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ストライクウィッチーズ1995~時を越えた出会い~

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第七話 ネウロイとの戦い

 
前書き
ようやくまともな戦闘パートに。
倭数ばかりを無駄に浪費している気がしないでもない・・・ヤヴァイ! 

 
 和音に対する訓練と飛行許可が下りたのは、和音がこの時代にやって来て5日目の事だった。
 もうすっかり馴染んだ朝食の席で、和音はミーナと坂本に呼ばれ、そこで正式な辞令と真新しい階級章を渡されたのだ。たった5日しかたっていないというのに、驚くほど手際がいい。

「沖田和音少尉、貴官を本日現時刻を以て第501統合戦闘航空団の隊員として任命します」
「はっ! 沖田和音少尉、拝命いたします」

 略式の、それもほぼ形だけのものではあったものの着任式が執り行われ、そのあとはいつも通りの砕けた朝食となったのだが、なぜかミーナと坂本は終始ご機嫌であった。
 そして今日の午後から訓練に参加することが全員に伝えられ、さっそくストライカー選びをしよう、ということになったのである。

「じゃあ、和音ちゃんはレシプロストライカーを使ったことがないんだ」
「はい。私の時代では、一部が訓練と偵察などで使用される以外は全て退役していますから」

 コツコツと乾いた足音を響かせて格納庫へ続く廊下を歩く宮藤と和音。本来なら朝食の片づけがあったのだが、「私がやっておくから、芳佳ちゃんは和音ちゃんを手伝ってあげて」とリーネが気を利かせてくれたのである。

「えっと、格納庫で坂本さんが待ってるって言ってたんだけど……」
「いらっしゃらないようですね……」

 あとで格納庫へ来るように、との指示を受けてやって来た二人だが、なぜか呼んだ本人である坂本がいない。一体どこだろうかとあたりを見回していると――

「いや、すまんな遅れてしまって」
「あ、坂本さん!」
「只今参りました」

 格納庫の奥から、数名の整備兵らと共にユニットの固定ボルトを引っ張ってきた坂本が出てきた。

「余っているユニットを探していてな。遅れてしまった」
「坂本さん、それが和音ちゃんのユニットですか?」

 ガコン、と大きな音を響かせて格納庫の真ん中に降ろされた固定ボルトには、暗緑色に塗装されたレシプロストライカーが一機、しっかりと固定されている。

「坂本少佐、それは一体なんでしょうか?」
「ん? そうか、お前の時代ではすでに退役していたのだったな……こいつは扶桑海軍のユニットでな、『紫電改』という。私はあまり好きではないんだが、ひとまずコイツを使ってみろ」

 ――『紫電改』
 零式艦上戦闘脚と並ぶ、扶桑皇国の代表的なユニットの一つだ。
 運動性能を重視した零戦と対照的に、高速性能に優れ、一撃離脱戦法に適していたとされる。

(これが、紫電改……初めて見る……)

 教本の挿絵で見たことはあっても、飛行可能な実機を直接見るのは初めてだった。

「使い方は分かるか?」
「やってみれば、何とか」

 それを聞くと、坂本は整備兵らに何事かを耳打ちし、格納庫正面の大扉を開けさせる。
 アドリア海を臨む滑走路から、潮の香の漂う海風が吹き込んでくる。

「よし、宮藤と一緒に上がってみろ。宮藤、うまく誘導してやれよ?」
「ええっ!? 私がやるんですか!?」
「何を言っている。お前がやらないでだれがやるんだ!」

 どうやら二機編隊を組んで飛行訓練をやって見せろ、ということらしい。
 望むところだ、と和音は気合を入れる。

「では少尉、ユニットを装着してみてください」
「了解です」

 整備兵に促され、さっそく紫電改に脚を通す和音。あくまで感触をつかむだけなので、武装の類は持っていない。今回は単純に飛ぶだけだ。細かいことは坂本が地上から指示を出し、何かあれば宮藤がフォローに入る、という形だ。

