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クラディールに憑依しました

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崩壊が始まりました

 あの日から約一ヶ月、最前線は四十六層の迷宮区、ボス部屋まで到達していた。
 ボスの情報も揃い始めてるし、明日には四十七層に行ける。


「――――――そういえばシリカは何処に行ったんだ? 出発前は見かけなかったが?」
「シリカちゃんなら黒猫団の所よ、この前サチが泊まりに来た時に狩の約束をしたみたい」
「………………なぁ、アスナ?」
「――――何よ?」

「俺に騙されるのと、後で結果だけ聞かされるのは、どっちが良い?」
「…………何それ? わたしの知らない所で――――つまり、あなたのせいで事件に巻き込まれるのと、
 納得の行かない結果を聞かされるの、どっちが良いかって話?」

「おぉ、聡明だなアスナ。話が早くて助かる」
「いい加減、あなたとの付き合い方が理解できる様になりましたからね」

「――――それでお答えは?」
「――――巻き込まれる方が良いわ、何もしないで後悔するよりマシじゃない?」
「よし――――話は決まったな、帰るぞ」
「え?」
「帰るんだよ」

「――――え? 此処迷宮区よね?」
「迷宮区だな」
「――――あれボス部屋の扉よね?」
「ボス部屋だな」


 アスナの指差した先には巨大な扉が待ち構えていた。


「――――帰るの?」
「帰るよ? ――――当たり前じゃないか」
「え? ボスは? 情報収集は?」
「ん? 勝手にさせれば良いんじゃないか?」

「ちょっと待って、本当に此処まで来て引き返すの!?」
「もちろんじゃないか、さあ、戻るぞ」
「…………ちょっとボス部屋を覗くぐらいは良いわよね?」
「此処から先に一歩でも踏み出したら――――容赦なくお前を置いて行く」
「…………――――もッ、戻れば良いんでしょ! 戻ればぁッ!!」


 迷宮区の入り口に向かってアスナが半泣きの全力で走り出した。
 リポップしたモンスターもお構い無しに、アスナのソードスキルが炸裂する。


「――――――理解者に信頼されるって良い事だな。うん」


………………
…………
……


 最前線、転移門広場。


「――――あれ? アスナ? 迷宮区に行ったんじゃなかったの?」
「…………うぅ。リズぅ……」
「悪いが武器のメンテを頼む」

「武器のメンテって――――今朝したばかりでしょ? 何か拾ってきたの?」
「いや、俺とアスナの分だけだ、消耗した分を全快まで戻してくれ――――お前のメイスもついでに頼む」
「――――は? あたしのメイスまで弄るの?」
「嫌なら別に良いぞ?」

「………………それって『使う』って事よね?」
「想像にお任せする」
「――――今日の露店は此処までね。アスナ、細剣出して。ほら、あんたもさっさと武器を出す」
「お前のメイスから先だ」
「はいはい、ちゃんと並べて置きなさいよ?」


 アスナとリズの武器を回復させた後、リズは山積みされた俺の武器に取り掛かる。


「…………最近作った物の中でも強力な奴ばかりね――――それだけ不味いの?」
「………………………………リズ…………」
「――――何?」

「……いつも武器を作ってくれて感謝している――――これからもよろしく頼む……」
「――――――――あ、あんた!? ね、ね、つでもあるんじゃ!? なッいのッ!?」
「――――わたし邪魔かしら!? ご、ごゆっくり?」

「――待ってアスナッ!? 行かないでッ!? お願いッ!!」
「………………お前ら、俺は感謝の一つもしちゃいけないのか?」
「――――そ、そうよね、でも大丈夫よ。お代はいつも頂いてるし、おかげで儲かっちゃってるし。
 今更感謝までされても…………その、あたしから出せるものはないって言うか…………」


 その時、視界の隅にメール着信の表示が出た。


「お、メールが来た。ケイタからだな、レア装備の代金を払いに来るそうだ」
「へー、律儀ねー。ついにお金が貯まったんだ」
「リズ。悪いが武器を全部メニューに戻す」

「え? あ、うん。もう良いの?」
「時間が無い。アスナ、準備は良いな?」
「――――何時でも行けるわ――――それで、どんなイベントボスなの?」

「イベントボス? おまえは何の話をしてるんだ?」
「……え? これからボス狩りに行くんじゃないの?」
「誰がそんな話をしたんだ?」

「…………本気で言ってるの?」
「あぁ、ボスなんて狩らないぞ?」
「じゃあ、何で帰ってきたの?」

「――――何となく?」
「――――――――殴って良い?」
「着いて来たのはお前だろ? 何故俺が殴られなきゃならん?」

「斬り捨てる前に聞いて置くけど、何でボス部屋の前からワザワザ引き返したの? 情報を手に入れるチャンスだったのに」
「ボス? そんなもん倒したい奴が勝手に倒せば良いだろ?」
「――――そう、死にたいのね。そんなに死にたかったのなら、そう言えば良いのに、今すぐ――――」

「…………あの、お取り込み中ですか?」


 月夜の黒猫団のリーダー、ケイタがやってきた。


「いや、構わない。アスナ様もおふざけが過ぎますぞ」
「あら御免なさい。わたしったら(後で絶対殺すわ)」


 話の邪魔にならないように、アスナはリズの隣でケイタに見えない位置から俺を呪い殺すと睨んでいた。


「いえ。あ、あのコレ、全装備の代金です。受け取って下さい」
「――――ほう、良く此処まで集めましたね」
「コレも譲って貰った装備のおかげです、今日もシリカちゃんに手伝って貰って全額揃ったんですよ」

「シリカは役に立ってますか?」
「ええ、凄く助かってます――――あ、今日はこの後はじまりの街にギルドホームを買いに行くんです」
「ついにマイホームですか、最近はじまりの街では大手ギルドが取り締まり、税金を徴収しているそうですが、大丈夫ですか?」

「…………そんな話があるんですか?」
「ギルドメンバーが多過ぎて、ごく一部の横暴らしいのですが――――用心はして置いて下さい」
「――――ありがとうございます、少しウチの連中とも相談してみます」


 視界にメールの着信が表示された。差出人は――――シリカだった。 
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