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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第三二幕 「空気の読める国から」

 
前書き
更新再開です。 

 
前回のあらすじ:青年、大海の一端を垣間見る


もう7月に入りいい加減に長袖で過ごすのが辛くなってきた季節。やたらめったら敷地内に緑の多い学園では一度建物の外に出るとセミの鳴き声が途切れることなく響き渡っている、そんな時期になってきた頃・・・IS学園1年1組に驚くべきニュースが飛び込んできた。

「転入生です!」
「・・・唐突だな」

開口一番それを口にした山田先生に箒は思わず呟いた。それは箒だけではなくクラスのほぼ全員が感じたことでもある。既に夏休みが着々と近づいているこの時期にいったい誰が来たというのだろうか。(もちろん約一名見当のついている少女がいるが)
教室に入ってきた頃から先生が妙にそわそわしていたのはその所為か。恐らく先ほどから紹介したくてうずうずしていたのだろう、山田先生は妙に張り切りながらその転入生を呼ぶ。

「ボーデヴィッヒさん、自己紹介をお願いします!」
「ヤー!」

元気いっぱいだが何故か軍隊式の返事で教壇にたったその少女は、流れるような美しい銀髪に黒い眼帯をつけた、小柄な少女だった。休めの体勢で精いっぱい空気を吸い込んだ少女は、勢いよく自己紹介を始めた。

「自分はラウラ・ボーデヴィッヒ少佐であります!所属はドイツ連邦軍特殊IS配備実働部隊『黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)』、識別番号はAE,07!コールサインはカニンヒェン1!唯の人間には興味がありません!この中に宇宙人、転生者、人工生命体、超能力者がいたら即刻自分の元へと来なさい!以上!!」

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

とっても痛い沈黙。先ほどまでひそひそ話や私語の絶えなかった教室はその自己紹介・・・いや事故紹介によって完全無音空間と化した。ややあって、転入生が小さく唸る。

「・・・む、失敗したか。クラリッサが『これなら鉄板ですよ!』と言っていたからやってみたが、あいつめ母国に戻ったら一度締めてやる必要があるな」

誰だか知らないけど是非締めてやってください、というのがクラスほぼ全員の意見だった。しかしそれを少しでも信じて実行する彼女も彼女である。余程フリーダムなのかそれとも常識が欠けているだけなのか、将又日本という国を勘違いしちゃってるのかもしれない。
そして、そんな彼女に謎の対抗心を燃やす生徒が一人。

「まさかフ〇メタ風に始めてハ〇ヒで落とそうとは・・・!このゲルマン幼女、出来る!出来ますよ!ライバル登場の予感です!!」
「つららさんは何を言っているんですか?」
「ネタを挟むのはいいけどちょっと強引だね。それじゃインパクトはあってもウケが取れないよ?」
「ユウ君もネタにマジレスしない!」
「むぅ・・・日本のサブカルチャーは難しいな」
「そんなに真に受けなくていいですよ、ね?」
「ありがとうございます。山田先生は優しいですね・・・母とお呼びしても?」
「え、そ、それはさすがに・・・」
(というか佐藤さんが“転生者”の所にびくっと反応したように見えたが気のせいだろうか?)

・・・まぁ、衝撃的な事故紹介だったと言っておこう。







当然そんな愉快な転入生が現れれば生徒たちは湧くわけで、休憩時間にもなるとラウラの周囲には多くの人が集まっていた。自己紹介の時こそ沈黙は起きたが、内容が内容なだけに逆に話しかけるハードルは下がったようだ。今もひっきりなしにクラスメートたちに質問を受けている。一つ一つにボケを交えつつ冷静に答えていく様はなかなか見ていて飽きない。

「スゲェ人気だな、あの子。おかげでこっちは束の間の休息だけどな」
「人気者はつらいってか?」
「お前が言うなよ」
「お前も言うなよ」

入学から随分立ったが未だに休憩時間になるたび一夏とユウの近くには女子達が集まることが多かったため、ラウラに視線が集中している今だけ二人はのんびり駄弁っていた。普通にしゃべるくらい、とは思うかもしれないが、他人にずっと話を聞かれるというのは意外とストレスが溜まるのだ。教室内でこれだけリラックスするのはかなり貴重な時間である。
話は自然にこの前の休暇の内容に移っていく。