「よし、まずは先に沖田が発進してみろ」
「了解! ――行きますっ!!」

 使い魔を憑依させ、魔法力を発現させる。
 全身を駆け巡る魔法力の流れをユニットに流し込んでゆく――が、何かがおかしい。

「あ、あれ……? なんで急にエンジンが……」

 いざ発進しようとしたその瞬間、勢いよくまわっていたエンジンが急に止まってしまったのだ。

「む……沖田、始動の時は魔法力の流入量を絞れ。そんなことをしたら焼けついてしまうぞ?」
「ええっ!? そうなのでありますか?」
「当たり前だ、馬鹿者ッ!!」

 素っ頓狂な声を出した和音を坂本が一喝する。
 どうやら午後の訓練は相当にハードなものになりそうだった。






《まったく……魔道エンジン始動の基本すら知らなかったとはな……》
「も、申し訳ありません、坂本少佐……」

 結局、エンジンが停止してしまったのは魔法力の過剰供給が原因であった。
 そもそも、ジェットストライカーと同じ感覚でレシプロストライカーを起動させようとすればどうなるか。冷静に考えればわかるはずだったのだが、感覚を優先させてしまった結果である。

《まあいい。それより、調子はどうだ? 何か問題はあるか?》
「いえ、問題はありません。ユニットの調子は良好です」

 発進に際してトラブルはあったものの、離陸はスムーズに行われ、飛行それ自体も安定している。坂本の目から見ても、それなり以上の空戦技術があった。

《よし、では宮藤について飛んでみろ。宮藤、しっかり誘導するんだぞ?》
「よろしくお願いします、宮藤さん」
「あ、あはは……お手柔らかにね、和音ちゃん」

 坂本が地上から合図を送ると、二人は並んで飛行を開始する。
 まずは直進し、その後上昇。機体を左右に振りつつ降下し、大きく宙返りを決めて魅せる。
 蛇行するように飛んだと思えば、今度は鋭く旋回してみる。
 いずれの軌道にも、やや出遅れる場面はあったもののしっかりと和音はついていった。

「わぁ、上手なんですね、和音ちゃん」
「なんだ、リーネか」

 目を眇めて空を仰ぎ見る坂本は、ふと隣から聞こえた声に気付いて視線を向ける。
 と、其処に居たのはリーネだった。……エプロン姿の。

「なんて恰好をしてるんだ、リーネ。もう少し慎みを持て」
「お洗濯の途中に、芳佳ちゃん達が飛んでるのが見えたんです。それで、思わず見に来てしまって」

 エプロンの裾を風に揺らしつつ、リーネが空に白い軌跡を描く二人を指さす。
 小脇に編み籠を抱えているのは、きっとさっきまで洗濯物を干していた所為だろう。

「すごいなぁ……模擬戦をやったら負けちゃうかもしれない」
「ふむ……そうだな、ペリーヌを呼んで来ればちょうど4人になるか」

 それはそれでおもしろそうだ、と思案する坂本。

「はじめはちゃんと飛べるのか不安だったけど、楽しそうでよかったです!」
「はっはっは! 当たり前だろう。なにせ、あいつも扶桑のウィッチだからな! ウィッチに不可能はない!」

 大笑して言う坂本。なんだかんだで新人の教練が生き甲斐だったりするのだ。
 リーネとしても、〝友達〟が楽しそうに空を飛んでいるのを見るのは嬉しいのである。

《坂本少佐、そろそろ着陸してよろしいですか?》
「ん……よし、2人とも今日はここまでだ。降りて来い」
《了解です》

 坂本が指示を送ると、2人の機影がみるみる地上に近づいてきて滑走路に着陸した。
 発進の時とちがい、今度は特にトラブルもなく成功させる。

「お疲れ様、和音ちゃん」
「お疲れ様でした、宮藤さん」
「芳佳ちゃん! 和音ちゃん!」

 整備兵たちにユニットを預けた和音と宮藤が格納庫から出てくる。久しぶりに空を飛べたおかげか、その表情は実に清々しいものであった。
そんな二人を、笑顔を浮かべたリーネが走って迎えに行こうとした、その時だった。


 ウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――……


「敵襲か!?」
「ネウロイだ!!」

 基地中にけたたましいサイレンの音が鳴り響き、あたりが騒然となる。

「宮藤ッ!! お前は沖田を連れて基地の中に戻れ! リーネは直ちに迎撃に出ろ!」
「了解!」
「すぐに宮藤とペリーヌを向かわせる。無理はするな!」

 坂本が素早く指示を出し、リーネが格納庫へと取って返す。

「こっち、和音ちゃん!!」
「え、あっ! 宮藤さん!!」

 呆然と立ち尽くしていた和音は、必死に手を引っ張る宮藤の声で我に返った。
 手をひかれるままに脚を動かし、基地の方へと駆け戻る。

(これが現実……この人たちは、本当にネウロイと戦っているんだ……)

