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蒼天に掲げて

作者:ダウアー
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七話

 
前書き
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 ジジイと旅を始めた俺に待ち受けていたのは、修行とは名ばかりの地獄のような日々だった。

「はよせんか柏也、そんな速度では町までは程遠いぞ」

「てめえジジイ、俺にこんな重いもの持たせといていってくれるじゃねえか」

 そう、俺達はこの一カ月もの間、山越え谷越え川越えて、ただ町を目指して歩いているだけであった。しかも俺が二本の野太刀を持って、だ。

「たかが一本で約八十三斤、丈は七尺ではないか」

 ジジイが呆れたようにため息を吐く。

 あん? 八十三斤? 七尺? どれくらいだ?

『約五十キログラム、二メートル十センチよ』

 照姫にそう告げられる。なるほど、一本五十キロかそりゃ重いわけだ……って!

「そんな重いもの子供に持たせるか普通!?」

「お主にやるといったじゃろう。別にいらぬのなら捨てればよいぞ?」

 してやったりな顔でジジイがこちらを見るのにとてつもなく腹が立ったが、俺が自分でやると決めた以上諦めることはしない。
 俺はジジイに小言をいいながらも結局は背負って歩き出すことにした。

「それにしてもいつ着くんだよ? てかこんだけ歩いてるのになんで着かないんだよ」

 てか町まであと何キロくらいあるんだよ?

『大体十キロほどね』

(おお、よくやった照姫)

『そうでしょ、もっと褒めるがいいわ!』

(それは絶対しないがな)

『だからなんでなのよ!?』

(でもあと十キロってことは今日中には着くのか)

『そうなるわね。それにしてもよく考えるとすごいわね』

(なにがだよ?)

『貴方よ、だってせっかく能力あげたのに一度も使わず、一カ月もの間よく百キロのものを背負って歩いたわね』

 ……能力? っは!?

『まさか忘れてたの?』

 照姫が呆れた口調で首を振っているのが念話越しでも分かるほど、その光景がありありと想像できた。

(くそ、今からでも能力を……いや待てよ、百キロを背中にってことは)

「もしかしてこれも修行の内だとでもいうのか!?」

「ようやく気づいたか、そうじゃよ、儂がお主のためにできるだけ遠回りしながら町に向かっておったのじゃ」

「やっぱりてめえのせいかあああぁぁ!!」

 痛恨のドロップキックがジジイに当たる。

「はっはっは、まだまだ威力がないのう」

 だがしかし、足蹴りが決まったはずのジジイは、澄ました顔で俺を跳ね飛ばす。

「ちくしょう! 覚えとけよジジイ!」



『なんだかんだでムキになるわね、貴方……』

 その後、町に着くまで柏也はジジイに四度強襲を行った。
 まあ結局全部失敗に終わったけどな。






「あー、こんな人の声が聞こえるのは久々だな」

 町に着くと、ジジイが野太刀を修理するといったので渡し、多少の金をもらったのでその辺をぶらつくことにした。

「よし、これがいくらか分からないが飯食いにいくか!」

『ちなみに大体日本円で三万円ね』

(今日は博識だな照姫)

『そうでしょ?』

(都合のいいように使われてるのがバレバレだぞ?)

『う、うるさいわね! いいじゃない都合よくたって!』

(出番があんまりないもんなお前は)

『さっきからごちゃごちゃと! 貴方なんか往来の前で土下座しちゃえばいいのよー!!』

 少しからかいすぎたせいか照姫が土下座念力を発動し、俺の上半身がなにかの引力に押さえつけられるが、なぜかあまり威力を感じなかった。

(ん? お前手加減してんのか?)

『一カ月前森でした時と同じ威力よ!』

 なるほど、この一カ月あの重いものを背負っていたせいで鍛えられたようだった。まあでも本気出せれたら敵わないな。

(悪かったよ、謝るから念力やめてくれ)

『そ、そこまでいうなら仕方ないわね』

 今までいわなかったが、コイツすげえツンデレだな。

(ふむ、でも三万か。飯食っても余りそうだな)

『三万円分も食べれるわけないものね、なにか買いたいものはないの?』

(特に思いつかんな、旅するんだから保存食とかか?)

『貴方食べ物ばっかりじゃない。あっ、そろそろ服変えたらいいんじゃない?』

 照姫の提案を聞き、ああそうだったと納得する。

 そういえば俺はこの五年間一度も服を変えたことがなかったな。いや行水はしたぞ? それに服も照姫が用意したものだったから大きくなっても破けなかったし。……俺のこの服は戦闘服かなにかなのか?

(そうだな、先に服買うか)

『それなら私が選んであげるわ!』

(……え?)

『なによ? 文句あるの?』

(いや、なんでもないない……ぞ)

 照姫が服を選ぶことに一抹の不安を抱きながらも、俺は服屋を目指し町を歩いていった。






「さて、着いたわけだが」

『ふっふっふ、よーし任せておきなさい柏也、私は神ファッションの流行「照姫ファッション」を作ったこともある超天才センスの持ち主なんだから』

(なんか果てしなく不安なんだが、ちゃんと俺に合うように見繕ってくれよ?)

『分かってるわよ! あ、その服いいんじゃない?』

(この(いびつ)な顔みたいな絵が入ってる服か?)

『あ、こっちのもいいんじゃない?』

(ん? もしかして紫と黄の縞々模様みたいな服か?)

『これなら文句ないでしょ!』

(お前これ、ワンピースじゃん。明らかに男性用じゃないぞ)

『もー! 文句ばっかりいわないでよ!』

(いや無茶振りばっかりするなよ、もっとシンプルなやつでいいんだって)

『えー、せっかくカッコよくしてあげようと思ったのに……』

(頼むから人間のセンスに合わせてくれ)

『仕方ないわね…………これなんかどう?』

 少し悩んだ後照姫が選んだのは、ただの紺色の服。

(これだな、じゃあ他は俺が適当に選ぶぞ?)

『ええ、もう悔いはないわ』

 少しカッコつけている照姫に若干苛立ったが、普通に他のズボンやらを買って着替え、店を出た。


「さて、次は飯だな」

『待ちなさい、旅に役立つものも必要よ!』

(お前実は買い物好きだろ?)

『ちちちち違うわよ! 私は柏也が無駄遣いしないように必要な物を先に買わせようとしてるだけだから!』

(そうかい、で、なにがいるんだ?)

『えーとね、保存食に、ナイフでしょ、水筒にカバン、それから――』

 こうして結局、俺は照姫のいう通りのものを一式買い自分の飯代をなくしたのだった。
 
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