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魔法少女リリカルなのは~その者の行く末は…………~

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Chapter-2 Second Story~sorrowful and graceful……that occurrence~
  number-21 smiling

 
前書き



笑顔。



この場合は、高町なのは。フェイト・テスタロッサ。八神はやて。リインフォース。



 

 


リインフォースは、燐夜が多重にも張った転移魔法の追尾から真っ先に始めた。
辺りは、空が白んできて朝日も高台の向こうから顔をのぞかせていた。ただ、冬なだけあって寒いが、リインフォースにはそう感じることが出来なかった。


まだ、燐夜が転移して時間は経っていない。今ならまだ間に合うと思ったから行動に移していた。ならば、どうして行動に移したのか。
理由は簡単なものである。
主はやてとその友達である自分を救ってくれた小さな魔法使いのためである。


(主はやては、あの少年のことを好いて御成りになられていた。この地球の命運がかかったあの戦いの中でも一番に考えていたのは、あの少年のことだった。主は、ようやく心の拠り所――――私たちという家族を手に入れ、闇の書が本来の夜天の書に戻ったことで主に対する魔力的負荷も無くなった。それで不自由であった足もじきに動かせるというのに……主の心を占めているあの少年がいなければ何の意味もないではないか)


リインフォースは主のために、そして考えないようにしていたが、これが今まで冒してきた罪滅ぼしの第一歩だと思っていた。こんなことでは何にもならないとどこかで思いながら。


リインフォースは、追跡速度を上げるためにさらに魔法陣を重ねた。それほどまでに転移速度と転移先が複雑だったのだ。
ようやく追いついたと思ったらすぐに転移される。転移距離もまたそれぞれ違い、行ったり来たりを繰り返している。


やがて、向こうが更に転移速度と距離を上げて、追いつかなくなってきて、遂には撒かれてしまった。もうあの少年の魔力を辿ることはできなかった。あれだけの莫大な魔力を持っているにもかかわらず、その魔力が霞みのように消えてしまい、最後には煙を掴むことが出来ない様に、本当にそんなように撒かれてしまった。


「くっ……追いつけなかったか……」


悔しさを隠すことなく、絞り出すように重く声を出すと、肩を落として自宅へと変えるために踵を返した。そして、数歩歩いたところであることを思い出してまた、戻る。


降り積もった雪の上に置かれた一通の手紙。
これは、燐夜があいつらにとリインフォースに託したものである。その手紙を拾い上げたところで、不思議な感覚を覚えた。
どうして自分が手紙を託されたのだろうか。本来であれば消えるのは自分だったはずなのにそれが消えることなく、また主であるはやてのもとへと帰ろうとしている。そのことが可笑しくて、フッと笑みがこぼれた。


リインフォースはまた踵を返して帰路に着くと、また肩を落として重い足取りでゆっくりと自宅へと向かっていった。
これから離さなければならない現実に、躊躇いと残酷さと自分の心の弱さを感じながら向かい合っていた。


      ◯


――バタン


「あっ、お帰りやー。どこ行ってたん?」
「ちょっと……」
「ふーん、まぁいいか。もうすぐご飯出来るからなー」


リインフォースが重い足取りで八神家へと着いた時には、もう夜はとっくに明けていて、朝ごはんの時間帯になっていた。歩いている途中は気付きもしなかったが、もう辺りに日が差してきていて、そのことを意識し始めると眩しくて目を細めた。


いつまでも玄関先に立っているわけにはいかない。そう思ったリインフォースは、まず洗面台で手と顔を洗うことにした。けれども、頭の中からは後悔の念が残り続けている。
どうして、燐夜を止めることが出来なかったのだろうかと。
……思えば、リインフォースが闇の書の意思の表面人格として表に出ていた時に燐夜がほとんど相手をしていたが、あれだけの戦いのセンスを持っているのは昔――――古代ベルカ時代に一度だけやり合ったことがある……誰だったか。


記憶があいまいで昔のことは思い出せない。確か、古代ベルカ時代の聖王女でもなく覇王でもなく、後一人の王……
なかなか思い出すことが出来ず、リインフォースは思わずまだ拭いていない手で頭を掻いた。掻いた手の冷たさに驚いて声が出そうになるが、どうにかして押し殺した。