 和音は、ネウロイと直接戦ったことなどない。それどころか、実物を見たのだってこの時代にやって来たあの時が最初だった。
 この時代にやって来た今だって、ネウロイという存在をどこか遠くのおとぎ話のようなものだとさえ思っていた。……そう、今の今までは。

「滑走路をあけろ!! 緊急発進だ!!」
「当基地より南西180kmにネウロイの反応! 海上から一気に接近してきます!」
「沖合からだと!? 観測班は何をしていたッ!!」

 たちまち格納庫は怒号に包まれ、よろめきながら手を引かれて走る和音の横を、対装甲ライフルを抱えたリーネが発進していく。訓練ではない、本物のスクランブルだ。僅かに遅れて発進していったのは、ペリーヌ・クロステルマン中尉だった。

(戦争……本当に戦争をやっているんだ……)

 今目の前で広がる光景は、決して銀幕の中の幻灯ではない。
 どうじようもない、現実だ。

「和音ちゃん!」
「は、はいっ!」

 どうすればいいのかわからず立ち尽くす和音に、真剣な表情をした宮藤が言った。
 すでに手には20mm機関銃を抱え、両脚にはユニットを装備していた。

「絶対に、自分の部屋から出ちゃダメだからね! 和音ちゃんは私が守るから!」
「宮藤さん……」
「これを持ってて。これがあれば、私たちは一緒だから」
「…………?」

 そう言って宮藤が差し出したのは、和音から見れば前時代もいいところなインカムだった。
 501部隊のマークが描かれたそれを、宮藤はそっと和音の耳に当てる。

「大丈夫、心配しないで」
「ぁ……ぅ……」

 この世界では、こんなことは日常茶飯事なのだ。
 さっきまでにこやかに笑い合っていられたのに、ひとたびサイレンが鳴り響けば銃を抱えて空に上がって、死ぬかもしれない戦いに身を投じる。生きて帰ってこられる保証など、どこにもないというのに。
 じゃあね、と言って、そのまま宮藤は滑走路に向かって行ってしまった。
 徐々に小さくなってゆくその背中を、和音は何もできずに見つめていた。





《リーネさん、聞こえる? 現在宮藤さんとペリーヌさんがそちらに向かっているわ。先行して敵を引きつけて》
「了解!」

 いち早く空に上がったのはリーネだった。基地から発せられる無線に答えを返すと、徐々に大きくなってくる黒点に向けてライフル――『ボーイズMkⅠ』を構える。

「ネウロイ確認! 距離3,000! 高速の中型が一機!」

 基地へ状況を知らせつつ、基地へ向かわせまいと狙撃で牽制する。
 大型ネウロイの装甲すら抉り撃つ大型ライフルの一撃だ。自らが狙われていると知るや否や、ネウロイは進路を大きく変え、上昇して振り切ろうとする。

「追撃しますわよ、リーネさん!」
「お待たせ、リーネちゃん!」
「ペリーヌさん、芳佳ちゃん!」

 空になった弾倉を素早く交換するそこへ、基地から飛び立ったペリーヌと宮藤が合流する。

「前衛をわたくしと宮藤さんが、後衛をリーネさんに頼みますわ!」

 素早くペリーヌが指示を飛ばし、三機編隊を組んで逃げたネウロイを追撃する。
 反転して逃げようとするネウロイに追いすがり、宮藤とペリーヌが機銃の雨を浴びせかける。
 たまらず離脱しようとするも、リーネの絶妙な狙撃がそれを許さない。

「見えた! コアだ!」

 粘り強い攻撃の果てに、遂にネウロイのコアが露出する。
 ここぞとばかりに火力を集中させ、ネウロイのコアを木端微塵に吹き飛ばそうとした、まさにその時だった。

「――――っ!! ダメ、芳佳ちゃん、ペリーヌさん、避けて!!」
「えっ……!?」
「な、なんですのこれは!?」

 槍の穂先のような形状のネウロイが、突然真っ二つに折れたのだ。
 ――いや、折れたのではない。これは〝分裂〟だ。

「囲まれる……二人とも離れて!!」
「くっ……引きますわよ、宮藤さん!」

 包囲されることの不利を悟ったリーネが、狙撃で一体を牽制し二人から引き剥がす。
 しかし、不意を突かれた二人が安全圏まで離脱して体勢を立て直すには、リーネの狙撃だけでは不十分であった。
 分裂した二体のネウロイは、やおら反転して向きを変えると、先ほどまでのお返しとばかりに情け容赦のない攻撃を仕掛けてくる。思えば、はじめからこれも計算のうちだったのかもしれない。先ほどまでの優勢は失われ、今や3人は間断なく浴びせられる火線に捉えられてしまっていた。
 シールドでネウロイのビームを捌き続けるにも限界がある。そして不意を突かれれば突かれるほど、その限界は自ずと早くやってくる。そして遂に、捌ききれなかったネウロイのビームがシールドを貫通し、宮藤のユニットを直撃した。

