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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第四一幕 「子連れ狼」

前回のあらすじ:主人公は勝つ法則

クラース・ウル・ダービシェス。
民間軍事企業「Mark Wolf(マークウルフ)」の社員であり、2年前に世界で初めて男性IS教導官に任命されたことで有名な男。現在はIS理事会直々の依頼でIS学園の警備を一任されていることからも彼が有能であることが解る。「世界一の女がブリュンヒルデなら世界一の男はワーウルフ(クラースの渾名)だ」などと言われることもある、この時代に珍しい「強い男」である。

と、ここまでが一般人が調べて知ることが出来る範囲の彼。

で、現実の彼はというと・・・膝の上の見た目幼女を愛でていた・・・何も知らない人から見たらロリコン呼ばわりされる可能性もあるが、単に仲のいいご近所さんのようにも見えなくはない。

「暫く見ないうちに随分髪伸ばしたな?身長もちょっと伸びてるし」
「自分の髪が綺麗だと褒めてくれたのは父自身であります!」
「おう、そういえばそうだったな?話忘れちまってたお詫びにチョコバーあげる」
「わぁ、チョコバーだ!・・・じゃなくてありがとうございます!」

唯でさえ勘違い外人みたいだったラウラのキャラ崩壊がさらに悪化している。受け取ったチョコバーをウサギのようにカリカリ頬張るその姿からは、やはりというか軍人らしい部分は欠片も見つけられない。これが少佐とは、ドイツは一体どこへ向かっているのだろう。上層部はロリコンなのか。せめてノータッチの原則は守っていてほしいものである。
そんなラウラを尻目にクラースは他の生徒とお喋りしている。

「ではダービシェス主任がラウラにNIPPONについてあることないこと教えた張本人なのですか?」
「クラースでいい。主任も付けなくていい。あと人聞きの悪いこと言うな篠ノ之君。俺はちゃんと必要な事を教えたぞ、ユーモアとかも含めて」
「ではやっぱり大本の元凶は貴方なのではないですか」
「そうとも言う・・・が、時にはユーモアも必要だろう?」

冷たい視線でツッコむセシリアに涼しい顔で返すクラース。最初は目上の人扱いしていた周囲も段々口が軽くなっていく。こういった相手に自然と心を開かせる雰囲気を彼は持っていた。そこも彼がラウラに懐かれている所以かもしれない。・・・もっとも、何故かシャルとジョウは始終友人のように馴れ馴れしかったが。恐らく二人は以前から彼と知り合いだったのだろう。

「・・・さて、今日は元教え子の顔を見に来ただけだからそろそろお(いとま)させてもらおう」

そう言いながらクラースはラウラを膝の上から降ろす。その動作は妙に手馴れていて、本当の家族のように見えなくもない。ラウラは一瞬名残惜しそうな目をしたが、それ以上は何も言わず従った。子供の我儘でクラースの仕事の邪魔をするべきでないという思いが働いたのだろう。

「じゃ、俺は行くから学園を楽しんでいけよ?」
「ヤー!必ず父の養子になってみせます!」
「・・・ま、まぁ、お前の居場所が無くなった時は考えておく」
「お任せください!IS学園にいる間に必ずとんでもない不祥事を起こして孤立しますので!」
「起こすな馬鹿たれ!!処理するのは誰だと思ってやがる!?」
「父の教えその11!『面倒事はなすりつけるもの』、です!」
「じゃかあしい!!それは自分に非がないときと余裕の無い時だけだ!」

「・・・仲良いな、あの二人」
「・・・ロリコンかと思ったけど、そうでもない?」
「というかクラースさんって教え子にそんなこと教えてたわけ?そりゃ変人にもなるわよ」

その問いにクラースは困ったように顎を撫で、ぽつりと真実を告げる。

「上司の蹴落とし方は念入りに教えたからなぁ・・・」
「「「「子供に何教えてんだよ!!」」」」
「こらお前たち、ラウラ含むドイツの教え子連中には本当に必要だったから教えたんだよ!・・・ではもう行かせてもらう!」

