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白百合紅百合

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第五章

「その時に」
「ああ、そうだったのか」
「あの、ずっと気になっていたんですけれど」
「何なんですか?」
「初代の顧問の先生なんだよ」
 先生が笑顔で話す。
「その人が来るんだよ、今日な」
「初代?」
「だから生徒会の顧問の先生だよ」
 その人がだというのだ。
「来るんだよ、毎月十五日にな」
「あの、確か」
 彩は先生の言葉に怪訝な顔になって返した。
「うちの学校って創立は」
「明治時代だよ」
「そうですよね」
「明治二十年だったな」
 先生はさらっとその創立の年を言った。
「女子校だったんだよ、最初からな」
「生徒会もその頃からありますよね」
「そうだよ」
「それで初代ですか?」
 彩の顔にある怪訝なものはその色をさらに濃くさせていた、そのうえでの言葉だ。
「ええと、それって」
「時代が合わないっていうんだろ」
「明治ですよね」
「それ二十年だよ」
「その頃の顧問の先生って」
「幽霊だよ」
 先生はここでもさらっとして言う。
「だからな」
「えっ、幽霊って」
「だから幽霊だよ」
「幽霊がこの教室に来るんですか」
「十五日にな」
 その時にだというのだ。
「来るんだよ」
「何か物凄いことですけれど」
「別に凄くないだろ、魂ってあるだろ」
「はい」
「それが肉体から出ただけだよ、幽霊っていうのはな」 
 先生は仏教的な考えから話した、それは言われてみればその通りだった。
「だから全然凄くないからな」
「そうなんですか」
「そうだよ、全然な」
 凄くないというんだ。
「初代の顧問の先生が来るんだよ」
「それであの机は」
「初代さんの机だよ」
 まさにそれだというのだ。
「実体がないから飲み食いは出来ないけれどな」
「それでどうしてお菓子とジュースは」
「初代さんが賑やかなのが好きでさ」
「だから私達でパーティーをして」
「そうだよ」
 まさにその通りだというのだ。
「あたし達はいつも十五日は楽しんでるんだよ」
「どうして幽霊になって出て来るんですか?」
 今度問うたのは佐江だった、先生にこのことを問うたのだ。
「それは」
「そのことか」
「はい、初代の顧問の人の幽霊はわかりましたけれど」
「どうしてここに来るかか」
「それはどうしてなんですか?」
 佐江は真剣な顔で問う。
「それは」
「初代さんが亡くなられたのは昭和だけれどな」
「その頃ですか」
「昭和三十三年に老衰で亡くなられたんだよ」
「杉浦忠さんのデビューの年ですね」 
 佐江にとってはこうなる、間違っても巨人の長嶋茂雄とは言わない。
「その頃ですね」
「ああ、稲尾さんが巨人をシリーズで成敗した時だよ」
 その四連投でだ、それで稲尾は神仏にさえ例えられた。ここまで讃えれた選手は他にはバースだけである。
「その時に老衰でな」
「大往生だったんですね」
「ああ、それでもな」
「幽霊になってここに来られる理由は」
「寂しいからだよ」
 だからだというのだ。 
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