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復興の花

作者:hiroki08
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復興の花

主要登場人物
中村 正 (主人公)五四歳…越喜来(おきらい)の漁師
中村 初音 五五歳…正の妻
水野 孝信 三八歳…魚卸業社の従業員
及川 勝  五五歳…正と親交のある漁師
下原 敬一 七〇歳…由比港漁協 組合長
棚井 栄  四二歳…岩手県庁職員 
遠野 稔  五〇歳…水産庁 官僚
日野 雅俊 四五歳…正の後輩漁師
及川 充  二八歳…勝の息子。漁師

   








 岩手県大船渡市三陸町 
 越喜来漁港
 2011 3.11 14:45

 港から少し離れた民家
 軒先に繋がっている犬が吠えている

 正の家
 
 正は依然として吠え続けてる隣の家の犬を叱りつけようとリビングの窓を開けた。
正「りん。うるさいよ。こっちは昼めし食ってんだから。静かにしろ」

 正の家のリビング
 時刻は14:46
 食卓においてあるラーメーン鉢がゆれ始める
 
 ラーメン鉢の揺れが大きくなりスープが揺れと共にこぼれていく

 正は大きい揺れに立っていられなくなり床にはいずりばった。
 初音の悲鳴が聞こえる


 
 台所
 
 揺れがおさまり
 正は台所に倒れている初音に駆け寄り、床に膝をつけた。

 台所には棚から落ちた複数の皿の破片が床に散らばっている。
正 「おっかー。大丈夫か」
初音「はい」
 初音はあっけにとられた表情で正をみつめた。
 
 越喜来港

 海面がどんどん下がっていく

 
 中村家の玄関前
初音「みんな大丈夫かな」
 辺りを見わたす初音。
 
 電柱についてるスピーカーから防災放送が流れている。
女性の声の防災アナウンス「ただいま海面に大きな変化が見られます。6m以上の大津波が予想されますので急いで高台へ避難してください」
 
 正は初音に顔を近づけ両手で震える初音の両肩を押さえつけた。
正「おっかー。しっかりしろ。俺は船を沖に出すから通帳とか持って丘に行け」
初音「はい」
 初音の目が潤んでいた。
 
 軒先にある洗濯物をぎっしり干している物干し台
 正はそこからフェイスタオルを一枚サッと取った。
 
 それをほっかぶりにして
 正は港の方に向かって歩き出す
 初音はその背中を悲しそうに見つめた。

 
 
 その三十分後
 
 人でごったがえす高台の丘

 その最前列には肩にボストンバックを掛け胸の前で手を合わしじっと海を見つめる初音。
 初音の右隣にいる女性は「ふっ。フッ」といいいながら泣きじゃくった。

 海面
 
 引き波に飲みこれていく
 係留されていた船
 民家
 根っごと流れる大木
 越喜来漁協の建物
 船を失った男の絶望する声「もうおわりだ。すべてが」

 
 夜になりそこはアン・サリー 満月の夕
の歌詞の世界のようだった。

 水浸しの漁港は閑散としていた。



 あれから一つき後
 
 西日が差し込む
 高台に立つ集会所の玄関
 
 畳が敷き詰められている大広間
 円を描いたように並べられた座布団にあぐらを書いて座る漁師達の後姿
 
 正と後輩漁師の雅俊が向かいあっている
正 「雅俊本気なのか?」
 正は心配そうな表情で雅俊を見つめた。
雅俊「正さんは船を沖さだして無事だったけど俺らは船流されてんだ。それに町のやつらがまだ沈んでるじゃないか。そんこでなとこで漁なんてしたくない。とりあえず丘で仕事探すんだ」
 雅俊は正を睨む
漁師A「それからでも漁はできる。組合長もそうしろって言ったんだ」
「うんだ」
漁再開に反対する漁師達が大きく頷いた。
 
 
 反対派の一〇人ほどのグループが立ち上がり去っていく
雅俊「正さん。精々がんばってな。まあ何事もあきらめが肝心だから無理せん程度にな」
 
 正たちに背を向け玄関に向かう雅俊
 その背中に充が襲い掛かろうとするが勝に払い締めにされた。
充「この恩知らず」
 それをよそに正は窓から見える海を眺めていた。


 
 