「この前弾の家に行ってさー。弾も蘭もお前とジョウさんに会いたがってたぜ?」
「あの日僕らはお墓参りだったからねぇ・・・次の休みには行けると良いなとは思うよ」
「次に会うまでにはベルーナと打ち解けたいなぁ・・・」
「一夏は最近そればっかりだね?」
「うるへー。なるって言ったら絶対友達になるんだ!」

意固地になる一夏にユウは苦笑する。恐らく今のやり方のままではベルーナ君を振り向かせるのは難しいだろう。だがそれはベルーナが一夏と本音を嫌っているのではなく、二人の「仲良くなる方法」がベルーナに当てはまらないだけだとユウは推測している。一度思い込むと抜け出せない性質の困った親友のために、ユウは少しだけヒントを出すことにした。

「一夏、イソップ寓話の『北風と太陽』って知ってるよね?」
「あ、ああ。あれだろ?旅人の上着を脱がせた方が勝ちっていうやつだろ?」
「うん、それ」
「・・・それがどうかしたのか?」
「ヒントはここまで。そこからは自分で考えないと意味がないよ」
「???」

ユウが何を言わんとしているかが全く分からない一夏はひたすらに首をかしげている。・・・こいつひょっとして人間関係全般に鈍いんじゃないだろうか。

ユウが言いたかったのは今の状況をその童話に当てはめたらどうなるかという事である。
旅人はベルーナ、北風がベルとも会、そして太陽が佐藤さんと考えるとぴったり状況が当てはまるのだ。押しが強すぎるベルとも会に煽られて心を開けないベルーナは、無理強いせずに傍にいてくれる佐藤さんの方を求めている。アプローチの方法を変えるといいという遠回しなアドバイスだ。後は疑問に思った一夏が自分でそれに思い至るなり他の人に聞いて理解するなりすれば状況にも進展が・・・

「ま、いいや。分からないこと考えても仕方ないし・・・そんなことよりもユウ、今日こそ模擬戦やろうぜ?」
「・・・・・・・・・・・・貴様には失望した」
「何で!?」

今確信した。こいつは人の心が分かっていない。どっかのブリテンアホ毛を追い抜くほどに。
今日の模擬戦ではケツにバンカーをブチ込んでやろうか、と真剣に検討するユウであった。







その日はクラス全体が妙に浮き足立っていた。転入生の存在もあってではあるが、主な理由は別にある。
それが1,2組合同の本格的な実技訓練である。

今までも何度かIS実技に関する授業はあったが、この日の授業はいつものそれから更にワンランク上の内容になる。今までの授業は主にISに関する基本機能や体作りなどを主とし、専用機保持者の動きを手本に様々な説明を行ってきた。有り体に言うと、生徒たちはISを見るだけであまり操縦させてもらえなかったのである。

そんな授業を態々実技の時間を取ってまで行う必要があるのかと思うかもしれないが、これがISに騎乗する上では意外と重要な前準備だ。何せISの基本機能の使い方をきっちり目で見せなければ、いざ乗った時に生徒がパニックを起こしたりして大変だからである。学園の生徒達は、知識だけでISがどんなものかをしっかり体感していないものが殆どを占める。そんな生徒が一々妙なミスをやらかしたり勝手に飛んだり、動き方やISの降り方が分からず混乱したりするのを少しでも減らすための長い長い準備は、むしろこれでも不十分なくらいである。

「・・・という訳で承章。貴様はくれぐれも訓練機に乗るなよ?というか学園にいる間はもう2度と訓練機に乗るな・・・!」
「いや織斑先生、今までの文脈と話が繋がってねぇですよ?」
「貴様に許された答えは『はい』と『Yes』だけだ。いいか、私は“あの時”の二の舞は御免だ・・・あの日私達がどれだけ後始末に追われたか知らんとは言わせんぞ・・・!!」
「無論分かってますって・・・俺もあの時と同じ思いは出来れば二度と御免被りたいですからね」

