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舞台神聖祝典劇パルジファル

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第二幕その一


第二幕その一

                 第二幕  目覚め
 魔法の城は淫靡な趣さえあった。
 色は暗灰色だがその中に紅い花が咲き誇り紅や緑の透き通る服を着たニンフの如き娘達が艶やかに舞っている。騎士達がその中で堕落した顔をしている。城の主クリングゾルはアラビアの服を着て黒く濃い髭を生やした大柄な男であった。彼は己の玉座に座したままで周りに控える騎士や美女達に言うのだった。
 どの者達も目は虚ろだ。その虚ろな目で彼の言葉を聞いていた。
「時が来た」
「はい、時が」
「今こそ」
「そうだ。来たのだ」 
 こう周りに語るその声は重厚だが妙な高さがある。それこそが彼の声だった。
「この城はあの愚か者を引き寄せたのだ」
「愚か者といいますと」
「またモンサルヴァートの騎士が一人」
「違う」
 ところがであった。ここで彼は言うのだった。
「あの者達とはまた違う」
「といいますと」
「それは」
「子供の如き歓声をあげこの城に近付いて来る」
 まさに遠くを見る目であった。
「そしてクンドリーだが」
「あの女もですか」
「今は俺の魔法で眠らせている」
 そうしているというのだ。
「だがすぐに起き上がらせられる。その時こそだ」
 ここで右手を前に出して掲げてみせた。するとであった。
 それだけで何かが起こったのだった。
「出るのだ」
 彼は言った。
「そしてここまで来るのだ」
「あの女が」
「ここに」
「そうだ。来るのだ」
 こう言うのである。
「名無しの御前を主が呼んでいる」
 そしてさらに告げるものは。
「御前はかつてヘローディアスといいかつてはグンドリュッギア、そして今はクンドリーといったな」
 そうした名前を出していくのであった。
「御主人様が御呼びだ。出て来るのだ」
 そう呼ぶとであった。今遂に来たのであった。
 クンドリーは部屋の中に蜃気楼の如く現れた。そのうえで言うのであった。
「私を呼んだのか」
「そうだ」
 まさにそうだと答えるクリングゾルだった。
「俺が御前を呼んだのは」
「それは何故」
「理由は一つしかない」
 こう返しもした。
「御前が俺の奴隷だからだ」
「私はそうなった覚えはない」
「またあの城に行っていたのか」
 ここで忌まわしげな顔になるクリングゾルだった。
「モンサルヴァートに」
「あの城が私の本来の居場所」
「あの場所が何だというのだ」
 声もまた忌まわしげなものだった。
「あの様な白がだ」
「あの城にやがて現れる」
 クンドリーは空虚な声で彼に返す。
「私をこの永遠の苦しみから解き放ってくれる清らかな愚か者」
「またそいつなのか」
「彼を求めて」
 だからだというのである。
「私は」
「あの城の者達は何も知らない」
 クリングゾルの今の言葉には嫉妬もあった。
 
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