 すかっり落ち込んで肩を落としうつむいて座る残った六人。
客人「すいません」
 皆が玄関の方向を向く
「俺行きます」
 充が立ち上がり一目散にワクワクした表情で玄関に向かった。
 
 玄関
 
 開いてる戸
玄関の外にいる水野
玄関に靴を履いて下りた充
水野「中入っていい?」
充 「どうぞ」
 充は笑みをこぼした。
 
 大広間
 
 充が水野を引き連れ部屋に入る
 座布団に座る五人の視線は水野に注がれる
正 「俺らの仲間さなってくれるのか?」
水野「仲間ってなんですか? 僕は今までの通り卸やりますよ」
 座布団にあぐらをかいて腕を組んで座る水野
 その表情を正たちは覗き込むようにみた。
 

 表情を柔らかくした勝がその表情の水野に話しかける
勝 「漁協もないのに卸はできないだろ」
水野「漁協は潰れませんよ。もう少し待てば県漁が復旧手伝ってくれて、また前のように戻ります」
正「前のようにもどってまたもうからない商売やるのか?」
水野「たしかにもうからないですけど。みんなそれでなんとかやってたじゃないですか」
充「それは漁協の言うとおりにやってたからだろ」
水野「正さんたち。もしかして独立するんですか?」
正「そうだ。これからは儲かる漁をやる」
水野「具体的に言ってくださいよ」
正「具体にって言われても」
水野「ノルウェーでは漁場管理が徹底していて魚を四年、五年太らせてから獲るんだ。それだと値はつくし資源管理もできる」
充「たしかにそうすっね。獲る量減ったら活き〆で鮮度あげれるし」
正「俺たちはこれをやるんだ」
勝「今まではそこにあるぶんをねこそぎ獲って、今年は豊漁だとか不良だとかやってたからな。なんか馬鹿みたいだな」
水野「それをやったとしても誰が魚売りにいくんですか?」
 お互いの顔を見合わせる漁師達
 充は申し訳なそうな表情をして
充「それは卸の水野さんが」
水野「状況が大きく変わっちまったから販路確保できる保障はありませんよ」
 正が頭を下げる
 他の漁師たちもそれにつられる
正「この通りだ。こういうことはお前しかできん」
水野「頭上げてください」
 顔を上げた正
 渋い表情の水野
水野「ただし条件があります」
正「なんだ?」
 

 水野と正のアップ
水野「前に言ってた。水深三千mの魚食べさしてくださいね」
正「おう。なんぼでも食わせてやる」
 正は自信の満ちた表情で水野に向かって頷いた。
 勝がその場から立ち上がる
勝「なんか七人の侍みたいだな」
水野「頭数だけけじゃないですか」
充「七人の侍って何?」
正「世界のクロサワだよ。それより記念に一枚写真撮ろうか」
 
 七人が並んだ記念写真
 皆がこれから来る試練を覚悟したかのように鋭い目つき
 
 こうして七人の同志が集り新会社作りがスタートした。


 
 それから数日
 
 越喜来港
 
 打ちあがったがれき
 車
 壊れた船
 養殖していた牡蠣と腐敗する魚があたりを埋め尽くしている
 
 砂浜海岸

 浜に打ちあがった使えそうな魚網、浮きなどの資材を拾いつめる正たち
充「資材は自分達で買えって。国もホント酷な事をゆうよな」
正「そんなこと言ったって何もはじまらねえ。俺達はやるしかないんだ」
勝「そうだ。やるしかねえんだな」

この日の夜

越喜来漁港跡地

民謡ライブ
ソウル・フラワー・ユニオン 満月の夕
の演奏がスピーカーを通して流れる

観客席に腰をかける正と初音
初音「今まで泣けなかったら泣きますよ。わたしは」
 初音の大粒の涙一滴が流れ落ちる
正 「みんながみんなに気をつかってみんな泣くこと忘れてたんだな」


 
 
 そのころ水野は

 盛岡市の繁華街アーケード
 あたりはもう真っ暗
 ガランとしている
 
 寿司店の店内
 客はいない
 水野「大将。お願いします」
  頭を下げる水野
 カウンターを挟んで水野を見下ろす店主
店主「あんたには恩があるけど。うちもこのとおりだ。すまんが帰ってくれ」
 
