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一人では行かせない

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第一章

                    一人では行かせない
 明坂麻美は無類の酒好きだ、それこそ飲みだしたら止まらない。
 仕事が終わって暇があれば飲む、それでいつもこう言うのだ。
「お酒は女を磨く水よ」
「それ人間失格の台詞じゃないの?」
「何処のおっさんよ」
 女友達はその言葉に呆れて突っ込みを入れる。
「っていうかそんなこと言ってまた飲んで」
「一体どれだけ飲むのよ」
「飲めるだけよ」
 酒で真っ赤になった顔での言葉だ。
 見れば長い黒髪を綺麗に切り揃えている、特に額を隠す形でしている前の部分がそうなっている。丸めの顔に猫を思わせる少し上がった目に整った形の唇と白い歯だ。
 色は白く胸も大きい、大きさが服の上からもはっきりわかる。
 だが今その美人が飲んだくれてこう言ったのだ。
「それこそね」
「飲めるだけってね、もう何なのよ」
「明日も仕事よ、仕事」
「それでそれだけ飲んで大丈夫?」
「ビール大ジョッキで四杯目よ」
 一・八リットルをだ。尚今彼女達は食べ放題飲み放題のビアガーデンにいる。
「それでそれだけ飲むって」
「いい加減にしなさいよ」
「二日酔いしない体質だから大丈夫よ」
 本人はこう言う。
「全然ね」
「で、また飲むのね」
「引き続いて」
「ビールだと五杯よ」
 その大ジョッキでだというのだ。
「それ位は普通でしょ」
「普通じゃないから」
 このことは即座に否定された。
「そこまでいくと」
「そうなのね」
「そうよ、というかそれだけ飲んでると」
 周りはそれこそだと言う。
「身体壊すかトラブル起こすか」
「そうなるっていうのね」
「お酒って怖いのよ」
 こう麻美に言う。
「知ってると思うけれど」
「実際わかってるわよ」
「それじゃあ慎みなさい。飲むなとは言わないけれど」
 幾ら何でも今は飲み過ぎだというのだ。
「本当にどうなっても知らないわよ」
「そう言うけれどね」
 麻美も麻美で言う、その赤ら顔で。
「私悪酔いしないしお酒も強いし」
「だからっていうのね」
「そう、大丈夫よ」
 そうだというのだ、本人が言うには。
「何があってもね」
「全く、こんなのじゃね」
「本当にどうなるやら」
「平気平気、じゃあまた飲んでね」
 麻美はさらに飲んでいく、この日も周りが引く位飲んだ。
 そうした日が続き麻美は昼は仕事、夜は酒の日々を過ごしていた。だがある日のことだった。
 この日もアフターファイブは飲んでいた、今度はパスタ食べ放題の店でパスタと一緒にやはり飲み放題のワインを飲んでいる。
 内装は洒落たイタリア風の店だ、だが麻美はその店の中でもだった。
 パスタにワインを楽しむ、そして周りに言うのだった。
「パスタには赤ワインよね」
「まあね」
「それはね」
 周囲もそれは否定しない、一緒に飲んではいる。
 しかし麻美のその痛飲ぶりを見てそして言うのだった。
「けれどあんたこのお店でもなのね」
「飲むわね」
「だって飲み放題よ」
 赤ワインが入ったグラス片手の言葉だ、パスタはバイキング方式でワインは飲み切り式だ。 
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