「きゃああぁぁッ!!」
「宮藤さん!?」
「そんな、芳佳ちゃん!!」

 右足のユニットが黒煙を噴き上げ爆発し、小柄な宮藤の体が海面に向けて落下してゆく。
 それを好機と見たか、二機のネウロイが猛然と追撃をかける。

「間に合え――――っ!!!!」
「お願い、目を覚まして芳佳ちゃん!!」






《きゃああぁぁッ!!》
「そんな、宮藤さん!!」

 和音は、耳にはめたインカムから流れ込む宮藤の悲鳴を聞いてしまった。
 ――撃たれたのだ。他ならぬ、あのネウロイによって。

(宮藤さん、どうして……)

 ほんの十数分前まで笑っていられたあの人が、どうして……
 和音の手足が知らず震えていた。訓練ではない、本当に撃たれて死んでしまう現実が、今目の前で起きているのだ。

(こんなとき、私はいったいどうすればいいの……?)

 自分の無力がどうしようもなく悔しい。
 ウィッチとして戦う力を持ちながら、目の前で傷つく人を救えないなど――

「――――嫌だ」

 こんなところで、膝を抱えて泣いているなんて絶対に嫌だ。
 自分がウィッチになったのは何のためだ? 誰かを護れるからではなかったのか?
 だとするなら今自分がやるべきことは何だ?

(でも……だけど……)

 ドアノブに掛けた手が止まる。
 本来なら、和音はこの時代に存在しない異分子だ。イレギュラーだ。
ここで手を出せば、ひょっとしたら未来が変わってしまうかもしれない。
 傷つかなくてもいい人が傷ついてしまうのかもしれない。
 たとえ何があろうとも、けっして過去に干渉してはいけないのかもしれない。

(どうしよう……どうすればいいの……)

 ――助けに行きたい。しかし、助けに行ってはいけないのかもしれない。
 その葛藤が、和音の心を締めあげる。

(こんな時、お祖母ちゃんだったらどうしただろう……)

 優しく暖かかった祖母。同じようにウィッチとして飛んだ祖母なら、どうしただろうか?
 我が身可愛さに他人を見捨てだろうか? 目の前で苦しむ人を見捨てただろうか?

(……ううん。お祖母ちゃんなら、きっとそんなことはしなかった)

 自分は誇り高い扶桑のウィッチだ。目の前で苦しむ人を見捨てるような人間に、ウィッチでいる資格などない。
和音はドアを蹴破るような勢いで開け放つと、弾丸のような勢いで廊下を駆けてゆく。転げ落ちるように階段を降りると、そのままの勢いで格納庫へと飛び込んだ。

「何をしている、沖田! 自室で待機していろと宮藤から――」
「申し訳ありません、坂本少佐。命令違反をお許しください!!」
「なんだと!?」

 無線機を握る坂本の制止を振り切って、和音は自らの愛機――F-15Jに飛びつく。
 両足をユニットに突っ込み、魔法力を流入させる。オオワシの翼と尾羽が顕れ、格納庫を魔方陣の淡い燐光が照らし出す。

「自室禁錮でも始末書でも営倉でもなんでもします!! だから、行かせてください!!」
「沖田、お前は……」

 だがしかし、その先を坂本が言うことはなかった。
 何かを悟ったように小さく笑った坂本は、呆れたようにかぶりを振ると作業員たちに告げた。

「……まったく、この大馬鹿者め。――格納庫正面の扉を開けろっ!! 沖田が出るぞ! 総員、ジェットストライカーの余波に備えて退避!」

 応! と頼もしい声で整備班らの兵士らが答え、正面の大扉が開いてゆく。
 魔法力を得た魔導ターボファンエンジンが唸りをあげ、その暴力を解き放たんと身を震わせる。

「行ってこい、沖田!」
「はい!」

 固定ボルトが解除され、和音の手にJM61A-バルカンが握られる。
 眼前には開け放たれた滑走路。火器、電装系、あらゆる箇所に異常はない。

「沖田和音、行きます――――っ!!!!」

 轟雷の如き爆音を轟かせ加速するF-15Jは、瞬く間に滑走路を突破し空へと身を躍らせる。重力の縛りを嘲笑うかのように力強く上昇してゆくその様はどこまでも頼もしかった。