 
 寿司店の外
暖簾の前にたつ水野

 遠くからフォークギター演奏の竹原ピストル・復興の花が聞こえた。


 水野は自分の右手で左ほほをパンパンと叩く
水野「やるしかないよ」

 
 
 海を疾走する船
 甲板で仁王立ちする勝と充
 操舵室の窓から顔を出す正
 水しぶきが上がる

 震災から二つき。足りない資材は借金して購入し、やっと海に出ることができた。また、水野の奮闘が実りなんとか販路を開拓した。

  しかし
 
 
 集会所の大広間に構えた事務所
 事務所の片隅に置かれてるデスクのイスに座る水野
 電話の受話器を持つ
水野「なんでうちは認可法人になれないんですか?」
 
 正たちが事務所に入ってくる
 水野は勢いよく電話を切った。
水野「あーもう」
正 「首を縦に振らんかったか」
水野「宮城は俺たちみたいな小規模でも認可してるのに」
充 「やっぱ。県漁の助け舟を無視するのは  まずかったんじゃないんですか?」
 
 
 デスクの辺りにあぐらをかく正・勝・充
 イスを回転させ三人の方を向く水野
水野「ここで諦めたら、また儲からない漁業
やらされるんですよ」
正「そうだな」
 心配そうな表情をする勝
「でも。早くはんこもらわんことには町の人から俺らのやってること認めてもらえんよ」

 デスクのイスから立ち上がる水野
水野「そうだ。今獲った魚に保冷剤つめて静岡行きましょう」
 
 立ち上がった水野を見上げる三人
 勝「なにしに行くんだよ?」
 充「販路拡大のためですよね?」
 正「それなら俺らは行っても役にたたんぞ」
水野「視察も兼ねてですよ」
三人「視察?」
 
 昔の活気のあった漁港の様子

 大昔に網元制が廃止され漁民は開放された。そして、流通を発達させるため漁協を作った。しかし、それが以前の網元と漁民のような関係をつくってしまった。また卸、仲卸を経ての流通は漁協の規模が小さいほど漁民は儲からない、卸も儲からない、長だけ儲かる漁業の仕組みを生んでしまった。
 
 静岡県由比漁港
 人々が行き交う
 【由比桜えびまつり】という横断幕が掲げられている
 
 人でにぎわう漁港
 一台の黒いワンボックスカー
 後ろのドアから魚の入った発泡スチロール
を降ろす水野と充
充「視察じゃなくて露天販売じゃないですか」
水野「まあ。そう言わないで」
 
 由比漁協の組合長室

 ソファーに座る水野と正
 落ち着きない様子の正
正「充大丈夫かな?」
水野「勝さんいるから大丈夫でしょ」
正「あいつも心配だな。血の気が多いから」

 
 
 その部屋のドアが開く
 組合長の下原が右手を挙げて室内に入ってくる
 二人は立って組合長にお辞儀をした。
下原「やあ。水野君元気か?」
水野「ご無沙汰してます」

 ソファーに腰掛けた三人
 下原はにこやかな表情
 正の表情は硬い
下原「この度は大変でしたな」
正「お蔭様でなんとか船が出せるようになりました」 

 隣室の組合事務室から怒鳴り声が聞こえてくる
漁師A「やっとやれや。遅いんだよ。おめえらは」
下原 「にぎやか過ぎてごめんなさい。うちでは一番偉いのが漁師達。そのしたに組合長、事務員がいます。変わってるでしょ?」
水野「うちもあまりかわりませんから」
正「やっとと言う言葉は静岡でも催促するっていう意味で使われているんですね」
下原「漁師の共通言語ですよ」
水野「ほんと事務方には嫌な言葉ですよ」
 下原が大声を出して笑った。
 
 祭で賑わう由比漁港の様子

 赤字経営の漁協が多く漁協合併が進む中、由比漁港は黒字経営を維持する。その理由は日本の漁業の問題点である一貫した漁場の管理、農協と連携した直売所の経営などである。枠にとらわれないスタイルは漁師主義の漁協経営による産物と言っても過言ではない。


 
 
 夕日が沈む漁港
 
 一台の黒いワンボックスカー
 発泡スチロールを後ろのドアに積む勝と充
 その横で下原に挨拶をする正と水野
水野「あれこれ聞いたのにお土産まで頂いちゃってほんとにどうも有難う御座いました」
 水野と正は頭を下げる
下原「頑張ってください。信念は曲げないで持っているといつかはどんなに厚い壁でも貫きますから」

