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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  五十七話:外の世界へ

「……!!」

 たぶん歯を食い縛り、悲鳴も上げずに衝撃に耐えるヘンリー。

 ヘンリーに庇われてほとんど痛みは無かったとは言え、それなりの振動に見舞われた私も、立ち直って口を開くまでに少しの時間がかかり。

 衝撃が収まったところで、慌てて口を開きます。

「ヘンリー!大丈夫!?大丈夫じゃないよね、生きてる!?」

 マリアさんから手を離し、背後のヘンリーに手を伸ばそうとしますが、まだ抱えられてて身動きが取れません。

「ヘンリー!離して!治すから!」

 返事は無く、抱き締める力も弛みません。

 ……どうしよう、死んでたら!
 ザオラルだって、まだ使えないのに!

 私が、女だったから?
 女だったから、必要以上に庇って、そのせいで死んじゃったんだったら

「ヘンリー!!返事してよ!!」

 ほとんど叫ぶように、名前を呼んで。

「……うるせえな。生きてるよ」



 ……はい?

「……ヘンリー?……なに、普通に返事してんの?」
「それが、なんか悪いのかよ」

 悪くは、無いよ。
 このタイミングでなければ。

「……普通に、生きてたの?」
「まあな」
「なんで、黙ってたの?」
「……これくらいの、役得。いいだろ」

 役得。
 と、いうと、私がマリアさんに対して思ってたような、アレですね。
 うん、悪くは無いよね。
 身を呈して守ったわけだから、決して悪くは無いよね!

 と、いうことはこの場合、ヘンリーにとっての対象は私なわけで。
 マリアさんには一切、触れさせてない以上。

 コイツはその昔、というか出会ったその日に、自分はロリコンでは無いと言い放ったわけで。
 そして十年経った現在、私は確実に、ロリの範疇を越えている。
 美少女くらいならまだ呼べないことも無いだろうが、まず間違いなくロリでは無い。
 それどころか、イケメンのヨシュアさんもニコポで引っ掛けてしまうような、美女に成長したわけでして。
 どれだけ残念な中身を露呈していようとも、美女には違いないわけだ。
 ()()は。

 例え、昨日まで隣に寝てて、なにも起こってなかったとしても。
 外見だけなら、十分に、そういう対象足り得るわけだ。

 と、極めて論理的に状況分析を進める私を抱き締めていた手が、妙な動きを始めます。

「……」

 無言で、肘を腹に打ち込む私。

「ぐっ……!!……殺す気か!生きてるけど、ダメージは受けてんだぞ!」
「生きてるじゃん、今も。セクハラは犯罪です」

 犯罪誘発がどうのとか言って、私をお兄さん方から遠ざけたんじゃなかったのか。

「殺しは、しないけど。眠らされたくなかったら、妙なことしないでね」
「……ちっ。わかったよ」

 なんだ、その舌打ちは。
 まだなんかする気だったのか!

「……心配して、損した」

 これからどれくらい漂流するのかわからないし、うっかり死なれたら困るので、一応ヘンリーを回復しながら愚痴る私。

「とにかく、良かったよ。私のせいで、また死んじゃうのかと思った」
「……お前」
「生きてるなら、いいよ」
「……悪かった」
「いいよ。生きてたし。庇ってもらって、助かったし。ありがとう」

 その後のセクハラが無ければ、普通にカッコよかったのになあ。

 と、私が溜め息を吐いたところで、息を潜めていたらしいマリアさんも、大きく息を吐きます。
 なんというか、蚊帳の外にしてしまって非常に申し訳ない。

「マリアさん、すみません。気を使わせてしまいましたね」
「いいえ。私も、守っていただいてありがとうございます。……おふたりは、仲がよろしいんですね」

 顔は見えないながらも、微笑ましそうに言うマリアさん。

「仲は……悪くは、無いですね」
「ふふ。そうですか」

 絶対そういう意味で言ってるんじゃないよなあ、これ。

 マリアさんとヘンリーとの間にフラグが立ってない以上、変に焦って誤解を解こうとするのも不自然だよね。
 とりあえず、話変えてみるか。

「……お兄さんのことは。……あれで、良かったんですか?」

 場繋ぎの話題としてはちょっと重いチョイスだけど、今聞かないと、もう聞けなそうなんで。

「……はい。私ひとりだけ逃げ出すことには、思うところがありますが。兄は中から、私は外から。これ以上教団の被害を増やさないために、できることをしていこうと。そう、話し合いました」
「そうでしたか……」