「頼んだぞ、沖田……」





「リーネさん、宮藤さんを連れて離脱して! ここはわたくしが!」
「でも、ペリーヌさんを置いていくなんて……!」

 リーネとペリーヌは、意識を失った宮藤を護りながら戦線を離脱しようとしていた。しかし、宮藤を抱えるリーネは攻撃ができないばかりか機速も稼げず、さらにそれを護るペリーヌの負担はもはや限界に達しかけていた。

「くっ……トネール!!」

 ペリーヌの隠し玉である固有魔法『トネール』
 本人の魔法力を雷撃に変換し、ネウロイを攻撃できるそれも、疲弊しきった今では十分な威力を発揮できなかった。

(たとえわたくしが墜ちようとも、宮藤さんとリーネさんだけはやらせませんわ!)

 必死にシールドを張ってビームをはじくペリーヌ。なんとか隙を見つけて離脱しようとするも、二機の同時攻撃はそれを許さぬ苛烈さがあった。

「もう……ダメ……」

 シールドが見る間に薄くなり、ユニットのプロペラが切れかけの電灯のように明滅し出す。
 魔法力の限界がすぐそこまで迫っている証拠だった。

(ここまで……ですの……?)

 視界を覆い尽くす赤いビームがシールドを容赦なく削り落とす。
 その猛攻の前に、ついにペリーヌは死を覚悟した。なけなしの勇気を振り絞り、たとえ自分が死んだとしても後ろの二人をやらせまいと、大きく腕を広げて立ちはだかる。

「ペリーヌさん!!」

 リーネが絶叫し手を伸ばす。
 もはや何もかもが手遅れに思えた、永遠にも似た一瞬。
 しかし――

「…………?」

 〝その瞬間〟は、いつまでたってもやってこなかった。
 かわって聞こえてきたのは、天を裂くような凄まじい排気音。

「ま、まさか!?」

 恐る恐る目を開けたペリーヌは、己の予感が正しかったことを知る。

《クロステルマン中尉、リーネさん、宮藤さんを連れて離脱してください!》
「あ、貴女は基地に居たはずでは!? それにそのユニットは――」
《話はあとです! 援護します!》

 音速で飛来するF-15J型。新たな脅威の出現に、ネウロイが散開して距離をとる。
 猛然と加速してネウロイに挑みかかる和音の姿を、ペリーヌとリーネは呆然と眺めていた――





「見つけた! あれが、ネウロイ……!」

 基地から飛び立った瞬間、既に和音の目はネウロイの姿を捉えていた。
 和音の固有魔法である『魔眼』のなせる業だ。〝鷹の眼〟とも評される遠距離視は、水平線の果てまでをも見通してみせる。
 最大推力で飛ぶ和音の目には、3人を容赦なく追いつめるネウロイの姿がはっきり映っていた。巨大で、無機質で、得体のしれない禍々しい人類の敵。その姿を見るだけで、本能的に恐怖が背筋を駆け抜ける。
 しかし――

「沖田和音、交戦開始ッ!!」

 助けたい人がいる。守りたい人がいる。
 それを思えば、この程度の恐怖なぞどうという事はない。

(AIM7スパロー、AIM9サイドワインダー、JM61A1バルカン、全兵装オールグリーン……!!)

「行くぞ――イーグルⅡ、FOX1!!」

 無意識にかつての自分のコールサインを叫び、中距離誘導ミサイルを発射する。
 大気を裂いて飛ぶミサイルが、急降下して退避するネウロイを猛追し命中する。爆散したネウロイの装甲は、しかしたちどころに再生して露出したコアを隠してしまう。

「だったら……これでどうだッ!!」

 和音は両手に握るJM61A1バルカンを構える。最大で毎分12,000発という凶悪な発射速度を誇るバルカンの前では、たとえネウロイの装甲といえども紙屑同然に粉砕する。

「もらった!!」

 上空から、さながら獲物を見つけた鷹の如く急降下する和音。
 和音が最も得意とする一撃離脱戦法――〝ズーム・イン・ダイブ〟と呼ばれる戦法だ。
 無防備に背中を見せるネウロイに向け、JM61A1が金切り声をあげて弾丸を叩き込む。吐き出された弾丸は容赦なくネウロイの体表面を抉り撃ち、回復させる暇を与えず木端微塵に粉砕した。

(まずは一機……ッ!?)

