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とある科学の論理回路

作者:芳奈
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論理回路

 
前書き
説明にも書きましたが、気分転換で書いたものなので、基本的に超不定期です。カンピオーネを優先するので。それでもよければ見てください。 

 
 論理回路(ロジカル・ダッシュ)

 俺は自身の異能に、この名前を付けている。

 最初に自分が普通じゃないと気がついたのは、五歳くらいの時だったと思う。有るとき、俺は夢を見た。次の日に出張で出かけると言っていた父親。その父親が、飛行機事故で死ぬ夢だ。
 俺は飛び起きた。体は汗でビッショリと濡れていて、呼吸が全く安定しない。視界がチラチラと瞬いていて―――これは後になって気がついたのだが、この時の俺の視界には、ビッシリと緑色に光る0と1の数字が映し出されていたようだ。それは視界もチラチラするわ―――それすらお構いなしに、俺はベットを飛び出した。

 父親は、今正に出かけようとしていた。母親と挨拶をしていた父は、いつもはまだ寝ている筈の俺が起きていたことにビックリしたようだ。俺は、そんな父親に飛びついた。

「ん?どうした?怖い夢でも見たか?」

 優しい父親の声。俺は、父に抱きついて泣き出した。行かないで、死んじゃうよと。

 父と母は困惑していたようだが、どうやら俺が、父が死ぬ夢を見たのだと知ると、その顔を緩ませた。そして、

「分かった。そこまで言うなら、飛行機じゃなくて新幹線で行くことにしよう。幸い、時間には余裕がある。」

 この言葉を聞いた俺は、心底安堵した。”これで大丈夫だ”と、心から思った。何故、安心だと確信出来たのかこの時は分からなかったが、これで父は安全だと確信出来たのだ。

 泣いていた俺が手を離し、行ってらっしゃいと言うと、父は嬉しそうな顔をして、行ってきますと言った。俺はその後、何時もより早く起きたことが原因で、二度寝をすることになる。

「大変!大変よ!!!」

 俺が起きたのは、母親の叫び声によってだった。母は、ニュースを見て顔面を蒼白にしていた。緊急速報でやっていたのは、飛行機が着陸に失敗して爆発したという事件。それは、父親が乗るハズだった飛行機だった。

 どうやら父は、俺との約束を律儀に守っていたらしく、新幹線で行った為に被害に合わなかった。電話で、『お前が教えてくれなかったら、俺も生きては居なかったかもしれない。ありがとう』と言われたのを覚えている。

 それ以来、両親は俺の勘を信頼するようになった。俺が言うことが、次々に当たっていったせいだ。

 ・・・本当は勘ではなく、この時には、俺は既に自身の異能を把握していたのだが。

 『論理演算0と1の計算の重ねがけ』。

 世界の全てを数値にして読み取り、計算式に当てはめて計算をする。それによって、最も確率の高い未来を導き出すという、未来予知能力だ。・・・正直、世界の全てを0か1で見ることが出来ても、刻一刻と変化していく未来を計算するなんて、人間の演算能力で出来る芸当じゃない筈なのだが、何故か俺には可能だった。何せ、夢の中で無意識にこの能力を使用し、自分の父親を救ったくらいだ。俺は、最高レベルにこの能力との相性が良かったのだろう。

 この能力には欠点が合った。

 それは、見た未来の内容が、百%当たるわけではないということ。どうやら、不確定要素を沢山持っている人間を予測しようとすると、未来が上手く計算出来ないのだ。しかも、これは伝染病のように、その不確定要素満載の人間と接触した人間にまで拡散していく。・・・まぁ、『未来が確定している訳じゃない』ということは、行動次第ではその未来を変えることができるということだ。父の時のように。悪いことばかりではない。

 しかし、もう一つが厄介だった。

 見た内容が、一体いつなのかが分からなかったのだ。明日かもしれない。一週間後かもしれない。一年後かもしれない。せっかく回避したい未来を見ても、それが何時なのかが分からなければ回避しようがない。微妙に使い勝手の悪い能力だったのだ。

 ・・・しかし、それにも終わりが来る。

 原石(・・)を勧誘しに来た、学園都市からの使者によって。

「・・・は?今何と?」

新羅(しんら)君は、天然の超能力者です。我々は彼らのことを原石と呼んでいます。・・・つまり、加工されていない能力です。思うように使いこなせていないのでは?我々の元へ来て、能力を進化させてみませんか?」

 両親に丁寧に話す黒服だが・・・俺は、既に学園都市へいく事を決めていた。それは何故か?