 それなら、王兄妃の立場が手に入ればね。
 もっと、できることは増えただろうにね。
 仕方ないか、こればっかりは。

「……でも、残念です。逃げたのが私でなく、兄だったら。ドーラさんを、お義姉様と呼べたかもしれませんのに」

 そこは私も残念ですが、そんな話をされると後ろの保護者が怖いので、この閉所ではやめていただきたい。
 セクハラするヤツを、保護者と呼べるかはわからんけど。

「ふふ。冗談ですよ、ヘンリーさん?」

 空気を読んだ上での、その冗談ですか!
 マリアさん、なかなかの強者(つわもの)ですね!


 と、重い話はそこで終えて、あとは適当に、軽い感じで話をして場を繋ぎます。
 暗くて全く見えないが、ヨシュアさんが入れておいてくれた水や食糧を手探りで見付けて、少しずつ摂り。

 いい加減話すことも無くなって、沈黙が続くことも多くなって。

 セクハラ反対とは言え全くくっつかないでいるのも不可能なので、裏切り即制裁という覚悟の上の信頼を以て、やっぱりマリアさんを抱え、ヘンリーに抱えられた状態でうとうとしていると。

 不意にがくんと振動が伝わってタルの揺れが収まり、代わりにごろごろと、少し転がって。
 波に揺られてしばらく動きがあったものの、やがて完全に落ち着いて、動きを止めました。

 ……着いたのか。

 ……は、いいんですけど。

「これさ。どうやって出るの?」
「……」

 私の問いに、無言で頭上を押し上げるヘンリー。

 タルが横倒しになってるので、私とマリアさんの体重が、全部ヘンリーにかかった状態になってますが。
 うん、逆じゃなくて良かった。

「……開かねえな」
「ええ?私も押すから、もう一回、やってみよう」
「おう」

 というわけで、ヘンリーと私の二人がかりで蓋を押してみます。

 びくともしない雰囲気を察して途中からマリアさんも、非力ながらも参加してくれましたが。

「……開かない」
「……燃やすか」
「やめて。酸欠で死ぬ。それなら、バギのほうがまだ」
「それもヤバいだろ。中で荒れ狂ったらどうすんだよ」

 それもそうだ。

「あ。荷物の中の、武器を使えば」

 私の荷物に刃物的な物は無いが、ヘンリーのがあるなら、ブロンズナイフがあるはず!

「ちょっと待ってね。探すから」

 と、暗闇で荷物をごそごそしてるうちに、人の気配と話し声が近付いてきました。

 ああ、助かったかも。

 果たして私の期待通りに、タルに外から人の手で力が加えられ、蓋が開いて光が射し込みます。

 ああ、太陽の光が、こんなにもありがたいものだなんて……!

「中に、人が!生きてます!」
「なんですって?意識があるのですか?怪我は?大丈夫ですか?」

 心配そうに覗き込み、声をかけてくるシスターのみなさんに微笑みかけて、お礼を言います。

「みなさんのお蔭で、助かりました。ありがとうございます」

 普通に感謝を込めて微笑みかけただけですが、シスターのみなさんの顔が赤くなります。

 うむ、まさにニコポ!
 罪な女だね、私!
 ヘンリーに載っかってマリアさんに載っかられた状態というのが、カッコつかないが!

「すみませんが、手を貸していただけませんか?」

 外のみなさんに声をかけつつ、マリアさんを持ち上げて脱出を助けます。

 我に返ったみなさんが慌てて引っ張り出してくれて、すぐにマリアさんはタルの外の人になりました。

 続いて私も自力で出ようかと思いましたが、ヘンリーが手を貸してくれたので。
 よく考えたら自力でってヘンリーを潰しながら移動することなので、大人しくヘンリーとみなさんの助けを借りて外に出ます。

 最後にヘンリーが手を貸すまでも無く、自力でさっさと外に出て。

 私たち三人は、無事に大神殿とタルを脱出し、外の世界に下り立つことができました。 
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