 極限まで研ぎ澄まされた第六感が本能的に体を横滑りさせていた。
 その瞬間、和音の死角からもう一機のネウロイがビームを放って接近してくる。

「まだまだァ!!」

 シールドを展開してビームを正面から弾き飛ばす和音。堅実な設計が功を奏し、F-15のシールド能力は非常に高い。この程度の火力であればまるで脅威にならないほどだ。
 急降下して稼いだ機速を活かし再度上昇。追ってくるネウロイを視界に収めつつ、鋭く宙返りして背後をとる。

「イーグルⅡ、FOX2!!」

 放たれたAIM9サイドワインダーがネウロイを捉え、背後から命中し爆散させる。コアが硬質な音を立てて砕け散り、それに連鎖するようにネウロイの体が崩壊し、細かな破片となって消えていった。

「はぁ……はぁ……敵戦力の撃墜を確認。クロステルマン中尉、リーネさん、無事ですか?」

 和音の呼びかけにはっとしたペリーヌらは、ここに至ってようやく自分たちが助かったのだと実感した。しかし、決して楽観視できる状況ではない。

「み、宮藤さんが……」
「分かりました。急いで基地まで運びます。ジェットストライカーのほうが速いです」

 言うが早いか和音は宮藤を抱きかかえ、手持ちのバルカンを腰の後ろにマウントすると、魔法力切れの迫ったペリーヌとリーネをも強引に抱き寄せる。ペリーヌに至っては抱きかかえるというよりもしがみつくという方が正しかったが、そんなことを気にする余裕などなかった。

「お、沖田さん!? いったいなにを……」
「少し揺れますよ。しっかり掴まっててくださいね、中尉」
「え? ええっ!?」

 途端、凄まじい加速がかかる。アフターバーナーを点火したのだ。
 生身であれば到底耐えられない音速の衝撃波も、今は和音のシールドによって守られている。

(これが、ジェットストライカーの力ですの……?)

 治癒魔法の使い手がいない以上、一刻も早く基地に帰還しなくてはならない。
 推力にモノを言わせた和音は、わずか数分でロマーニャ基地上空まで到達し、負傷した宮藤を気遣って揺れと衝撃を最大限に抑えながら着陸を成功させた。

「しっかりしてください、宮藤さん!!」
「目を開けなさい、宮藤芳佳! 勝手に死ぬなんて許しませんわよ!」
「おねがい、返事をして芳佳ちゃん!」

 ユニットから弾かれるようにして基地に降り立った和音は、しっかりと腕に宮藤を抱きかかえ、基地から駆け出してきた医師に託す。その横には、真っ青な顔をしたミーナや坂本らの姿もあった。

「うぅ……和音、ちゃん……?」
「気がついたんですね、宮藤さん!」

 担架に乗せて運ばれるその時、宮藤の口から呻き声が洩れた。
 弱々しくはあったものの、宮藤ははっきりと和音を見つめて笑顔を浮かべた。

「あはは……また助けてもらっちゃったね……あり、がと、う……」
「芳佳ちゃん!」
「宮藤さん!」

 それっきり再び意識を失う宮藤。
 基地の医療スタッフらが素早く担架を運んでゆく。

「急げ! まだ希望はある。何としても助けるんだ!」
「すぐに治療の用意を!」

 その姿を呆然としたまま見送った和音は、極度の緊張と恐怖から解放された反動からか、急速に体から力が抜けてゆくのを自覚した。先ほどまで体に満ちていた魔法力さえ抜け出ていくようだ。

「宮藤さん……無事で、良かった……」
「和音ちゃん!? しっかりして!」

 視界が反転し、そのまま崩れ落ちる和音。誰かに抱き留められる感触を感じながら、そのまま和音は意識を手放したのだった。

 
 

 
後書き
そう言えば、今日久々に大宮でブレイブルーをプレイしてきました。
・・・なんというか、大宮のゲーセンのマナーの悪さが昔以上に悪化していてビビったり(笑)
たぶん、関東で一番初心者に優しくない地区が大宮・浦和あたりなんだろうなぁ。 
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