高速道路を走る車
夜道
ワンボックスカーの車内
充「漁師主導でほんとに上手くいくんですか?」
水野「うまくいくよ。絶対」
勝「正はどう思うんだ」
正「時代は変わったんだよ。魚を獲って、はい終わりじゃなくてこれからは俺達も無い頭使ってやらなきゃな」
水野「これからは落ち込んでる暇を与えないぐらいに働いてもらいますよ」






 
 
 越喜来港
 
 まだ瓦礫がところどころ残る
 船から水揚げされたものを荷おろしする正たち

認可法人に認められないまま、
震災から半年が過ぎ
太平洋からの冷たい風が吹き始めていた。
 
 事務所
 デスクで事務仕事する水野
 玄関から声が聞こえてくる
客人「すみません」
 玄関
 水野が戸を開ける
水野「はい。何の御用ですか?」
 玄関外
客人「申し遅れました。私こういうものです」
 客人の突き出した二枚の名刺には
『水産庁加工流通課補佐 遠野 稔』
『REFISH 代表 遠野 稔』
 
 事務所奥のパーテンションで仕切られた応接間
 テーブルを挟み対面に置かれたイス
 水野と遠野
遠野「今日は水野さんたちが自分たちで一から会社作りしているというのを聞きつけてやってきました」
水野「悪あがきはやめて県漁に頭下げるか大手スパーの傘下に入れっていうご忠告なら結構です。サラリーマン辞めたばかりので」
遠野「違います。そんなことを言いに来たのではありません」
水野「じゃあ、言いますけど。県漁に逆らったから認可法人の認可おりないんですか?」
 水野は机を叩いた
 遠野「それは知りませんでした。このあと岩手県庁に掛け合ってみます」
水野「ほんとにしらなかったんですね。すいません勘違いしてました」
遠野「こちらこそすいません。水産特区のせいで現場を混乱させてしまって」
水野「いいえ。現場の話をまともにとりあってくれてありがたいです」
 頭を下げる水野
遠野「頭を上げてください」
 ゆっくり頭をあげる水野
遠野「それでですね。今日はREFISH[ 魚食の復権・促進を目的とし活動する団体。]への賛同と水産庁が推すファストフィッシュ加工のご説明をしにきました」
 水野の表情には満面の笑み
水野「そうですね。それなら若い人も魚食べてくれますよ。うちのブランドの『三千mフィッシュ』にこの加工合わせたらかなりの付加価値になりますよ」
遠野「それはよかった」

 応接間の外から声が聞こえる
「ナメタの煮付け出来たぞ」
 水野はイスから腰を上げる
 水野「うちのお偉いさんたちが帰ってきたので紹介します」
 遠野「はい」
 
 事務所中央に置かれた長机とイス
 各席の器に盛り付けられたカレイの煮つけ
 入り口側のイスに座る正・勝・充
 反対側に立つ水野と遠野
水野「こちら。水産庁の遠野さんです。いろいろ手伝ってくれるみたいです」
勝「中央様が」
 遠野は頭を下げる
正「中央の人よろしくな。よかったら煮付け食べれや」



 魚の骨をお茶碗にいれお茶を注ぐ遠野
勝「魚、ほんとに好きなんだな」
遠野「私、水産庁入る前シイラ船に乗っていたんですけどその時の船頭がここまでしてはじめて魚が成仏するんだっていってました」
充「でも、漁師がなんで中央に入ったんですか?」
遠野「大学まで行ったんだから現場の声を中央に叩きつけて来いって浜の野郎共が私の背中を押したんですよ」
正「あんたみたい人中央にいたんだな」
遠野「しかし、今もまだその約束が果たせてないのが現実です」






 越喜来の防災庁舎

 錆びた赤茶色の鉄の骨組み

 その前にそっと花を置く充

(回想)
 あの日。

 海の上
 充は震える手で携帯電話を耳にあてる
充「おい。そこにいて大丈夫なのか? 正さんがかなり高い波くるって言ってたぞ」
彼女「三階だから大丈夫よ。それにもう一回ぐらい放送かけないとみんな避難してくれないから」
充「三階でも危ないって。それ終わったら丘に逃げろよ」
彼女「そっちの方が危ないじゃん。沖にいるんだから」
充「大丈夫だよ。漁師なめんなよ」
彼女「はいはい。切るよ。放送かけるから」

