕に迫っている。
 無限艦隊の激流が背水の陣を破り第2次人類の故郷、地球《テラ》が直接攻撃に曝されるのだ。

 人類滅亡《デット・エンド》まで、後3,600秒と云うところか。
 全ガミラス将兵は覚悟を決め、総員最終決戦配備に就き無限艦隊を待ち受けている。
 宇宙機雷が総て破壊され、最終攻防戦《ファイナル・ステージ》の幕が上がる。
 戦闘衛星も砕け散り、最後の秒読み《ファイナル・カウント・ダウン》が開始された。





 時は、遡る。
 西暦2199年、某月某日。
 我がガミラスに属する全領域、総ての全表示スクリーン上に同一の映像が現れた。

 艶やかな緑の長い髪、水色の澄んだ瞳を持つ清楚な妙齢の美少女。
 額に聖王冠《ティアラ》を戴き、純白の聖衣《ドレス》を纏う優雅な姿。
 銀鈴を振る様に染み透り、水晶の楽器《クリスタル・グラス》を髣髴とさせる。
 緑の森と空色の清らかな泉、澄み渡った透明な湧水を連想させる涼し気な声。
 年若い少女の容貌と裏腹に、豊潤な包容力と高貴な雰囲気を漂わせる異星の姫。
 澄み渡る繊細な高音域の女声(ソプラノ)が囁き、心の奥底に響き渡った。

「惑星メルの王女メローラより、宇宙航行種族《スペーサー》の皆様に御連絡致します。
 女神救出作戦《プロジェクト・スワティ》が、発動されました。
 この鍵言葉《キー・ワード》に拠り、永続性催眠暗示命令は解除《リセット》されます。
 記憶封鎖《メモリー・プロテクト》、表層の記憶は消え去り真実の記憶が回復します。
 可能性を統べる女神の記憶を回復された方々の許へ、私の映像と音声が到着しています。

 私の他にも多数の協力者が、既に行動を開始しています。
 時間移動を必要とされる方々には、時間跳躍者《タイム・リーパー》が派遣されます。
 次元間転移を必要とされる方々には超次元間の遠隔精神感応、心話に拠る誘導を試みます。
 大宇宙《グレート・コスモス》全体を対象とする放送は、以上で終了です。
 親愛なる皆様へ祝福を贈り、心底より御助力に感謝致します」
 ガミラス帝国は、未曾有の大混乱に陥った。
 封印が解かれ甦った記憶に拠れば、我がガミラス帝国は既に滅亡していたのだ。

 宇宙艦隊の熟練乗組員から、帝星ガミラスを一歩も出た事の無い総統府勤務者に至るまで。
 自らの最期を、己の死の瞬間を記憶していた。
 私も、ヒスも、ドメルも、シュルツも、全ガミラス星人が己の死を『思い出した』。
 母星ガミラスもまた、宇宙の塵と化していたのだ。
 我々が現実《リアル》と信じていた世界は、真世界《オリジナル》ではなかった。
 女神の尽力に拠り、再創造された複製世界《レプリカ》であった。

 時空変換点《クロス・ポイント》は、地球艦隊の冥王星《ハデス》遠征であったらしい。
 冥王星前線基地は当時、ガミラス本星から厳命を受けていた。
 波動エンジンの設計図を、地球人類へ渡してはならぬ。
 サーシャの乗るイスカンダル恒星間宇宙巡航艇を捕獲、または破壊せよと。
 イスカンダルの快速艇は唯一の乗員に頼らず、自動操縦《オート・パイロット》で跳航《ワープ》。
 ガミラス艦隊に易々と撃破される直前、沖田率いる地球艦隊11隻が突入して来た。
 シュルツは冥王星軌道上に宇宙艦隊を展開、万全の態勢を整え待ち構えていたが。
 古代守の指揮する駆逐艦『ゆきかぜ』は無謀な肉薄攻撃を敢行、攪乱され阻止線に隙が生じた。

 快速艇の自動航法判断機構は、艦隊が交錯する戦場を強引に突っ切る選択肢を採用。
 ガミラス艦隊は地球艦隊に気を取られ、阻止線の盲点を突かれた。
 自動航法判断機構は衛星の破片、宇宙塵《スター・ダスト》の間隙を強行突破。
 直径数ミリであれ衝突すれば大爆発する重大な危険を承知で、減速を回避。
 外宇宙航行速度を維持した儘、一気に第4惑星の火星《アレス》へ疾走している。

 太陽系内航行速度に減速していれば、どうなったか?
 第7惑星の土星《クロノス》衛星タイタン基地、或いは第6惑星の木星《ゼウス》浮遊大陸。
 ガミラス軍の前進基地から攻撃を受け、確実に撃破されていた筈だ。
 目標が第4惑星の火星《アレス》であったのは、偶然ではない。
 嘗て我が母星ガミラス、イスカンダルの祖先が断腸の思いで別離を告げた地。
 当時の太陽系では唯一、居住可能な惑星であったからに他ならない。
 遥かな過去、現在は砂の惑星と化した赤い惑星に豊富な水と大気が存在していた時代の話だ。

 当時の第3惑星イスカンダルは現在と同様、海の惑星であったが氷河期が到来し環境は一変。
 もうひとつの居住可能惑星である第5惑星、風王星《アイオロス》は既に崩壊寸前であった。
 人類の生存を許さぬ氷地獄《コキュートス》、氷の大地《ブルー・グラード》へ変貌。
 本来は第5惑星を意味する水星《アクエリアス》、氷王星《ダライアス》とも呼称される。
 現在の第2惑星、金星《アフロディーテ》は内面を見せぬ雲の惑星。
 太陽の光と熱を遮る厚い雲が大気圏上層に達し、惑星全体を覆っていた。
 快速艇は第5惑星の名残、小惑星帯《アステロイド・ベルト》を回避せず第4惑星へ直行。
 岩石塊と宇宙塵の群れ成す航行上の危険地帯を通過の際、重大な損傷を負ったと推定される。

 火星に墜落する直前、緊急脱出装置《エマージェンシー・ロケット》が射出されたが。
 出発以前に白血病を発症する乗員、サーシャは既に死亡していたと思われる。
 地球艦隊が劣勢を顧みず冥王星宙域へ赴き、挑戦する勇気を発揮しなかったとすれば。
 イスカンダルから差しのべられた救いの手は、地球人類に届かなかったであろう。
 天は、自ら助ける者を助く。
 地球艦隊10隻の犠牲は、無駄ではなかったのだ。 
 

 
後書き
 メローラ姫は縦スクロールのシューテョング・ゲーム、『出たな!ツインビー』の開始直後に登場しています。
 惑星メルの女王様ですが、勝手な心象(イメージ)聖王女(プリンセス)に変更。
 ラジオ番組『ツインビー・パラダイス』も大好きでした、メローラ姫を演じた井上喜久子さんの声が印象に残っています。

 沖田艦隊9隻の乗組員に、宇宙戦艦ヤマトの偉業達成を伝えてあげたいです。 
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