リインフォースは、また洗面台の鏡を見た。そこには自分の顔が映っているだけ。笑顔でもなく、無表情でもなく、何か追いつめた表情の顔。
まだ悩んでいる。自分の懐に入れられた燐夜からの――――手紙なのだろうか。良く分からないが、封筒に何か紙が入っていることは確かなのだから、おそらく手紙であると思われる。それをはやてに渡すことを躊躇っている。


燐夜がいなくなったことをあの子たちに伝えるのを躊躇っている。なのはにフェイトに、そしてはやてに。少しだけしか一緒にいなかったが、あの三人が燐夜に対して好意を持っているのはすぐに分かった。特に、桃色の魔力の子――――なのはが一番燐夜のことが好きなのだろう。むしろ依存しているといってもいい。そうリインフォースが思うまでに彼のことで一喜一憂が激しい少女だった。


『リインフォース?』
「すいません、すぐ行きます!」


また考え事をしていたら、それなりに時間が経って居たようでリビングからはやての声が聞こえてきた。BGMとしてヴィータのご飯を急かす声が聞こえてくる。
あの事件が終わってまだ一日も立っていないのに、いろいろなことがあり過ぎて時間が遅く感じる。


リインフォースはまだ濡れていた顔をタオルで拭いて、すぐにリビングに向かった。


      ◯


朝食が済み、シグナムとザフィーラは朝食後の稽古みたいなのを庭で行っている。シャマルは洗濯をしており、洗面所の方から鼻歌が聞こえてくる。ヴィータはテレビの前のソファーでゴロゴロしながらテレビを見ている。はやては食器洗いをしていた。
これがいつものことだというのだから、主であるはやてに家事をやらせるのはどうなのかと思う。しかし、はやて自身が別にいい。というので納得はできなかったが、引き下がっていた。


そんなリインフォースは、ヴィータがごろごろしている隣のソファーであのことについて考えていた。未だ持っている三桜燐夜から渡された封筒についてだ。
正直言ってまだ、はやてには伝えたくないことだ。ようやく、本当の意味で家族になれたはやてとヴォルケンリッターとリインフォース。今のこの関係が壊れるとまではいかないが、はやてが何かしらの影響を受けるとまた、リインフォースの意識が闇の書にあったときのように暗い雰囲気の家族になってしまう。それだけは避けたい。


でも、だがらこそこのことは伝えなくてはいけないことだし。いずれあの二人によってばれてしまうことだし、隠しきれるのも時間の問題なのだ。
リインフォースは決意した。
今、手を拭きながら台所から出てきたはやてに話しかける。


「主、話があります。あの二人の少女も呼んで下さい。主を含めた三人に伝えたいことなのです」
「……分かった。んじゃあ、今から呼ぶから待っててな」


はやてから了承をもらったリインフォースは、今度はソファーでゴロゴロしているヴィータのもとへ向かった。


「ヴィータ」
「んー?」
「これから主とあの二人の魔法使いと話をしなければならない。そんなに聞かれたくないことだから、シグナムたちのもとか部屋に動いてくれるとありがたい」
「おう、分かった」


何の疑いもなく、部屋に向かってくれたヴィータに感謝しつつもソファーに座り、二人の到着を待つ。来れない可能性もあったが、その心配は杞憂だったようで二人とも来てくれるそうだ。
はやてが先にリインフォースにどんなことなんだと聞いてきたが、それは二人が来てから話すとか言っておいて、待たせておいた。


しばらくすると家のチャイムが鳴った。どうやらあの二人が来たようだった。
庭からシグナムが顔を出したが、リインフォースはあの二人が来たことを話すとまた庭の方へと戻っていた。


「「お邪魔しまーす」」


そんな声とともにあの二人が入ってきた。
リインフォースは一度は固めた決意を曲げそうになり、せっかく来てもらったのになんでもないとか言いそうになってしまった。それを何とか飲み込んでもう一度曲がってしまった意思を固める。
その間には、はやてがリインフォースの向かい側に座るようにと促すと、そのままはやてはお茶を入れに行った。無論、リインフォースがやるといったが、それをやんわりと断られてしまい、結局2人をはやてが来るまで話すしかなかった。
ちなみに、ここでようやくリインフォースは二人の名前がなのはとフェイトであることを知った。


