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一人では行かせない

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第四章

「とにかくそうした経験がないから」
「じゃあちょっと今回は」
「あのお店の店長さんがどういった人か次第ね」
「それよね、問題は」
「どういった人か」
「ちょっと調べてみるわね」
 ここで理恵の目が光った、そのうえでの言葉だった。
「その店長さんのこと」
「いい人かどうか」
「そうするのね」
「若し悪い人だったら」
 理恵の目の光が剣呑なものになった、表情も一変した。
「その時は麻美を止めるから」
「親友として、よね」
「そうするのね」
 同僚達も理恵のその言葉を聞いた、その決意も見た。
「あの娘を止めてそのうえで」
「諦めさせるのね」
「そのことも考えているわ」
 真剣にだというのだ。
「とにかく麻美を不幸にさせないから」
「いい娘だからね、確かに大酒飲みだけれど」
「明るくて優しいし」
 だから同僚達も彼女と付き合っているのだ、大酒飲みであり困ったところのある麻美と。
「あんないい娘が不幸になるのはね」
「やっぱりね」
「そう、嫌だから」
 それでだと答える理恵だった、そうして。
 理恵はその店長のことを調べた、その結果わかったことは。
「いい人ね」
「悪い人じゃないのね」
「そうなのね」
「そう、いい人よ」
 理恵は探偵を雇って調べたことを同僚達に話す、話す場は彼女達が勤めている会社の傍の喫茶店だ。
 ライオンズブルーのその店の中で座って話をしているのだ。
「紳士でお金にも清潔でね」
「ふうん、それじゃあね」
「麻美がいってもいいのね」
「そうなのね」
「ええ、しかも独身でね」
 不倫の心配もなかった。
「仕事熱心だし趣味も読書にお酒にね」
「あっ、共通の趣味もあるわね」
「それもいけるのね」
「野球は広島ファンでね」
 尚麻美は山陰出身でそのせいか広島が好きだ。
「アンチ巨人で」
「そこも麻美と一緒ね」
「いい条件揃ってるわね」
「前の奥さんと交通事故で死に別れてから一人なのよ」
 理恵はこのことも調べてもらって知っている。
「歳は少し離れてるけれどね」
「愛さえあればよね」
「歳の差なんてね」
「そう、問題なしよ」
 理恵もこれは問題なしとした。
「オッケーよ」
「後は麻美次第ね」
「どうするかは」
 同僚達はコーヒーや紅茶を飲みながら話す。
「それならね」
「あの娘がどうするかよね」
「ええ、ただね」
 ここでまた言う理恵だった、今度は顔を困らせて言う。
「あの娘は恋愛経験がないのよ」
「だから告白するかどうか」
「それが問題なのね」
「恋愛は一歩前に出るのが大変なのよ」
 多少なりとも知っている人間の言葉だった、少なくとも麻美よりは。
「それがね」
「そうそう、告白することって怖いわよね」
「本当に好きな人に言うのって」
「それ私もだったから」
「私もよ」
 同僚達も言う、彼女達も心当たりのあることだった。 
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