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タンホイザー

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第二幕その五


第二幕その五

「君がその様に思いわずらうのならば本当の世は閉ざされてしまうだろう」
「一体何を言っているのだ?」
「いと高き遠方に神を讃え天とその星を仰ぐ。かかる奇蹟を崇めるのもよかろう」
 タンホイザーは一旦はヴォルフラムの歌を認めはする。
「しかしだ」
「しかし?」
「接触によって軟化するもの、君達の情と感覚に近くあるもの。同じ素材から作り上げられ柔らかい形で君にすがりつくものだ」
「それは何だというのだ?」
「歓楽の泉」
 タンホイザーは言った。
「私はそこに大胆に近付く。そこには躊躇いが水を濁すことなく我が望みも消え去ることはない。無論その泉もまた涸れることはないのだ」
「歓楽の泉だと」
「彼は何を言っているのだ」
 誰もがタンホイザーの言葉に顔を顰めさせる。
「不謹慎ではないのか?」
「その様なことを言って」
「憧れが永遠に燃える為にヴォルフラムよ」
 タンホイザーはまたしても周りの声を聞くことなくヴォルフラムに告げる。
「私は愛の本質をその様に見ているのだ」
「戯言は止めるのだ」
 ビテロルフがここで立ち上がってタンホイザーに抗議の声をあげた。
「君の歌を聴くことはいい、だがその高慢な言葉は許せない」
「そうだ、その通りだ」
「我等も今の君の言葉は許せない」
 ラインマルとヴァルターもこの抗議に加わる。
「君が言うのは悪徳か」
「それとも愛を侮辱するのか」
「我々は高き愛を讃える」
 厳かな声で告げるビテロルフであった。
「愛はまた我々に勇気を与え武器を鍛える。愛を恥で穢さんとする輩には剣を取ろう。女性の気高い栄誉と淑徳の為にもまた」
「だが享楽が君の青春を餌食とする時それは戦う程の価値はない」
 最後にヴァルターが立ち上がって告げたのであった。
「誰であろうともだ」
「騎士達よ」
 タンホイザーは立ち上がった騎士達に対しても向かい合う。そのうえで告げる。
「それが君達の愛というのか」
「その通りだ」
「違うとでも言うのか」
「如何にも」
 エリザベートはここでタンホイザーの言葉に賛同しようとした。しかし周りの剣呑な雰囲気に押されそれを思い止まるしかなかったのであった。
「私は享楽の価値ありと思うものがある。だが君達にはそれは見えてはいないのだ」
「見えていないだと」
「そう、見えてはいない」
 断言してみせる。
「君達は今まで何を享楽したのか。君達のやり方では愛は豊かなものにはならず喜びから出たものは全く何の足しにもならないものなのだ」
「いい加減にするのだ」
 ラインマルが厳しい声で抗議する。
「それ以上の言葉が許されはしないぞ」
「そうだ、これ以上は許しはしないぞ」
「愛を貶めることは」
「止めるのだ」
 ラインマルにヴァルターとビテロルフが加わりヴォルフラムとハインリヒも剣呑な顔になってしまったところでヘルマンが彼等を制止した。
「歌手達よ、ここは何処なのだ」
「殿堂です」
「それ以外の何でもありません」
 彼等は頭を垂れヘルマンにこう述べた。
「ではわかるな。ここは竪琴で争う場」
「はっ」
「剣を抜く必要はない」
 こうも告げる。
「わかったな」
「申し訳ありません」
「それでは」
「ではヴォルフラムよ」
「はい」
「また歌ってくれ」
 こう言って歌を薦めるのであった。歌を薦めると彼はまた歌うのであった。
 
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