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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第三九幕 「モノクロームは空を舞う」

前回のあらすじ:病弱少年、君は天使だ・・・


正直に言おう。俺ことクラースは仕事の半分ほどを過ごす職員室がいまだに苦手だ。
何せこの学園、職員室には俺以外に男性がいないのだ。マジで一人もいない。
これには当然理由があって、IS学園で教員になるためには一定の水準以上のIS操縦技能が必要だからだ。ぶっちゃけ俺が此処にいる事が本来おかしい。警備主任なんだから個室くらい欲しいものだ。
・・・とはいえ職員室にデスクがあった方が情報伝達が早くていいし移動の手間が省けるから仕方なくここにいるが。

IS学園の教員ともなると割と厳しめの人格テストなども行われるため人格が歪んだ人はそうそういない。・・・そういないという事は、逆を言えばちょっとはいる。つまり頭のどこかで“女尊男卑”の風潮を勘違いして受け取っているのがこの職場にいるのだ。例えば職員室に入った途端舌打ちする奴とか、仕事中に一々睨みつけてくる奴とか、接するときに露骨に不機嫌な奴とか。
彼女たちにとって職員室は女性だけの聖域なのだろう。そこに異物である俺が入ってきて、しかも立場的に俺の方が上にいるというのがいたく気に食わないと言った所か。お前らいい大人なんだからちょっとは自制心を身に付けろよと思わないでもないが、人の考えなんて一朝一夕には変わらないからしょうがない。

一方的に嫌われるのは愉快ではないがまぁ大した心労じゃない。むしろ妙にこっちに近づいてくる教員の方が気を遣って大変だ。自慢じゃないが俺はIS界隈では少々名が売れている。その所為でファンを自称する職員や婚期を逃す前に捕まえようとする職員というのがリアルにいる。
IS学園の教員たちはやたらと若い。ISという分野が生まれて間もないせいもあって最年長でも30歳前後といった感じだ。そして教師という仕事は結構な激務。簡単に言えば人生のパートナーと出会ったり探したりする暇が殆ど無いから男に飢えているのが居るのだ。で、何故そこで俺が狙われるのかというと・・・

1、社会的な立場や知名度がある。
2、(自分で言うのもなんだが)有能である。
3、同じ職場にいるから話しかけやすい。

といった理由が挙げられる。容姿はそんなにいい方ではないのだが、このご時世男で社会的知名度があるというのはイケメンを上回るドでかいステータスになるそうだ。正直勘弁してほしい。確かに俺は独り身だが歳はもう34才であり、今更10歳近く歳の離れた娘っ子どもに欲情するほどお盛んではないのだ。(ちなみにこの学園の教師の平均年齢は25,6歳くらいだ。学園の明かされざる機密なので口外しないように)

まぁそんな感じで俺は今日も警備主任としての雑務をこなしている。
しかし、実は今日は少し早めに仕事を切り上げてある人に会いに行こうと思っている。そいつは俺の戦争屋としての教え子の一人で、しばらく顔を合わせていない奴だ。

「あいつは人一倍甘えん坊だったからなぁ・・・少しは成長してると良いが」
「例の教え子さんですか?」
「ああ。じゃ、そういうことでこっちの書類の束は任せたよミス・フランシィ」
「えー!?さり気なく押し付けないでくださいよ!!」
「無駄口叩いてるのは暇な証拠ってね」
「あははは、口は災いの元だね!」
「ほう、ミス・榊原も随分余裕があると見えるな?じゃ、こっちの書類よろしく」
「しまったー!?」
「ざまーみろバーカ!」
「何よ!バカって言った方が馬鹿なのよバーカ!」
「アンタだって馬鹿って言ってるじゃないのバーカバーカ!!」
「煩いバーカバーカバーカ!!」
「だー!口論してる余裕があるならとっとと書類を片づけろこの馬鹿コンビ!!」
「「はーい・・・」」