背を向けながら挨拶するようにしゅぱっと片手を挙げ、そのままクラースは行ってしまった。
教え子連中ということは、ラウラのような存在がたくさんいたのかもしれない。ドイツのIS操縦者は一時期少年兵問題を引き起こしたことがある。一同は「やっぱりラウラは訳ありなんだな」という思いを強めながらも試合を終えてピットに戻っている一夏とユウを迎えに行った。



「次は負けないよ、一夏?」
「次も負けないぜ、ユウ!」

互いに何か特別な事を云うでもなくあっさりとした一言。二人にとっては試合後に交わす言葉などこれで十分・・・という訳ではない。互いにまだ言いたいことはあるだろうが、それでも二人がやけにあっさりしているのには理由がある。

それは、すぐそこまで迫った学年別トーナメントだ。これは前のクラス対抗戦と違って全員参加、トーナメント形式で争う。要するに二人はそのトーナメントで改めて戦うつもりなのだ。
2人ともこの試合で自分の問題点や相手の特徴など非常に貴重な経験とデータが得られた。後は相方を見つけ、次は万全を期すために戦術を練り直し、きっちり互いにぶつかれるように試合に勝つだけである。



 = =



皆と別れ、自室に戻りながらも一夏は考える。今回の試合から見えてきた自分の問題点を。
状況判断の遅さ。二刀流の練度の甘さ。未だ機体の性能を引き出せていない事。そして・・・

「はぁ・・・さっきの試合、残りシールドエネルギー1だったなんて、アニメじゃねえんだぞ・・・これじゃとてもじゃないが勝ったとは言えねえよなぁ」

これである。雪片弐型が最後に使ったあの一撃。刀身が伸びるのはチカさんが仕込んだギミックなのだが、これは刀身を大型化させればさせるほど加速度的にエネルギー消費が多くなる、一発逆転狙いの最後の切り札なのだ。その切り札をあっさり晒した挙句、あと少しでエネルギー切れを起こして負けるところだった。
このままではいけない・・・いけないのだが・・・如何せん白式にはこれ以上引き出しが無かった。元々寄って斬るしか能のない上に後付装備を付けることが出来ないこのISでは、どうあがいても剣でねじ伏せる以外に取れる戦法がない。

剣の稽古以外にも何か考えなければいけないが、どうしようか。姉に助言を乞うという手もあるが、正直身内頼みはしたくない。かといって他に助言をくれそうで尚且つ腕の立つ人となると・・・と、そこで一夏はある人物に思い至った。

「・・・・・・いた!一人だけいた!あの人なら力を貸してくれるかも・・・!」




「・・・という訳で俺の下に来たと」
「はい!」

一夏が足を踏み入れたのはジョウとユウの住む隣部屋、学生棟1026号室。相談相手は言わずもがな残間兄ことジョウである。部屋の中はきちんと整頓されており、隅に積み重ねてある筋トレグッズ類を除けば普通の部屋だ。ちなみにユウはどうやら今はいないようだった。

「まぁ確かに行き詰まるのも無理はないな。白式はどう低く見積もっても“今のお前”に扱いきれる機体じゃない」
「うぐっ」

遠回しに「未熟者」と言われている事を自覚し呻く。だがそれでも今の一夏に思いつくのは助言を求めるくらいしかなかった。ジョウは少し考えるそぶりを見せ、一人で何やら考えながら口を開く。

「・・・ユウも嬢ちゃんや鈴と何かやってるみたいだし、公平性を保つために俺がこっち側についてもいいか・・・よし!明日から俺がちょっとばかし鍛えてやるよ!それでいいか?」
「ほっ・・・本当ですか!?あざーっす!!」