授業前に突然呼び出されたジョウを待っていたのは千冬の脅迫染みた“お願い”だった。
2人が話しているのは少し前に起きた“訓練機三次移行事件”の事である。
本来形態移行するはずのない訓練機が、承章の乗ったISだけ何故か形態移行――しかも一次二次を飛び抜かして三次――を起こし、その後始末に二人が(IS学園の職員数名と共に)てんやわんやしたという事件だった。
万が一この情報が洩れれば純国産機である打鉄のプロテクトの安全性が疑われるどころか、学園の管理能力に対する難癖がつけられて委員会の息がかかった面々に付け込まれる口実になったり原因解明と称してジョウが連れ去られる可能性さえあったのだ。
ISログの全洗い出し、ジョウの体に異常がないかのスキャン、訓練機の当時の管理状況に異常がなかったか、形態移行した打鉄のフレーム及びコアの今後の運用やマスコミへの説明の有無の決定、果てはこの件をIS委員会に報告するための報告書作成までを必死に取り組み、メンバーが作業を終えた時には既に日が暮れるどころか登り始めているという惨状だった。しかもその日が平日だったため、メンバー全員が完徹状態で通常勤務を余儀なくされたのだから千冬としては本当に笑えなかった。

「ならいい、分かっているならいいんだ・・・」
「どっちにしろ俺はもう“こいつ”じゃないと体を預ける気になりませんしね」

そう言って笑いながら掲げて見せた掌には、待機形態にしてある打鉄が握られていた。ペンの形をしたそれはまるでブランド品のように美しい銀色の光を放っている。そう、これが例の事件の後に様々な解析や調整を終えてジョウの元に戻ってきた、件の打鉄である。
ワンオフ・アビリティーこそ発現しなかったがその性能はもはや最新の軍用ISと同レベルであり、やむを得なくリミッターをつけて出力を”5割”落としてある。

「そのIS・・・名前は決めたのか?」
「まだですね・・・何でも打鉄の開発元スタッフが名付け親になってくれるそうなんですが揉めてるみたいで・・・取り敢えず仮名で“夏黄櫨(なつはぜ)”って呼んでます」
「・・・それは恐らく世界最高クラスのISだろうな。無いとは思うが力に振り回されるなよ?」

千冬はジョウの事を信頼している。それは武芸者として、弟の先輩として、そして何より一人の人間としてである。特に武芸者としてのジョウは世界最強と呼ばれた千冬でさえ押さえきれる自信がないほどだ。
だからこそ、心配にもなる。何かのきっかけ――例えば、(ユウ)――を切っ掛けにいつか暴走するのではないか、と。
だが、その心配に対してジョウはあっけらかんと答える。

「なぁに、その時はユウの奴が止めてくれますよ」
「・・・結章が、か?」
「ええ、あいつはいつか必ず俺に追いつきます。“たったそれだけ”の困難を乗り越えられない訳がない」

超人的な技量を誇るジョウをユウが止められるビジョンを見いだせない千冬だったが、彼のそれは確信のある目だった。ユウの事を絶対的に信頼し、自分と並ぶ存在になると信じているその目を見て、千冬はふと自分がジョウを信頼している理由を垣間見た。その信頼は―――自分が一夏に向ける期待と同じものなのかもしれない。

「・・・さて、そろそろ授業の準備をしなきゃならない時間帯ですよ?」
「そうだな。今日の授業は山田先生と協力してあることをやってもらうからお前も手伝え。遅刻はするな」

ならばジョウの言葉を信じよう。弟を信じるお前を信じよう。自分が弟の可能性を信じているように、私もお前の事を信じることにする。だから、くれぐれも期待を裏切ってくれるなよ?
 
 

 
後書き
いきなりだけどアンケートのお時間です。実はジョウ専用ISの名前は作者も正式には決めてません。そこで読者の皆さんに名前の応募をしてもらおうと思っています。奮ってご応募ください。(機体の外見に関しては佐藤さんの番外編に書いてあります)

ちなみにその他名前案:蹈鞴鉄(たたらがね) 銀騎士 打鉄・極 シズラー銀 など

特に返答がないならばそのまま夏黄櫨になります。

 
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