最近よく思う。俺は一生誰かの世話を焼き続けなければいけないんじゃなかろうか、と。



 = = =



「・・・はっ!父の気配が近づいている!」
「何を訳の分からないことを言っているんですの?それよりも、始まりますわよ」

ラウラの前髪の一部が妖怪アンテナの様にピピンと何かを受信しているが、今は目の前でもっと興味深い事が起ころうとしているので誰も突っ込もうとはしない。

アリーナの中央に鎮座する2機のISに周囲の視線が注がれる。
片や純白の装甲に身を包んだ凛々しい剣士、白式を駆る織斑一夏。
片や漆黒の鎧を身に纏った勇猛なる拳闘士、風花を従える残間結章。

きっかけは些細な事だった。
今まで一夏は箒にIS操縦の指導を受け、時々セシリア、最近は鈴からも師事を受けていた。対する結章は専用機の改修やメンテに時間を取られながらも基本動作をシャル、簪から教わっていた。(ジョウはその頃は夏黄櫨(なつはぜ)の一件でいろいろやってたため不参加。訓練自体はデータ採取名目でやっていた)
だが今まで何の巡り合わせか一夏と結章は時間帯や使うアリーナの違いであまり訓練を共にすることがなかった。
そこで一夏はこう思った。自分とユウ、現状でより強いのはどっちなのだろうかと。それは強さを競う世界では誰もが抱く単純な疑問であり、親友と自分にどれだけの力量差があるのか確かめたいという軽いライバル精神からくる言葉でもあった。そしてそれを口にしたところ、“なら模擬戦してみればいいじゃん”という結論に至ったため現在に至る。

世界にたった4人しかいない男性IS操縦者の一騎打ちは瞬く間に周囲に広がり、観客席にはかなりの見物客が詰め寄っていた。自分あっちに注がれる好奇の視線は余りいい気がしないが、互いに互いの実力を確かめたいのも確か。二人の集中力はかなり高まっていた。

『一夏!あれだけ練習に付き合ってやったのだ、半端な結果は許さんぞ?』
『そうよ!このあたしも直々に指導してやったんだから負けたら承知しないわよ!』
「お前は『あれよあれ!はぁ?何で分かんないのよ!』みたいな感覚的なことしか言ってなかったろうに・・・あれ、指導に入るのか?」

様々な声が通信となって飛び交い、一夏を激励する。いや実際鈴の指導は口下手とかそういう問題ではく意味不明だった・・・箒の擬音教育法も大概だったが。そこにユウが口をはさんだ。

「何言ってるの一夏。君に付き合ってくれた時点で感謝すべきでしょ」
『流石ユウは分かってるわね!いい、一夏?負けたら罰ゲームよー!!』
『ユウも頑張ってね?君の罰ゲームは・・・“ジョウといっしょにISとれーにんぐ”でいいかな?』
「何が何でも勝たせてもらうよ一夏!!」
『おいユウそんなに兄と二人っきりは嫌か!?お兄ちゃん泣いちゃうぞ!?』

急に気合を入れ直すユウ。余程ショックだったのかジョウから悲痛な声が上がったが、すかさず簪がフォローに入る・・・と見せかけて抉る。

『大丈夫・・・ちょっとした冗談、だと思いたい』
『願望ですの?』
『現実は、非情』
『ユウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』
『試合開始10秒前だよー!!』

審判を任された佐藤さんの声に私語は止み、一夏とユウも臨戦態勢に入る。
学園に来てからも時々組手で勝負したりはしたが、ISでの戦いはこれが初めて。互いに互いの手はある程度知っているが、ISが絡んでくると予測できない部分が多い。
一夏は自分が高揚しているのを感じた。親友とのガチンコ勝負・・・今までの努力が活かされるかどうかの自信と不安、そしてユウの実力に対する畏怖と期待が混ざり合い、自然と口角が吊り上る。そしてその相反するギリギリの感情の狭間に高揚を覚えているのはユウも同じことだった。


佐藤さんのカウントが残り時間を刻んでいく。

『9・・・8・・・7・・・654321はいドン!』
「えっちょっ早い!?」

カウントが面倒になって一気に時間を飛ばされたため一夏はスタートダッシュに盛大に失敗した。こんな状況でおふざけをかますとは予想外だったせいで観客の一部もズッコケている。対するユウは・・・