少しすると、はやてがお茶を持ってきた。ここで尽かさず立ち上がり、はやてのひざに乗せられたお盆の上の湯飲みをテーブルの上に置く。
置き終わると、また元のところに座り、まだ熱いお茶を一口すすってからリインフォースは本題を切り出す。


「今から話すことを落ち着いて聞いてほしい」


そんな前置きと共に引き締められる三人の表情。それは何があっても動じないという意思が見え隠れしていたが、それはリインフォースから紡がれる次の一言で簡単に、脆く崩れ去った。


「三桜燐夜という人物は、もうこの町にはいない。帰ってくることももうない」


リインフォースはのちに語る。――――もう二度とあんな顔を見たくはないと。


少しの間落ち着きがなくなり、狂乱し始めたがそれでも何とか落ち着かせることが出来た。
唯一の救いは、三人が叫ばなかったことだ。もし叫んでいたら、すぐにシグナムたちが飛んできて私だけだったらいいものの、燐夜まで巻き込んでしまう。それだけは避けたかった。
何しろ燐夜は何もしていないのだから。


落ち着いた理由が、燐夜からもらった封筒をテーブルの上に出したことだった。この封筒が燐夜からというだけで、少し時間を要したが皆揃って落ち付いた。
そして、代表してなのはが開ける。
そのまま読み始めた三人。
読み終わったと思ったら、みんな笑いながら泣いている。
はやては封筒を手に取り、逆さまにして中に何か入っていないかと振ると、コロンと綺麗な石が紐に繋がれて出てきた。


その様子を傍にリインフォースは手紙を拾い、読んだ。


      ◯


『なのは、フェイト、はやてへ
 これは正式なものではないからとても簡単なものになるけど気にしないでいてくれると嬉しい。


 まずは、いきなりみんなの前から消えることを許してほしい。
 言い訳はしない。けれども、これは必要なことだからというのは分かってほしい。それにみんなのためでもあるからだ。


 ……手紙って難しいんだな。いつもは年賀状ぐらいしかやらないから、こういうものが難しいとは思わなかった。


 こうしていきなり居なくなって悪いとは思っている。それでも、俺は自分のやったことが悪いことではないと言う。良いことでもないけどな。


 最後になるが、俺はこれが今生の別れになるとは思っていない。
 だから「さよなら」は言わない。


 「またな」。





 追伸


 この手紙を入れておいた封筒にはやてへの贈り物も入れておいた。
 それはみんなでお揃いになるように、色違いだけど同じものだ。つけてくれると嬉しい。


                                     三桜 燐夜』


      ◯


なるほど、これが一生というわけではないから、またいつか会えると信じているから泣きながらも笑っているのか。


ところで贈り物とはなんだろうか。
そう疑問に思ったリインフォースは、はやてたちの方を見る。
すると、三人して首から何かを下げている。なのはは、青色の石。フェイトは黒色の石。そしてはやては白色の石。そう言うことかとリインフォースは納得する。それぞれのイメージカラーをモチーフにした水晶のような石を加工してペンダントにしているのかと。


リインフォースは手に持っていた手紙をテーブルに置き、リビングの大きな窓を開き、綺麗な冬空を見せる空に向かって心から語りかける。


――――燐夜よ。私が心配していたようにはならなかった。それどころか、三人は笑顔だ。お前はすごいな。
それにつられて、私も笑えるよ。

               ――――ありがとう――――


そう小さく呟いたリインフォースは、今までに見たことがないくらいの満面の笑みだった。














   Second Story ~Sorrowful and grareful …… that occurrence~Fin



 
 

 
後書き


A's編完結!!

駆け足気味だと言われたなのは二期に当たる話。如何だったでしょうか。
少しどころじゃなく無理やりなところがあったとは思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。

さて、後書きはこんなところにしておいて……次はGOD編です!!
またキャラ増えることになって読みづらくなるかも……でも、こんなことでくじけてたら、Sts編、Vivid編が書けないじゃないか!! と自分で自分を鼓舞しつつ頑張っていきたいと思います。

さあて、そろそろアンチ要素どこ行ったと言われそうで怖いですが、これからもよろしくお願いします!

次の目標を矛盾しない様にしつつも早く上げていくこととして、ドライブ・イグニッション!!


 
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