 三十分後
「こちらはNTTドコモです。電波の届かない場所にいるか電源が入っていない~」
充「えっ嘘だろ」
勝「変なこと考えるな。舞ちゃんを信じろ」

(終わり)

その庁舎三階に向けて手を合わす充
充「お前のブルガリの指輪。網にかかったら俺がもらうからな」
充は心の中で呟いた。










 

 

 
 越喜来漁港
 
 港湾整備工事
 大型クレーン
 いそがしく動く作業員
 
 それをよそに水揚げされた魚をトラックに積む正たち
勝「今日もご苦労さんだね。俺達のために」
水野「そうですね。たった七人の不認可会社のために一四億ですよ」
正「一人二億か。随分な待遇をしてくれるじゃねえか菅さんは」

 

 
事務所の窓を拭く初音
そこに四人が帰ってくる
初音「おかえり」
四人「ただいま」
 
 
 正は使い物にならない魚網で作った魚の人形を手に取る
初音「これ、お母さん仲間といっぱい作ったたんだけど、どうかな?」
正「これ。いいな」
 人形を手にとる水野
水野「これ。お得意様にも配りたいんですけど、もうちょっと作って貰っていいですか?」
初音「はい。よろこんで」
 笑顔の初音

 人形の話で盛り上がる四人と初音
 玄関から声が聞こえてくる
 客人「正さーん。いるか」
 入り口側の長机の真ん中の席に座る客人・
雅俊
 反対側に立ち雅俊を見下ろす五人
 机の上には人形が十数個散らばっている
正 「丘の仕事上手くいつてんのか?」
雅俊「あれから重機免許とって瓦礫作業やってたんだけど九月一杯で俺みたいな素人は契約終了さ」
勝「猫の手も借りたい時期は終わったってことか」
雅俊「それで。図々しいのは百も承知なんだが何でもやるから使ってくんねえか」
 頭を下げる雅俊
充「人手はいるけどあそこまで言ったんだからみんな許さないよ」
 
 正と雅俊
 人形を雅俊に手渡す正
正「許すとかの前になに言われたか忘れたわ。
これ。仲間の証だ」
雅俊「あんがとう」


 農林水産省庁舎の外観
 
 その裏で遠野は闘っていた。
 
 水産庁加工流通課
 
 受話器を耳に当てる遠野
遠野「あの件。その後どうなりました?」
 
 岩手県庁
 認可法人担当の棚井 栄
棚井「その件なら無理って言ったじゃないですか」
遠野「理由は県漁とかからの圧ですか?」
棚井「違います。大きな理由は規模が小さすぎるからです」
遠野「宮城は許可してるじゃないですか。許可しなかったらマスコミ使って叩きますよ」
棚井「そんな乱暴なこと言われても困りまりますよ。難しいでしょうけど動いてはみまから」


 
 2012 3.18

 海がしけ
 係留されてる船が暴れ馬のように動いている
 雪が人を襲うように吹雪く
 それは爆弾がこちらに近づいているからだ

 
 
 事務所
 
水野のデスクの電話が鳴った。
水野「何の御用ですか?」
棚井「随分不機嫌ですね」
水野「すいませんね。不機嫌な声で」
棚井「ズバリ言います。モデルケースとして認可法人が特例認可されました」
水野「えっ。ホントですか?」
 驚く水野
棚井「役人は嘘をつけない規則なので」
水野「すいません。言葉が出てきません」
棚井「……」
 電話を切る水野
 正が水野のもとに近づく
正「誰からだ?」
 イスから立ち上がる水野
水野「やっと認可されました」
 正は海が見える窓を覗く
正「やっと始まったな」
 
 それを聞きつけた他のメンバーたちが嬉しさを爆発させるように喜ぶ

 

 それから一ヵ月とちょっとが経つ
 
 事務所の玄関に会社名『八起き』の看板を正と水野が設置した。
  
 
  
 


 どこまでも続くあおい空

 あの防災庁舎
 
 充が手を合わす
 
 左の薬指の指輪がキラッと輝く  

 その側には桜の木

 うすピンクが咲きはじめている

          
 


       終わり
 
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