「む、隙ありだよ一夏!!」

兄と過ごすことによって身についた持ち前の平常心で普通に対応して見せていた。この辺りが適応力の違いという事だろうか。

バーナーを吹かしてすぐさま噴射加速、弾丸のように白式に迫る。が、かろうじて体勢を立て直した白式の剣、雪片弐型が風花を迎え撃った。
ユウはすぐさま一夏の狙いを理解する。恐らくカウンターを狙っているのだ。基本的に直進しか出来ない上に一度加速するとなかなか止まれない風花相手なら恐らく最も有効な戦法だ。だが―――

「情報不足が祟ったね・・・!スラスター噴射!」
「な・・・瞬時加速中の方向転換!?」

そんな馬鹿な、と一夏は目を剥いた。瞬時加速中の無理な方向転換は体に凄まじい負担をかけ、最悪骨が折れるほど危険な行為だ。だが、それは風花というISにのみ当てはまらない。最初から異常な負荷にパイロットが晒されることを前提としている風花は、特注のパイロット保護システムを積んである。代償として拡張領域が随分狭まったが、リターンは見ての通りである。
だが、一夏もこれまで唯無為に過ごしていたわけではない。すぐさまカウンターを狙うのが難しいと事を察した一夏は別の戦法に切り替える。

「くそっ!見誤ったか・・・来い、参型!!」
「剣を2本・・・まさかっ!」
「その真逆よ!男の浪漫(ロマン)、二刀流ってね!!」

大型である弐型を右手に、少し小ぶりな参型を左手に構えた一夏は風花を迎え撃った。辛うじて方向転換の間に合った風花は、予め量子変換(インストール)しておいた後付装備(イコライザ)、「爪月(そうげつ)」を展開した。爪月は甲龍の“双天牙月”の基となった中国製のIS用青竜刀であり、大型で強度が高いために盾代わりにも使われる剣だ。

衝突する剣と剣。火花が舞い散り力と力が激しくせめぎ合う。
そして弐型で爪月を受け止めた瞬間、白式の握る参型に変化が現れた。西洋型の刃に仕掛けてあったギミックによって瞬時に刃がスライド・展開され刃全体を青白い光が覆う。そう、“零落白夜”が発動したのだ。
片方の剣で動きを鈍らせてもう一方の剣で刺し貫く2段構え。これが一夏が今までの戦いや練習を基に編み出した戦術の一つだった。二刀流という剣術は本来実用性が低く、更に使いこなすのにかなりの習練が必要である。しかし白式に2振りの剣以外に武器がない以上、それを活用するには二刀流も学んだ方が戦術の幅が広がる。この短期間で実践できるレベルまで昇華させたのはひとえに一夏の天性の才能と熱意ゆえだろう。

「後手必殺!!」
「大人しく・・・喰らうかぁ!!」

だがユウもこんなにも早くリタイアする気は毛頭ない。ゼロ距離で手をふさがれても攻撃できる手段が風花にはあった。両肩に付随するアンロックユニットの装甲がスライドし、弾けんばかりの桃色の粒子が姿を現す。

「“鳴動”ゼロ距離発射ぁ!!」
「なあっ!?」

咄嗟の判断でスラスターを吹かしその射線上から逃れようとするが完全には避け切れずにウィングに掠ってしまう。風花唯一の射撃武器である荷電粒子砲、“鳴動”である。本来ならば狙いをつけるために姿勢を安定させる必要があるが、これだけ接近していればその必要性も薄い。

「しまった、そっちにはその手があったな・・・」
「休んでいる暇は・・・与えないよ!!」

すぐさま白式に突貫してくる風花。手に握った爪月で斬りかかり、2機は再び刃と刃を交える。




「妙だな・・・」
「何が妙なのだ、篠ノ之?」

ユウの攻める様子を見ていた箒がぽつりと漏らした言葉にラウラが首をかしげる。

「ユウは剣術の心得も一応はあるようだが、本懐は拳を使った格闘技だ。しかも一夏は少々腕が鈍っているとはいえ生粋の剣士。純粋な剣術で一夏に打ち勝つのは難しいはずだ」
「ですがユウさんもそれは分かっているはず・・・何か策があるのでしょうか?」
「・・・あるな」