 能力を使いこなしたいからではない。

 学園都市が出すという、多額の奨学金のタメでもない。

(コイツら・・・腐ってやがる!!!)

 拒否すれば、家族を皆殺しにしてでも、俺を拉致していく。その未来が見えてしまったからだ。
 どうやら、彼らにとって原石とはそれ程に大事なものらしい。従わないなら力づくでも連れて行く。そういう連中のようだ。

 俺は、自分の両親が死ぬ未来を見てしまった。だから、これは全力で回避しなければならなかった。
 そして同時に、ノコノコとコイツらに付いていけば、暗部(・・)とやらの仕事に巻き込まれて、非人道的なことばかりやらされる未来も見てしまったのだ。

 ・・・だが、

(俺を、そこらのボンクラと一緒にするなよ・・・!お前らがその気なら、コッチにも考えが有る!!!)

 未来を知るという絶対的なアドバンテージを持つ俺が、最悪な未来に突っ走る訳が無い。俺を侮った事を、必ず後悔させてやる。

「俺、学園都市に行くよ。」

 俺の一言が決め手になり、両親は俺が学園都市に行くことを承諾した。

「ねぇオジさん。」

 両親と交渉をしていた黒服を呼びつけ、耳元で囁く。

「・・・父さんと母さんに何かしてみろ・・・。いや、俺が、もしそういうことを父さんたちがされた未来を見たら・・・その瞬間、俺はお前たちの敵だ。全力で排除する。絶対、絶対にだ・・・!未来を知れる俺が、お前らに倒されると思うなよ?」

 たかが小学生の子供だと甘く見ていたその黒服は、俺の言葉に驚愕していた。

「さっき、未来を見た。父さんたちが殺される未来だ。そして、俺が暗部とやらで働かされる未来。・・・いいか、俺はどちらも許すつもりはない。学園都市には行ってやる。実験にも、俺に危険が無い範囲で付き合ってやる。・・・だけど、俺は暗い仕事なんてしないし、父さんたちの事も、いつでも未来を見ている。・・・いいか、いつでもお前たちを監視しているぞ・・・!」

 ちょっと演算の範囲を広げてやれば、学園都市からでも、父さんたちの未来予測は出来る。俺は、ソレが出来るだけの能力を持っているのだ。学園都市に恨みを持つ人間や組織は沢山あるらしい。俺が、もしそいつらに接触したら?例え少数でも、学園都市に深刻なダメージを与えることも不可能ではないのだ。

「・・・分かった。上にも報告しておこう。」

 その黒服も頷いた。軽く論理回路(ロジカル・ダッシュ)を使用してみたが、その言葉に嘘はないようだ。俺は少し安心した。

 黒服が帰った後。

 俺は、自分の携帯電話を取り出した。

『♪~♪~』

 電話が掛かってくる未来が見えたからだ(どうやら、怒りか何かが原因で、この時の俺は『いつ、何が起きるか』が正確に分かっていたらしい)。

 鳴り始めてから数秒も経たずに、俺は通話ボタンを押した。

『やぁ、私が電話をかけるのも、未来予測出来ていたのかね?』

 電話越しに聞こえたのは、男か女か若いのか老いているのかすら分からない、不思議な声。しかし、既に予知でこの言葉を聞いていた俺は、焦らず対処した。

「そうだよ。アンタが何者かなんて分からないけど、俺と、俺の身内に手を出さなければ何もしない。後、俺の自由は保証しろ。監禁生活なんて真っ平だ。そういうことでいいだろう?」

『分かった。私からも徹底させよう。何があろうと、君たちには手を出さないよ。』

「それさえ守ってくれるのなら、非人道的なもの以外の実験には付き合ってやる。」

『取引成立だ。これからよろしく、銀城新羅(ぎんじょうしんら)君。』

「あぁ。じゃぁな、統括理事長。」

『・・・!』

 その言葉に、始めて動揺した相手。しかし、その動揺も、ほんの一瞬だった。

『その言葉は・・・未来の私が言ったのかね?』

「そうだ。『私は統括理事長。困ったことがあったら私に相談したまえ』なんて偉そうに喋ってたぞ。」

『・・・・・・。』

 相手は、数秒沈黙した後・・・

『なら、同じ言葉を返そう。困ったことが合ったら私に相談したまえ。』

 その言葉を合図にしたように、電話は切れた。

「・・・・・・学園都市、か・・・。」

 これが、十年前、俺がこの街に来た理由の記憶だ。
 
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