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アイーダ

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第一幕その四


第一幕その四

(エチオピアに帰りたい。けれど)
(言うことはできない)
 ラダメスもまた懊悩の中にあった。心の中で呟く。
(これだけは)
(間違いはないようね)
 アムネリスもそれは同じであった。
(アイーダはやはりラダメスを。けれどまだ確信するには)
 早いと。自分に言い聞かせていた。そこに今度は兵士の一人がやって来た。畏まってアムネリスの前に跪いてきた。
「どうしました?」
「ファラオが御呼びです」
「お父様が」
「はい、どうかいらして下さいとのことです」
「わかりました。それでは」
「将軍も」
「私もか」
「はい、宜しいでしょうか」
「うむ」
 彼は兵士の言葉に素直に頷いてきた。
「わかった。それではな」
「はい。それでは」
「アイーダ」
 アムネリスは穏やかな顔に戻ってアイーダに声をかけてきた。
「ついて来なさい。いいわね」
「わかりました」
 アイーダはその言葉にこくりと頷く。そうしてそのままアムネリスについて王宮まで向かった。厳かで様々なレリーフで飾られている王宮の中を進む。まるで巨大な神殿のようであるがこれはファラオは神の子とされてきたからだ。この時のエジプトはファラオを頂点とする神権国家なのであった。
 玉座の前につく。するとそこには多くの神官や大臣達を従えたファラオがいた。厳かな冠を被り玉座に座っている。そこからアムネリス達を見下ろしていた。
「来たな」
「はい」
 アムネリスは片膝をついて父であるファラオに述べてきた。
「お待たせしました」
「よい。では」
「わかりました」
 それに従いアイーダを従えてファラオの左右の列に加わった。そこにはラダメスも入った。
「さあ、話すがいい」
「はっ」
 ファラオの言葉に従い一人の将校が姿を現わしてきた。彼は一礼してから報告をはじめた。
「エチオピア軍が北上していきております」
 その将校はそう告げてきた。
「エジプトの神聖な領土に入りそこで勇敢な我が軍と戦いを繰り広げています。今エジプトは危機を迎えております」
「何と」
 それを聞いた大臣の一人が驚きと怒りの声をあげてきた。
「このままではテーベも危ういぞ」
 エジプトの南にある街だ。首都メンフィスと並ぶエジプトにとって重要な街である。
「どうする?」
「いや、待て」
 ここで神官の一人が言ってきた。彼等の中にはランフィスもいる。
「まだ聞きたいことはある。敵の指揮官だ」
 神官はここに注視してきた。
「誰だ、敵軍を率いているのは」
「はい、アモナスロ王です」
 使者はそう答えた。
「何と、王自らか」
「そうです」
 使者は答える。アモナスロはエチオピアにとっては勇敢で頼りになる王でありエジプトにとっては長年の宿敵であった。そうした相手であった。
「彼自らテーベに迫っているのです」
「何と」
「これはまずいぞ」
 大臣達も神官達も口々に言う。ファラオはそれを玉座から黙って聞いていた。
「テーベでは守りを固め国境に援軍を向けています」
「もうそこまでか」
「これはやはり」
「よし」
 ファラオはここまで聞いて力強い言葉を出してきた。
「では今よりその悪辣なエチオピアを討つ勇者を呼ぼう」
「その勇者とは」
「ラダメス」
 王は正面を見据えたままラダメスの名を告げてきた。
「ラダメス、出るのだ」
「はい」
 ラダメスはその言葉に従いファラオの前に進み出てきた。そうして跪いて告げるのであった。
 
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