突然口を開いたのは兄であるジョウ。周囲の視線がジョウに集中する中、二人の戦いに瞬き一つせず見つめながら声だけを飛ばす。その場の全員が自然とジョウの方に注目する。

「あの武器・・・爪月には普通の剣にはない特徴がある。あれには柄の長さを伸ばす機構が存在するんだ」
「それと、ユウの戦法に・・・どういう関係が?」
「まぁ見てりゃ分かるさ。唯一つだけ言えるとしたら・・・まともな使い方じゃないってことかな?」

そう呟くジョウの目線の先で、一夏が反撃に入っていた。




まだ二刀流を完全にものに出来ていない一夏は弐型を量子化し、参型と機体の旋回性を活かしたスピード戦法へと切り替えていた。また一太刀、風花の装甲に傷が増える。

「ッ~~!いやらしい戦法を・・・!」
「いくらスラスターを増設したって風花が空で鈍いのは変わらない!ならそれに合わせるさ!!」

ヒット&アウェイを繰り返しながら少しずつ風花にダメージを与える。焦って正面からぶつかれば先ほどの様に粒子砲を食らったり“投桃報李”で弾き飛ばされてしまう。だから、徹底的にリスクを減らす戦法に出る。
調子に乗りやすい一夏が勝利への渇望ゆえに身に着けた強い忍耐力。それが功を奏して風花は確実にエネルギーを減らしていく。
そして遂に隙を突いた一夏の剣がユウの剣を弾く。

が、次の瞬間に起きた出来事に一同の思考は一瞬停止した。


がっきぃぃぃぃぃん!!ひゅんひゅんひゅん・・・・

「え・・・えぇぇぇ!?」
「あらまぁ、ポッキリ」

その一撃で爪月の“刃部分のみ”が“柄から切り離されて”宙を舞った。

高い強度を誇るはずの刀に起きた大惨事に『整備不良』の4文字が頭をよぎる。(会場の一部からぼそりと「これだから中国製なんだよ・・・」と聞こえた様な気がするが奇跡的に鈴の耳には入らなかったようだ)・・・が、その油断が一夏の命取りになった。

「“投桃報李”展開!てぇぇい!!」

その手に握られていたのは爪月の柄・・・を2メートル近くにまでギミックで伸ばした“棒”だった。まるで初めからそうする気だったかのように棒にバリアを纏わせたユウはそのまま白式の胸に突きを叩き込んだ。
装甲の存在しない胸部への攻撃に絶対防御が発動し、衝撃に一夏の息が一瞬詰まる。

「ぐはっ・・・!!そ、そりゃないぜユウ・・・」
「無くはないでしょ?今目の前にあるんだし!」

いたずらが成功したように不敵な笑い顔を見せるユウ。
ユウは最初に爪月のギミックを知った時からこの戦術を使う気でいた。剣戟から無理なく棒術に切り替えられるこの戦法には流石の代表候補生たちも言葉がない。ただ、この戦術を知ってたらしいシャルとジョウは乾いた笑いをしているが。

「あははは・・・あの使い方は風花にしかできないね。いくら強度が高いって言っても格闘戦に使っちゃ普通折れちゃうよ。バリアの使い方を間違えてると思うなぁ」
「俺と組手しすぎたせいか最近はすっかり手癖が悪くなってなぁ・・・しかも棒術は足技も使うからユウのISにとっては一番使いやすい戦術の一つなんだわ」

ちなみにユウの小細工は唯の一度たりともジョウの不意を突けたことはない。
これで一夏が不意を突かれたのは2回目。正々堂々の勝負であろうと使えるものはすべて使うのがユウのモットーであり、それは逆を言えば彼の勝利に対する意地汚さである。

イニシアチブが一夏からユウへ転がる。だが、戦いはまだ終わらない。
 
 

 
後書き
バトルシーンって一度書き始めるとついつい夢中になっちゃうよね。 
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