十中八九「自力で頑張らんか戯け」という返事が返ってくると思っていただけにその答えは意外だった。だがこれで終わりではない。何せジョウさんは戦いが絡むとおふざけは一切なしだ。確実にジョウ主導の特訓は今まで以上にきついものになるだろう。そう考えてすぐに(かぶり)を振り、自分の頬を両手で軽く張る。

(ここで弱音を吐いちゃ今度こそユウに負けちまうぞ!あいつは毎日ジョウさんと組手してるんだからな・・・)

自分も確かに二人の組手に参加することはあった。だがその時はユウと二人掛かりで代わりばんこにジョウを攻める形式だったからこそついていけた。それを普段のユウは一人でこなしているのだ。体にかかる負担、必要な判断力、取れる戦法の幅・・・2人がかりとは比べ物にならないほど厳しいはずだ。
改めて気を引き締める一夏にジョウは軽く欠伸をしながらジェスチャーで「気にするな」と手を振る。

「偶にはいいだろ。どうせ俺はトーナメントに出れないから暇だしな」
「え、出ないんですか?」
「織斑先生から待ったがかかってな・・・「アマチュアの大会にプロが出ては公平性が保てない」だそうだ」
「・・・・・・・・・笑えませんね」

アンノウン事件と今日の模擬戦をありありと思い出す。もしジョウがトーナメントに参加したら対戦相手は絶望的な実力差に心が折れる事間違いなしだろう。つくづくオーバースペックな人である。

(それにしても“ユウも何かやってる”って言ってたな・・・果たして次は何をやる気なんだろう?)
「まぁそれはそれとして、篠ノ之には事情説明しとけよ?」
「あ、はい!それじゃ失礼します」

一夏を見送ったジョウはベッドに寝転がり、天井を見上げながら思考する。

一夏には暇だから鍛えてやると言ったが、実際にはそれは違う。

――― 一夏君を鍛えてあげてくれないかな?多分必要になるから・・・

友人からそう言って元々頼まれていた事である。何でももうすぐ一夏に越えるべき試練が訪れるのだそうだ。それを乗り切れるように面倒を見てやってくれと言われ、承諾した。一夏とは知らない仲でもないし、磨けば光る所も多々あるだろうから別に苦には思わない。むしろその方が色々と面白いとさえ思っている。
だが他に思う所が全くない訳ではない。
詳しい事情をあいつは話さない。一方的に連絡を寄越す事が殆どだ。だが俺から訳を訊きはしない。事情を聴かずに動いてやる程度の信頼関係であるから。

「でも、その内ちゃーんと訳を話せよな、水津花」

“5年前のあの一件”以来、あいつは以前にも増して必死に何かを為そうとしている。それがこの世界にとって益となるのか、それとも逆の結果をもたらすのかをジョウは知らない。それと一夏に何の関係があるのかも知らない。だがジョウのカンが、これは必要な事だと告げていた。第六感は友達だ。そして彼も友達だ。だから全面的に同意せずとも手や耳くらいはいつでも貸す。
友人の顔を思い浮かべながら、ジョウは静かに目を閉じた。

・・・そしてそのまま爆睡してしまい、その姿に呆れた弟に毛布を掛けてもらったかどうかは定かではない。

「んご~~~・・・」
「んもう、兄さんったらお腹出して寝て!いくら天才だからってお腹冷やして寝ても平気とは限らないんだからね?」
 
 

 
後書き
少年兵(少女兵、子供兵とも言う)は18歳未満の子供の兵隊全てを指します。
国際条約や国連決議でも少年兵を無くすための議論は活発に行われてきました。
現実世界に照らし合わせるとラウラの存在は完全にアウトです。倫理的な問題で。

そして読者の皆様にお知らせがあります。
実は最近リアルの忙しさが増してきておりまして、執筆ペースが保てるかちょっと危うくなってきました。
つきまして、これから更新ペースを落としたいと思います。続きを待っている皆さん申し訳ありません。 
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